フェルクスさんが二十代前半に見えるのは、高すぎるAPPのせい。
APP21というぶっ壊れなせいで、外見が最盛期で止まってしまっているのです。なので、ザベル様も最盛期になると外見上歳をとらなくなります。
後、褐色ボクっ娘が性癖なのでぶち込みました。
「いや、そうはいいましても」
「頼むよ店長さん! 色々買い込んで手持ちが少ないんだ。次回からは必ず贔屓にさせてもらうから、今回だけこの金額でこのセットを売ってもらえないか!?」
どうかこの通り! とカウンターに両手をつけて深々と頭を下げてくる新顔の行商人さん。一番厄介なタイプだ、と私は心の中で舌打ちする。
たまにいるのだ。ご新規さんで、値切ってくるのが。そしてその場合、本当にお金が無いが、優しくしてやることで恩を感じて常連になってくれるいい人と、次なんてなくて、そのまま二度と顔を見せない悪質な奴の二種類になる。見極めは難しいが……この人はどっちだ?
(見た感じは私よりも若そうだから、お金が無いって言葉に信憑性がありそうだけれど……歳は決定打にはならないからなぁ)
重要な要素の一つにはなるが、親に連れられて十になるくらいから商売をしている人も珍しくはない。そして、そんな人はたいてい悪知恵が働くのだ。大体値切るのなら個人でやってる弱小店舗よりも、アフィアちゃん家みたいな大きな店でやってくれないかしらね。
「お願いします店長さん! 本当に、本当に次に来た時は正規の値段で買わせてもらうから。今回だけ、今回だけは!」
この通り、お願いします! カウンターに額をこすりつけるかようにして懇願してくる一見さん。確かに謝る姿勢は綺麗だし、礼儀正しいのだが。
(なんか……慣れた謝り方って感じがするわ)
本当にお金がなくて頼み事する時って、もっと申し訳なさと悲壮感とかが滲み出てくる気がする。この人の謝罪は「頭下げとけばなんとかなるだろう」って意思がありそうなのよね。気持ちがこもっていないというか。
(確証はないけど……これは自分の勘を信じてみるとしますか)
どの対応が正解かは、人の心が読めるわけでもないから分からない。けどまあ、一見さんならもう来ねぇよバーカ! になってもそれほど痛くはないもんね。
「あー、申し訳ございませんお客様。当店、そのようなサービスを致しておりませんので。どうぞ、ご了承下さい」
* * *
「悪態ついて帰っていったニャン」
「騙す気満々ってことだったんでしょうね。私の読みは当たっていたわけだ」
乱暴に閉められた扉を眺めながら、エンスと言葉を交わす。あの後ひたすら「申し訳ございません」「できかねます」を交互に使っていたら、ブツブツと厭味を言いながら正規の値段で買っていった。お金あるじゃんとは思ったものの、それを指摘すればまた面倒なことになるので「ありがとうございます」だけで受け取っておいたが。
「とりあえず厭味だけですんだからいいわ、腹立つけど。恫喝されると怖いし」
手を上げられそうになったら雷帝の抱擁ぶつければいいんだけれど、商品だし変な恨み買いそうだしでできる限りしたくない。そう考えると、持ってチラつかせるだけで効果を発生させられそうなあのメイスが恋しくなってくる。村長返してくれないかしら、貰った金とはいえ買ったの私なんだし。てか村長もあのメイス使い道あるとは思えないんだけれど。何、派手な夫婦喧嘩する時にでも活躍するの?
