道具屋さん、始めました   作:飛沫

52 / 66
村のイメージは忍海八海だったりします。とはいえ、実際に行ったのは子供の頃一回行っただけで、後は動画とかで見たイメージですが。

ネトフリで見たダンジョン飯が凄く面白かったです。
イヅツミとマルシル可愛い。食事風景も良かったんですが、あの世界観がすごく良かったです。早く二期やんないかな。


腹ペコエルフ、襲来

「いやぁ、王都の食物も、種類が多くて飽きがこないのですが、この村の乳製品も絶品ですね! 手が止まりません」

 

「あ、ありがとうニャン」

 

 ムシャムシャという擬音がピッタリな勢いで、エンスが作ったりんごチップ入りのパンをその場で喰い尽くす勢いで食べているのは、先日やってきたエルフの群団の一人だ。何だろう、凄く上品に食べくれているのだけれど、食べるスピードが速すぎて全然優雅に見えない。

 

「あー飲みます?」

 

「助かります。ん〜〜〜やはりここのお酒は絶品ですね! 三百年しか生きていない若輩者ですが、今まで飲んだお酒の中でも五本の指に入る美味しさですよ!」

 

「それはどうも」

 

 我が家で一番深さがあるカップに酒を入れて渡せば、エルフさん―――ジャンダグさんが一気に飲み干す。酔っ払わない酒とはいえ、この量を一気に飲めるのは、エルフの旺盛な食欲のおかげだろう。

 私もここ数日で初めて知ったんだけれど、エルフは若い外見を維持する為にカロリーが大量に必要らしくて、例外なく大食いなんだとか。初めは美味しいものいっぱい食べられて太らないなんて羨ましい、と思っていたけれど……村のあちこちで、底無しの袋から両手でようやく抱えられるようなお弁当箱を取り出して食べてる姿を一日に何度もみたら、やっぱいいやってなったわ。何事も限度ってもんがあるわね。

 

「ところで、調査の方は順調ですか?」

 

「いえ、難航しています。持ち出せないのに加えて、水の放出量の制御もできませんからね。そうなると、泉に潜って調べることになるのですが、その方法をどうするかが課題でして」

 

 リスのように頬にパンを詰め込みながら、へにょりと眉を下げて困り顔をするジァンダグさん。当然ながら調査対象は我が村の秘宝・水の宝珠だ。

 詳細は教えてもらえなかったが、複製でも作る気でいるんじゃなかろうか。作れるかはさておき。

 

「まぁ、調べる以前に、私たちが宝珠を見て仕組みを理解出来るのかも問題なのですが……。もしかしたらその辺は、城にいるドワーフに来てもらって確認を頼むかもしれないですね」

 

「ほーん」

 

 そうなると、領主様のお屋敷は更に忙しくなることだろう。驚異の食事量に、食材が足りなくなるのかフットマンらしき人が乳製品をありったけ馬車に詰め込んでいるのを見たことがある。この前なんか、食べ物なんてエンスが作った気紛れ程度にしか置いてないウチの店に「食料は売ってませんか?」って、メイドさんが聞きに来たくらいだったし。

 下働きの人たちは大変だろうけれど、これだけ食べるお客様に、領主様は大喜びだろう。あの方、人にご飯振る舞うの大好きだもんね。私も一回村の食べ放題で領主様と話をしたことがあるけれどその時にチーズが好きって漏らしたら。

 

「だったらコレも食べなさい。ああ、儂的にはこれもオススメだ。あとは……そうだな。オイ、そっちにあるのを持ってきてくれ!」

 

 皿の表面が見えないくらいチーズを盛られたのを覚えている。食道楽だけあって、出されたチーズは全部好物にはなったけれど、その時はチーズ食べて終わったもんね。

 

「ところでシルキさん、この酒蟲私たちに譲ってくれませんか? この子のお酒があれば、食事量がかなり抑制されそうなので是非」

 

「えぇ〜〜」

 

 突然の申し出に渋い声が上がる。とはいえ、向こうも私がいい返事をするなんて思っていなかったんだろう。

 

「もちろん、こちらも相応の対価を払います。王都のあまり使っていない邸宅一軒と交換でいかがでしょうか」

 

「う〜ん、凄く破格な条件なのは解ってるんですけどね」

 

 金貨を使って買い取ったとはいえ、それでも王都の一軒家との交換は凄すぎる。ダンジョンの町に売ってますよ、と教えてあげられればいいんだけれど、実をいうと酒蟲は偶然出来た蟲なのだそうだ。村の人何人にも欲しいと懇願されて、仕方がなく蟲使いの彼に訊ねたらそう教えてもらった。何でも、ダンジョンの一角にある毒沼だらけの箇所の攻略で「毒を浄化できる」蟲を頼まれて育てていたら「水を酒に変化させる」酒蟲ができたんだとか。

