道具屋さん、始めました   作:飛沫

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味的にはスポドリです


夏季限定!冷た~いミント水が入った水筒

 夏に近づいてきたからか、日中動いているとじんわり汗をかくようになってきた。朝方と夜は普通に涼しいから、油断するとすぐに体調崩しちゃうのよね。そんなこと言いつつ、具合悪くなったとしても消費期限の近いユニコーンの水薬飲めば全快するから、寝込んだことなんかもう何年もないんだけれど。

 

「そろそろご近所さんに、ショールのお手伝いを頼まないとな」

 

 清水のショール自体は、冷たいビーズを作るだけの簡単な作業だが、ショールに縫い付けるのが結構手間で時間を食う。これでも、前よりは楽になったんだけれどね。ありがたい事に利用してくれる人が増えて忙しさは変わらないという。ん~、じゃあショールの準備を始めた方がいいかしらね。

 

「あぁ、そうだ。ショール作るついでにアレも作っちゃおう」

 

 ここ二年、魔術が使えるようになってから作り始めた商品がある。別に魔導具ってほど大層な物でもないんだけれど、始めてからの評判は上々だ。そこまで費用もかからないから、利益も申し分ない。

 私は二階に上がって比較的綺麗な紙を一枚引っ張り出すと、文字を書いてから入口に張り付ける。これで、張り紙をみた人が「もうそんな時期か」と頼みにきてくれるだろう。村の人ならご近所さんに教えてくれるかもしれないし、その話を聞いて、宿に滞在している行商人さんも頼んでくれるかもしれない。

 

「鍋足りるかな」

 

 エンスに聴かれれば「また、儲かる妄想してるニャン」と言われそうだが、近くにいないので呟いてみる。あー、お金ガッポガッポ稼げないかしらね。ガッポガッポ。

 

*  *  *

 

 あれから五日、ショール用の冷たいビーズを作って、ご近所さんに縫い付けの依頼もして準備は整ったので例の商品を作ることにした。

 

「まずは、この破片とこの破片を……と」

 

 取り出したのは精霊の破片。本格的な魔導具を作るには、物足りないのかもしれないが、意外にも私が作る道具には色々と使い道があるのだ、これが。

 コイツを必要な量量ったら、乳鉢ですり潰して口の大きな瓶に砕いた欠片を入れる。次に手元に持ってくるのは、空の木の枝を燃やした灰を何度も濾して作った水だ。これは作るの自体は難しくないのだが、何度も濾すのが面倒臭いので最近はショールの時にちょっと多めに作るようにしている。

 これはそこまで多くは使わないので、ピペットで何回か吸い取って瓶の中に移す。目分量だが、精霊の破片が浸るくらいでいい。本当はこの水を使わなくとも、直接魔力を注ぎ込めれば早いんだけれど、それが出来るのはコピアさんみたいな魔女だけだ。私みたいな凡人は、代用品でなんとか頑張るしかない。

 水の量を確認してから、最後に足すのはアラクネの糸、これはステリアちゃんに頼んで、凍結の魔術を吹き込んでもらっている物だ。私の魔力じゃこの強さの冷気出せないもんな。例のエメラルド擬きの指輪を使えば、可能性はあるけど、下手すると家の中までガッチガチになるのを考慮するとね。怖すぎる。

 一掴み分の量を鋏で切って瓶の底に落とす。アラクネの糸はお湯で溶けるので、この状態だと溶けずに少しづつ冷気の魔術が瓶の冷やしていくのだが、それが丁度いいのだ。

 

「後は蓋して布被せてっと」

 

 コルクで栓をしてから、適当にあった布切れをティーコゼーみたいに被せておく。低い温度を維持することが、成功のもとなのだ。

 後は明日に確認するだけなので、やることはない。机の上に置きっぱなしにして、仕事に戻る。

 

*  *  *

 

 次の日、朝一で瓶の様子を確認する。この時、しっかりと手袋をすること。初めて作った時、うっかり素手で触ったら手に張り付いてメチャメチャ焦ったのを覚えてる。期待しながら、そっと布切れを捲ってみれば。

 

「ご立派ァ!」

 

 瓶の大きさギリギリまである雪の結晶が瓶の中でフワフワと漂っていた。コイツは昨日砕いた精霊の破片が魔力を吸いながら、冷気の影響を受けて出来た奴で、簡単に言ってしまえば精霊の赤ちゃんみたいな物だ。これに上手い具合に魔力を与えて調整してやれば、新しい精霊になるのかもしれないが、そんな業が出来るのは魔女だけなので、この状態で使い潰す。五日ぐらいは頑張ってくれるかな。