「まー、こういうムカムカした時は甘い物食べるのが一番よ。蜂蜜あるし、パンに塗ってからチーズたっぷり載せて焼いて、甘じょっぱいパンでも食べちゃおうか」
「いい案だニャン! ボク準備してくるニャン」
ご機嫌で台所に向かうエンスの背中を見送っていると、扉に取り付けたベルが鳴ったので視線を戻す。ひょっとしてさっきの客が言いがかりでもつけにきたのかと身を硬くしていると。
「おはようございますシルキさん」
「……どうも」
ジャンダグさんと、褐色の肌の女の子が入ってきた。あまり見ない組み合わせね……あ、ひょっとしてこの子が例の超優秀なドワーフかしら!? それにしても。
「うーん、タイミング」
「はい?」
さっきの客とのやり取りの時に来てくれればなぁ、王都の役職付きのエルフ様とお知り合いということでビビってさっさと退散したかもしれないし。国家権力に縋ってみたかったんだけれど。
「シルキちゃーん……いらっしゃいませだニャーン」
エンスも戻ってくると、何でもないふりをして隣にすり寄ってきた。腹ペコエルフの前で「これからパンを焼くニャン」を口走ったら、追加のパン焼かないとになるからね。
「いえ、こっちの話なのでお構いなく。そちらの方は初めましてですよね。シルキといいます、この村で宝珠の水を使った魔導具っぽいのを作ってる道具屋やってます。村に滞在している間、よければ贔屓にして下さいね」
「あ、ご丁寧にどうも。マカナナです、五日前にこの村にきて、調査をしていました。一応、ジャンダグとは友達やってます」
「私がマカナナと一番歳が近いので」
「ボクまだ七十にもなってないんだから、三百超えのアンタと一緒にするなっていってるじゃん!」
息の合ったノリツッコミだ。それにしても……マカナナさんだっけ。ドワーフって四年で、人間の一歳に相当するって話だから、まだ二十歳にもなってないんだ。それでお城お抱えの技術者って……凄すぎない?
「というか、なんでそんな凄いドワーフさんをウチみたいな小さな店に連れてこようと思ったんですか?」
「いや、ボクが会いたいって頼んだんだ。調査事に使われていたウンディーネの端材を使ったゴーグルの発想が結構面白いなと感じてね。あんまり使われない素材を、宝珠の力を上手く使って色々な物を作る、素材の特性や宝珠から作られる水の利点を理解していて、よく勉強しているなって」
「そうですかね、ウェヒヒヒヒ」
最近はステリアちゃんがよく褒めてくれたけれど同業者、しかも実力は相手の方が遥かに上の人に褒められるのは、また違った嬉しさがある。もっと褒めてくれてもいいのよ。
「あらチョコ、トリュフ、お帰りなさい」
ゴソゴソという音が聞こえたので窓の方を見ると、チョコとトリュフがヒョコリと上半身を出していた。日課の畑の虫取りを終えたのだろう。ジャンダグさんが連れてきた見慣れない人をジロジロとガン見しながら、糸を使って器用にカウンターによじ登ると、二人はぐるぐる巻きにした虫たちを得意げに見せてきた。
「あら、今日も大量ね。お陰で私の仕事が減るわ、ありがとう」
「シルキさんの所の生き人形はかなりアウトドアですよね。とはいえ、生き人形は初めてみるので、比較対象がいないのですが」
「や、作った人の話だと、基本的にテーブルの上で踊ったりする姿を鑑賞するものらしいので、本来の用途とはかなり違うと思いますよ。けどまぁ、チョコの為に買った子だし、トリュフも嫌がる素振りもなく素直にチョコの手伝いしているから、嫌なんじゃないと思います」
今じゃお互いに立派な相棒になっているしね、チョコの寿命がどれくらいか分からないけれど、末永く仲良しでいて欲しいわね。
「生き人形……?」
一方でマカナナさんは初めて聞く単語のなのか、眉をひそめながら呟くと、捕まえた虫を鳥籠の中にぶら下げ始めたチョコとトリュフをじっと見つめ出した。同じドワーフの作品だ、興味を持ったか?
