てか、主人公の外見言及したのはこれが初めてか?
誰かが起きたのだろう。ゴトゴトと物を動かす音で俺は目が覚めた。欠伸をしながら身体を思いっきり伸ばせば、眠気は綺麗に吹き飛んで、意識もはっきりしたものになる。昨日探索を休んだおかげか、体調も悪くない。
「はよ」
「おう」
扉を開ければ、魔術師兼治療師の仲間(男)が棚を漁って何かを探していた。手伝おうか、と声をかける前に別の扉が開き、今度は剣士(こっちも男)が声をかけてくる。
「おはよ、朝飯買ってくるけど何か食いたいもんある?」
「ん〜、今日は酒場の依頼にあった素材取りの手伝いに行くからなぁ。スタミナつけるために肉がいい」
「了解。お前は?」
「温かいのがいい」
「んじゃ、肉まんでも買ってくるか」
「助かる。だったら昨日の残ったスープ温めておくわ」
「おう、悪いな」
剣士の奴が財布を持って出ていくのを見送ってから、揃って食事の用意をする。準備が整う頃に戻ってきたので、その流れのまま今日の予定の再確認を行う。
「依頼の集合時間って何時からだっけ?」
「十時だったから、そんなにバタバタしなくていい筈。女の子二人組なんだよな」
「可愛いといいなぁ」
「そこまで欲張るなよ。うん、でも女の子はいいな。なんかやる気が出てくる」
「だな。いいとこ見せられるよう頑張ろうぜ」
食事中どことなく浮き立っているのは、俺達のパーティーが男だけなせいだ。正直女子も入れようかという話も上がった事があるのだが……幼馴染や身内とかじゃないと、揉めた時にかなり面倒臭いことになるんだよな。特に惚れた腫れた関係は。実際にそれが元で、パーティーが瓦解したり冒険者を止める事になった様を何度も見ており、その度に「やっぱ女子入れるの止めようぜ」となって今に至る。
「でも、初めて聞く名前の依頼者なんだよな。装備とかどうなんだろ。軽い山登りな気分で来られると大変だぞ」
「多分大丈夫だと思う。酒場の人に日付の事訊いたら『準備したいから、前日の内に依頼だした』って事だから」
「はーん、なら安心だな。知り合いに経験者でもいんのかね?」
「さぁ? まっ、そこまでお守りしなくていいなら、なんでもいいけどさ」
その後、何時もよりも身嗜みのチェックを入念に行ってから、指定された時間より三十分程前に行けば。
「……あの人たちか?」
酒場の一角に、大きな猫のような生き物を連れた、見慣れない女性二人組を見つけた。後ろの二人も彼女らに気づいたようだ。
「ありゃケット・シーか? 魔物化してない妖精なんて初めて見た。動物型ってのもあるのかもしれないが、あんなに人に懐くもんなんだな」
「あの濃い灰色の髪の子もそんなに悪いわけじゃないけど、隣の藍色の髪の子……かなり綺麗だな。この依頼、受けて正解だった」
剣士の言葉を耳にして、俺もまじまじと二人の顔を見てみる。確かに傍に弓一式を置いている藍色の髪の女性は、相当な美人だ。小柄なのも、可愛さに補正をかけているかもしれない。隣の女性は……髪の色が悪いな、あんなに鮮やかな緑の目ならば、黒髪や銀髪、赤だったらもっと映えて綺麗に見えただろうに。中途半端な髪色のせいで、ぼやけてるというか締まってないというか。もったいない。
声をかけようかと思ったが、テーブルの上には食べかけの食器が載っかっている。どうやら食事中のようなので、終えてからの方がいいだろう。まだ、時間も早いわけだし。
ということで、ちょうど隣のテーブルが空いていたのでそこに腰掛けてタイミングを窺うと、向こうの会話が聞こえてきた。
「シルキー、ダンジョン探索手伝ってくれる人たちと落ち合うのってそろそろだっけ?」
「うん、十時からだから、もうちょい。まぁ食べ終わるよね。でも、直ぐに見つかって助かったわ」
「良かったニャンねぇ、シルキちゃん」
「それで、私たちがダンジョンに行ってる間エンスはどうするの? よさげな装備は無かったし」
「コピアさんにお願いして、お店の手伝いする事にしてもらったわ」
「招き猫になるんだニャン!」
チラチラと盗み聞きをしていると、聞き覚えのある名前がたまに飛び出してくる。それを聞いてふーんだのへーだのと心の中で相槌を打っているうちに、向かい合ってる魔術師がテーブルを指差す。見れば、皿の中はすっかり空になっていた。タイミングとしてはちょうどいいだろう。
「すみません、シルキさんとステリアさんでお間違いないですか? 俺達、依頼を受けた冒険者なんですが」
「え、あっごめんなさいお待たせして! 私はシルキ、隣いるのが同行者のステリアです。今日はよろしくお願いします」
* * *
その後、簡単な打ち合わせと確認をして俺達はシルキさんたちを連れてダンジョンに向かった。目的の素材はドリュアスだから、黒竜で山頂までショートカットして向かうのがいいか。
