道具屋さん、始めました   作:飛沫

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こっちに移すことにしました。ブクマして下さった方は申し訳ありません。どうぞ宜しくお願いします。

とりあえずラストの構想が固まってきたので、ゆっくり投稿していこうと思います。どうぞよろしくお願いします。


第二章
ある日の道具屋の日常


 温かな布団に頭から潜り込んで、私は夢も見ないほど深い眠りについていた。このまま気が済むまで眠っていられたら最高なんだろうけれど、現実はそう上手くはいかず。

 

「シルキちゃーん、起きるニャーン」

 

 私の名前を呼ぶ声で、目を覚ます事になる。布団の中で大きく伸びてから起き上がると、緑のリボンのついた鈴をリンリンと鳴らすエンスがいた。

 

「ふぁぁ。おはよう、エンス」

 

「おはようニャン。近頃はちゃんと起きてるニャンね」

 

「だって寝たままだと、またお腹目掛けて飛び乗ってくるじゃない」

 

「それぐらいやらないと、シルキちゃん起きてくれないニャン」

 

 痛みを思い出して思わずお腹に手をやる私を他所に、悪びれる様子もないエンス。もう一緒に暮らして四年になるというのに、変なところで容赦してくれないんだから。

 

「まぁ、お陰でしっかりと起きられるようになったから、良かったといえば良かったんだけれど」

 

「なら、何も問題ないニャン。今日はお店はお休みだけれど、ご飯食べたらどうするニャン」

 

「んー。商品は昨日沢山作っておいたから、特にやることがないのよね。でも天気がいいから、畑の草むしりとかハーブと薬草の摘み取りでもしようかしら」

 

「それならボクも手伝うニャン。そのままお昼は外で食べるニャン? するならサンドイッチ作るニャン」

 

「あら、いい案ね。お願いできる?」

 

「まかせるニャン!」

 

 得意気に胸を叩くと、エンスは下へと降りていった。さて、私も降りてご飯を食べに行くとしますか。

 

*  *  *

 

「うぇぇ、またいる。これで五匹めよ、勘弁して欲しいわ」

 

 薬草の手入れをしていると、葉についている大きな青虫を見つけてしまい、思わず顔をしかめた。ちょっと多すぎやしないかしら。

 

「チョコ、いる?」

 

 青虫を摘まんで、私の後ろでじっと作業を見ていたチョコに見せれば待ってましたといわんばかりに大きく口を開けるチョコ。その口に虫を入れてやれば、頭からムシャムシャと食べ始める。

 

「いい食べっぷりね。美味しいようで何よりだわ」

 

「シルキちゃん、容赦ないニャン」

 

「だって、薬草に付いちゃってるんだもの。そこら辺に生えている植物や、最悪私たちが使うハーブならまだ放っておいてもいいんだけれどね。お客さんに売る商品を食べられちゃ売り物にならなくなるから、必死にもなるわよ」

 

 それにしても薬草って結構苦いのに、食べる虫が付くなんて凄い。それだけ効果があるということなのかしら。

 その後も見つけた虫をチョコに上げたり、抜いた雑草をトリュフと一緒に堆肥置き場に持っていったりすると、あっという間に時間がすぎて、お日様が頭上で燦々と輝くようになっていた。お腹も空いたし、お昼休憩にしますかね。

 

「エンス、そろそろお昼にしよっか」

 

「じゃあ、サンドイッチ持ってくるニャン」

 

「あ、私が持ってくるわよ。どこにあるの?」

 

「台所のテーブルの上にあるニャン。お願いするニャン」

 

 私は頷いてから家へ向かう。サンドイッチが入ったバスケットを手にして戻れば、エンスが日陰が出来ている林檎の木の下でシーツを広げて待っていてくれた。

 

「戻ったわよ。エンス、ありがとね」

 

「これくらい当然だニャン。あ、酒蟲も連れてきたニャンね」

 

「ええ。天気のいい中、一匹で留守番させるのも可哀想だと思ってね」

 

「ミャウ~~~」

 

 左手に持っていたカップから身を乗り出して鳴くのは、水を上質なお酒に変える虫・酒蟲だ。正直見た目がアレなので、最初は見た人全てにドン引きされていたのだが、今じゃすっかり人気者になっている。

 と、いうのも銀貨六枚分購入してくれたお客さんに、酒蟲のお酒を一杯飲ませるというサービスをはじめたら、これが思っていた以上に好評を博したのだ。中には酒が飲みたいが為に、エンスが作ったジャムや砂糖漬けを買いにくる村の人まで現れる始末。何人かの人には「この酒を販売しないのか」と訊かれたが、その問いには首を横に振っている。

