道具屋さん、始めました   作:飛沫

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明けましたおめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

人外と人が仲良くしているのが性癖です。
とりあえず主人公の家を、人外ハウスにしていきたいです。
ちなみに酒蟲のイメージは可愛くないミギーです。
ミギーは可愛い!!


新しい家族

「へぇ、ここがあの蟲使いの人の家かぁ」

 

「おっきいニャン」

 

 見上げるような形で、私たちは目前にある大きな屋敷を眺める。今日はある物を買いに、ダンジョンの町までやってきた。ただ、私はそこまでダンジョンの町に詳しくないので、町で一番の長寿であるマクナベティルさんに住所を訊ねて、ここまでやってきたのだ。

 

「ええと、どこからどうやって入ればいいのかしら?」

 

「シルキちゃん、あそこの壁になんかあるニャン」

 

 まごついていると、何かを見つけたらしいエンスが服を引っ張りながら右の方向を指差すので、そっちの方に歩いて行く。すると「当家に御用の方は、此方の鐘を鳴らしてください」と書かれた看板が、壁にかけられていた。こんな広い屋敷、しかも外で鐘を鳴らしてはたして聞こえるのかと疑問がわくが、他に指示が書かれている場所も無さそうなので、素直に従って鐘を手に取る。チリチリと鳴らせば、鐘と同じ銀色をしたトンボがやってきて、私の前で停止した。

 そのまま見つめ合うこと数秒。周りを何度か飛び回ってから、ゆっくりと左側へと飛んでいく。動きを視線だけで追っているとトンボは一旦止まり、また私の前にきてから左側へと飛んでいく。ついてこいって事よね、これは。

 エンスと一緒にトンボの後ろを歩くと、茂みに隠れるように存在している入口を見つける。扉に手を伸ばそうとすると、内側から開いてフードを被った若い男性が出てきた。

 

「ようこそ。……初めてのお客さんかな?」

 

 あ、覚えられてないか。あの暗さだし、仕方がないかな。クヴァンジュ君だって、私が村のこと話してなければ『買い物した客』の一人で片付けられてたかもしれないし。

 

「あー、前に裏市場で食用ナメクジ買ったんだけれど、覚えてないかしら」

 

「あぁ、貴女か。すまない、暗かったから顔まではハッキリ解らなかった。その後、あのナメクジはどうだ。ひょっとしたら返品を希望だろうか」

 

「いや、その辺は納得済みで買ったんだから、しないわよ。あのナメクジたちは直接食べるのは厳しいから、砂糖で溶かしてシロップにして活用させてもらってるわ。ミント食べさせたのを使ったキャンディなんか、結構人気なのよ。味も匂いもしっかりしててクセになるって」

 

「へぇ、そういう使い方があったか。あの姿のまま食べるくらいの方法しか思い付かなかったから、それは盲点だった。参考にさせてもらおう。なら今日は買い物か?」

 

「えぇ、ちょっと欲しいものが出来て相談にきたの」

 

「だったら、中へ入ってくれ。部屋に案内する」

 

「お邪魔します」

 

「ニャーン」

 

 招き入れられて着いた先は、大きな屋敷のイメージに相応しい客間だった。王都の貴族様のお屋敷も、こんな感じなんじゃないかしら。行ったことないから解らないけれど。

 

「村長さんの家より凄いニャン」

 

「比べられるような物じゃないでしょ。でも、噂には聞いていたけれど蟲使いって儲かるのね」

 

「それほど多い職業じゃないからな。この町の規模でも、蟲使いは三軒ほどしかない。確かに稼げるが、生き物な以上虫の管理は手間だから金額に見合った忙しさだと思うぞ」

 

 まぁ、そんなものか。楽してガッポガッポな仕事なんてまず無いわよね。

 

「では、用件を聞かせてもらおうか」

 

「えっとね、計算の手伝いをしてくれる虫が欲しいの。私、宝珠の村って所で道具屋を営んでいるんだけれど、ちょっと忙しくなりそうだから」

 

 理由は、以前村長に頼まれた水の販売だ。この冬の間に村長は、知っている限りの知人や友人に、宝石魚を使った水の運搬作業について手紙で熱く語ったらしい。そして、春になったら畑の種蒔きなんかで水の注文が予想以上にやってきてしまった。販売作業自体は村長がやるけれど、宝石魚の作成やコピアさんへのお願いは私が担当になっている。繁盛するようなら、他の人に引き継ぐつもりだけれど。

 なので私は今お店の接客、販売する魔導具の作成に加えて宝石魚の仕事が入って少し忙しくなりそうなのだ。人を増やす事も少し考えたんだけれど、仕事を教える為に時間をとられると本末転倒だし。後、私の家狭いから一人入れるだけで場所の確保が大変なのよね。

 と、色々な理由を話すと彼が申し訳なさそうな表情をしてきた。あ、これは無いかな?

