道具屋さん、始めました   作:飛沫

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遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

話が思い付いたのでチョロっと更新です。
ネタはまだ募集してますのでお気軽にどうぞ!!


来訪、奇跡の人

 カウンターで暇をもて余していたので、窓を開けて誰かこないかなーと眺めていたら、村長が村のあちこちを右往左往しているのを見つけた。何をしているんだろうと、目で追っていると村長が向かったのは一軒しかない宿屋だ。

 中に入っていくのを見送ってから、視線をカウンターへと戻す。あそこに行ったって事は、外から身分の高いお客様が来られるからおもてなししてくれってお願いに言ったんだろう。私にはあんまり関係が無さそうだけど。

 

(どんなお客さんがくるんだろう?)

 

 乳製品がそこそこ有名な村だけれど、買いにくるのは殆どが行商人だ。たまにお金持ちの食い道楽がやってきたりするけれど、そういう人は大抵がお貴族様だから領主様の屋敷にお世話になるから宿屋にはまず泊まらない。アフィアちゃん家の馬車も大所帯だから、村に泊まる事はない。うーん誰だ、想像もつかないわ。

 

(ま、いっか。どうせ私には関係がない事だろうし)

 

 少しだけ考えてから、思考をお店へと戻す。解らない事で何時までも悩んでいても無駄だ、解ったところでどうなるわけでもないし。そんな事よりも、目の前の事に集中してお金を稼ごう。

 と、私の中で謎のお客さんの話は終わったつもりだったのだけれど。

 エンスと一緒にお昼ご飯を食べていたら、何故か村長がやってきた。そして、私の顔をみてこう言いはなった。

 

「五日後に奇跡の人が王都からいらっしゃるそうだ。おそらく数日は滞在するだろうから、そのつもりでいてくれ」

 

「はぁ」

 

 あー、さっき宿屋に行ってたのはそれを伝えていたからか。ふーん『奇跡の人』、そりゃまた凄い人が来られるわね。

 

「でも、なんで態々この村に泊まるんですか? ここ、乳製品とお水美味しいですけど逆に言えばそれくらいしか取り柄ないですよ。領主様の屋敷だって、頼めば出せるでしょうし」

 

「それくらいって言うな、お前が住んでる村だぞ!」

 

「いや、解ってますけど。でも、村の宿屋と領主様の貴賓室なんて設備が段違いでしょうに、変わった人だなと」

 

「用があるのはこの村らしいからな。村に居なければ意味がないんだそうだ」

 

「ほーん」

 

 村にいないと駄目な用件ってことは……ほぼほぼ水の宝珠でしょうね。アレ、動かせるもんじゃないから何をするのか解らないけれど。

 

「ところで、何で店にまで来て報告してきたんですか? 話聴いた限り私は役に立たないと思うんですが」

 

「いや、別に他意はない。嫁に安眠香が少なくなったと言われた事を思い出して、買いにきたついでに教えてやろうと」

 

「ふーん」

 

 その後、たわいもない会話をしてから村長は帰っていった。見送った後、エンスが隣にやってきて袖を引っ張ってくる。

 

「奇跡の人って凄い人が来るニャン!」

 

「そうね、てか生きてる間にお目にかかるなんて。凄い幸運よね」

 

 『奇跡の人』ってのは名前の通り、奇跡のような凄い事を行える人の事を言う。例えば、傷口に涙を溢す事によって失った手足すら再生させることの出来る聖職者や、どんな激しい嵐も歌うことで鎮めてしまう船員とか。

 そんな奇跡の人だが生まれてくる確率は物凄く低く、数十年に、下手すれば百年に一人生まれるか生まれないかってくらいだ。前述した二人も百年以上前の人間で、吟遊詩人の唄になっているから、国の人なら殆どの人が存在を知っていると思う。

 ちなみに、奇跡の次に凄いのが奇術になる。これの定義は奇跡に近い行為を魔力や魔導具等の条件を付けて、制限的にやることを言う。

 有名なのはダンジョンの町で行われる死者蘇生じゃないかな。

 アレは『聖職者』が『死後二日以内の損傷が軽度な物』に『ユニコーンの角』を媒体にして魔力を注ぎ込むことで出来る疑似奇跡だし。

 そして、魔術は奇術を呪文と魔力だけで使えるようにした物になる。奇跡や奇術を魔術にしようと研究している人は、魔術師にはよくいるらしいけれど、成功したって話はまず聞かない。

