道具屋さん、始めました   作:飛沫

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とりあえずこれで買物話は終了です。
お付き合いいただきありがとうございました。


町へ買物・下

「良かったわね、チョコ。大事にしてくれる人が見つかって」

 

 ニコニコと、コピアさんが鳥かごの中のアラクネに話しかける。

 

「ん? チョコってアラクネの名前ですか」

 

「えぇ、蜘蛛ってチョコレートの味がするって聞いたことがあるから、チョコという名前にしたの」

 

「……へぇー」

 

 ……コピアさんって綺麗だし商売も上手いと思うんだけれど、名前を付けるセンスがちょっと残念な気がする。このお店の名前も「すわ、一大事!」だし。絶対に道具屋に付ける名前じゃないと思う。

 ちょっと残念な視線をコピアさんに向けていたら、後ろの扉が開いて新しいお客さんが入ってきた。

 やってきたのはドワーフのおじさんと、どこか眠たげにしている女の人だ。何だか珍しい組み合わせ、冒険者なのかな?

 

「邪魔するぞ、コピアさん。アレは手に入ったかの?」

 

「レイスさん。もう少ししたら知らせに行こうと思ったんですよ。今、此方のお客さんの対応をしているので、ちょっと待ってもらえます?」

 

「あ、そっちのお客さんを優先してもらって大丈夫ですよ。私はもうちょっとお店の棚をみていたいんで」

 

「そう? じゃあレイスさん、持ってきますから」

 

「すまんの二人とも」

 

「「いえいえ」」

 

 再び二階へ向かうコピアさん。どうも大事な物は上に置いておくようだ。

 そして私は、カウンターから一歩離れて棚を物色し始め、レイスさん、と呼ばれたドワーフのおじさんは、相変わらず眠たげの女の人を連れてカウンターの方へやってくる。

 その時女の人のスカートから、コロンと光る何かが転がり出てきた。なんだろう、とそばによって拾い上げてみると。

 

「……ぅゎ」

 

 あったのは、小指の爪くらいのルビーだった。それも凄く真っ赤な。これだけ質のいいルビーなら、磨かない状態でも金貨五十枚以上はいくんじゃないだろうか。

 

「……」

 

 エンスに目配せするとネコババという単語が一瞬頭をよぎるが、イヤイヤと首を振って否定する。これだけの宝石、無くしたら気づかないわけがない。店にいるのは私たちだけだし、直ぐにバレてしまうくらいなら、やらない方がいい。

 

「あの、落としましたよ」

 

 落とした本人に声をかけるも、此方を見向きもしてくれない。代わりに返事をしてくれたのは、レイスさんの方だった。

 

「おお、すまんの! うっかりしておったわい」

 

「いえいえ」

 

 出された掌に宝石を落とすと、レイスさんは隣にいる女の人を叩く。

 その音を聞いて、私はあんぐりと口を開ける。コツコツと、まるで硬いものを叩くような音が聞こえてきたからだ。

 

「ん? お前さん、ジュエルドールをしらんのか?」

 

「じゅえるどおる?」

 

 識らない単語に、そのまま口にすれば「おう、コイツは儂が作ったジュエルドールでな」と説明してくれた。

 詳細は秘密だが、要は石で作った人形に命を吹き込み、動けるようにしたらしい。

 で、その人形に砕いた質の悪い宝石の粉を飲ませると、貴族様の手元や胸元に飾っても恥ずかしくないような宝石に生まれ変わって、掌から出てくるようになるとか。

 

「ごらんの通り、魂の元になる魔力が切れかけていてな。動かなくなる前にこうしてやって来てみた、というわけだ」

 

「はぁ、そうなんですね」

 

 なるほど。眠そうにしているのは、魔力が無くなりかけているからなのか。しかし言われるまで、人形だって気づかなかったよ。昔話とかでよく『秘宝』なんて呼ばれるアーティファクトを作るのは、ドワーフ族が多かったりするけれど、やっぱり語られるだけあって恐ろしく器用な種族なんだな。

 感心しながらジュエルドールを眺めていると「レイスさん、お待たせしましたー」とコピアさんが戻ってきた。

 

「大きなタンポポの綿毛ニャン!」

 

 エンスが叫ぶ。コピアさんが手にしている壜の中には、指摘するように白く輝く綿毛のような物体がフワフワと浮かんでいる。

 確かにタンポポの綿毛に見えなくもないが、不正解なので教えることにした。

 

「違うわよエンス。アレは『精霊の魂』ってヤツ」

 

「ニャン?」

 

「精霊って基本的に魂がない存在らしいけれど、長く生きたり人間に触れたりすると魂を持つようになるのよ。コレはソレ。ホムンクルスを作るときには必須って話は聞いたことがあったけれど」

