保存の魔術の呪文は、ピーターデュランドです。
保存する食品そのものにかけると、固くてとてもじゃないが食べられない物になってしまうので、基本的には保存したい物を入れた容器にかける魔術です。
要は缶詰めですね。
ダンジョンの町から戻ってきた私は、地下室に籠ると、早速底無しの袋をひっくり返して買ってきた品物を机にぶちまけた。まぁ、ちょっと乱暴だけれど、壊れ物が入っている時はもうちょっと丁寧に扱うわよ、本当なんだから。
転がり出てきた素材を種類毎に別けて仕舞い、明日作る魔導具に使うものはそのまま机の上に。とりあえず、作るものはもう決まっている。用意するのは、ボロボロになった透明な布のような素材。一見服の切れ端のようにも見えるけれど、これはウンディーネの身体の一部らしい。冒険者たちが使う時はもっと大きな布にした状態で、マントのようにして羽織るんだそうだ。その名も『水のマント』。炎系の魔術は魔力によって布状態になった水によって相殺され(とはいえ、氷のマント程炎に強い訳ではないらしい)、水系の魔術は同じ水によって弾かれるんだとか。
と、話だけ聞くと凄く便利な魔導具のように思えるけれど、ボロボロになっている状態から分かる通り、魔術に強い分物理的な攻撃には凄く弱いので、戦闘時には全くといっていいほど役に立たないらしい。なので羽織るのも、もっぱら魔術系の罠がある所ぐらい。もったいないなぁ。
そんなことを考えながら、買い占めたウンディーネの素材を机の上に並べ、大きさを揃えて二段にしたトレーに載せていく。これで、準備は完了だ。後は明日やろう、これからやったところで意味ないし。
残りの素材を片付けていたら、上からエンスの声が降ってきた、どうやら晩御飯が出来たらしい。今日のご飯は何だろう、この前ステリアちゃんからもらった猪肉かしら、それともダンジョンの町で安かったから買ってみた、コカトリスの肉を使った料理かしら? 楽しみだわ。
「はいはーい。もうちょっとで片付けが終わるから、先に食べててー」
温かいうちに食べちゃおう、と私は片付けを急ぐ。因みに夕飯はコカトリスの揚げ物とサラダだった、揚げ物はこの前クヴァンジュ君から貰ったカレー粉で味を付けたんだとか。
貰った次の日にはカレー粉が入った瓶とにらめっこしていたと思ったんだけれど、いつの間に調理方法を覚えたのか訊ねれば「宿屋のおじさんに粉を半分渡して、使い方を考えてもらったんだニャン」とのこと。ついでに「今度グヴァンジュさんが来たら、カレー粉沢山欲しいってお願いするんだニャン」とも言っていた。
どうやらカレー粉をいたく気に入ったらしい。美味しいし、粉いれるだけでいいからね。気持ちはよく解るわ。
* * *
次の日、私は少し早起きして水の宝珠がある湧水の泉で大量の水を汲んできた。そして、食事の前に少しでも仕事を片付けてしまおうと昨日トレーに置いておいた、ウンディーネの素材を外へと持っていく。この作業は床を水浸しにするから、外でやる方が掃除をせずにすむのだ。
これから作るのは、一年前に作った商品で、ユニコーンの水薬や雷帝の抱擁ぐらい人気と需要がある。この二つとの違いは、村の人にも需要があるという所だろう。
まずは、汲んできた水に『賢者』と呼ばれる魔物が作ったインクを少量混ぜてからジョウロに移し、大きめのガーゼを床に敷く。そこにウンディーネの素材の切れ端を、ガーゼ限界までそれを広げる。そして、ガーゼ目掛けてジョウロの水を降らせると、ウンディーネの素材同士がくっついて、敷いた分だけの一枚の布になるのだ。
詳しい仕組みはわからないけれど、水の化身と呼ばれるウンディーネだ、湧きたての、汚れなんて殆どない綺麗な水は素材とほぼ同質の純度を持っていて、そのお陰で繋ぎの役割を果たすんじゃないかと勝手に思ってる。小難しい法則なんてどうでもいい、とりあえず大事なのは端切れ状態だったウンディーネの素材が、敷いているガーゼ程の大きさの布に再生してくれたことだ。ダンジョンの町で同じ作業をするなら、何度も水を濾過しないと駄目だろうから、かなりの時間をかけることになるだろう。それが水の宝珠のお陰で、汲んできた水をかけるだけですむのはありがたい。大きな町に比べれば不便なことはいっぱいあるけれど、田舎は田舎でいいところもあるってことね。
