ちょいと短めですが、シルキ視点の方も入れると長くなりそうなので一旦切りました
「やぁ、お邪魔しますーってエンス君か。シルキちゃんは地下で製作中かい?」
「ニャーン、シルキちゃんはエルフのジャンダグさんに呼ばれて出かけて行ったニャン」
「おやおや、珍しい。デートって……んなわけねぇな、ハハハハハ。じゃあ買い物しても大丈夫かな」
顔なじみの行商人からの問いに、エンスは首を縦に振った。簡単な計算ならシルキから教えてもらっているし、分からなかったらその時だ。
「じゃあ、これとこれのセットで頼むよ」
行商人が棚から持ってきたのはユニコーンの水薬三つに雷帝の抱擁二つ、ウンディーネの雨避けと傷薬の旅人セットに、清水のショールとミント水一つの納涼セットだ。最近、売り上げのよい商品はこうやってセット化し、若干割引をするをという手法をシルキはとっている。
エンスはチラリと壁に貼られている紙をみた。客にも分かりやすいよう貼り付けてあるそれのお陰で、値段も計算せずとも分かる。
金額を伝えれば、行商人はきっちりのコインを渡してくれたので、お釣りの計算をする必要もない。お礼に酒蠱の酒を勧めれば、行商人は大喜びで景気よく一杯引っ掛けていく。
「ありがとうございましたニャン。また来てニャーン」
手を振って見送ってから、ため息を一つ。たまに店番を任される事はあるが、シルキは声を掛ければ応じられる場所にいたので心配はなかった。だが、今は一人。分からない事はやらなくていいとは言われているが、やっぱり接客は緊張する。
「シルキちゃん、早く帰ってきて欲しいニャン」
カウンターの上で丸くなり、尻尾をパタパタ揺らしていると、バタン! と勢いよく扉が開くと同時に、元気な声が響く。
「シルキー! まーた雷帝の抱擁の数が少なくなったから三十個くらい頂戴……あれ、エンスじゃん。シルキは? 裏庭でハーブでも摘んでるの?」
「シルキちゃん、ジャンダグさんに呼ばれてどっかに出かけたニャン。いつ戻ってくるか分からないニャン」
「ジャンダグって王都から来てるエルフだっけ? たまーに他のエルフに『アイツあの店に入り浸ってるけど美味いモンでも置いてあるの?』ってよく訊かれるんだよねー」
「ニャーン……狭いお店だから、これ以上人が増えると困るニャン。黙っていて欲しいニャン」
「あー、そうだね。これ以上酒目当ての客が増えると面倒だもんね。飲み屋なわけじゃないし」
ステリアの言葉に、エンスはコクリと頷く。五人も居座れば窮屈に感じる店内だ。八人のエルフ御一行に酒宴でも開かれたら、自分は外に放り出されて延々と水汲み係をさせられる可能性が高い。尤もジャンダグは水槽が空になると「自分で持ってきます!」と自ら汲みに行くので、各々で行く可能性も高いか。でも、やっぱり商売の邪魔になるので来てほしくない。
「てわけでエンス、雷帝の抱擁いくつある?」
「……ここには八個しか無いニャン。予備があるかもしれないけれどボクはその場所知らないし、そんなに沢山買われると計算出来ないからやっぱり売れないニャン」
「なら、シルキ来るまでここで持っててもいい?」
「ボクはいいけれど、お仕事しなくていいんだニャン?」
「んー? したいんだけれど、雷帝の抱擁無くなっちゃたからさぁ。あれ有りと無しで毛皮の傷の多さとかグッと変わるし」
手に入れるまで帰らないという強い意志を感じる。まぁ、今は客も来ていないし、何より寂しい。話し相手になってもらおう。
「ステリアちゃん、椅子どうぞニャン」
「お、悪いね。まぁ、面倒い計算あったら代わったげるよ。そんなに難しいのは無理だけれど、私も多少は出来るからさ」
「ニャーン」
こうして、二人で店番をすることになった。その後は特に客が来ることもなく、ダラダラとした会話と時間が続く。
「ステリアちゃん、お酒飲むかニャン」
「あぁ、私はそこまで強くないからいいよ。ほぼ酔わないって言っても昼にもなってない時間から飲むのはね」
「最近のシルキちゃんは、ミント水が余ると時間関係なく飲んでるニャン」
「シルキは、かなり強いからね。自覚ないみたいだけれど、領主様の所の食べ放題でワインかーなり飲み干してるよ」
そうすること二時間。お昼ご飯をどうしようか相談していた時にシルキが帰ってきた。死んだ魚の目の状態で。
「シルキ……?」
纏う空気のただ事ではない様子に、ステリアが戸惑いがちに声を掛けると濁った目を彼女に向けた。
「あぁ……ステリアちゃん。雷帝のだったら明日に回してくれない? 今日はちょっと気分じゃないわ」
「いや、その様子見て押し通すことはしないからいいんだけどさー、何かあった?」
「いや……うーん……」
「ひょっとしてフェルクスさんが結婚する報告かニャン」
「いや、それだったらここまでショックは……受ける……か? うーん?」
唸るシルキを見守る二人。理由は分からないが、彼女にとって信仰の対象に匹敵するほどの何かをあったようだ。
しばらく顔を顰めたまま唸り続けるシルキだったが、やがて顔を上げると口を開く。
「ステリアちゃん、今日はもう店閉めちゃうから、悪いんだけれど帰ってくれない?」
「何で急に」
「イヤー、このまま人と居合わせると、言っちゃ駄目なこと口走りそうでさ。エンスにだけぶちまけようかと思って」
「えー、そんな駄目な話ボクも聞きたくないんだニャン」
「でも、ずっと一緒に暮らしてるんだから、いつかは絶対言っちゃう訳じゃん。なら、早いうちがいいかと思って」
「ニャーン……」
逃げられないと分かって、耳をペタンとくっつけるエンス。同居人にだけ打ち明けるということは、よほど重要で秘匿性の高い話のようだ。ここで「そっか。じゃあまた明日」と帰るのが賢いのだろうと理解してはいるのだが。
「私も聞く。教えてよ」
ステリアはズイッと前へ踏み出して、留まる意思を示す。シルキが目を見開くが、気づかないふりだ。
「ステリアちゃん、言いづらいんだけど……好奇心で聞くと後悔するハメになると思うけど」
「んー……。確かに好奇心もあるんだけさ、私ら友達じゃん? だったら、秘密共有するのもありかなと思って」
「いいの? ありがとー」
どこか安堵したような顔をするシルキ。やはり、自分だけで抱えるには重い秘密だったようだ。あのね、と声を低くして小声で語りかけてきたので、エンスと共に前屈み状態で告白内容を受け止める。
「村の水の宝珠あるじゃない? なんかさぁ……ヒビが入って、今のままだと壊れちゃうんだって」