 

「その通り。魂はジュエルドールのような生き人形にも欠かせなくての。しっかし、コピアさんが手に入れてくるのは一級品じゃの。汚れ一つないわい」

 

 レイスさんが壜を受け取って蓋を開けると、精霊の魂は自ら意思があるかのようにジュエルドールの前まで浮遊し、胸の中へと吸い込まれる。するとどうだ、眠そうにしていた瞼がぱっちり開く。

 へぇ、黄色の瞳か。オレンジの髪色の相まって優しそうな感じを受ける。

 

「じゃあ、金貨二十枚になります」

 

「あいよ。ああ、そうだ。シルキさん……と言ったかの? 儂はこの町で鍛冶屋をしていてな。何か作りたい物があったら寄ってくれ。石を拾ってくれた礼じゃ、安くしとくぞ」

 

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

 やった、知り合いができた。いいことはしとくものね。

 代金を払い、レイスさんが店を後にしようとした時、新たなお客さんが入ってきた。

 

「あ、いたいた。レイスさん! 探したんですよ」

 

 訂正。コピアさんのお客さんじゃなくて、レイスさんに用があるようだ。

 

「僕たち、火竜を倒したんです! ソレを使って剣を作ってもらえないですか!?」

 

*  *  *

 

「この鱗と爪を使いたいんですけれどーーー」

 

「ふうむ、悪くはないな。そうすると使う金属はーーー」

 

「あ、ミスリル銀ならありますよ。一個銀貨八枚で」

 

 ワイワイと。コピアさんの店は完全に武器の相談所と化していた。入ってきたのは三人組の若い冒険者たち。大きな剣を背負っている戦士風の女の子と、杖を持った男の子二人だ。

 

「……貴方は会話に交ざらなくていいんですか?」

 

 チラリと視線を向けながら、隣の壁に寄りかかっている男の人に声を掛ける。

 年は三十半ばくらい。薄着の服の上からでも分かるくらいがっしりした身体付きだから、てっきり同じ冒険者かと思ったんだけれど。

 

「ん? ああ、俺は只の運び屋だ。彼女たちの荷物を運ぶのを手伝っただけで、グループのメンバーというわけじゃないんだ」

 

「そうなんですね」

 

 この人なら棍棒だけでサラマンダーとか倒せそうな気がするけれど。意外だ。

 そんな会話をしている間に、どんな剣を作るかの相談は纏まったみたいで。

 

「レイスさん、早く早く!」

 

「分かった分かった。そう急かさんでくれ、じゃあの、コピアさんにシルキさん。マクナベティル殿もまた今度飲みにでも行こう」

 

 冒険者たちに背中を押されながらレイスさんは外へ出ていって、残ったのは私とマクナベティルと呼ばれた隣の男の人になる。

 

「で、マクナベティルさんは何時もの買取かしら?」

 

「ああ、こんな物を引き取ってくれるのは君のところしかないからな」

 

 頭を掻きながらマクナベティルさんが背負っていた袋をカウンターに置く。

 ひょこりと覗いてみると、中に入っているのは欠けたり割れたりした火竜の鱗だ。

 

「あら、さっきの子たちからの貰い物?」

 

「いや、火竜に挑んで倒れていた冒険者からだ。教会で治療費が掛かったから、運び賃が払えないと謝られながら渡されてな。いつもすまない、こんなものばかり買取ってもらって」

 

「何言ってるんですか。売れるからちゃんと買取るんですよ」

 

 言いながら、ねぇと笑いかけてくるコピアさんに、私も頷きながら笑顔を向ける。

 どうやら、欲しい素材がまた一つ増えたみたい。

 

*  *  *

 

「いやー、今回もいっぱいいいのが買えたわー♪」

 

 ルンルンと上機嫌で、私とエンスは宿へ向かっていた。買った品物の重量で腕が痛いけれど、幸せの重みというヤツだ。

 

「持ってきたお金も殆ど使ったニャン」

 

「今日の宿代に夕食代、明日の馬車代が残っただけだもんね。村に戻ったら色々作って稼がないと」

 

 今回は思い切って初めて買った素材もある。どんな道具を作ろうかと考えると、今から楽しみで仕方ない。でも、その前に。

 

「今日も食べるわよー!」

 

「荷物を置いたら昨日のお店に直行だニャン!」

 

 戻るまではこの町を思いっきり楽しまないと!

 夕飯を食べた店は、今日はユニコーンの肉を仕入れるつもりだと言っていた。一体どんな味がするのか。期待で胸を膨らませながら、私たちは宿へと急ぐことにした。

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