ソレ、との初めての出会いはフィールドだった。みんながみんな、ああ、またか。と言った風にストレージにアイテムをしまいこみログアウトする。襲撃者の残念がる顔を想像しながら、翌日の夕方にみんなでまたログインしたとき、異変に気付いた。
「死んでない?」
昨日ログアウトした位置から一歩も動かず、体力さえ減っていない。今までの襲撃には無いものだった。
最初はみんな、ああ、やる気が削がれたのかな運が良かったんだな、と思っていたのだが、その襲撃? が10回を越えた辺りでイライラしだし、20回を越えたところで遂にキレた。特にシャーリー。
これが毎回殺されていたならもっと早く堪忍袋の緒が切れていただろう、粘着で通報するなりなんなりだったが戦うこともなくログアウトしていたので、それもしにくかった。
「……実質熊だな」
「……ええ、熊よ」
いつ襲いかかるかわからない熊。それがKKHCの襲撃者? に対する共通認識となった。
「「「「「「狩らなきゃ…………」」」」」」
ならばどうするか、KKHCは悩んだ。
今までモブ狩りしかしてきたことがなく、対人戦の経験がない。まずは攻略サイトなどで対人戦のコツ、バレットラインの避けかたを調べるうちに自分達の練習のため行っていたシステムアシスト無し撃ちが、非常に有効であると理解した。さらに仲間内で模擬戦をし、連携を高めていく。
狩りの練習とは違うが、やはりゲーム、遊びは楽しいものだ。特にシャーリーはセンスが良く、立ち回りの研究などを買って出て、ぐんぐんと実力を伸ばしていく。スコードロン一丸となって狩りの準備を整え、決戦の日を日曜日夜22時と定めた。
熊はこの時間帯によく襲って? くる。それを万全の構えで迎え撃つ作戦である。
いつも通り、いつも通りと意識しつつ、狩りの帰りを装って熊が罠にかかるのを待つ。
「来た……」
誰かがポツリ、と呟いた。
距離にして2000m、平坦な地形だからこそ発見できた、いや発見できるようKKHCが誘い込んだのだ。先の小高くなった丘の上に急いで上ると双眼鏡を取り出し姿を確認する。
金髪に黒い防弾服を着た男性アバターだった。AGI型と思われるすごい勢いで走っていた。背には何か背負っている。
シャーリーがまず伏せて射撃体勢をとった。その脇でスポッターを覗くのはリーダーである。彼はこの日のためにスポッターとしての練習もしてきた。機材も目標距離を表示してくれる優れものだ。
シャーリーの構える銃も普段と違う。
この日のために愛銃をリアルでは必要ない長距離射撃用の.338ラプア・マグナム弾バージョンに改造し射撃練習をしてきたのだ。
すべてはあの迷惑熊を駆除するためである。
「私が1200から攻撃を始めるから、みんなは800から射撃開始」
「了解!」
指示をしながらもシャーリーは楽観視していた。あれだけ練習したんだ、800にいたる前、初撃で決着がつくと。そうしたらゲーム内でもリアルでもいい、飲み会がしたいなどとシャーリーは思った。
「1200までもうすぐ………………いまっ!」
リーダーの声と共に引き金を引いた。
空気を引き裂く炸裂音を置き去りに凶悪な速度で発射された弾が獲物の腹を抉る姿を、シャーリーは見ることができなかった。
「え?」
「は?」
シャーリーとリーダーはすっとんきょうな声を出した。
絶対に命中すると思っていた、予測線すらない必殺の一撃。それを避けられた。
何かの間違いと、偶然と不安を拭うようにすぐさまリロードし、二射目を放つも同じように避けられる。
「ちょ、ちょっと……」
「おいおいおい」
背筋が凍るとはこの事だった。発砲と同時に避けるとは距離があるとはいえどういう神経をしているんだと。
「もう800だ! みんな撃ち始めろ!」
リーダーの号令でKKHCが射撃を開始する。それを獲物はなんだその動きと言わんばかりの変則機動で回避していく。
「なんだあれ!? なんだあれ!? ……な、なんだよあれ!?」
熊が背中に背負っていた物を構えた。それは狙撃銃であった。しかしでかい。シャーリーの銃も長距離狙撃用の改造で大型化しているが遥かにでかい。なに撃つ気だと思ったKKHCの面々だったが、どう考えても自分達だと必死で射撃する。
緊張で照準がぶれる、撃った場所にもう熊はいない。なぜ当たらないのかが意味がわからない。
100mを切ったところで遂に熊が牙を剥いた。止まることなく放たれた、シャーリーの物より強力な発砲音と共にリーダーがまっぷたつになり光に霧散する。
「みんな動いて! 止まったらダメ!」
シャーリーの指示でとっさに動いた仲間の一人の腕を熊の射撃がかすり弾き飛ばす。
熊が撃ったあとの移動経路の先にシャーリーがいた。至近距離であの長い銃は撃てまいと剣鉈を抜き切りかかる。
「止まったら私ごと撃って!!」
緊張する、恐ろしい、でも、楽しい。そんな感覚がKKHCに芽生えていた。
シャーリーが剣鉈を振りかぶり突撃する。当たれば御の字、当たらなくとも、少なくとも足止めをできれば確実に仲間がやってくれる。
その期待は剣鉈が半ばから切り飛ばされることで吹き飛んだ。断面は赤熱化し、煙を出している。
その先には例の熊。銃の先端からビーム熊であった。
「次は倒す……!」
決意新たに笑みを浮かべるシャーリーもリーダーと同じ真っ二つになることとなった。
その後グロッケンでリスポンしていつもの集合場所で反省会をしようと待っていると、ランダムドロップを全部抱えて最後の一人が帰ってきた。
また買い直すのは面倒だからありがたい、どうやって逃げ切ったんだと、言おうとして全員がフリーズした。
「ドーモ、皆さん。凸侍です。とりあえずこのグループチャット入りません?」
「アイエッ」
KKHC全員が“全GGO凸砂の会”に入ることとなった。選択権は正直なかった。
ちなみに狩猟シーズンの成果がみんなかなり良くなっていた。全員が口々にアレよりマシと死んだ目で呟いたことを見なかったことにすれば良いことなのだろう。
たくさんのご感想評価誠にありがとうございます。ライデーンに対する反応も多く彼も本望でしょう(目そらし