私が思いっきり嫌そうな顔をしているのを無視して、あるだけの雷帝の抱擁をお買い上げしたステリアちゃんが、持ってきた袋に物を詰めながら「そういえばさ」と切り出してきた。
「好きなタイミングで、狩りたい獣を呼べる魔導具とかって作れる?」
「えー、何で急に?」
「ほら、今は二人教え子として連れてるじゃん。あの子らに狩りのやり方とか対処法とかを教えてあげたいんだよ」
「あー」
パッと頭に出てきたのは、双子の姉弟だ。一年ほど前に村に移住してきた家族で、両親は山羊と牛を育てていて、子供たちはステリアちゃんに狩りを教えて欲しいって頼んできたんだっけ。
上の子が弓の扱いが上手くて、下の子は魔術が使えるんだとか。前にきた時に「仲もいいし、あの調子で狩りを続ければいい腕の狩人になれるだろうから、私も鼻が高いよ」と自慢気に話してたのを覚えている。
凄い凄いって連呼してたけれど、ステリアちゃん一人でバンバン魔術ぶっぱなしながら、弓の腕も一流なの自覚してるのかしら。この子もかなり規格外なんだけれどな。
「あれ、でも動物ごとに縄張りがあるってステリアちゃん言ってたよね? だったらその辺りウロウロすれば目当てのに遭遇するんじゃない?」
「んー、欲を言うとこっちに有利な場所に呼び出して対処法教えてやりたいんだよね。最初からいきなり狭い場所で戦うのも大変じゃん?」
「確かに」
言われてみれば、ステリアちゃんが一人でやるわけじゃないしね。ひょっとしたら二人を庇わないといけない場合があるかもしれないと考えれば、動きやすい場所がいいのは当然か。
「で、どう? ある?」
動物を好きに呼び出せるモノ……なんか、ダンジョンの町でそんなのを聞いた……気がする!
「なーんか、それっぽそうなの聞いた記憶はあるけどよく覚えてないなー。今度ダンジョンの町に行ったら聞いてみるけど……作るとしたら一からになるから時間かかるよ、いい?」
「作ってくれるなら全然待つ! 教えるとしても、最初は鳥や小動物からになるしさ。じゃ、出来そうな算段ついたら教えてよ。あ、これも上げるから食べて!」
数十枚の銀貨と手に持っていた鴨をカウンターに置いて、ステリアちゃんは帰っていった。
エンスが羽を毟る為に外に出たので、暇な私も付いていくことにする。
「せっかくだから今日は丸焼きにするニャン」
「やったぁ。正直、ステリアちゃんに雷帝の抱擁持っていかれた時はウゲェと思ったけれど、許しちゃおう」
「何だかんだで二人とも仲がいいニャン」
「私が村にきた時から何度も遊んでいたからね。同年代で女の子は、私とステリアちゃんしかいなかったし」
とは言うものの、あくまで『よく遊ぶ程度の仲』だった気がする。本格的に仲良くなったのって―――アレか。
「でも、今みたいに気安くやり取りするようになったのって、私の結婚詐欺を捕まえてくれてからじゃないかな」
「え!? シルキちゃん結婚しようとしてたニャン!?」
「あれ、言ってなかっ……たわね」
どうやったっていい記憶じゃないもんねぇ。今思い出してもイライラするし。
「お店創めてすぐくらいだから六年前か。先代の村長が『一人じゃなにかと不安だろう。旦那がいれば少しは安心できるんじゃないか』って紹介してくれたのがね、その詐欺師だったわけよ」
「え、この一人用の家で二人住めるニャン?」
「最悪、地下にベッド置けば二部屋作れるのよ、冬は寒くて死にそうになるけどね。一応あの詐欺師、行商人って事でそんなに家に寄り付かないって設定になっていたし、新婚なら当分はベッド一つでもよかったんじゃない?」
まぁ、詐欺師は元々戻ってくるつもりなんざこれっぽっちも無かっただろうから、住まいがどうであろうと気にもしてなかったんだろう。
「あの詐欺師、おじいちゃんの絵は残ってないのかって何度もきいてきてさ。それが目当てで近づいたきたんでしょうね」
「怪しいと思わなかったニャン?」
