やっぱり多頭飼いから厳選するより、一匹とガッチリ絆を結ぶ方が好きです。
あとランスが凄く快適で楽しい!ガバガバジャスガ最高!
モンハンはアイスボーンが至高のゲームだと思ってましたが、今やったら確実に舌打ちすると思います。
「う〜ん、一体何を作って渡せば喜んでもらえるかしら。エンスも考えてよ」
「えー、気持ちが籠っていればどんなのでも喜んでくれると思うニャン」
「そりゃそうだろうけれど。もっと、渡した時の驚きとかが欲しいのよ。欲を言えば『これは私しか作れない』って有用性をアピールして存在感を大きくしたい!」
「てかシルキちゃん、お店の新商品作る時より鬼気迫ってるニャン」
「当ったり前じゃない。何しろフェル」
「こんにちは、シルキさん。お元気ですか!?」
投げやり気味のエンスと、熱い議論を交わしていると元気よくドアが開いてアフィアちゃんが飛び込むように入ってきた。おや? と思ったけれど、そういえば今日は乳製品の買い付けに、大量の馬車がやってくるって村の人達が準備してたっけ。
「あら、アフィアちゃんお久しぶり。今日は一人なの?」
「はい、ザベル様も来たがっていたのですが、騎士の当番だそうでガッカリしてました」
ははぁ、真面目に仕事してるんだな。まぁ普通にサボリは駄目よね。
うんうんと頷いていると「アフィアちゃん、助けて欲しいニャーン」とエンスが泣きつきに行く。
「わ、どうしたんですかエンスさん。助けるって?」
「シルキちゃんがフェルクスさんにお祝いの品をあげるって鼻息荒くしているんだニャン。一緒に考えて欲しいニャン」
「はい、お役に立つよう頑張ります」
「ありがとう〜」
アフィアちゃんに椅子を勧めてから、朝の余り物のドーナツを差し出す。トッピングは、この前お礼としてもらったドリュアスの頭花から採れた蜂蜜だ。コピアさんが言っていた通り、濃厚で美味しい。けど、甘すぎて甘いの苦手な人は厳しいかも。
「それで、フェルクスさんへのお祝いというのは?」
「ああ、そろそろ吟遊詩人をやって何周年ってのをやる時期なのよ。それを今回はこの村でするって聞いたから」
「そうなんですね。因みに何周年ですか、五周年とか?」
「四十周年だニャン!」
「え?」
アフィアちゃんが真っ赤な瞳をパチパチと瞬かせる。
「あの、フェルクスさんっておいくつ……」
「そっか、アフィアちゃん知らないか。今年で五十九歳になるのよ、フェルクスさん」
「はぁ」
気の抜けたような声がアフィアちゃんの口から漏れた。
「私、フェルクスさんはシルキさんより少し若いのかと思ってましたが……シルキさんと二倍以上離れてるんですね」
「そうなのよ。私ももう出会って二十年近くになるけれど、その時と外見全然変わってないし」
「ファンの方って、皆その事ご存知なんですか?」
「年齢隠してないからねー。訊かれれば、正直に答えてるから殆ど知ってると思うわよ。んで、承知の上でファンやってるんじゃないかな」
「へぇ、エルフさんの血でも混ざってるんですかね?」
「いや、その可能性はないみたい。エルフの血筋が入れば、必ず耳が尖るんだって」
これはジャンダグさんから教えてもらった情報だ。酒蟲の酒が余程気に入ったみたいで、仕事を振られていない日は私の店で食事して、酒蟲の酒を飲みながら雑談したりお礼と称して商品の整理や売上計算の手伝いなんかをしてくれる。
若いエルフが、未婚の女の所に入り浸り―――なんて聞くと、ご近所さんから色んな噂が飛び交いそうなものだが、私のフェルクスさんへの崇拝っぷりは村中に知れ渡っているので、そんなことは一切ない。ジャンダグさんの方は先輩エルフに何か言われたらしいが「シルキさんはフェルクス殿の熱狂的な信者ですよ」と返したら「あぁ……」と呟かれて以来は何も言われなくなったとか。まぁ、フェルクスさんファンが多いだろうから、それで察してくれたのだろう。
「世界の七不思議ってヤツになるんですかね。そして、シルキさんは何を贈ろうとお考えで?」
「さっきエンスにも言ったんだけれど、あるのをそのままポンと渡すんじゃなくて、私なりに一工夫したものを上げたいのよ。んで、欲を言えば珍しい物とかがいいなって」
更に欲を言えば、お金があんまりかかんないやつ。これは別にケチる云々じゃなくて、金額で勝負出来る土台に立てないからだ。フェルクスさんに夢中になっている貴族のご令嬢や奥様方にかなりいるので、例え私が全財産握りしめて挑んでもあっという間に返り討ちにされるのが目に見えている。うん、上見たらきりがないから上は見ないわ!
