ラブカブト!   作:マジカルポンポン

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 皆様初めまして、マジカルポンポンと申します。本来この作品はもっと早く出す予定でしたが色々トラブルが起きてこんなにたってしまいました!誠に申し訳ございません!しかしようやく完成したのでできれば楽しんでいってください!それではどうぞ!

追記:『穂乃果』が『穂乃花』になってた為修正しました。本当に申し訳ございません。


プロローグ:天の道を行く男

 

 

     

 

     そら

 あの日、宇宙の落とし物が私達の全てを奪っていった…。

 

 

 

 渋谷の街は瓦礫の山々となって私達は押し潰された…。

 

 

 

「お父…さん、お母…さん、お兄…ちゃん、私はここだよ…。助…けて…。」

 

「大丈夫だ…、俺が、そばに…!」

 

 

 

 男の子はそういって手を伸ばしたけど、あと一歩届かなかった。もう駄目だ、そう思った時現れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     虹色の翼を纏った銀色の天使が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから7年後…。

 

 夕暮れのとある建物の地下倉庫で若い警備員二人が点検の為に巡回していた。一通り確認してその場を去ろうとすると後ろから物音が聞こえた。振り返ると…、

 

 

 

 

 

 なんとさっきまで綺麗に積み上げられていた段ボールがズタズタに引き裂かれていた。たった一瞬の間に何が?そう思った一人は柱の非常用ベルを鳴らしてもう一人の警備員とその場を一旦離れようとしたとき、何かにぶつかって尻餅をついてしまった。隣にいた警備員が異様に青ざめた表情で指差していたので見上げてみるとそこにいたのは…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつかった彼とまったく同じ服装、同じ体型、同じ髪型の男が彼を見下ろしながら笑っていた。すると男の姿がみるみる変わっていき、最終的に緑色のサナギ状の怪物に変わった。一人は恐怖のあまり、悲鳴を挙げながら逃げ出し、もう一人も逃げようとしたが足がすくんでまともに動けなかった。だが怪物は容赦なく彼の顔を掴みそのまま握り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わりとある道路、ここに一台の白いワゴンが走っている。一見すれば普通のワゴンだが内部はモニターや無線等の機械で溢れた光景の中に金髪のポニーテールの少女と黒いスーツを着た中年の男性が座っていた。すると無線から音がなり少女がとると、

 

「了解しました、私達も急行します。公安エリアC3 に『ワーム』が出現、『ゼクトルーパー』も出動した様です。」

 

「了解した、『加々美』には俺から連絡する。」

 

 連絡を受けた金髪でポニーテールの少女『綾瀬絵里(あやせえり)』(以下,絵里)は左隣にいる中年の男性『田所浩(たどころひろし)』(以下,田所)に報告すると、田所は自分の携帯を取り出して『加々美』と呼ばれる人物にメールを送った。ワゴンはスピードを上げて道路を走っているとその後ろに3台の黒い高起動車が付いてきた。

 

 そして目的地に付くと高起動車から黒蟻の様なマスクを被った全身黒づくめの集団『ゼクトルーパー』が次々に降りてきた。その建物の入口付近には通報したであろう怯えている警備員の男性とその建物のオーナーらしき男性が待機していた。腕に赤いラインの付いた隊長格のゼクトルーパーが社長に話しかける。

 

「通報を駆けつけました。現場はこちらで間違いないでしょうか?」

 

「ええ、私と彼以外の従業員はもう退社済みですので早く化け物を始末しちゃってください。」

 

「了解しました。総員配置に付け!」

 

 敬礼を終えたゼクトルーパーが他のゼクトルーパー達に指示をだす。すると他のゼクトルーパー達は彼らを後にして移動を開始した。彼らが移動した後、警備員が怯えながらオーナーの男性に話しかけた。

 

「オーナー、あれは一体何なんですか?」

 

すると男性はしぶしぶ口を開いた。

 

「…あれは『ZECT』だ。」

 

「…『ZECT 』?」

 

「君が見た怪物を唯一退治できる組織の名称だ。君が来る前にもお世話になった事があるから知っている。だがあの組織の話は口外無用だ。誰にも話してはならんぞ。」

 

「は、はい…。」

 

 オーナーの鋭い剣幕に警備員の男性はただ頷く事しか出来なかった。

 

 

 

 ゼクトルーパー達がそれぞれ配置に付き、先頭のゼクトルーパーが

 

「カメラ、チェック。」

 