「おじいちゃん、王都で長いこと描いてたから、知ってる人はそこそこいたのよ。風景画描き始めてから好きになったって人もいたし。だから、詐欺師もそんなタイプかと思ってたの。それに、村長からの紹介だったから怪しい人とは考えもしなかったし」
「ニャーン」
今なら、あんまりにも都合のいいこと喋る相手なら、多少は警戒したかもしれないけど、あの時はまだ自立したばかりの小娘だったからね。騙すのなんかそう難しくはなかったんだろう。
「肝心の絵はおじいちゃんが死ぬ前に、何度も取引のある画商さんに引き取ってもらっていたから、詐欺師の目論見は果たせなかったんだけれど、その代わりにお金になりそうなモノ全部持ち出しやがって」
「それでどうしたニャン」
「普通にキレ散らかしながら、村長に文句言いに言っただけよ。それで」
何言ったかまでは覚えてないけれど、相当騒いでいたんだろう。ステリアちゃんが「さっきからシルキが喚き散らしてる声が聞こえるんだけど」とやってきたのだ。そして、困り果てた村長から事情をきいて「馬貸してくれたら捕まえられるかも」と馬に跨がり数時間後。
『ほら、コイツだろ!?』
ステリアちゃんの後ろには、縄で縛られ髪や服のあちこちを焦がしたり、氷漬けにされて血の気の失せた詐欺師が乗っていた。
「ちゃんと捕まえたニャン? それなら……あ、解った! 殺したんだニャン!!」
「あんた怖がりのクセに物騒な話好きよね。普通に腹に一発食らわせた後に領主様の所に突き出したわよ」
その後は知らない。まだ繋がれたままなのか、出られたのか。どっちにしても、この村に戻ってくるなんて事はないだろう。
「でも、シルキちゃんの知らなかった過去が解ったニャン。結婚しようとしたのは意外だったニャン」
「あの時はねー、寂しかったのよ。今は賑やかになったから考えてないけれど。後は……まぁアレよ」
「ニャン?」
「顔というか雰囲気が……フェルクスさんに似ていたのも……正直ある」
途端にエンスが、呆れた顔をする。
「だから、顔を殴らなかったんだニャン!」
「当たり前でしょ! 別人だろうと、フェルクスさん似の顔をビンタするなんてとんでもない!」
「てかシルキちゃん、前にフェルクスさんと結婚なんて考えてないって言ってたニャン。アレは嘘ニャン?」
「本人そのものは崇拝対象だけれど、それっぽい人みたらいいなー、くらい思うでしょ。てかアレ以来もうフェルクスさん一筋よ、他なんて見向きもしてないわ」
それからお客さんが来るまで、私の熱いフェルクスさん語りと、エンスの突っ込みは延々と続いた。
* * *
数日後、ダンジョンの町に買い出しに行くことになったので、買い物ついでにコピアさんに例の道具ついて訊ねれば。
「シルキちゃんが言ってるの、たぶん鳥笛じゃないかしら。空の木から作れて、吹くと鳥や虫を呼べて使役できるやつ」
「あ、きっとそれです。空の木って事は……マクナベティルさんから教えてもらったのかなぁ」
「実物あるけど見てみる?」
「是非是非」
出されたのは、それほど特徴のない横笛だ。でも確か作り方が特殊なんだっけ、段々思い出してきた。
「見た感じはそんなに珍しそうな笛には見えないですね」
「確か、笛にする木の条件が色々あったんじゃなかったかしら。後、作る日とか使う道具とかに制限があるとか」
「へぇ」
でも、そういう面倒臭さなら、なんとかなりそうかも。最悪、私の腕で作れそうになかったら、村の職人さんに道具だけ揃えてお願いするって手もあるし。
よく知りたいなら、マクナベティルさんに訊いた方がいいと言われたので、帰り際にダンジョンに寄って、詳しい条件や笛の吹き方とかを教えてもらってきた。うーん、これ作り方よりも吹き手の方が大変そうだな。そんなことを考えながら、ステリアちゃんに鳥笛の事を話せば。
「……悪いけど私、楽器類なんて触ったこともないから、そんな笛の吹き方なんて出来る自信ないんだけれど。だいたい呼び出したいの鳥じゃなくて獣だし」
「だよね」
結論。鳥笛を作るより、自分で一から考えた方がよさそう!
てか、作るのは楽器じゃなくて「音が出せる魔導具」って認識の方がいいわね。