ある程度の大きさになったウンディーネの素材は、引っかけないよう注意しながらトレーの上に置いていく。しばらくはその繰り返しだ。ガーゼがビチャビチャになったら、絞って水気をきってまた敷く。三十分程続けていたらトレーの上にはそれなりの大きさに作れたウンディーネの素材が山盛りになっていた。なので、今度はそっちのをくっ付ける事にする。縦三枚、横三枚にして水を注ぎ、一メートル程度の正方形になれば、ある程度完成だ。
今回出来たのは十五枚、水が繋ぎになってくれたお陰で、切れ端の素材はまだ結構残っている。今日はもう地面がグチョグチョになったから、残りは明日以降にやろう。この量なら、多分今日と同じくらいの数ができるはず。
作った分は、丸めて職人さんに作ってもらった木の筒の中に収めておく。
この筒ってまだ予備あったかな? 行商人さんたちから、使い終わったら回収していたんだけれど、数の方はきちんと把握はしていないので、残りが幾つあるかはっきり解らない。全部しまったら数えておこうっと。
片付けて家に戻ると、エンスが朝ごはんを準備をして待っていた、なんていいタイミング。私が戻ってくる時間を見越したようだわ。
食べたら、一緒に後片付けをしてお店を開ける準備をする。今日もお客さんがそこそこやってきてくれますようにっと。
* * *
次の日、私はもう一度同じことをして計三十枚程の素材を作り、木筒に収めた。後は何時ものように効果を試したいんだけれど、なかなか思うような天気にならずに数日が過ぎる。そして一週間後、ようやく効果を試すのに絶好な天気になった。
「エンスー、念願の雨になったから、ちょっと外に出てくるわね」
「行ってらっしゃいニャーン」
エンスに声を掛けてから外に出ると、結構いい降りの雨が出迎えてくれる。よし、これぐらい激しい降りなら、試すには申し分ないわね。
私は例の木筒の蓋を開けて、ウンディーネの素材を取り出して広げてから、髪の毛を一本抜く。残念なことに抜くほどの髪の毛が無い人は眉毛や睫毛、何だったら鼻毛だっていいが、とにかく顔に生えている毛を用意する。そして、ウンディーネの素材を爪で軽く裂いたら、其処に髪の毛を挟み、筒に入れていた小瓶の水を裂いた所にかければ、髪の毛を取り込んだ状態で元通りだ。小瓶に入っている宝珠の水には、保存の魔術をかけているから、半年くらいはそのままにしていても問題ない。
最後に、これも木筒に入れていた巾着から、妖精の粉と砕いた魔石を混ぜた粉を取り出し、ウンディーネの素材に振りかければ。
ウンディーネの素材は私の頭を中心にしてフワフワと浮かび上がり、雨を遮ってくれる。
商品名は『ウンディーネの雨避け』、使う人間の毛を入れると、素材に混ぜた『賢者』の血がそれを関知して自動で追尾してくれる品物だ。顔の毛を使うのは、頭を中心にして雨を避けるため。パチパチと良い音を立てて、雨を弾いてくれるのは結構楽しかったりする。
使うには少しばかり準備が必要なので多少手間は掛かるけれど、作ってしまえばこの状態で半日はもつ。使い終わったら手で簡単に裂けて、適当な川や湖に放り込んでおけばその内に同化してくれるからゴミの心配もしなくていい。何よりも浮いているから両手が空いたままなのが、村の人や行商人さんに好評な理由だ。
作業したりするには便利だからね、王都の方にも需要があるかアフィアちゃんに訊ねてみたんだけれど「残念ながら」と首を振られた。
どうやらお金持ちの方々は、雨が降ったらご自慢の傘を差して見せびらかすのが最近の流行なんだとか。うーん、此方の方が動きやすいと思うんだけれどね、お金持ちの方の考えることは解らないわ。
その後、十五分ほど雨の中を走ってみたり踊ってみたりしたけれど、濡れることはなかったので大丈夫そうだ。
今日から売り出せば、早速幾つか売れていった。うーん、この調子だとまた作った方がいいかも。近いうちにまたダンジョンの町に行く事になるかもね。
今回で製作アイテムのストックが尽きてしまったので、幾つか思い付くまで小休止になります。
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