「後は、旅のお供に邪魔にならないようなものよね。服やアクセサリーなんかだと、物によっては盗難の対象になったりするし」
まぁ、そう言った類はいざという時に直ぐに換金出来るという利点もあるけれど、フェルクスさんの場合は金を稼ぎたいと思ったら広場とかで一曲歌うなり奏でるなりすれば、なんとかなりそうな気もするので、やっぱり優先度は低いか?
私の要望にアフィアちゃんは「う〜ん」と目を瞑って真剣に考えてくれる。エンスが「そんなに真面目に応対しなくてもいいニャンよ」なんて言っていると、何か思いついたのか「あくまで候補程度と考えてもらえればなんですが……」 と切り出してくれた。
「その条件でしたら、魔銀なんてどうでしょう?」
「エンス知ってる?」
「知らないニャーン」
「それはどんな素材なのかしら?」
「えっと、私も直接見たことはないのですがダンジョンの町でたまに採れる素材なんだそうです。高魔力で変化した魔物の骨なので、本当の銀ではないらしいですが、銀色に輝く事から『魔銀』と呼ばれているとか」
へぇ、そんなのあったんだ。もう何年もダンジョンの町には足を運んでいるけれど、聞いたこともない素材もあるのね。
「効果は、自分にかけられた魔術を一度だけ跳ね返すそうです。跳ね返す魔術を指定することが出来ないので、回復や補助魔術を跳ね返す事もあってちょっと使い勝手が悪いらしいですが、見つけた冒険者はいざという時のお守り代わりとして持つことが多いそうです」
「まぁ、聞いた感じデメリットはそんなになさそうだもんね」
珍しいけれど使い方がかなり限定されるから馬鹿みたいに高いってことはなさそうね。
「私は見たことないんだけれど、それってアフィアちゃんの所で売ってたりする?」
「たまーに入ってくる事がありますから、取り置きできますよ。お値段は……この大きさでこれくらいになりますね」
「ふんふん」
親指の爪くらいで、金貨一枚くらいか。 ちょっと変わった素材って事でピンやブローチにすると良さそうだ。気休めのお守りとして身につけられるし、骨なら加工はしやすいだろうからね。
「アフィアちゃん、遊びにきて早々お願いするのも申し訳ないんだけれど……その魔銀があったらこっちに回してもらえないかしら? 村でやる周年祭は一カ月後だから、直ぐにじゃなくても大丈夫だけれど」
「お任せください、シルキさんの頼みですから私頑張りますよ!」
えっへん、と胸を張って約束してくれるアフィアちゃん。なんて頼もしい、やっぱ大商人様のお孫さんの言葉は安心出来るわね。
と、思いつつも珍しい素材とのこと、万が一の事も考えねばならない。もう一個、何かないかと考えていた時だった。
ウキウキな表情で、アフィアちゃんが蜂蜜を垂らしたドーナツを口に運んだ瞬間、パチクリと大きく瞬きをする。その後、一気にゴクンと飲み干すと慌てたように話しかけてくる。
「シルキさん、この蜂蜜はどの花のですか。こんなに甘くて濃厚な物食べた事がないですよ」
「あぁ、これはドリュアスって魔物の頭に生えてる花を集めて作った蜂蜜よ。水さえあれば半永久的に育つ花でね、この前養蜂家の人が移住希望で来たから、ダンジョンから持ってきたの。美味しいわよね〜」
「これ! これも使うべきですよ!」
「んぁ?」
