ジャンダグさんに連れられて宝珠のイヤーな話を聞かされたものの、今のところ日常には影響は出ていないので、一応穏やかな日々が続いていた。とりあえず、お城から一番優秀と誉れ高いドワーフがやってくるそうなので、改めて調査するんだそうな。いい結果になるといいよね。
んで、私とエンスはお客さんが誰もいない時や店を閉めた後に、コソコソと話をしたりする。やっぱり、ぶちまけられる相手がいるのはありがたい。一人でいたら、ボーッとしている時とかに頭に浮かんでモヤモヤするだろうし。
私とエンスはそんな感じで、宝珠の秘密をうまい具合にやり過ごしていたのだが、ステリアちゃんはそうはいかなかったようで。
「あーもう! 誰かと言い合うことが出来ないのって本当にムカムカする!」
兎を渡すやいなや、ダンッ! と思いきりカウンターを両手で叩きながら不満をぶちまけてきた。
「え、それなら旦那さんにこっそりと言えばいいんじゃない? ステリアちゃんの旦那さんは、思慮深いからちゃんと秘密を共有してくれるでしょ?」
「そりゃあ、旦那だけなら言うよ。言うけどさ……私の家、ちびっ子いるもの。二人も」
「あー」
そういえばそうだ。基本旦那さんが面倒見ているから忘れていたけれど、ステリアちゃんは二児の母でした。子供の前で言えば、三日もしない内に村中に情報がばらまかれる。ちびっ子共の「分かったよー」は分かってないと同義語だ。
「チビたちの前で愚痴れば、一週間もしない内に村中に広がって追放コースまっしぐらよ」
「その場合、私も漏らしたってことで追放されるんだろうなあ。エンス、そうしたらどうする?」
「ボク、もうケット・シーの国には帰りたくないからシルキちゃんについていくけれど、一生放浪の旅は嫌だニャン」
「そうよねぇ」
となると、ここで愚痴を発散するしか無いってことになるか。まぁ、私は忙しくないから構わないけれど、ステリアちゃんは話に来るだけ時間を消費するから無駄な行動なんだよなあ。オマケに私の店と森の方向って正反対だし。かと言って私がステリアちゃんについていくと邪魔者にしかならないし。
「だったら、話せないストレスを発散出来るような物を作ってみようか」
「あ、いいの?」
「私の追放の可能性が含まれているとなればね、やらないわけにもいかないでしょ」
「助かるー。シルキの腕は、この前の口琴で知ってるから安心出来るわ。期待してる!」
「いやぁ、思いつきで言ったから、何作るかはこれから考える事になるし。あんまり期待しないで。……駄目だったら、何時でも来てよ、原因作ったのは私なわけだし」
* * *
と言うわけで、それっぽいのを作ってみたのだけれど。
「いやー、自分で作っておいて言うのもアレだけれど、絶対コレジャナイわ」
「じゃあ何で作っちゃったんだニャン」
そりゃあ、作り始めてから気づいたからよ。けど、半分以上出来てから「違うんじゃね?」になったから、途中廃棄が勿体なかったのだ。もう材料準備し終わって、塗りつけるだけの状態だったから、万が一の可能性にかけて作り上げたわけ。
「それでコレ、どう使うんだニャン」
「これはねー、空間拡張の魔術をかけたアラクネの糸を空の木の灰を濾した水で溶かして、ガラス瓶の内側に塗りつけたやつ。見た目よりもずっと中が広いから、大声で叫んでも周囲に漏れない」
「ニャーン。でもボツニャン」
「だってさー、ステリアちゃんは文句をぶちまけるというよりも、宝珠の秘密を知ってる人と語りたいわけじゃん? 唯のストレス発散とは違うよなーって」
そして懸念通り、ステリアちゃんに使ってもらったら「確かに声は漏れなかったけれど、そうじゃない」と返された。ですよねー。
「振り出しに戻っちゃった。てか会話、会話ねぇ……」