 

「すまないな、僕は冒険者向けの虫を作るのが主だから、経営の手伝いをする虫というのは今手元にいないんだ。作れないこともないが、仕込むのに時間がかかる。君は今すぐ欲しいんだろう?」

 

「ええ」

 

「なら、店舗向けの虫を作る蟲使いがいるから、そっちを紹介しよう。僕が紹介状でも書けば、向こうともスムーズにやりとりできる筈だ」

 

「ありがとう。でも、貴方も作れることは作れるんだ?」

 

「ああ、蟲使いの技術は年数を積み上げて作った物だから、何処かの家で万が一の事があっても対応できるように、ある程度の情報は共有している。尤も、秘技なんて言われるのは流石にしまってあるがね。ところで、魔導具にも計算をしてくれる物があるだろう? そっちじゃなくていいのか?」

 

「いや、私が欲しいのは『数字を見るなり聞くなりして、自分で勝手に計算してくれる』ってヤツなの。あの魔導具は、使うと凄く便利らしいけれど計算して欲しい事を私が書き込まないとになるから」

 

 彼が言っているのは『知恵の文具一式』のことだろう。

 空の木を材料にした魔力のこもった紙と、ダンジョンにいる『賢者』と呼ばれる魔物の混ぜたインク、更に魔石をペンにした三点セット。それを使って計算したい式を書き込むと、答えを出してくれる優れものだ。知りたいことを書き込む手間はあるけれど、大きな数字の計算も数秒かからず答えを出してくれるし、知りたい事を書き込むと物によっては教えてくれる辞典のような働きもしてくれるので、あれば重宝すると思う。けれど新しい物を創造するのは苦手なようで、魔物の素材を幾つか書いてこの素材で新しい魔導具のレシピを書いてくれと頼んでも『出来ません』と返ってくる。残念。

 

「なるほどな。じゃあ、今紹介状を書いてくるから寛いでいてくれ」

 

「ありがとう。こっちこそ手間をかけさせちゃってごめんなさい」

 

「そういう時だってあるさ。あ、大丈夫だとは思うが、この部屋からは出ないでくれ。盗人対策で毒の虫も何匹か放っているんだ」

 

「ええ、安心して。絶対に出ないから!」

 

「危ない場所には絶対行かないニャン!」

 

 彼が部屋を後にしたのを見届けてから、私とエンスは言われた通りにソファーに腰かける。

 

「蟲使いのお家はおっかないんだニャン」

 

「それだけお金があるのよ。さっきも言ったけれど、この部屋からしてすごい造りしてるじゃない。今座っているソファーだって、革張りでフカフカだし」

 

 それにこの部屋に入った時から、甘い果物のようないい匂いがするのだ。多分、お香でも焚いているんだろう。やっぱり余裕のある人は違うわね、私もお店で真似して……いや、多分エンスが臭いって喚くから、やめておいたほうがいいか。

 考え事をしながら、ソファーに深く身を沈めていた時だった。

 

「ミャウ~~」

 

 どこからともなく、猫のような鳴き声がきこえてくる。エンスを見れば「ボク、こんな猫みたいに鳴かないニャン!」と抗議してくるが、しょっちゅうニャンニャン言っているので、説得力は皆無だ。さっきもニャーンとか言っていたし。

 でもまぁ確かに、エンスの鳴きかたじゃなかった。何処かに本当の猫でもいるんだろうか。餌用だったらいやだなぁ。

 

「ミャウ~~ミャウ~~」

 

 再び聞こえてきた猫の鳴き声。加えて、バチャバチャと水面を叩くような音もする。ひょっとして、子猫が桶か何かに落っこちて溺れているんじゃ。だとしたら、流石に見過ごすことは出来ない。

 私は立ち上がって音がした方に向かってみる。ええと、確かこの辺から……。

 

「気持ちわムグッ」

 

 猫の鳴き声をした物を見つけ、私は大きく目を見開くと同時に、後ろについてきたエンスの口を塞ぐ。クヴァンジュ君のお守りの虫を思い出したのだ。下手なこと言って、呪いや不幸を貰うのはごめんこうむりたい。

 いたのは、なんというか肉の塊に目玉がついたような奇妙な生き物だった。赤みがかかったずんぐりした身体に、カタツムリの触覚のようなのが一本ついていて、先にはギョロリと大きな目玉がついている。これも……虫なのかしら。というか虫の基準って何だっけ?