 と言うとマスクに付いたカメラの映像がワゴン内のモニターに映し出された。田所の「クリア。」の発言でそれぞれ待機していたゼクトルーパー達は3方向に別れて次々と突入していく。奥へ奥へと進んで行くと先頭のゼクトルーパーが一つの部屋に入ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには頭部が潰れ、見るも無惨な状態で横たわった警備員の変わり果てた姿があった。ゼクトルーパーは警備員の死亡を報告し、その場を後にした。報告を聞いた田所は数秒沈黙した後、レーダーモニターに目を移す。モニターには広い部屋にいるゼクトルーパー達を表す黄色い点とワームを表す緑色の点が表示されている。田所は広い部屋にいるゼクトルーパー達に部屋の周囲を囲みながら攻撃体制に入る様に指示。ゼクトルーパー達が周囲を警戒しながら辺りを確認している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如ゼクトルーパー達の背後から天井が崩れ落ちる音が聞こえ振り替えると緑色のサナギの怪物『ワーム』(以下、サナギ態)が現れ二人のゼクトルーパーの顔を地べたに叩きつけた。二人は状況が飲み込めないまま息絶えた。

 

「落ち着いて攻撃体制に入れ。」

 

「り、了解。撃てぇ!」

 

 田所の指示通りゼクトルーパー達は咄嗟に右手に装備した専用武器『マシンガンブレード』を構えワームに向かって弾丸を発射した。最初こそ怯んだが、あまり効いていないのかそのままゼクトルーパー達に突撃した。

 

 

 

 その頃、リュックを背負って白いオフロードバイクに乗った人物が絵里達のワゴン付近に停まり、ヘルメットを取りバイクを降りた。降りてきたのはショートヘアーな高校生位の男子であった。彼は急いでワゴンの扉を開けて中に乗り込んだ。

 

 

 

「すいません、遅くなりました!」

 

「遅いわよ、『加々美』君。」

 

 

 

 絵里が遅刻の注意をした彼こそ、『加々美宗二(かがみそうじ)』(以下,加々美)である。彼は絵里の言葉に返事する間も無く大慌てで背中のリュックを置いて綾瀬の近くにかかっている防弾チョッキを取り、田所の背後にあるケースを開けて中から通信機とビデオカメラを取り出し現場へ向かった。

 

 だがその頃、現場はまさに混乱状態に陥っていた。正面からワームに向かって発射し続けるがほとんど防がれて鋭い爪で打撃された。別のゼクトルーパー達がブレードを展開して近接攻撃を目論むが見た目通りパワーは敵の方が確実に上。当然ブレードは弾かれて逆にこちらが攻撃を喰らってしまう。ある者はワームに吹き飛ばされ積み上がった段ボールに直撃したり、ある者はワームに叩きつけられてしまう。ようやく目的地にたどり着いた加々美。その悲惨な光景に驚愕しながらも右手に持ったビデオカメラを構え、その光景を撮影する。その光景はワゴン内のモニターに映し出される。混乱状態の中、ようやく駆けつけた別のゼクトルーパー達が表れ、その中の一人の隊長格のゼクトルーパーが

 

「落ち着いて、これ以上近接に付き合う必要はないわ。全員体制を建て直して奴の顔面に集中砲火。」

 

「り、了解!」

 

 喋りからして女性であろうそのゼクトルーパーは混乱状態の戦場を一瞬にして冷静さを取り戻した。言われた通り体制を整えたゼクトルーパー達はワームの顔面に集中砲火を開始した。

 

「やはり凄いな『彼女』は。流石お前が見込んだ事はあるな絵里。」

 

「当然です。私の親友ですからね。『希』は。」

 

 『希』と呼ばれる人物を中心にゼクトルーパー達が集中砲火を続ける。一度困惑していた加々美や周囲の人間はこれなら勝てる、誰もがそう思っていた。だがその希望は無惨に打ち砕かれる事となった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、集中砲火をしていたゼクトルーパー達が背後から次々と中に舞っていった。希や一部のゼクトルーパーは危険を察知したのか咄嗟に回避した為何とか助かったが他のゼクトルーパー達は何が起こったのか分からずに次々と吹き飛んで行く。無事な者もいたが中には打ち所が悪かったのかそのまま倒れたまま動かなくなった者もいた。撮影していた加々美も何が起きているのかわからず驚きを隠せなかった。だがモニター越しに見ていた絵里は"それ"を確認できた。

 

「間違いありません、『クロックアップ』です!」

 

「何!?まさか既に『脱皮』したワームが!?」

 