 それだけ難しいってのもあるんだろうけれど、片手間の研究という体の人が多いというものあると思う。

 確実に歴史に名前は残るし、魔術を使える人全員から感謝はされるものの、お金にならないからねー、仕方ないわよね。

 

「ところでシルキちゃん、やってくる奇跡の人ってどんな人なんだニャン」

 

「うーん、その辺は村長教えてくれなかったから解んないわね。どんな奇跡かも聞いてないし」

 

 ほぼ関わり合いにならないだろうから、言う必要無しと思われたんだろう。私も休む時以外は、ほぼほぼお店籠って外に出ないから会う確率は低そうだし。

 

「まぁ、村にいるとは言っても私たちはあんまり関係なさそうだし、そもそも会ったところで役に立たないだろうから、気にすることないわよ」

 

「言われて見ればそうだニャン。じゃあ忘れる事にするニャン!」

 

「別に忘れる必要もないけれど……まぁ。いいや。ほら、私は店番に集中するから、エンスも夕飯何作るか真剣に考えなさいよ」

 

「解ったニャーン」

 

 と、話はそれで終わって何時もの日常に戻る筈だったのだけれど。

 

「この店だぜ。お前に渡した薬を作ったのは。挨拶しとけよ」

 

「彼女なのか。初めまして、貴女のお陰で立ち直ることができました。改めて礼を言わせて下さい」

 

「は、はぁ……ご丁寧にありがとうございます?」

 

 何故か騎士っぽい姿のザベル様と、知らない人が店に入ってきたかと思ったら、深く感謝された。戸惑いながら返事をしていたらザベル様が隣の人をつつく。

 

「おい、何も解ってねーみたいだぞ。教えてやれよ」

 

「あまり僕の黒歴史を人にさらけ出したくはないんだが……恩人なわけだしいいか。女に振られて落ち込んだ騎士に人魚の丸薬を作ったのを覚えてないかな、その騎士が僕なんだよ」

 

「あ……あぁ!」

 

 なるほど、この人が手酷い振られ方をした騎士様か。ザベル様じゃないけれど、十人いたら六人くらいは振り返るくらい容姿は整っているし、何より宮廷騎士なんて誰に言ったって自慢できる花形の職だ。何で振ったんだろう、もしかして頭悪かったのかな。

 

「あれ、でも何でザベル様たちがこの村にいるんですか。しかも正装して」

 

「奇跡の人の護衛だよ。王都と村の往来と、滞在期間はここの宿屋で世話になる」

 

「護衛なのにここにいるって……サボってるんですか?」

 

「騎士は僕たちを入れて四人来ているので、護衛は他の騎士がやっています。なので大丈夫です」

 

「お前が俺に対してどんなイメージを持っているか、よぉく分かったぜ」

 

 そんな事言っても、普段のザベル様の態度とかみてたら……ねぇ?

 

「あ、ザベル様。好奇心で訊くだけなので答えられなければ別に構わないんですが、奇跡の人ってどんな方なんですか? あと能力とか」

 

「もう六十近くになるからじいさんだよ。流石に能力については教えてやれねーな。というか、ざっくり聞いた程度だから俺たちも詳しく説明できねーんだよ」

 

「ただ、この村に来たのは『この村に欲しい色がある』という事らしいですよ」

 

「色……ですか」

 

 何それ、色を使う奇跡っててんで想像つかない。でも、聞いたことないからお話になっているような力を使う人じゃないってことだけは分かったわ。

 

*  *  *

 

「ありがとねエンス、手伝ってくれて」

 

「気にしなくていいニャン。今日はもう朝ご飯の準備ができたから、暇なんだニャン」

 

「別に二度寝してたってよかったのよ?」

 

「どうせ直ぐ起きなきゃだからいいニャン。ちゃんとお昼寝もするニャン」

 

「そう、ならいいけど」

 

 ある日の早朝、私はエンスと一緒に大鍋を持って水の宝珠がある泉へとやってきた。日中がじんわりと暑くなってきたので、そろそろ清水のショールに使うビーズを作ろうと思ったのだ。

 泉に行くと先客がいた、見た目は頭は薄いけれど髭はご立派なおじいさん。見たことない顔だ、この村の人の顔はだいたい知っているのでこのおじいさんが例の奇跡の人なんだろう。

 エンスと揃って小さく頭を下げれば、向こうも軽く頭を下げてきた。挨拶が終わるとおじいさんはまた泉を無言で見つめだしたので、私たちも邪魔しないようにさっさと水を汲むことにする。