 

「ミャウ~~」

 

 私に気づいてもらえて嬉しいのか、身体の大きさの半分くらいまで口を開いて、奇妙な生き物が鳴く。見た目とは裏腹に、声だけは可愛らしいのでギャップがひどい。何だか、自分の中の常識がドンドン壊れてなくなっていきそうだ。

 

「ミャウ~~ミャウ~~」

 

 バシャバシャと小さなヒレらしきもので水面を叩きながら、丸い水槽の中をくるくると泳ぐ奇妙な生き物。動く度に甘い匂いが周りを漂う。どうやら、この部屋からしていた良い匂いは、ここが発生源のようだ。うーん、それにしても良い匂い、なんか酔っちゃい……うん?

 

「うわ、シルキちゃん! 何やってるんだニャン!」

 

 驚くエンスを他所に、生き物が泳いでいる水を掬って舐めてみる。やっぱりこれお酒だわ、しかも凄く上等な。何コイツ、こんな良いお酒の中で生きてるの?

 

「待たせたかな。ん、酒蟲がどうかしたか?」

 

 疑問を浮かべていたら、手紙を持った彼が戻ってきてくれた。シュコ、この虫の名前かしら。

 

「酒蟲は名前の通り、酒の虫だよ。水の中に入れれば上等な酒になるし、口にすればどんなに強い酒でも、水のような感覚で飲み干せる体質になる」

 

「コイツを食べるって、ナメクジ食べるよりハードルが高いニャン」

 

 エンスの突っ込みに、思わず頷く。酒蟲もナメクジも食に関する事なのに、見た目が残念過ぎる。食欲をそそるとは言わなくても、減退させるような見た目じゃないほうがいいのに。

 

「それは大目に見てくれないか。酒蟲は、作ったばかりでこれから改良していくから」

 

「え、これで完成じゃないの?」

 

「あぁ、新しい虫を作る時はまず最初に能力を決めて、その能力を維持できるような最低限の身体を作るんだ。それから、能力を最大限に発揮できそうな虫へと時間をかけて改良していく。グロテスクな外見の虫は、大抵が試行錯誤中の状態だね。蟲使いの知識は、そうやって積み重ねてきたものなんだよ」

 

 へぇ、じゃあコイツはもうしばらくしたらスマートな外見になるのか。ナメクジは……無理かな。食べるに関してだったら、あの状態が一番食べやすいといえば食べやすいし。

 

「じゃあ、これが手紙だ」

 

「ありがとう。ごめんね、買わないのに手間だけかけさせちゃって」

 

「そんな時もあるさ。今度はよろしくと言いたいところだが……冒険者ではないから難しいか」

 

「それなら、今度は事前に頼んで取りにくる形にするわ」

 

 じゃあまた、と出ていこうとした時だった。

 

「ミャウ~~!」

 

 酒蟲の悲しげな声が響き渡る。振り返れば、水槽の縁から身を乗り出してじっとこっちを見ていた。

 

「……どうやら貴女に懐いたようだ」

 

「私何もしてないわよ?」

 

「姿を見て、叫び声をあげなかったからじゃないか?」

 

 そんな理由で? いや、でもこの見た目ならそれだけでも充分なのかもしれない。とはいえ、私が何も言わなかったのはクヴァンジュ君の虫のせいだけど。

 

「ミャウ~~ミャウ~~」

 

 寂しげな声と一つの目玉で、私をじっと見つめる酒蟲。なんだろう、ナメクジと違っていじらしいというか、心に訴えてくるものがある。見た目は完全に化け物なのに。

 

「ミャウ~~」

 

「……ねぇ、この酒蟲はいくら?」

 

「シルキちゃん買うのかニャン!?」

 

 値段と相談になるけれどね。

 

「金貨四枚でどうだろう」

 

「金貨四枚かぁ……」

 

 ちょうど持ってきた予算分だ。こっちを買うと元々買う予定だったのが買えなくなる。どうしようかな。うーん。

 

「じゃあ……こっちをもらえるかしら」

 

「え、計算するのはどうするんだニャン」

 

「いや、よくよく考えたら普通の虫買って持って帰ると、チョコのターゲットになりそうな気がしたから」

 

 買って数日で、チョコのお腹のなかは少し笑えない。それに比べ、酒蟲なら絶対に食べないだろう。ナメクジで難色を示したくらいなんだし。

 

「それでいいのか?」

 

「ええ。このお酒美味しかったから、毎日味わえるなら悪くないかなと思って。計算は、魔導具の方にするわ。アレも使えば、楽できるようになるし」

 

 こうして予定変更して、私は酒蟲を買い上げることにした。ガラス瓶の中で嬉しそうに泳ぎ回る酒蟲を抱えながらコピアさんの店へ向かっていると、エンスが呟く。

 

「シルキちゃんの家は、ドンドン人じゃ無いものが増えてるニャン」

 

「それ、エンスが言う?」

 

 だけど、指摘された通り確かに私の家のなかは妖精に魔物、人形と勢揃いだ。加えて今度は虫が加わる。

 アレ、意外と魔境と化しているわね。もしかしなくてもこれって寂しい一人暮らしになるのかしら?

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