 まさかと思いレーダーモニターに目を移した田所、そこには先程までなかった2つの赤色の点が映し出されていた。そしてゼクトルーパー達と加々美の目の前に白いボディに黒い模様が入った蜘蛛の様なワーム『アラクネアワーム・ニグティリア(以下ニグティリア)』と黒いボディに黄色い模様が入った蜘蛛の様なワーム『アラクネアワーム・フラバス(以下フラバス)』が現れた。すると最悪なこの状況の中、一人のゼクトルーパーが

 

「…希隊長!あれを!」

 

「こんな忙しい時にな…嘘やろ?」

 

 ゼクトルーパーが指差す方を見ると、サナギ態の色がみるみる赤茶色く変色し体から蒸気を出していた。その様子はワゴン内のモニターに映し出された。

 

「ワームの体温、150、200、250K(ケルビン)!どんどん上がっています!」

 

「まずい、『脱皮』する前に倒せ!」

 

 田所の指示を聞き、ゼクトルーパー達はサナギ態のワームに集中砲火を開始したがフラバスとニグティリアはそれを許さず、腕から白く太い蜘蛛の糸を出して鞭の様に振り回しゼクトルーパー達を次々蹴散らしていくので攻撃が通らない。だがその間にもワームの体はどんどん熱くなっていく。

 

「360、370、380K!脱皮します!」

 

 絵里がそう告げるとワームの体がひび割れてサナギの様な姿から青い体に赤い模様が入った蜘蛛の様なワーム『アラクネアワーム・ルボア(以下ルボア)』に変わった。これがワームの恐るべき能力の一つ『脱皮』。ワームは一定の温度に達すると『サナギ態』から地球の虫の外観をした『成虫態』に変わるという特性を持っており、ニグティリアやフラバスも成虫態と分類されている。ゼクトルーパー達は体制を建て直し、マシンガンブレードを構え攻撃を開始するその直前、

 

 

 

突如ワーム達の姿が消えた。

 

「き、消えた…?」

 

 加々美がワーム達が消えた事に驚いていると先程と同じように突如ゼクトルーパー達が次々と吹っ飛んでいく光景を目にした。これこそ成虫態のワームにだけ使える恐るべき能力『クロックアップ』。これを使うことでワームの周辺の時間を遅くする事が出来る。だがその他の者達からみれば超高速で移動している様に見える訳だ。

 

「田所さん…!」

 

「…やむを得ない、撤退しろ…!」

 

「…っ!了解…!」

 

 田所に撤去命令を下された希達は懐から小型のバズーカを取り出しワームに向けて放った。放たれた弾から白い煙が吹き出し、ゼクトルーパー達は次々と撤退していく。加々美は何が起こったのか解らず固まっていたがゼクトルーパー撤退を命じられ多少混乱しながらも撤退した。それを見ていたワーム達も興が冷めたのかクロックアップを使ってその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 ゼクトルーパー達が車のある場所にたどり着いた時にはすでに夜であった。彼らはたどり着いた途端地べたに膝を付く。当然だ、いくら装備が丈夫とはいえワームに攻撃されて無傷で済むはずがない。戻ってきたほとんどが軽傷者や重傷者である。夜空を映して黒く染まった海を眺める田所に大きな紫色のツインテールをした少女が近づいて敬礼をした。彼女こそ先程活躍した『東條希(とうじょうのぞみ)』(以下,希)である。

 

「報告します!今回の戦闘の結果、軽傷者38名、重傷者23名、…死亡者29名。」

 

「…そうか。」

 

 田所は彼らに背を向け暗く静かな海を眺めながら言葉を押し殺す様に返事をした。表情こそ見えないがその背中には悲しみが写し出されている様に見えた…。

 

 

 

 

 翌日の朝、加々美は暗い表情を浮かべながら緩やかな坂道を歩いていた。昨日の出来事もあり、自分の無力さと情けなさで涙すら流れなかった。

 すると、突然背後から軽く背中を押される感覚あったので振り替えって見ると、そこには黒淵のメガネを掛けて薄い黄緑色の髪の少年が左手を前に出しながら笑っていた。

 

「何ボーっとしてんだよ?そんなこの世の終わりみたいな顔しやがってよぉ。」

 

 彼の名は大空一矢(おおぞらかずや)。加々美の幼なじみであり、親友の一人である。

 

「別に、何ともねーよ。」

 

「何ともなかったらそんな顔になんねーだろーが。なんだ?バイトクビになったのか?」

 

「んなわけねーだろ。」

 

「それとも、『穂乃果』にコクってフラれたとか?」

 

「/////!?ちちちがががこたゆ*:(⇒⇔∋↓∋●☆★★*%*◆△△◆→□△ーーー!!??」

 

「違うのは分かったからとりあえず落ち着け、ちゃんと日本語をしゃべれ。何言ってんのか全然分からん。」

 

