道具屋さん、始めました   作:飛沫

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明日から封印の龍骸布のイベクエが始まるので。
間に合って良かった。


ヒンヤリミニチュアストールとはためくマフラー

 フェルクスさんへの贈り物も無事に3点でき(周年祭の十日前に、魔銀が届いた)、渡すことが出来た。エンスにはまたしても変な言葉を口走っていたと指摘されたが、舞い上がっちゃうのは仕方がないし、フェルクスさんも怪訝な顔をしなかったから良しとしておく。

 そして今は、本格的な夏に突入したので、清水のショールを作っては売り作っては売りを繰り返している。今年も暑いからね、それに行商人さんたちが行く先々で自慢してくれたお陰で、以前よりも需要が高まっているのだ。作り方も改良して、値下げも出来たしね。

 実を言えば身体を冷やす魔導具ってのは、結構あったりする。けれど、魔術を駆使して作るとやっぱりそれなりの値段がなっちゃうのだ。私の作るショールだって、宝珠のお陰で冷たい水がじゃぶじゃぶ湧き出るから、手間も準備も最小限で出来るから安く作れるだけで、別の場所で同じように作れば水の確保や冷やす作業の関係があるから、私が売ってる値段で出せば間違いなく赤字になるだろう。

 なので、この村は田舎で不便な所もあるけれど、それを上回るメリットが存在するんじゃないかと思ってる。とはいえ、宝珠を複製されたらその地位はガクーンと下がっちゃうんどけれどね。ジャンダグさんたちの調査は上手くいっているのだろうか、また駄目元で進展具合を聞いてみようかな。

 順調に儲かっているのは嬉しいのだが、最近微妙に困る問題が出てきた、酒蠱だ。

 酒蠱は作りたてだからか分からないけれど、乾燥に弱くて体温調節も得意じゃない。特に暑さが苦手なので、外に連れ出す時はコップに水を入れて持ち運ぶのが当たり前になっている。まぁ、それ自体は酒蠱を買い取った時からやっているから別にいいんだけれど……そうやってチョコたちが外に出てるとアレが寄ってきてしまうようになった。銀糖蜂だ。

 基本はドリュアスの頭花がある泉の周りで、蜜を集めているはずなんだけれど、酒の甘い香りに誘われるのかたまーにやってくることがあるのだ。

 刺される心配はしていない、養蜂家の人が言っていた通り銀糖蜂は酒蠱の周りを何度か飛び周り、蜜がないと分かれば居なくなる。怖いのはチョコだ、捕まえたくてウズウズしているのが、はたから見ても一発で分かるくらいひどい。言い聞かせているけれど、その内やっちまうんじゃないかとヒヤヒヤしてしまう。

 いやまぁ、私の家から養蜂箱のある場所まで結構あるから、チョコが数匹手にかけた所でバレる心配はないんだけれど……。かなり便宜を図ってもらってるからね、あんまり不義理な事はしたくないし。

 という訳で、夏でも酒蠱が乾かず適温でいられる手段を作ることにしたのだ。

 

「うーん、どうしようかしらねー」

 

「いい案が思い浮かばないニャン?」

 

「いや、参考にしようと考えてる魔導具はあるわよ。それからどう工夫しようかと」

 

 とりあえず、ショールを作る時に元にした氷のマントを作ろうと思うけれど、コレ涼しい通り越して冷たいの域に入るのよね。そんなもん身体に巻きつけて数時間過ごせば酒蠱の体調が悪くなるのは明白だし、そんな酒蠱を連れ回すチョコの具合も心配だ。

 

「なんか毛皮みたいなのの裏側に、アラクネの布を貼り付けて冷えを緩和するような感じで作るのがいい感じかしらね」

 

「ボクたちみたいなショールを小さくしたのじゃ駄目ニャン?」

 

「だって酒蠱、肩も首もないじゃん。マフラーとかストールみたいに巻きつける形の方がよくない?」

 

「んー、それじゃあアラクネの布に水の魔術を掛けて、しっとりした感じのを巻きつけるとかどうニャン?」

 

「あー、それやってみたんだけれどね。水分含むとやっぱりお酒になっちゃってね、いい匂いしちゃうのよ」

 

 だからヒンヤリした素材じゃないと駄目なのよね。まぁ、この村は畜産が盛んで羊も沢山いるから、羊毛フェルトもいっぱいある。試す事は可能だ。いい感じに仕上がれば、新商品になるかもだしね。ショールだとちょっと動きづらいって言ってる人もいたし。

 

*  *  *

 

「んー、こんなものかしら。思ったよりいい感じに出来たわね」

 

 それから二日後、考えていたストールが完成した。正直ストールというよりは、正方形のフェルトに着脱しやすいようクリップを付けたので見た目はマントに近いかも。

 

「ほら酒蠱、水槽から出すからちょっと着てみて」

 

「ミャウ〜〜〜」

 

 べチョリと水槽から這い出してきた酒蠱の身体を軽く拭いてから、マント風ストールを被せてみる。

 

「どう、寒くない? 一応腕に巻きつけて冷たさは確かめたつもりだけど」

 

「ミャア〜〜〜〜」

 

 震えてはいないから、冷たすぎるということは無さそうだ。その後、三十分程そのままにしてみても寒がったり具合が悪そうな素振りも見せないので、温度調整に関してはこれでよさそうね。

 

「あら、チョコとトリュフ、どうしたの?」

 

 酒蠱からストールを外して水槽に戻そうとしていたら、チョコたちが机の上に上がってじっと見つめてきた。訊ねてみれば、チョコが細長く編まれたフェルトを出してくる。ん?