間の抜けた声で生返事をしてしまうが、アフィアちゃんは気にせずに語り続けた。
「私は魔物については詳しくないですが、この蜂蜜の甘さと濃厚さは、きっと王都の食品専門店でも中々お目にかかれない逸品だと思います。これで、何か作るのも充分ありだと思います」
「そう?」
「はい! 間違いないです」
力強く肯定されると、何だか出来そうな気がしてくる。
「うん、やってみるわ」
「いい作品が出来るといいですね!」
こうして私は、魔銀のピンとドリュアスの蜂蜜を使った品物を作ることにした。
* * *
あれから十日。アフィアちゃんから魔銀についての連絡はまだないけれど、とりあえず私はドリュアスの蜂蜜を使った品物を一つ、作り上げることが出来た。
「見なさいエンス。余りまくってる蜜蝋と蜂蜜を使ってクリームを作ってみたわ。しかも蜂蜜のおかげか、凄く保湿力がある! これならフェルクスさんも喜んでくれるわ」
ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、出来た万能クリームを見せつけてやるが、エンスは冷めた目で此方を見ている。
「シルキちゃん、アフィアちゃんは蜂蜜の『味』を褒めてたニャン。てことはその蜂蜜で美味しい食べ物を作るのをお勧めしてたんだニャン」
「そんな事は存じ上げております。ただ、蜂蜜の飴って中々つくるの面倒なのよ」
私だって、何も最初からこんなお茶濁しの製品で押し切ろうとだなんて考えていない。けれど、蜂蜜の食品(特に飴)は分量がかなりシビアらしく上手くいかないのだ。
まず、水薬のようにチカトリスの瞳で固めようとすると中が凄くネチョネチョしてこの上なく食べ辛い。なんていうか松脂食べたらこんな感じなんじゃないかってくらい、口の中でくっついて残るので、美味しさよりも不快さの方が勝る状態になる。
ならば普通のキャンディにすればと考えたが、それもいまいち上手くいっていない。どうもドリュアスの蜂蜜は、普通の蜂蜜よりも粘度が高いようで、それが障害になっているもよう。量を少なくすればキャンディ自体は作れるけれど、そうすると肝心の濃厚さが薄れて「これ食べるならいつも作るミントキャンディの方が美味しくない?」って思えてくるし。難しいわ。
「まぁ、今日ももう一回飴ちゃん作るのには挑戦するけれどさ、思ったのが出来ないとイライラするわよね」
「シルキちゃんが新作作るときは、だいたい一回で成功するからニャンね。その後に色々配分変えて改良はちょくちょくしてるけどニャン」
確かに。でも、それは根本が違うからだろう。魔導具作成は完全に工作だ。結構足したり引いたりしても何とかなるし、これが無かったら代わりにコレ! がかなり出来る。それに比べれば調理、特にお菓子作りなんかは代用もあんまり出来ないし、分量間違えると直ぐに膨らまなかったり固くなったりするからなー。繊細なんでしょうね、お菓子ってのは。
「とりあえず、最低限渡せる物は作れたから、後は試行錯誤繰り返すしか無いわねー」
蜂蜜を優先的に売って貰えて本当に良かった。値段も若干、安くしてもらえるしね。頭の中で分量を再計算していると、ベルが鳴ってジャンダグさんが入ってきた。まだ、お店開けたばかりなんですがね、今日もお休みか?