加々美は顔を赤らめながらも弁明をしようとしたが、照れているのか解読不明な言語を口にし始めた。一矢もドン引きの表情だ。すると後ろの方から

 

「おーい、どうかしたのー?」

 

 と、声がするので振り返ると、オレンジのサイドポニーの少女『高坂穂乃果(以下、穂乃果)』とその左隣には同じくサイドポニーではあるがグレージュのセミロングの少女『南ことり(以下、ことり)』と、右隣には濃い青色のロングヘアーの少女『園田海未(以下、海未)』が不思議そうに見ていた。

 

「おー、穂乃果ー!ちょうどいいとkモガゴガ」

 

 一矢が何かを言おうとした時、顔を赤らめた加々美が一矢の口をふさいだ。

 

「(何すんだよオメー!)」

 

「(うるせーわ!お前こそ余計な事言おうとすんな!////)」

 

「(お前まだ告ってないのかよ!いい加減告れよ!)」

 

「(うるせーうるせー!!俺の事はいいんだよ!////)」

 

 男二人が何かを話している様だが距離があるのか、穂乃果達には全く聞こえていない様だ。するとしびれを切らした穂乃果が大きく息を吸ったと思うと

 

「ねえーーーーー!!!何をいつまで話してんのーーーーー!!??」

 

 その風貌に似合わない大きな声にはそばにいたことりや海未はおろか、男子二人すら驚愕の表情を露にした。あまりの大声に驚きながらも一矢は言葉を発した。

 

「ああ、すまねえ。こいつが○ンピースの最新巻買ったから読ませてくれっていう話しをしててな。」

 

「(いや、さすがにその嘘は無理があるだろ…。確かに買ったけど…。)」

 

 さすがに無理があると思った加々美は訂正させようとしたが意外にも穂乃果の反応は

 

「え?買ったの!?読ませて読ませてー!!」

 

わりとあっさり受け入れた。

 

「(あっさり受け入れた~~~!!??)」

 

「単純な所があるとは思っていたがここまでとはな…。」

 

「ほのかちゃん…。」

 

「単純すぎです…。」

 

 加々美は心の中でツッコミをし、一矢は穂乃果の単純さにどこか不安を覚え、ことりは苦笑い、海未はため息をついて頭を抱えて彼らの元に向かった。

 すると突然、加々美の左隣から強く押される感触があったと同時に加々美は前に倒れた。加々美が倒れた先を見ると黒いニット帽にサングラスとマスクを付け、黒いジャンパーとズボンの全身黒一色のいかにも怪しい男がものすごい勢いで走っていった。穂乃果達は驚愕しつつも加々美に手を差し伸べたり倒れた体を立て直したりした。

 

「宗二君大丈夫!?」

 

「な、なんとか…。てか危ねーだろ!気を付けろ…ん?」

 

 加々美が男に向かって怒鳴っている時、ふと斜め右上を見ると一矢が絵に書いたような「?」という顔つきをしていた。疑問に思ったので聞いてみると、

 

「どうしたんだ一矢?」

 

すると一矢は男の方を指差してこう言った。

 

「いやなあ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加々美、あれお前の財布じゃね?」

 

『え?』

 

 突然の発言に驚いたものの、すぐに我に返りポケットやカバンの中を探したが見つからない。まさかと思い男の手の方を見ると、黒い財布が男の手にあった。

 

「俺の財布!!待てコノヤローーー!!!」

 

「いやお前も待てって!」

 

 怒りの形相を露にした加々美は一矢の忠告が聞こえてないのか真っ直ぐ男を走って追いかけた。

 

「あのバカ!しゃーねーな、海未!警察に連絡してくれ!穂乃果とことりは警察来るまで海未と一緒にいろ!俺は加々美のバカを追うから!」

 

「わ、わかりました!」

 

「気を付けてね!」

 

「アイツ後で飯奢ってもらうからな!」ダッ

 

 そういうと一矢は大急ぎで加々美の元へ走って行った。

 

 その頃加々美は、未だにひったくりの男を追いか続けていた。だがひったくりの男の方は走り疲れたのかだんだんとペースが落ち始めてきた。これなら追い付ける、そう思った加々美だったが、ひったくりの男は突然立ち止まり懐からナイフを取り出して加々美に向けてでたらめに振り回し始めた。さすがの加々美もこれには立ち止まる。

 

「おいバカやめろ!」

 

「う、うるせー!さ、さっさとどっか行け~!」

 