 いや、私だって出来ることなら売りたい、元手なんてかかってないから。けれどこのお酒は『酒蟲の身体が水に触れている』間しか、酒になってくれないのだ。酒蟲がいる丸い水槽から汲んだ酒は、飲まないでいれば一分程でただの水に戻ってしまうので、商売には使えない。もうちょっと改良されれば希望はあるかもしれないけれど、蟲は長い時間をかけてゆっくりと作っていくらしいから、そうなるにはまだ年月が必要だろう。

 

「ミャウ~」

 

 カップを地面に置くと、チョコとトリュフがテクテクと歩いて傍にきた。その手にはいつの間に摘んだのか、白い小粒な花がある。チョコがその花を差し出すと、酒蟲が前のめりになりながら受け取った。最初はやはり見た目で遠巻きにしていたチョコだったが、酒蟲は見た目に反して懐っこくて愛想がいいからか、しばらくすると傍に寄ってきて、今ではご覧の通り仲良くやっている。同じ屋根の下に住んでいるのだから、仲良くしてくれているのはありがたい。

 

「ミャウ~~ミャウ~~♪」

 

 花を抱き締めたまま、ご機嫌で頬ずり(?)をする酒蟲。意外にも光り物や綺麗な物が好きらしく、チョコたちから花を貰うとこうやって全身で喜びを露にする。水槽にもこの前、ガラス工房の職人さんからもらった色ガラスを敷いてやれば、一日中楽しそうに泳いでいたっけ。

 はしゃぐ姿を横目で追いながら、バスケットからベーコンにチーズとレタスが挟まったサンドイッチを取り出す。

 

「ん、美味しい」

 

 口の中に広がるベーコンとチーズの塩気に目を細めながら、私は村の入り口へと視線を向けた。今や村には、しっかりと整備された幅の広い大きな道が長く続いている。

 村長が村の水を売り出して二年、注文の方は予想よりも順調だったらしく、道の拡張と整備は直ぐに着手された。お陰で馬車の往来も以前より多くなり、村人と行商人さんたちとのやりとりもよく見かけるようになっている気がする。とはいえ、肝心の村への移住はほぼ増えていないけれど。村長は態々私の店にまで来て「何でだ!」って叫んでいたけれど、仕方がないんじゃあないかなぁ。確かに住みやすいとは思うけれど大きな町からは遠いし、そもそも酪農って気軽に出来るモノじゃないだろうし。

 村に変化が訪れているように、私の生活も少しずつ変わり始めていた。まずは、行商人さんが増えたお陰でお店にきてくれる人も増えた事(でも忙しいには程遠い)、そしてアフィアちゃんのツテであの大商人様と繋がりが持てた事だ。

 まぁ、ツテができたからと言って、私が商品をあの大商人様の所に直接卸すわけじゃない。国全土にお店を持つような規模相手では、私が一日中商品を作ってもあちらが欲しい数には足りないだろうし、そもそも向こうは優秀な魔術師がいる工房を幾つも抱えているから、私が必死こいて作る必要はないのだ。私が作った商品のレシピを買い取ってもらい、あちらで製造する、そんな関係になっている。

 因みに売れたのは妖精のオーブだ。何でも貴族のお子様の遊び道具に評判がいいんだとか。あんな高価な物を玩具にするなんて、金持ちは本当に凄いわ。

 

「あー、美味しかった。ご馳走さま、エンス」

 

 持ってきたサンドイッチを全て平らげ、礼を言えばエンスは大きな欠伸をしてから半分閉じかかった眼で此方を見る。

 

「眠くなってきたニャン」

 

「寝ればいいじゃない。今日はお店も休みだし、ポカポカして暖かいし。片付ける時になったら起こしてあげるわよ」

 

「じゃあお言葉に甘えるニャン。お休みニャーン」

 

 もう一度大きな欠伸をしてから、丸まって昼寝を開始するエンス。数分もしない内に、ゴロゴロと喉をならしながら寝息をたて始めた。視線を移せばチョコとトリュフは畑に戻り虫取を再開し、酒蟲が手を振りながらそれを見送っている。

 

「酒蟲、私家に戻って本をとってくるから、ちょっと一人でいてくれる?」

 

「ミャウ~~」

 

 返事をするように手を上げる酒蟲を確認してから、私は立ち上がって部屋へと向かう。

 こんな穏やかで暖かい毎日が、これからも続きますように。

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