「修復出来なければ宝珠が駄目になるなんて……。一体俺はどうしたらいいんだ」
「いや、どうもこうも私たちの手には負えない案件なんで、人事を尽くして天命を待つしかないと思いますよ」
宝珠について、更に知りたくない真実を知って三日目。多少精神が回復したのか、村長がげっそりした顔で店にやってきた。正直、こんな顔色の悪い人の相手などしたくないのだけれど、追い返すのも人の心が無いとか言われそうだから仕方なく入れて愚痴を聞く。
「正直、考えても仕方がないでしょう。本当に何も出来ないんだもの。直してくれるドワーフの腕を信じて待つだけで」
「……なんでお前はそんなにあっけらかんとしているんだ」
「そりゃあ」
私は後に残す不安要素を持ち合わせていませんし、と答えたい所だが、とっとと村長にお帰り願いたいのでそれとなく村長を持ち上げる理由を口にしておく。
「私は村長と違って、背負う物はないですからね。てか、それを考えると気が休まる筈もないですね、お疲れ様です」
「俺は……俺の代になったら村を大きくして、小さくてもいいから町にしようと夢見ていたんだ。移住する際の手当や特典もつけて頑張っていたというのにこの仕打ち。俺が一体何をしたっていうんだ」
確かに、結果が伴っていたかと言われると微妙な所だが、村長が人を増やすことに熱心だったのは事実だ。まぁ、宝珠の事を知った今、どうするか分からないが。
「んで、移住募集の件はどうするんです? 継続するんですか?」
「宝珠が完全に壊れて駄目になったら、この村は廃村だろう。辺鄙な場所だ、住み続けるメリットがそこまで浮かばない。それを知っている状態で募集し続けるのはあまりにも無責任だろう。だが、急に取りやめて変に勘ぐられるのも……」
「えー? 今まで大して人が来てないんだから、それを理由に止めれば皆不審に思わないと思いますけれど?」
「言い方ぁ!」
最後、村長はぷりぷり怒りながら店を出ていった。とりあえず、(頭に血がのぼった結果とはいえ)顔色が良くなって元気そうに見えるようになったのはいいことなんじゃないかしら。どれだけ持続するかは分からないけれど。
「あら、チョコたちお帰りなさい。虫取りどうだった?」
一人になるのとほぼ同時に、先日職人さんにお願いして扉に付けてもらった専用出入り口から、チョコたちが姿を見せた。前はトリュフと一緒に窓から出入りしていたんだけれど、器に入れた酒蠱を連れて移動するなら、扉があった方が便利そうだったからね。
「あら、また大漁ね。畑のハーブに悪さされないよう、これからも頼むわ」
二人してズルズルと引きずっていた糸を持ち上げれば、バッタや芋虫、蝶々や蝿など虫たちが種類も豊富に繋がれていた。ヨシ、銀糖蜂はいなそう。うーん、前以上に虫取りが上手くなっているわね。これは私が虫取りしなくても、任せきりでいいかも……?
「ミャウ〜〜〜〜」
チョコたちに注視していたら、お椀をペチペチと叩きながら酒蠱が鳴く。視線を移せば酒蠱がお椀に入れていた赤い実がついた枝を、ヒレのような腕で器用に抱えて差し出してきた。
「あら、赤スグリじゃない。この辺に生えてたんだ」
受け取って口に入れると、想像していた酸っぱさが口に広がり思わず目をつむる。んー、やっぱり生で食べるのは少しキツイか、でも私はこの酸味はそれほど嫌いじゃない。
「あー、酸っぱい」
酸っぱい酸っぱいと連呼しながら赤スグリを何粒か食べていると、興味がわいたのだろう。酒蠱とチョコが私の前に来て口を開けた。
「二人も食べてみたいの?」
「ミャウ〜〜〜」
本当に酸っぱいからね、と前置きしてから一粒ずつ口の中に放り込んでやれば。
「ミャア〜〜〜〜〜〜!」
チョコと酒蠱が揃って目を瞑り、口をキュって窄めた。酸っぱいも食べるとやっぱりそうなるわよねー。
チョコはあまり気に入らなかったのか、直ぐに糸で繋がれた獲物の前に戻って、口直しと言わんばかりに口を大きく開いて虻を頭から噛りだした。けれど、酒蠱は悪くなかったらしく、再び口を開けて赤スグリをねだってくる。
「ミャウ〜〜〜」
「はい、あーん」
「ミャア〜〜〜!」
悶えながらも、吐き出す素振りはない。それを何度か繰り返し、手持ちがなくなったので酒蠱を水槽に戻すと、口直しを終えたチョコがトリュフを連れて水槽のそばにきて遊び始めた。うーん、ほっこり。
それにしても赤スグリの実があるんだ。ということは、ベリー系の実も採集できるかもしれない。よし。
「エンスー」
部屋の中を覗けば、木箱の中で丸まっているエンスを見つけた。眠そうに目を擦りながらも「何だニャン」と返事をしてくれる。
「明日お店休みにするった言ったじゃない? 今日の午後からもうお休みにする事にしたわ」
「珍しいニャン。何か用事でもできたのかニャン」
「うん。とりあえずステリアちゃんの家に行って、いなかったらしょうがないけれど、いたら森を案内してもらうの」
「ベリー摘みするわよ」
* * *
