欲を言えばラッコ鍋シーンで杉元の「よせやぁい」で皆の心の声「可愛い」が欲しかったですが、皆楽しそうに相撲とっていた姿がよかったのでよしとします。
見知らぬドワーフが宝珠を前にして修復作業を始め、村人全員が固唾を呑んで見守る。私もその中に交じり、ひたすら彼の動作を凝視していた。
ペキンとかパキンとか、謎の金属音を響かせながら進んでいく作業。正直、順調なのか難航しているのか傍から見ている分には区別がつかない。どうか上手くいっていますように、と祈っていたが神様がいないせいか願いは届かずにそれどころか。
「あっ!」
焦ったような声とともにゴキン! という砕けるような音が響き渡る。すると、ミシミシという嫌な音と共に宝珠全体に亀裂がはいり。
パァンと空気が破裂するような音と共に、宝珠を覆っていたジオテック多面体が辺りに飛び散った。
* * *
「聞いていた説明と全然違うんですけれど!?」
自分の口から飛び出た声に驚いて、目を覚ました。あぁ……夢。夢か、本当に夢でよかった。上半身を起こすと、掛け布団からコロンと黒いオルゴールが転がって床に落ちる。あ、そういえばたまには使ってみるかで鳴らしてみたんだった。とんでもない夢だったわ。今、冒険者が手放したくなった気持ちが痛いほどに理解できた。
「いやぁ、夢でよかったけれど内容が嫌すぎる……。正夢とかにならないよね?」
段々と記憶が掠れてきているけれど、直していたのは見たことがないドワーフだったような気がする。レイスさんならそうはならないわよね。ならセーフ。
「あー、もう朝から憂鬱だわ。よりによって、あんな夢じゃなくたっていいじゃない。ねぇ?」
机の上の鳥籠の中にいるチョコとトリュフに話しかければ、二人は怪訝な顔でこっちを見ている。何で持ち主の私が、こんな珍獣を見るような視線を送られなければならないのか。というか、前にもこんな事なかったっけ?
「いいや、さっさと起きよう」
起きないとエンスがやってきて、なんやかんや訊かれるかもしれないし。呆れられたり馬鹿にされたりする前に、とっとと下に降りて何でもなかったふりをしよう。
軽く身だしなみを整えてからエンスの元へ行けば、卵を焼いていたエンスは私の叫び声には気づかなかったようだ。
「早いニャンね、シルキちゃん」
「うん、なんかちょっと早く目が覚めて。手伝うことある?」
「お皿持ってきて欲しいニャーン」
「はいはーい」
その後も、特に不審がられることもなく、一日が過ぎていった。
* * *
そして、数日振りの休日。空飛ぶ絨毯を使って、私たちはダンジョンの町までやってきた。恒例のトリュフのメンテナンスとコピアさんの店での買い出しだ。
「でもシルキちゃん、トリュフのメンテナンスはともかく、無くなりそうな素材なんてあったかニャン?」
「いや、新商品の開発を」
言えない、この前の夢が嫌すぎて買い物でストレスを発散したいだなんて。てか豪遊とか散財できる程のお金なんてお財布の中に入れてないんだけれどね。あくまで気分ということで。
「最初はレイスさんの所に行こっか」
ちょっと混んでいるけれど迷わないよう大通りを通りながら、鍛冶屋や武器防具を扱っている店が軒を連ねる区域まで辿り着いた。お、ここだここだ。
「こんにちはー。お久しぶりです」
「おお、シルキさんか。入ってもらって構わんぞ」
声をかければ奥から声がしたので、お邪魔しますと一応声がけしてから入らせてもらう。珍しく炎床が消えている、今日はお休みなのかな?
「すまんな、王都の知り合いから連絡が来て暫く宝珠の村に出向かなければならなくなったから、準備をしとったんじゃよ。ハァ……」
「あぁ、もうマカナナさんから連絡がいったんですね。よろしくお願いします」
「ん? シルキさんの住んどる村か。と言うことは……知っとるんか?」
「あー、あんまり知りたくなかったんですけれど。王都から派遣されていたエルフの人と仲良くなったらなし崩し的に。村で知ってるのは私と村長くらいですね。正直、知らない方が良かったなって思っています」
「そうか。儂も王都からやってきた使者に『修理を依頼したい』と言われたから首を縦に振ったら『実はここだけの話なんですが』と重い内容をぶちまけられてな。聞いてしまった以上断れんし、宝珠の水がなければこの町の生活も様変わりして不便を強いられることになるから……覚悟を決めて、じゃ」
「ありがとうございます。マカナナさんも喜びますよ」
途端、レイスさんが何とも言えない表情になる。
「どうかしました?」
「いや、アイツ儂のこと過大評価してる傾向があると思うんじゃが。名誉な事と言えばそうなんだが……うーむ」
え、そうなの? でも城仕えできるドワーフに仕上げたのは事実だから、間違っていないのでは?