遠くからでも声が聞こえたり、届けられたりするようにするには……風の魔術辺りを使えばいいのかしら? んー、でもなぁ、風だと届けたい相手を指定するってできるの? そもそもそんな複雑な魔術、私が扱えるとは思わないし。それなら声に拘らない方がいいのかも。
「ねぇチョコ、トリュフ。場所を指定して一瞬で行けるのって何かあったっけ?」
机の上で、せっせと仲良く虫取りの網のような物を作っていた二人は、顔を見合わせるとその網を持って棚に向かって走り出した。網に絡めて引き摺って持ってきたものは蛙キャンディだ。……確かにコイツは地下から地上に一瞬で戻れる便利アイテムだが……。
「いや、待てよ」
……それなら精霊の欠片を混ぜれば、アリアドネみたいに互いの場所に行けるんじゃね? よし、これは要検証だわ。
次の日、早速作った極少量の精霊の欠片を混ぜた蛙キャンディをステリアちゃんに渡して実験してみた。これは半分よくて半分悪いという結果になる。いやぁ、噛み砕けばステリアちゃんの隣に一瞬で行けるから、話をするには便利なのだろうけれど、ステリアちゃんの都合が分からないのが駄目だった。この時間なら大丈夫だろうと思ってキャンディ食べたら、夕飯時にお邪魔しちゃったからね。「すいません、失敗しました」って出てくの凄い恥ずかしかったし。となると、事前に会う時間約束した方がいいってことになるけれど、それならもうその時に会って話す方がいい気がする。
そんな訳で、二つともイマイチな結果になったものの、なんとなくだが作るものの方向性は見えてきた。
「んーと、要は距離関係なく空いてる時間に話せる魔導具ってことよね。話すとしたらこの前の瓶を使って、空間拡張じゃなくて精霊の欠片でアリアドネ仕様にすれば……」
「頑張るニャンねぇ。シルキちゃん」
「いやー、村長にステリアちゃんに宝珠の秘密漏らしたことバレたら、どんな沙汰を言い渡されるか分からないじゃない? 最悪追放されたら、しばらく家なき子になるし、もし別の村や町で部屋借りることが出来ても、今みたいな生活は送れないからねぇ。エンスだって嫌でしょ? 外で働くの」
「ヤダニャーン」
思いっきり首を横にふるエンス。そうよねぇ、家から出ないで済む仕事って、本当に気楽でいいわよね。そこまで忙しくもないから、暇な時に好きなこと出来るし。これが、何処かのお店の雇われ店員や、仕立て屋だったらそうはいかない。
「だからねー、こう見えて結構必死なのよ」
「なら、僕も手伝うニャン、気軽に声かけて欲しいニャン!」
こうして、二人で道具作りが始まった。まずは瓶を二つ用意して、内側に空の木の灰と精霊の欠片を溶かした水を塗りつける。声のような見えない物を送れるかは賭けみたいなものだったけれど、空間同士が繋がったような感じで無事に成功だが。
「なーんか、籠もった感じで聞き取りづらいわねぇ」
「やっぱり瓶の中で話すから、おかしな感じになるニャン」
瓶を耳に当てながら、感想をもらす。瓶に口をつけて話さないとだからか、声がモゴモゴしたような感じになって何言ってるのか判断しにくい。何もしていない室内なら、目を瞑って神経を集中させれば何とかいけるかもしれないが、隣の部屋で誰かが咳しただけで、何言ってるか分からなくなるわよ。
「声……声関連ならフェルクスさんでやってるわね。食用ナメクジ……いや、アレは香りだったから関係ない。蜂蜜も……声質が問題じゃないし……」
「フェルクスさんなら、竪琴があるニャン」
「あー、ナイスエンス! 歌声上昇の効果の中に、声を響かせるってのも入ってるかもね。試してみよう!」
そして、父さんから送ってもらった海関連の素材を入れてる箱を引っ張り出してセイレーンの髪の毛やハルピュイアの羽根などを取り出す。色々と試してみた結果、瓶の口にセイレーン髪を埋め込んだアラクネの糸を巻き、そこにハルピュイアの羽根をくっつけて話すと、問題なく声と内容を聞くことができた。ただコレをやると、話を聞く方は聞く一方になるので、もう一組作って使用することになる。