「シルキちゃん、ここにいっぱいブルーベリーがあるニャン!」
「あ、じゃあ先に採ってて。私はこっちのラズベリーを集めてからそっち行くから」
「二人ともー、こっちの茂みの方にもブルーベリーがなってるから」
「ありがとー」
森の中でワイワイとやりとりしながら行うベリー摘み。やっぱり森の中には何瓶ものジャムが作れそうな程の実がなっている。森の中最高! とはいえ、ステリアちゃんみたいな凄腕猟師がいなければ、こんな所まではとてもじゃないけど来られない。オオカミや熊なんかは勿論、鹿にだって私たちじゃ太刀打ち出来る可能性低いからね。
そしてステリアちゃんは辺りを警戒しながら、時折弓を引いて飛んでいる鳥を撃ち落としていた。いいなぁ、私にも一匹分けてくれないかな。
「しかし珍しいね、いきなりベリー摘みたいからお勧めの場所に連れていってくれって。ジャムでも作るの?」
「んー、余ったらそうしようかなと考えてるけど、とりあえずナメクジたちに食べさせて、新しい味のキャンデイ作ろうかなって思って。ほら、ミント味が結構人気だからさ、これを機に色んなのを作ってみようかと」
「へー、いいじゃん!」
「後、そのキャンデイに疲労回復の効果も付けようかなーって考えてて」
実際の所、疲労回復の食べ物ってのは結構でている。ただ、私が食べたことがあるのはクッキーとかの乾き物が多くて、味は悪くないんだけれど歩いている行商人さんたちは喉が渇くんじゃないかと常々思っていたのだ。その点、キャンデイならその問題は解決できる。しかも食用ナメクジのお陰で、シロップとかの準備が凄く楽だし。
けど、キャンデイだとクッキー系よりは回復量は少ないだろう。それでも、いくつも食べればいいだけだし、冒険者みたいにそこまで即効性は求められていないだろうから、作る価値はある。駄目なら普通のキャンデイにして出せばいいだけだし。
「とりあえず今は水使う新商品作る気になれないのよ。心情的に」
「あー、そうだね」
こういう時、話が分かってもらえるのはありがたいなぁ。
「んー、こんなでいいかしらね、エンス」
「大丈夫だと思うニャン」
「これで大丈夫。ありがとね、ステリアちゃん」
「はいよー。なら戻ろっか。出来た飴、試食ならいつでもやるから声かけてね」
* * *
「さてと、ナメクジもいい感じになったことだし試しに作ってみますかね」
数日後、何時ものキャンデイ作る道具一式をキッチンに置いて、私は腕まくりをする。あの後、八百屋さんで蟠桃と杏を見つけたので数個買っておいた。食用ナメクジのお陰でシロップ作るのも楽だし、果物も大漁に買い込まずにすむから本当に助かる。最近は蟲使いの彼も、シロップとしての使い方を強調するようにしたらナメクジもポツポツ売れてきたらしいし。
作り方はいつも通り。飴を一定の温度まで上げてから、シロップを入れる。そして、今回妖精の骨の代わりに入れるのがコレ、イモリの黒焼きだ。見た目はちょっとグロいけれど、ダンジョンで冒険者がよくお世話になるというから、効果は安心していい。スタミナと一緒に魔力も回復してくれるから、魔術師がよく齧っているんだとか。今回はそれを骨同様、粉末にしてキャンデイに混ぜる。疲労回復の道具は他にもそこそこあるんだけれど、マンドラゴラはどちらかと言えば精力剤の面の方が強いし、ドワーフの火酒は強すぎて少量でも次の日確実に二日酔いになるらしいから駄目だろう。というか、キャンデイと混ぜたらアルコールとんじゃうか? でも相当強いらしいから少しは残るのかしら? うーん、分かんない。分からないから使わないでおく。
「そういえば黒焼き、コピアさんのお店でも見たことあるけれど、味ってどんなんだろ。あんまり苦いようだったら駄目かも……ん」
粉末にしたものを一舐めしてみる。あ、焦げたような味とか一切ないわね。特にクセもなさそうだし。これなら混ぜても味変することはないわね。ヨシ!
「んじゃ、これがブルーベリー用でこっちは蟠桃用。杏と赤スグリ用はここに置いて―――」
それぞれ小分けに分けてキャンデイを作ってみれば、全部それなりの味のキャンデイになってくれた。エンスと舐めて効果を確かめれば、一粒で多少怠さがとれる感じだった。一日中舐めていれば、そこそこ疲れもとんでくんじゃなかろうか。
最初は、全種類適当に詰めて販売するつもりだったけれど、エンスの提案でお客さんに好きな味を゙選んで瓶詰めにすることにした。確かに、種類によっては酸味が強いのもあったりするからね。
「あ、こらチョコ! また勝手に持ち出して!」
「ミャウ〜〜〜」
そして気に入ったのか、チョコがよく赤スグリのキャンデイを砕いて酒蠱と食べる姿をみるようになった。キャンデイで酸味が控えめになったのがよかったみたいだ。とはいえ、商品の中に潜り込まれるのはなぁ。
ということで、割れたりしたキャンデイはチョコたち用にして別にして置いておくことにした。これだったら、好きなだけ食べてかまわないからね。