道具屋さん、始めました   作:飛沫

7 / 66
活動報告の所でネタの募集は始めました。
良かったらネタ下さい


ザントマンの安眠香

「ん〜ふ〜ふ〜♪」

 

 チャリチャリと音を立ててお金を積み上げていく。

 金貨が三枚に銀貨が十二枚。この前作ったシルクハンカチの売上だ。

 ほうき便で送ったハンカチは、無事に知り合いの商人さんの手元に届き、完売になってくれたようだ。

 流石貴族の皆様、少しばかり高めの値段でも渋ることなく買ってくれる。町の買出しでかなりのお金使ったから、こういうお金になる仕事は助かるわー。

 

「シルキちゃん、顔がニヤけてるニャン。だらしない顔だニャン」

 

「まとまったお金が手に入ったんだもの。そりゃ顔だって緩むわよ」

 

 ひとしきりチャリチャリ積み立てて満足した後は、お金をしまってから棚を眺めた。

 在庫がギリギリになるまで買出しに出かけないから、幾つかの商品は品薄状態になっている。うーん、どれから手を付けようかしらね。

 

「じゃあ、今日はこれを作ろうかな」

 

 こういう時は直感を信じるのが一番。一番最初に目を向けた、在庫が数個になっている薄紫色のお香を作ることにした。

 

*  *  *

 

 お店を締めてあらかたの用事を片付けてから、私は地下に来ていた。

 このお香の効果を確認するのは、夜が一番いいからだ。

 

「よいしょっと」

 

 持っていた袋を机の上に置けば、ドサリと重たそうな音がした。口元を固く縛ってある紐を解いてひっくり返せば、ザラザラと溢れ出てきたのは紫色の砂。ザントマンの砂だ。

 普通は睡魔として、眠らない子供たちに眠りの砂を撒いて寝かせる存在なんだけれど、あのダンジョンにも出てくるらしい。

 眠らせるだけの能力しか無いのだけれど、強い魔物と一緒にいたりすると、眠らされてボコボコにされる可能性があるから、見かけたら一番最初に倒す相手になっているとか。可哀想だけれど、命に関わるから仕方がないわ。

 これは、その倒したザントマンが持っていた砂の袋だ。どんな薬や魔術よりも効果があって、副作用もないから眠り薬として使うなら最高なんだろうけれど、目に直接入れないと効果がないから使い勝手としてはいまいちになる。飲み薬として利用できれば良かったんだろうけれどね。

 

「しっかしこの砂って何が原料なのかしら」

 

 砂を中央に集めながら疑問を口にする。

 多分魔術の一種なんだろうと思うけれど、作り方が解らない。一応、アラクネの糸を使えば粉薬は作ることができる。アラクネの糸は魔力をよく通すし、糸の中に溜めることもできるから、糸に回復魔術なんかをかけてからメドゥーサの首やコカトリスの目玉を使って硬化させた後に乳鉢とかですり潰せば、粉薬になるのだ。

 ちなみにアラクネの糸は熱に弱いので、回復魔法をかけた糸をお湯の中に放り込めば溶けて水薬になる。

 それぞれのメリットは、水薬なら苦味が少なく飲みやすい、粉薬なら長期間の保存がきくことだ。

 だから、この粉も最初はそうやって作っているのかと思っていたんだけれど、アラクネの糸で作る薬は白い色になる。薄紫にはならないから違うんだろう。うーん、謎だ。

 悩みながらも何度も作っているので、手は勝手に材料を集めていた。

 タブノキから作る粉に香原料となるラベンダーの粉末、それに水だ。

 ラベンダーの粉末とザントマンの砂を混ぜてから、好みの匂いになった所でタブ粉を投入。後は入れ過ぎないよう注意しながら、水を少しずつ足していく。

 

「あ、おかえりー」

 

 粉を捏ねて練り上げていると、天井から糸が垂れてきて小さなアラクネーーーチョコが降りてきた。

 この子はとにかく働き者だ。毎日糸を吐いて、もらってきた小さな糸車で紡いでくれている。

 アラクネの糸は需要が高いから、店に置いておくだけで行商人さんたちがついでに買っていってくれる。あと一ヶ月もすれば、買った代金分は稼いでくれる筈。

 だから最近は鳥かごの戸を開けっ放しにして、仕事が終わったら好きにさせている。前にも言ったけれどアラクネは凶暴な魔物ではないし、そもそもこの大きさだ。人に迷惑をかけることなんてしないだろうし。

 チョコも、裏にある薬草やハーブを育てている庭をチョロチョロしているらしく、戻ってくるとどことなく満足した表情になっている。たまに、口元を鱗粉だらけにしたり、虫の脚をボリボリしながらやってくる姿にうわぁってなるけれど。

 

「ああ、コレが気になるの? コレはね、ザントマンの安眠香よ」

 

 机に降り立つと、私が捏ねているのが気になるのか、傍に立つとじっと手元を見つめてきた。

 

「ザントマンの砂はいい睡眠薬になるんだけれど、目に入れないと効果がないっていうのが不人気の理由の一つでね。だからお香にして、自然に目に入るようにしてみたの」

 

 モチロン、直接入れるわけじゃないから効果は幾らか落ちる。ウトウトして眠くなったなー程度だ。でも、強い薬が使えない小さな子供や、興奮して手に負えなくなった動物にはそれで充分。この村の人は殆どが酪農を営んでいるから、何かと需要がある。

 そんな私の説明を、チョコは黙って聞いてくれているけれど、一体どこまで理解してくれているのやら。ある程度は人の言葉を理解しているみたいだけれど、エンスより脳みそ小さいだろうからなぁ。

 

「さてと、これで完成ーって、しまった、これしばらく乾燥させないと使えないんだった」

 

 数十個のコーン型を作り終えて、さぁ、効果を確認しようとしたところで気がつく。そうだ、お香って乾燥させて水分飛ばさないと駄目だった。いつもすぐ出来るのばっかり作ってたからなぁ、すっかり忘れてたわ。

 

「せっかく夜に作ったのに、うっかりしてたわ。仕方ない、もう寝るだけだからこのままにしておいて、明日風通しのいい所に置いておこう」

 

 となると屋根裏部屋かな。持っていく時はひっくり返さないよう気をつけなきゃ。

 

「今日はこれで終わり。チョコ、一緒に戻ろう?」

 

 腕を伸ばせば、スルスルと登ってくるチョコ。

 肩までやってきたのを確認してから、私は階段を上り始めた。

 ちょっと予定が狂ったけれど、たまにはこんなこともあるわよね。安眠を促すために、エンスをモフモフしようかしら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。