「へぇ、宝珠の村から。行った事はないけれど、チーズやバターが有名ですよね」
「あ、この町にも卸してるんですね。私は道具屋してて、ステリアちゃんは村の凄腕狩人やってるんですよ」
「まぁ、狩人私だけなんすけれどね。うん、でもそれなりに獲物は仕留められてるかな」
「へぇ、それは凄い」
「いや、凄いのは皆さんもじゃないですか。私はこの町来たのは初めてだけれど、ダンジョンの魔王の部屋手前まできたって」
「あぁ。まぁ、確かに行った事は行ったんですが、かなりギリギリの状態だったんで。やっぱり三人だと厳しいんすよね。なので今もう一人魔術師募集していて、募集している間は依頼なんかをこなしていこうと」
「ほうほう」
和やかに会話をしながら、ドリュアスのいる森林地帯目指して歩く。本来ならもう少し緊張感を持って探索するのだが、この階層ならば油断してても勝てるので問題ない。ドリュアスみたいに潜伏しているタイプは、賑やかにする事で獲物がいると知覚させられるしな。ついでに、余裕を見せることで依頼者も安心できるし。さて、ここだな。
「シルキさん、ステリアさん。ここからが、ドリュアスが出てくる可能性のある階層になります。なるべく岩肌を背中側にして歩いて下さい。引きずり込まれたって話は聞いたことないですが、花粉や葉で視界遮られた状態で、引っ張り込まれるのは分かっててもパニックになりやすいので」
「了解しました。ステリアちゃん、何かあったらよろしく」
「任せときな、シルキ」
「欲しい素材は頭花でしたよね?」
「あっ、そうですそうです」
「ならば、頭部を切り落としたらそちらに放り投げますね」
「ありがとうございます。助かります」
二人を庇うような布陣を作れば、前方の木の陰から数体のドリュアスが現れ、生い茂った葉がつく腕を振りまわりながら襲いかかってきたので、剣を構えて応戦する。
ここの魔物はそこまで知恵はない。生まれつき賢いと言われている竜種ですらそうだ。冒険者について学習する前に狩るというのもあるが、意識の無い魔王の暴走した魔力から生まれているから自我がない、なんて説もある。真偽の程は分からんが、町唯一の魔女が作る生き物を見る感じ、一理あると俺は考えている。
しかし、いくら脳みそが働いてないといっても、それを補えるくらいの数の暴力で襲いかかってくるので面倒なのは変わりない。ほぼ無限湧きだもんな。
「ほっよっと」
首を斬り落としてシルキさんの方へ投げていると、シルキさんが底なしの袋から何かを取り出した。ありゃ……盥か。どう使うんだろ?
* * *
「とりあえずこのメイス、出番無さそうね」
ポンポンとこっちに向けて投げられて、積み重なっていくドリュアスの頭を眺めながら、持っていたメイスを岩壁にかける。出る幕なくて良かったという安堵の気持ちと、自分の金じゃないとはいえ、いい値段の買い物だったので出番が無くて勿体ないという気持ちがせめぎ合う。
「いいや、とにかくさっさと頭花を毟って送りつけましょう」
しゃがみ込んで、手近にあった頭部を引き寄せる。最初は生首弄るのか〜、げんなりしていたのだけれど、よくよく見ると植物の特徴がよく出ているので、あまり人感はなかった。これなら、マンドラゴラ弄る感覚でやれそう。
腰に底なしの袋からアキュニスちゃんの爪で作ったナイフと、盥を引っ張り出して隣に置く。この盥が、この前四苦八苦して作り上げたアリアドネが繋ぐ糸だ。手紙の重さ程度なら、簡単な魔法陣で済んだのに百グラム増量でかなり複雑な紋様を描くはめになった。百グラムでこれなら、人転移させる魔法陣ってどれだけ複雑怪奇なんだろう。大きさも一軒家くらいあるんじゃないの?
「ほい」
毟って盥の中に落としていくと、手紙のように一瞬で移動する感じではなく、輪郭が徐々にぼやけていって、空気に溶け込むように薄くなって消えていく。へぇ、こんな風に転移するんだ。
その後もひたすら花を毟って盥に落としていき、数えるのも面倒になった頃「充分」と村長の字で書かれた手紙が送られてきた。よしっ、おしまい。
「すみません。もう数は足りるそうなんで、ありがとうございます」
「そうですか、お役に立てて何よりです」
「帰りはどうします? アキュニスが往来する時間にはまだありますけど」
「あ、蛙キャンディ? っての持ってきてるんで」
「そんなのまで準備してくれてたんですか。助かります」
こうして、無事に村長の頼まれ事は終了した。エンスを迎えに行くと、戻る時間にしては中途半端だったので、もう一泊してのんびり町を楽しむことにした。ステリアちゃんもいることだしね。
「……なんか、思ったより減ってるな。俺的にはもう少し残ると思ってたんだが」
「誓って無駄遣いはしていません」
「てかその持ってるメイス。買う必要あったのか?」
「誓って無駄遣いはしていません」