「いやー、お城で色々やってるマカナナさんが太鼓判押すんだから、自信をもっていいのでは? とりあえずウチの村、チーズとかヨーグルトの乳製品が美味しいんで、それは楽しみにしていて下さい」
「んん? 儂は水が豊富だから川魚をたらふく食べられると思っとったんだが違うんか?」
「村の泉や川には魚はほぼいないですよ。多分湧き出てすぐだから、綺麗すぎるんじゃないですかね。後は凄く冷たいから生きていけなそう」
だから私は、川魚ってか魚自体を殆ど口にしたことがない。この町に来ても、変わったモンスターの肉ばっかりに手を伸ばしちゃうしね。今度食べてみようかな。
そんな話をしながらトリュフを見てもらうと、肩と太腿の繋ぎ目を交換したほうがいいと言われたので、お願いすることにした。球体状の関節を外す時に「え!? なんてことしてるの!?」ってチョコが驚いて目玉をひん剥いていたのはちょっと面白かったけれど。
「ほい、これでまた暫くは大丈夫だろう。しかし見た感じ、結構動き回っている割には摩耗は少ないのう」
「畑の土がいっぱいある所でヤンチャしてるから、そんなに衝撃がこないとか? 分からないですけど。レイスさんはいつ頃宝珠の村に到着する予定です?」
「儂の準備はあらかた終わりそうじゃが、持ち込む道具を集めないとだからの。コピアさんをはじめ、数軒の素材を扱う店から、精霊石とシュイムーメデューサの粉末をある程度確保してから伺うとするよ」
「そうなんですね。だったら、村に戻ったらマカナナさんに伝えておきますね」
トリュフのメンテナンスを終えて、私たちはレイスさんの店を後にする。チョコはしばらくトリュフの腕やらをペタペタ触って様子をうかがっていた。心配しているのかしらね。それにしても。
「始めて耳にする素材の名前を二つも聞いちゃった」
これからコピアさんの所に向かうし、ちょっと訊ねてみようかな。
「こんにちはー。お邪魔しますー」
「あ、いらっしゃいませ! ごゆっくりどうぞ」
コピアさんの店を覗き込めば、店番をしていたのはマカエルちゃんだった。
「コピアさんならお届け物に出ているので、少し経ったら戻ってきますよ」
「へー、そうなんだ。ところでマカエルちゃん、ここに来る前にレイスさんの所に寄ったのよ」
「ああ、なんか王都からのお仕事の依頼が来て、しばらく留守にするそうですよ。いいタイミングでしたね」
ふーん、王都からの仕事ってざっくりな説明か。言えるわけないから当然か。
「らしいわよね。で、その時に精霊石と何ちゃらメデューサの粉末を集めないとどうとか言ってたのよ。聞いたことがない素材でちょっと気になったんだけれど、どんなのか知ってる?」
「精霊石? また随分と変わったのをご所望なんですね。あんなの、頼まれない限りは在庫作らないと思いますよ」
「ん? そんなに需要のない素材なの?」
「はい。ちょっと手間だし、在庫として持っていても本当にいいことがないというか」
そこまで疎まれる素材ってある? 俄然興味が湧いてきたわ。
「へー、そう言われると気になるわ。どんなの?」
「んーと、ざっくり言うと、魔石の反対『魔力を吸い取る石』ですね。しかも、辺り構わず吸い取ろうとするから持っている人は当然、周りの人も魔術を使えなくなるという」
「あら、それは本当にはた迷惑な石ね」
「作り方は精霊の破片を使って作った精霊の幼体と、魔石を一緒にします。幼体は魔石から放出される魔力を取り込もうとするんですけれど、幼体を成長させる魔力を注げるのは魔女しかいないので、当然無理です。それを繰り返している内に、幼体は消滅するんですけど、その思念? のようなものが魔石にとりついて魔力を貪欲に欲しがるっていう。そのせいで、魔石も性質が変質して」
「結構おっかない作り方なのね」
「吸い込む魔力はそこそこらしいですよ。でも、もう身体は残ってないから、どれだけ吸っても元に戻ることはないですし、満足すると消滅して何も残らないっていう。割とどうしょうもない素材です」
「ふーん」
聞いた限りは確かに普通では使い道がないけれど、宝珠に使えば、常時垂れ流し状態の水の勢いを少しは抑制できるのかもしれないわね。
「なら、何ちゃらメデューサの粉末は分かる?」
「メデューサって何種類かいるんですよね。せめて名前が分かれば……。それかコピアさんだったら思い浮かぶかも」
「ただいまー」
お、噂をすれば帰ってきた。ここはコピアさんに訊ねてみよう。
「お邪魔してますコピアさん。ちょっとお訊ねしたいんですが、何ちゃらメデューサの粉末って分かります?」