「仕組みとしてはこんな感じかー。ただ、瓶二つ持ち歩くの面倒よね。割れる心配もあるし」
「てか持ってただけじゃ、声が聞こえないのも問題ニャン」
「そうよね。それも問題かー」
エンスの指摘に唸るしかない。いくら話しかけても、背嚢なんかに入れてれば気づかれないし、そうすると結局意味がないのだ。すぐ分かるようにするにはもっと小型化して、イヤリングやイヤーカフスのように、直接耳に装着するしかない。
「ただ瓶じゃあ無理だから……軽い空の木をグラスみたいな形に削ってもらおうか。でもデザイン的にどうなのかなぁ。てか小枝じゃ作れないから、もっと太い枝になるわよね。……お金どれくらいかかるかしら」
空の木って、枝の太さによってかなり値段が違ってくるから、あんまり高くないといいんだけれど。と、頭の中で金額を計算していたら、チョコとトリュフが机の上によじ登ってきて、ガシャガシャと小瓶を振り出した。音に視線を向ければ、小瓶の蓋を開けて、鳥籠のなかで中身を広げる。何をしているのかとよく見れば、真剣に検分しているのは星の形をした砂粒だ。その中でも、特に形のいいものを見つけると、糸を器用に巻き付けてイヤリングのようにして耳に着ける。ほーん……あ、そうだ!
「あったあったー! ちょうどいいのが!」
父さんからの品が入ってる箱を引っ張り出して底を漁ると、目当ての物が見つかって思わず叫ぶ。掌にあるのはオレンジ色の可愛らしい巻き貝、以前父さんが「綺麗だから」と送ってくれた物だったのだが、使い道が思い浮かばなかったので、そのまま箱に突っ込んだままになっていたのだ。これなら可愛いイヤーカフスになるし、何より元手ゼロで作れる。たとえ失敗しても、予備もあるから形にはなるだろう。
「さて、いい素材が見つかったから、問題点を解決した魔導具を作るわよ。エンス、もうちょっと手伝ってね」
「任せるニャン」
次の日、早速満足出来る物ができたので、ステリアちゃんに使い勝手の確認を頼む。
「あー、これいいね。ちゃんと会話できるし。耳元で声が聞こえるのが、ちょっと擽ったいけれどさ」
「そりゃあ良かった」
巻き貝に取り付けられたハルピュイアの羽根を口元で遊ばせながら、上機嫌で話してくるステリアちゃん。話す時は、ステリアちゃんみたいにハルピュイアの羽根を口元に近づけて喋れば、会話が相手に届く仕組みだ。声量の調整ができないけれど、耳元で聞こえるから聞き取れないってことはないと思う。
「そこに付いてる小さい魔石一つで三十分くらいお喋りできるかなー。使い捨てじゃないから、壊れない限りは魔石の付け替えでいいと思うよ」
「へー。で、これ幾らで売るの?」
「いや、これは……売らない」
私の言葉にステリアちゃんは「えー、折角作ったのに。勿体ない」とやや不満気だ。でも、これ使い方の予想が出来なすぎて怖いのよ。
だって今考えつくだけで、悪事の相談や浮気に活用できるんだもの。根っからの悪党なんかに渡ったら、どんな事になるのやら。裏市場に持ち込めばまぁ……って感じだけれど、コレ、通話出来る範囲もはっきり分からないからね。魔石も精霊の欠片も、少量しか使ってないから村ぐらいの距離でしか使えないかもしれないし。
「でもさぁ、コレ使う姿って、誰もいないのに一人でブツブツ喋ってる感じになるんだよ? はたから見ると頭のおかしい人にしか見えないじゃん? そんなの売りたくないよ」
「んー、確かに」
用意していたそれっぽい言い訳をすれば、ステリアちゃんも納得してくれた。売るとしたら、アフィアちゃんにレシピ買い取ってもらって、向こうで対策考えてもらって販売してもらったほうが胃が痛まないかな。今度アフィアちゃんに会ったら、話だけでもしてみようか。