「おはようございます。早いですね、お仕事はお休みですか?」
「ええ、こちらは王城と違って役人等に指示を出すこともなければ、書類を読み込んでサインや訂正を加える事もありませんからね。水珠の方も、潜水用の道具の作製と機構の分析には、ドワーフの手が必須と解りましたので、王都からドワーフが来るまでは好きなようにやれます。のんびりできていいですよ」
言いながらも周囲を素早く見渡して、流れるように食品があるかを探す姿勢は流石というかなんというか。目ぼしい物は作ってないけれど、昨日作ったハーブティーがあるからそれを出しながら失敗作の蜂蜜飴でも渡して意見でも聞いてみようかと準備をしていたら、ジャンダグさんが蜜蝋クリームに気付き手に取る。
「新商品ですか? 高級な蜂蜜を使っているようで、よい匂いですね。……蜜蝋クリームに使うには少しもったいない気もしますが」
「ああ、フェルクスさんへのプレゼントで作ってみたんですよ。本当は蜂蜜飴にしたいんですけど、中々うまくいかないから現実逃避というか誤魔化し用というか」
隠すようなことでは無いので、素直に事情を話す。というか長寿で食べる事大好きなエルフ様なら、何か良い案を持っているんじゃないかという下心もあった。すると、やはりジャンダグさんは反応をしてくれる。
「蜂蜜飴? それ程作るのは難しい代物ではないのでは?」
「うーん、普通の蜂蜜飴なら作れるんですけれどね。目指しているのはほぼ蜂蜜で出来た飴! ってヤツだから配分が難しいんですよ」
この際だからと、ついでに今まで挑戦してきた飴のレシピも見せてみる。悪くないところまでいってるんじゃないかとは思っているんだけれど……成功しないんだよね。おそらく許容範囲が恐ろしく狭いからだろう。もうちょい甘く見てくれてもいいのに。
「失礼」と断りを入れてから、ジャンダグさんがレシピのメモに目を通す。
「ふむ……かなりいい線いってると思いますがね。森にいた時に、似たような分量で飴を作っていましたよ」
「ジャンダグさんは王都出身じゃないんですか?」
「ええ、というかエルフの集落は基本的に森の中にありますから。ただ……森の中ですと食料確保が厳しくて、我慢できなくなったエルフが、私たちの様に人が多く流通が盛んな王都のような都市に行き、仕事をするわけです。まぁ、森を出る方が珍しいんですが、あそこにいると長くて五百年しか生きられませんからね。こちらとしては、なぜそんなに森に執着するのかが不思議でなりませんが」
……成程、腹ペコ故に出稼ぎにきてるんだ。となると善性故に〜というは後付け設定で、単純に稼ぎがいいから城勤めをしていると見た。いい人だとは思うけれどね。
「じゃあ、この分量の方向で間違ってないと」
「はい。もう少し砂糖と水飴の比率を減らして大丈夫です。蜂蜜をギリギリまで入れて煮込んだら、保存の魔術をかけてみて下さい」
「あれ? 食べ物には保存の魔術かけるの駄目なんじゃ」
「普通はそうなんですが、蜂蜜は通常の状態でも長期保存が可能なお陰か、保存の魔術をかけてもガッチガチに固まるということがないんですよ。なので、濃厚な蜂蜜飴を作る時にはいいですよ」
まさかそんな効果があったとは。保存の魔術は食べ物にかけると石みたいに硬くなるから、絶対かけちゃ駄目だって思い込んでいたわ。食べ物関係はエルフに聞くのが一番ね。
「ジャンダグさん、これから飴ちゃんを作る予定なのでよければ監修してくれません?」
「試食させれてくれるなら喜んで」
「お安い御用です。エンス、ちょっと店番頼んでいい?」
「了解だニャン。解んなくなったらシルキちゃん呼ぶニャン」
「いいわよ。それじゃジャンダグさん、ご指導お願いします」
「かしこまりました」
ジャンダグさんからアドバイスをもらいながら作った蜂蜜飴は、思い描いていた味そのものになってくれたので、お礼として、今後何も買わなくても酒蟲のお酒飲み放題にすると言ったら、握手を求める程にはしゃいでた。これがWin-Winの関係ってやつね。