今年の更新はこれで最後だと思います。
来年もどうぞよろしくお願いします。
そして、ネタを提供して下さったT.S.F.様、ありがとうございました!
「うーあーぐーあー」
お客さんがいないことをいいことに、私は店内のカウンターに突っ伏して唸り声を上げていた。悔しい、悔しい。
「あーあーあーあー」
「シルキちゃん、元気を出すニャン。そんな時もたまにはあるニャン」
「だってー、だってー」
慰めようとしているのか、エンスがムニムニと肉球を押し付けてくる。気持ちは嬉しいけれど、やっぱり気分は晴れない。
「だいたいアレ買ったのはボクだし、今回のだって思いつきで作ってみようとしたワケだから、シルキちゃんがそこまで落ち込む必要ないニャン」
「そうは言うけれどさー、作ろうと決心した時に、絶対上手くできるって確信していたからさー、できないのは悔しいのよー」
ブーブーと頬を膨らませながら、隣にあるソレを睨みつける。ビシャビシャになっている机の上に置かれているのは水の入ったガラスの鉢と、グシャグシャになったヒカリゴケの残骸だ。
* * *
今回私が作ろうと奮闘していたのは、ヒカリゴケを使ったランタン。エンスが面白そうだとコピアさんの店で見つけた品物だ。
コピアさんの店には色々な物が置いてあるけれど、主に三種類に分類される。薬草や武器、防具など、冒険者向けの品。冒険者がダンジョンで見つけてきた鉱石やモンスターの部位で、外からやってくる商人や職人に向けた品。最後が、魔術師とかが作って持ち込む魔導具だ。
持ち込んでくる魔術師の種類は様々だ。現役の魔術師が己の腕試しに作った魔導具。引退した元冒険者の魔術師が、あればダンジョン探索に役に立つんじゃないかと作り出した魔導具。そしてたまにあるのが、これは売れるだろうと自信満々で作ったものの需要に掠りもしなかったので、泣く泣く捨て値で売り払った魔導具だ。
今回使っていたヒカリゴケは、最後の需要が無かった魔導具に分類される。コピアさんの話によれば作ったのは、光の魔法が得意な魔術師で、ダンジョンに生えている植物からヒントを得たとか。
あの町のダンジョンは魔力を帯びて光る植物や鉱石があって、ランタンや松明を持ち込まなくても充分なくらいの明るさがあるらしく、例の魔術師はそこからインスピレーションを受けて、魔力を使わずとも光る物を作ろうと思ったらしい。
結果、出来たのは暗闇に反応して光るコケ。いざ商品化! と鼻息荒くしたものの、このコケが育つには綺麗な水が大量にないと駄目なことが発覚。ダンジョンの町はこの村ほど豊富に水がないし、ここに比べればそれほど綺麗でもない。なので売りに出したところ、どこも買い取ってくれず何軒も巡った末に、コピアさんの店で引き取ったという話だ。
私も話を聞いたとき、このコケを商品にしようなんて思いもしなかった。ただ、村にはそこかしこに綺麗な湧き水があるからコイツを使って地下室をもう少し明るくできたらなー、と考えていた程度だ。銀の燭台だけじゃ部屋全体は明るくならないし。
素焼きの入れ物に水とコケを詰めて。以前よりうっすらだけど明るくなった地下を見て、思いついたのだ。
村には綺麗な水がわんさかあるんだから、うまく使えば有効活用できるんじゃないかと。
* * *
「くっそー」
ガバリと起き上がって、ヒカリゴケを引き寄せる。初めに考えたのは、地下に置いたように素焼きの器にコケを詰めて配布する方法だ。けれど、これだと上の面しか光らないので明るくなる場所がかなり限定されてしまう。しかもほんのり周りを照らすくらいの光しか放たない。元となった光る鉱石や植物は魔力を糧にするから、数える程度しか無くても階層を充分に明るくすることができるが、コイツは自力で光っている分明るさは控えめだ。作った魔術師も辺り一面コケに覆わせて、ってイメージで作ったらしいし。
ならば、と用意したのはランタンだ。四方がガラスだから明るくなるだろう思ったのだが。
予想以上にコケの光はヘッポコだった。普通にランタンに灯りをともした方が、マシなんじゃないかというレベル。これじゃあ駄目だと、最後に用意したのは糸。大量のコケを丸めて糸でグルグル巻いて。出来たのはボール状になったヒカリゴケ。
継ぎ足し継ぎ足ししながら丸めるを何度か繰り返すと、ようやく及第点かなと言えるくらいの光源にはなったものの。
それくらいにするには子供の頭くらいの大きさにしなければならず、それなら普通に油を使って火をつけた方が楽だし持ち運びも便利だという結論になったのが、つい今しがたになる。
「元手かからなくてラッキー♪ってなると思ったんだけれどねー」
「でもシルキちゃん、『ウィル・オ・ウィプスのランタン』っていう安くて便利で長持ちの魔導具が既にあるニャン。アレに打ち勝つのは難しいじゃないかニャン」
「……確かになー」
ウィル・オ・ウィプスのランタンっていうのは、魔術師という職業だったら誰でも作れる人工灯だ。一つで部屋を明るく出来るくらいの強い光を放ち、持っていれば一ヶ月は平気と比較的長持ち。値段も銀貨一枚と銅貨三枚とお安く、事前に頼めば光の色も変えてくれる。
うん、考えれば考えるほど、勝てる要素が見つからない。
「そうね、エンスの言うとおりだわ。何時までも落ち込んでいてもしょうがない」
「お? 元気が出たかニャン?」
「うーん、というか王道の商品に勝負するなんて、無謀にも程があるなって諦めがついたというか、目が覚めたというか」
そもそも「隙間産業」が私の作る品のモットーだしな。今回の失敗は忘れよう。
こうして、ヒカリゴケは商品化されることなく地下室でひっそりと光り続けることになった。
その後、別の使い方を見つけ、無事に活躍してもらうことになるのだけれど……それはまた別の機会に。