 

「え、何? もしかして、酒蠱と同じような仕様にして欲しいの?」

 

 問えば、こっくりと首を振られた。成程、チョコも暑いの嫌だもんね。

 

「はいはーい。ちょっと待っててね、直ぐに仕上がるから」

 

 差し出されたミニマフラーを指で摘むようにして持ち上げ、裏面にアラクネの布を当てて氷の魔術を唱える。チョコのマフラーなんて指の太さサイズだから、仕掛は簡単だ。数分もしないうちに完成する。

 

「出来たわよ」

 

「ミャウ〜〜」

 

 返せば、得意気な顔で酒蠱の隣に立つチョコ。似たような格好をしてると分かってるのだろう、酒蠱もヒレをパチパチと叩いて喜びを表す。

 トリュフもチョコの横に並ぶ。すると、チョコがもう一枚マフラーを取り出し、トリュフの首に巻いてやる。

 

「あぁ! お揃いにしたかったわけね!」

 

 三人が白いマフラー(ストール)を巻いているのを見て、チョコが何をしたかったのか理解する。そっかそっか、同じ格好したかったのかー。そこまで仲良くなるなんて……なんか、いいなぁ。

 三人が同じ格好になってテンションが上がったのか、チョコが糸を貼り付け、その糸に掴まってアチコチへと移動を始めた。糸を掴んで高所から地面に飛び移る際は、マフラーの先っぽがヒラヒラと舞ってなんかカッコいい。……閃いた!

 

*  *  *

 

 三日後、お客さんがいないのをいいことに、カウンターに堂々とフェルトを置いて編み物に精を出していると、エンスがやってきた。

 

「シルキちゃん、何作ってるニャン」

 

「マフラーよ。ちょっとショールの変わりネタを作ろうと思ってね」

 

「ニャーン。……それにしては長すぎる気がするニャン」

 

 エンスの指摘は最もだ。編んでいるマフラーは、今の時点で軽く巻いた状態で先端がお尻の辺りにくる長さになっている。だが。

 

「いいのよ、多分長い方がよりカッコいいだろうから。エンスの分も作るから、出来上がりを楽しみにしてなさいな」

 

「ニャーン。よく分かんないけれど、シルキちゃんがそう言うなら信じるニャン」

 

 目指すは私の身長の二倍近い長さだ。チラリと賢者の紙を眺めれば『二時過ぎから雨の可能性』と出ていた。それならお客さんはほぼ来なくなるわね。

 

「エンスー、賢者が午後から雨降るかもってさ」

 

「了解だニャン。乾いたやつを取り込むから、畳むの手伝って欲しいニャン」

 

「はいはーい」

 

 そして更に四日後、私とエンスの分のなっがいマフラーが完成した。まずは、マフラーの真ん中辺り、ちょうど首に触れる部分にアラクネの布を大蜘蛛の糸を溶かした糊で貼り付ける。最近はアリアドネの作製用に、余った糸を村の人に頼んで布地にしてあるので用意するのは簡単だ。触れる部分は決まってるから、マフラー全面に貼り付けなくてもいいしね。

 

「カレン」

 

 奇跡の人から貰った宝石を付けた指輪を嵌めてから、氷の魔術を唱えれば、ヒンヤリとした空気を掌に感じる。どれどれ……。

 

「あー、これはいい感じだわ」

 

 首が冷えると、冷たくて心地よい感覚がゆっくりと全身を巡っていく。何だっけ、前読んだ本に首には大きな血管があるんだっけ? それを冷やしてるから、全身も冷たくなるのかな。

 流石に朝から晩まで着けてたら、霜焼けとかになるかもしれないけれど、そうじゃなければ危惧することはないだろう。

 

「さてと、こっちは」

 

 一旦外してから、次に弄るのはマフラーの両端。長さは……うーん、とりあえず八十cmくらいでやってみようか。足りなきゃ出せばいいだけだし。

 さっきと同じように糊でアラクネの布を貼り付ける。更にその上にもう一度糊を塗り、妖精の粉を振りまいてから、サンドするようにアラクネの布を貼り付けた。そして、風の魔術を布に掛ける。

 

「ヘーロン」

 

 さて、イメージ通りになるかしら、とワクワクしながらマフラーを巻き直す。少しすると、風もないのにマフラーがはためき始めた。よし、成功!

 ガッツポーズをとっていると、エンスがやってきて私の姿を見るなり指さして大きな声を上げる。

 

「あー! シルキちゃんがカッコいいマフラーしてるニャン!」

 

「でしょー。チョコのマフラー見て思いついたのよ」

 

 後、実を言うと前に読んでた物語にいつもマフラーをはためかせている主人公の話があったのよね。挿絵はなかったけど、チョコの姿を見てカッコいいのに確信を持てたから、それも根底にある。

 

「ボクも着けたいニャーン」

 

「分かってるわよ。ちゃっちゃと作るから待ってて」

 

 同じように作って巻いてやれば、エンスも上機嫌だ。

 

「カッコいいし、冷たくて文句無しニャン。今日からこれ巻いて毎日過ごすニャン」

 

「気に入ってくれるのはありがたいけれど、料理する時は外した方がいいかもしれないわよ。火が飛ぶかもしれないし」

 

「ニャーン。……シルキちゃん方が長いニャン。取り替えて欲しいニャン」

 

「私の腰ぐらいの身長しかないのに生意気言ってるんじゃないわよ」

 

 あ、これフェルトさんにも作って今度あった時にでも……イヤ、これ着けてパフォーマンスしたらファンが一万人くらい一気に増えそうだから止めておこう。この前の周年祭でもどこぞのご令嬢様が私みて「石ころみたいな女に構うなんて!」って言ってたしなぁ。厄介なファンが増えるのはごめん被る。

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