「あ、それレイスさんっていうドワーフが作った人形なんですよ。凄いですよね、そんなに小さいのにちゃんと動くんですから。服着てると球体関節も隠れるし、おとぎ話に出てくる小人みたいですよねー」
話を振ってみると、バッとマカナナさんがこっちを見ると、やや荒々しい手つきで私の手を掴む。
「ミャウ〜〜〜!!」
さっきの一見さんのこともあってか、私に何かされるかと危機感を覚えた酒蠱が非難めいた鳴き声を上げる。一方の私とエンスは、突然の事に反応が遅れているとマカナナさんはやや上擦った声でまくし立てるように喋りかけてきた。
「こ、この人形の作り、もしかしてと思ったらやっぱり師匠なんだ! 師匠って今どこで何してるの!? 元気にしてる!?」
お、おう。何だこの興奮っぷりは、師匠ってレイスさんが? 話が全く見えないから、なんて答えていいかもよく分からん。
「えー、ちょっと落ち着いてもらってもいいですかね。とりあえず、師匠ってのはレイスさんの認識でよろしいですか。話の前後が読めないと、説明しようもないというか」
「あ、ゴメンゴメン、城勤めから全然会ってなかったら名前聞いてつい嬉しくなっちゃって。そうなんだ、レイスさんはボクに鍛冶や彫金を教えてくれた師匠でさ、二十年くらい師事してたかな。懐かしいな〜」
以下、長くなるので要約する。マカナナさんが四十歳になってすぐの頃、あちこちの町を渡り歩いていたレイスさんがやってきたそうだ。マカナナさんのいた町は自分たち家族以外にドワーフがおらず、珍しさから話しかけて作業風景を見せてもらったら、その仕事ぶりに感動して頼み込んで色々師事してもらったそうな。その後、王都の城に勤める人間がやってきて、レイスさんを城へと熱心に誘ってきた。どうやら、前々から声をかけようと考えていたらしいが、レイスさんは町に長く定住するタイプではなかったので、足取りを掴めなかったらしい。
「本当は師匠が城に行く筈だったんだけれど『二百年近く生きてもう歳だし、好きな物を好きな所で作りたいから遠慮しておく。マカナナは自分が教えたのもあるが、年齢にしては技術もあるし才能溢れる若者だから、マカナナを城に連れていって教育すれば、優秀な職人ドワーフになってくれるだろう』って推してくれて。とりあえず師匠の顔に泥を塗らない程度には、仕事はしているつもり」
「彼女は制作の技術もさることながら、物の分解や解析が素晴らしいんですよ」
「へー、それは重宝しそうな能力ですね。それにしてもレイスさん、勿体ない気が。私ならちょっと考えちゃうけどなぁ」
「でも師匠は、好きなことを好きなように出来る才能持ってたから」
「……確かに!」
という事は、ダンジョンの町はレイスさんにとっては最高の場所なのかもね。王都なんて、おじいちゃんが生きてる時に行ったのが最後だからかなりうろ覚えなんだけれど、賑やかな事は間違いないんだけれど、素材とかの流通はそれほどでも無かった気がする。完成品が殆どというか。比べてダンジョンの方は魔物から取れる素材と、その素材を買いに来た行商人さんたちが持ち込んだ素材やら何やらでゴチャゴチャしてるからね、職人さんはこっちの方がいいか。
「あぁ、そうだシルキさん。ジャンダグから教えてもいいって言われていたんだけれどね。水の宝珠、調べたらエルフたちの予想よりも悪くて」
「え、いや。そういう悪い情報は耳に入れたくないのでノーセンキューで」
「私から話しましょう。私とシルキさんの仲ですから。マカナナが詳しい分析を行った所、宝珠の機能自体は百年持つとのことですが、修理する場合は五年以内に完了させないと私たちの技術では修復不可能な傷になってしまうそうで。どうしたもんですかね?」
あ"ーーーー! そんな話聞きたくなかったーーー!
私とエンスは頭をかかえ、それをチョコ達が不思議そうに眺めていた。