 本人としても再産したいけど、突然変異みたいなものだから何を組み合わせれば出来るのかまだ分からないとのこと。そう考えると、よく売ってもらえたなぁとしみじみ思う。まぁ、蟲使いの彼がお酒に弱くてほぼ飲めないのと、見た目がアレ過ぎて引かれていたのが理由としては充分か。

 

「やはり駄目ですか。結構広くて庭の一部もハーブ園になっているんですが」

 

「まぁ、王都に行く予定がないですし、どんなに見事な家貰っても当分住めない家もらってもなぁ……って考えると」

 

 寧ろ、維持費でお金が飛んでいきそうな気がする。貸家にする手もあるんだろうけれど、お金が入るとはいえ、私よりも先に誰かに住まれるのは、それはそれで面白くない。

 

「それに、チョコたちとこんなにも仲良くなったのを見ると、引き離すのも可哀相ですし」

 

 初めは見た目で近寄りもしなかったチョコたちだが、酒蟲の懐っこさに絆されたのか気がついたらよくくっついているようになった。今じゃチョコたちが酒蟲をコップに入れてあちこちに連れ回しているくらいだ。そんな仲を引き裂くのもね。

 やんわりとお断りすると、ジャンダグさんもそれ以上はしつこく言ってくることもなく、そのままりんごパンパーティが続く。何度もお酒をお代わりしながら、空腹を満たすべく頑張っている姿を眺めていると、ふとある事を思いついた。

 

「あ、そうだ」

 

「どうかしましたか?」

 

「いやぁ、宝珠の調査で苦労しそうなら、これどうかなって思いまして」

 

 失礼します、と一言声をかけて地下室に行く。持ってきたのはウンディーネの素材が入っている箱だ。

 

「ん、布……ですか? 透明な素材で出来ているんですね」

 

「ウンディーネから取れる素材です。ダンジョンの町にはそれなりに売ってるんですよ」

 

「へぇ」

 

 物珍しそうに眺めてる、あんまり王都から出たことないって言ってるたし、王都には売ってないのかな。

 

「コレは水で出来ているからか、繋ぎ目とかに綺麗な水を流すと素材同士をくっつけてくれたりするんですよ。何時もは広げてくっつけるんですが、今回は重ねてみます」

 

 試しなので使う量はそんなに多くはないが、掌サイズの端っぱ十数枚でも、重ねれば多少は厚みがでる。そこに、綺麗な水をかければ―――予想通り、くっついてくれてちょっと厚みのある素材になった。

 

「ほほう、面白いですね」

 

「うーん、確かに思った形にはなってくれたけど、結構グニャグニャするなぁ」

 

 持ち上げようとすると、芯がない感じで滑り落ちそうだ。完全に寝入ってるエンスを抱える感じに近いかも。これだとまだ使えないな、となれば。チカトリスの瞳にお願いしよう。

 もう一度地下に行ってチカトリスの瞳を使えば、グニャングニャンだったウンディーネの素材は、多少の硬度を持ってくれた。例えるなら、紙の束かな。この硬さなら、加工できるだろう。もうちょっと硬くしたいなら、もう一回チカトリスを使えばいいし。

 

「これ、使えませんかね?」

 

「ええと、効果は……?」

 

 あ、そっか、知らないんだもんな。

 

「この素材、素材同士が近くにある時は綺麗な水を繋ぎにきてくっついたりするんですけれど、それ以外だと水を弾くんですよ。だから、兜とかにこれを貼り付ければ水の中でもよく見えて確認作業しやすいんじゃないかなーと」

 

 やったことがないので、全部推測の域になるが、素材の特徴から考えるといけるんじゃないかと謎の自負がある。まぁ息継ぎどうすんの? って問題があるけどそれはあっちで解決してもらおう。魔術でできるかもしれないし。

 そんな事を考えながら、ジャンダグさんの様子を窺えば、彼は黙ってこっちを見ていたがハッとした顔をして両手を掴んでくる。

 

「おおう」

 

「素晴らしい素材をありがとうございます! これで計画が進展しそうです。なんとお礼を申し上げればいいか」

 

「いや、そんな大したことしてないですから。素材だって珍しいものでもないし」

 

「いいえ、例えありきたりなものだったとしても何か作れるというのは凄いことです。特に、今のように設計できるのは誇っていいことですよ」

 

「そうですか、ウヒヒ」

 

 顔がいいから、褒められると余計に嬉しくなるなぁ。しっかし、フェルクスさんといいザベル様といい、これだけ顔がいいエルフよりも整ってるってやっぱりとんでもないわね。まぁ、お陰で美形耐性(?)はついた気はするけど。

 

「早速他の者にも見せてきます。では、また!」

 

 残っていたパンを全て口の中に突っ込んで、ジャンダグさんは店から出ていった。この時はちょっとした親切心程度のつもりだったんだけど……このお節介のせいで、その後かなりの面倒事に巻き込まれる事を私たちはまだ知らない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。