 うーん、冷たい。水の宝珠は今日も綺麗で冷たい水を大量に作り出してくれている。

 

「重いニャーン」

 

「はいはい、これ付けるからちょっと待って」

 

 水をなみなみとたたえた鍋が持てないと騒ぐエンスに革の紐でくくった妖精のオーブをなべに結びつける。鍋程度の大きさなら、親指くらいの大きさのオーブで十分だ。前は粉を振りかけていたけれど、こっちの方が応用が利くから今はこうやって使っている。

 と、二人で騒いでいたらおじいさんがじっとこっちを見ていた。騒いで不快にさせたかなー、謝ろうとしたら。

 

「すまんが、その魔導具の色をもらえんか」

 

 突然そんな事を言われた。意味が分からずに黙っていたらおじいさんが続ける。

 

「貰うのは色だけで、効果は失われないんだがどうだろうか」

 

「ま、まぁそのまま使えるのなら……どうぞ?」

 

 まだ理解しきっていないけど、効果は変わらないってならいいか。奇跡の人の力をみられるなんてまずないことだし。

 おじいさんの頼みに、エンスが妖精のオーブを見せると、取り出したのは大きな筆。それをオーブに押し付けると、金色に輝いていたオーブは透明な球体になり、代わりに筆が金色になった、凄い。

 二人してしげしげとその様を眺めていると、おじいさんが次に取り出したのは青色の石っぽいもの。それに筆先を押し付け、ポンポンと軽く叩くように動かす。すると、筆先から金色が青色の石に移っていく。へー、凄い。これが奇跡の力なんだろうか。

 見ている内に青色の石は見たことのある宝石、ラピスラズリへと変化した。エンスと一緒に拍手していると、おじいさんが照れ臭そうに頭を掻く。

 

「人にコレを見られるのは久しぶりで緊張したな。儂はこうやって自然の色を取り込んで、ガラス玉に色を付ける能力があるんだ。それを何十、何百と繰り返すと自然の力が宿るのか宝石になってな。今回は教会の司祭に頼まれて、王笏に使う宝石を作っていたところなんじゃ。ほれ」

 

 見せてくれたのは、鶏の卵くらいありそうな深い緑色のエメラルド。……こんなの普通じゃ絶対に存在しないって。これで完成なのかと訊ねたら、後数十回程度色を足さなければ完璧な色にならないとの事。職人は妥協を許さないってやつか、てか私には十分完成品にしか見えなかったけれど。

 そんな事を話している内に、おじいさんが泉に筆を突っ込んでくるくると回す。途端に深い青緑色が筆に吸収されて、透明な泉へと変わるが、しばらくするとじわじわと色が戻ってきた。なので、妖精のオーブへ視線を向けるがこっちの色は戻らない。何が違うのかと目を細めていたら、おじいさんが教えてくれた。なんでも、泉や炎の様に常に変化したり流動しているのは色が戻るけれど、物とかは変化がないので色は戻らないとのこと。そんな違いがあるのね。

 

「あぁ、そうだお前さん。色をくれた礼……になるかは分からんが、よかったらこれを貰ってくれないか?」

 

 言われて差し出されたのは、エメラルドの出来損ないみたいな石。なんでそんな表現なのかと言うと、緑色の中に白い丸みたいのが幾つも入っていたからだ。

 

「これは、泉の色を貰う時に泡が入ってしまってな。ほれ、あんな風になって」

 

 見ると、ゴポリと大きな音と共に泡が浮かんできた。ん、今まであんな泡出てきたっけ?

ちょっと記憶にないんだけれど……。

思い出そうとしたが、おじいさんの言葉で意識を引き戻される。

 

「泡の色が入ると、ご覧の通りの色になるから、泡が入った時は別のガラス玉に移していたらこんなのが作れたんだ。見た目はアレだが、宝石には違いないから魔導具の材料にはなるだろう。護衛の騎士から聞いたが、お前さんだろう? 猫を連れた魔導具作りの職人は」

 

「僕は猫じゃないニャン! 妖精だニャン!」

 

「はぁ。まぁ戴けるのなら、ありがたく頂戴しますが」

 

 怒るエンスを宥めながら、私は汚いエメラルドを受けとる。確かに、見た目はかなりよくないが宝石なのは間違いない。混ぜ物として使えば問題ないだろう。お礼として貰うには、大層過ぎる品な気がするけれど。

 と、軽い気持ちで受け取ったのだが。この宝石が、実はとんでもない品物だと後日判明したりする。

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