 

「エンスー、御飯食べたら宝珠の泉まで水汲み行くから付いてきてー」

 

「分かったニャーン」

 

*  *  *

 

 食事を終えて水汲みの帰り、珍しい集団を見かけた。

 (おー、エルフだ。久しぶりに見た、相変わらず整った顔してるわねー)

 八人程のエルフの集団だ。

 エルフと言うと、整った顔や、善寄りの性質、人よりも魔術が得意というのがあるけれど、私がエルフと聞いてパッと思い浮かぶのは長寿ということだ。

 短くても五百歳、長ければ千年以上生きられるというのだから凄いと思う。本当かどうかは知らないけれど、王都のお城には長寿と善性を活かして、何人ものエルフが王様の政治の手伝いをしているとか。とはいえ、この国で酷い治め方をしている貴族様や領主様なんて聞いたことないけれどね。ここの領主様だって樽みたいなお腹してるけれど、凄く優しくて良い人だし。

 

「八人のエルフなんて凄い集団よね。ダンジョンの町でもあんまり見ないし」

 

「そうニャンね。何しにきたんだニャン?」

 

「さぁ? でもあんなオシャレな格好してるから王都から来てそうよね。珍しい」

 

「でもボクの方が珍しいし、ついでに可愛いニャン」

 

「まぁ、そうね」

 

 なぜかエンスが張り合いだしたが、事実なので同意しておく。エンス以外のケット・シー見たことないし。

 水を湛えた鍋を持って帰ったら、さっきの瓶をそっと浸せば、みるみる内に鍋の水が冷えていくので、用意していた温度計をエンスに渡す。

 

「ちょっと見ておいて。水温が十度前後になったら取り出してくれる?」

 

「任せるニャン!」

 

 元気な返事が貰えたので、急いで食用ナメクジと砂糖・塩を持ってきた。今回はミントとレモンの皮を食べさせたナメクジを使用する。この冷たい水に、さっぱりしたレモンや爽やかなミントの味がよく合うんだ。

 砂糖で溶かしたナメクジを、冷たい水と混ぜて味を確認。うん悪くない。なので、ちょっと塩を足しながら味を確認、甘い味の中にほんの少し塩を加えると、更に飲みやすい味になるから不思議よねー。味はこれでよし、と。

 後は、 告知していた間に「これに頼む」と預かっていた皮や青竹、瓢箪なんかで作られた水筒に漏斗を差し込んで、冷たいミント水を注いで保存の魔術を掛ければ完成だ。

 水筒だと大きさの関係か、保存の魔術は十日程しか効果は無いが、そこまで後生大事に水を取っておく人はいないだろう。

 エンスと一緒に、大鍋二つ持って作ったのだけれど、頼まれていた水筒分でほぼ無くなってしまった。水汲んでくれば直ぐ出来るけど面倒くさいな。新規に欲しい人は、明日渡すってことで予約制にしよう、うん。

 そんなわけで、残った水は少し深めのコップいっぱい。このまま飲んでもいいが、どうせなら。

 

「酒蟲~~~」

 

 呼びながらカウンターへ向かえば、水槽の中で泳ぐ酒蟲が目玉をギョロリと動かして此方を見て声を上げる。

 

「ミャウ~~~」

 

「これお願い」

 

「ミャア~~」

 

 コップを出せば、冷たいのを理解しているのだろう。手……いや、ヒレのような部分だけを水につける。

 

「ミャウ~~~」

 

「ありがと……あ゛―――冷たくて美味しい!」

 

 そのまま一気に飲み干せば、キンキンに冷えた上質な酒が喉を潤す。味もさることながらこの冷たさが堪らない。暑い時期の最高の贅沢よね、コレ。

 店にも出せば、売り上げに貢献してくれるのは明白なのだけれど、冷えすぎて酒蟲が風邪引きそうなのと、砂糖入ってるから身体がベタついて嫌がりそうなのでやってない。私だけの秘密の楽しみだ。

 

「シルキちゃん、今のヤツ完全に酒場で酔っ払ってる冒険者のそれニャン」

 

「誰も見てないから問題なし! さて、いい気分になったし今日も頑張りますか!」

 

 ちなみにあのエルフの集団、やっぱり王都から来たんだと近所の人が教えてくれた。しばらく滞在するらしい、マジで何しに来てるんだろう。

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