 ひったくりの男は目を血走らせてナイフを振り回し続けている。このままでは自分はおろか、他の通行人が来たときに危害が及ぶ可能性がある。どうすればいいんだ、そう思ったその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラン、コロン、カラン、コロン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後ろから何かが近づいて来る音が聞こえたので男が何だと思って振り返ると、灰色の作務衣(さむえ)を着て下駄を履いて左手に豆腐が入ったボウルを持った黒髪の

男がこちらに向かっていた。

 

「おいアンタ、危ないから逃げろ!!」

 

 加々美が忠告するが男は全く聞く耳を持たないのか忠告に反して真っ直ぐ進んだ。ひったくりの男は彼を人質にしようとナイフを持った手とは反対の手を伸ばしたが、彼は伸ばした腕を掴み、そのまま引いて腹部に膝蹴りをかました。ひったくりの男はダメージを喰らったのかナイフを落として悶絶してしまった。その光景に加々美は茫然としていたが、すぐに我に返って持ってたハンカチにナイフくるんで手に持ち、ひったくりの男から財布を取り返した後、彼に詰め寄った。

 

「おいお前、運良く助かったけど下手すりゃお前死んでたかもしれないんだぞ!何で逃げなかった!?」

 

 すると男は口を開いた。

 

「俺は誰からの指図も受けない。」

 

「は?」

 

「俺の道は俺が決める。それに下手にかわせばせっかく買った豆腐が崩れてしまうからな。」

 

 あまりの自分勝手さに加々美は、また茫然としていたが男は構わず言い続けた。

 

「そしてもう一つ、『運良く』なんて言う言葉は俺にはない。あんななまくらじゃあ俺は斬れない。」

 

 その時悶絶していたひったくりの男はよろめきながらも立ち上がってその場から全力で逃げ出した。加々美も捕まえようとひったくりの男を追いかけようとすると、男は右手を伸ばしてそれを止めた。

 

「邪魔するな!俺は」

 

「いいから見てろ。」

 

 そういうと男は右足を蹴る様に前に出した。その要領で履いていた下駄が飛んで行き、ひったくりの男の後頭部に直撃した。ひったくりの男は気絶したのかそのまま地面に伏せた。そして下駄はクルクルと回転しながら男の方に戻って行き、そのまま右足にスポッと入った。その光景を見た加々美も思わず、

 

「リ、リモ○ン、下駄…。」

 

と思わず口にした。すると近くから「おーい!」という声が聞こえるので先の角の方から一矢が急ぎの表情で走って来た。

 

「無事か!?加々mって何でこいつ倒れてんの!?てか隣のそいつ誰!?」

 

 何が何だか分からず驚愕の表情を露にした一矢を素通りしようとしたが、加々美が声を荒らげて男に怒鳴った。

 

「おい待てよ!一体何なんだよお前は!?」

 

 すると男は立ち止まったかと思うと指を太陽に向けて加々美達の方を向いてこう答えた。

 

「お婆ちゃんは言っていた。『俺は天の道を行き、高みへ進む男。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天道高進(てんどうこうじ)』。」

 

 

 

「天道…、」

 

「高進…。」

 

 そういうと彼は天道高進(以下、高進)は再び彼らに背を向けてどこかへと去って行った。それと同時に二人の警官を連れた海未達も合流した。

 

「ああ、いたよ!穂乃果ちゃん、海未ちゃん!」

 

「お巡りさん、あの男です!間違いありません!」

 

 ひったくりの男が警官二人に連行される中、未だに加々美と一矢は棒立ちしていた。そこに穂乃果が近づいて声をかけた。

 

「加々美君、一矢君、大丈夫!?怪我とかない!?」

 

「っ!ああ、俺は大丈夫だ。加々美お前は?」

 

「俺も大丈夫だ。怪我はない。」

 

 それを聞いた穂乃果は安堵の表情を浮かべた。すると後ろからことりが

 

「みんなー!お巡りさん達が事件の事詳しく聞きたいから来てほしいってー!」

 

 と言って来たのでそれに対して一矢が「分かったー!すぐ行くから待ってろー!」と言ってその場を後にする事にした。だが加々美は高進という男に対してこう思った。

 

「(天道、高進…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼び方無理ありすぎじゃね?)」

 

 それは私も思った。

 

 だが、この天道高進と加々美宗二、そして高坂穂乃果。この三人が後に伝説を残す事になるのだが、それはまた誰も知らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

「俺は選ばれた男だからな。」


「これが…?」


「『これ』こそが私達がワームに対抗できる手段よ。」


「俺にやらせてください!」


「助けて…!」


「選ばれし者は…俺だ!」


次回『その名はカブト』

天の道を行き、高みへ進め!

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