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これはゲームであって遊びである。
遊びだからこそ人は熱くなり、持てる力を尽くす。それが楽しいからだ。
何で凸砂をやるかなんて、楽しかったからだ。煽り魔に煽られたり変態機動に蜂の巣にされることもあったが、逆にそいつらをぶち抜いた時の楽しさといったら無かった。これこそPvPの醍醐味だろう。
持てる力と技術を使った、誰も死なない全身全霊の殺し合い。死ぬ覚悟は必要ない。それこそゲームであって遊びの特権だ、ただ負けて死んでドロップ品をバザーに売り払われ、泣きそうになりながら愛銃を探し回る羽目になる覚悟は要る。
高度な情報戦に踊らされるのだってある種の祭りであるし、踊らせながら裏でほくそ笑むなんてことができればとても楽しいだろう。なんといってもゲームだ。人が死ぬことは無い。だれもがそう思っていた。
もう秋を過ぎ、現実世界は冬へ一歩一歩を踏み出している。しかし仮想現実世界は逆に熱を帯びていた。特にVRMMORPG、もしくはFPSであるガンゲイル・オンラインの主要都市、グロッケンは荒廃した風景と世界観とは裏腹に酒場には多くの人が集まり、生放送の中継を雑談を交えながら今か今かと待っていた。
なんと先日のGGO内イベント、バレットオブバレッツの上位陣が再現アバターで生出演するというのである。
放送時間になると、空中や柱などに設置された画面が切り替わり、MMOストリームのオープニングが流れだす。待ってましたと言わんばかりに荒くれ者どものアバターの皆様が集まってくる。
「はーいみなさんこんばんは! 本日のMMOストリーム、勝ち組さんいらっしゃいのコーナーは、GGO特集! そして本日のゲストは、先日行われた第二回BoB一位から三位までのこちらの方々!」
司会の女性アバターの横に置かれた三つの椅子一つ、最も司会に遠い位置にポリゴンが集結し青いロングヘアにサングラス、白い防弾服を着たイケメンアバターが現れる。
「正確無比な射撃の貴公子! ゼクシードさん!」
「こんばんは、本日はどうぞよろしくお願いします」
ニヒルに笑みを浮かべ、ゼクシードが恭しくカメラ側に礼をする。背景に流れるコメントが一気に増え始めた。
「狙撃銃持ったヤベー奴! 凸侍さん!」
「おいちょっと待ってなにその二つ名聞いてないんだけど」
自分の二つ名に困惑を示す凸侍を無視して司会は席から立ち上がる。
「そして! 本日のメインゲスト! 第二回BoB優勝者、ランガンの鬼!! 闇風さんです!」
「……よろしくお願いします」
司会の隣、画面中央に堂々と現れたのは、赤い鶏冠のような髪をした闇風だ。上位三人がそろい踏みとなると、背景コメントが爆発し濁流のように流れていく。中でも多いコメントは信号機であった。なるほど、左からゼクシード、凸侍、闇風で丁度髪の毛の色が青黄赤でまさしく信号機だった。司会の女の子は補助信号か何かか。
それぞれが椅子に着席していく。ゼクシードは足を組み、凸侍は椅子の上で胡坐。闇風は股開きすぎである。全員行儀が悪い。
「それではゼクシードさんから、今のMMOストリームを見ているGGOの皆様に何か一言を!」
一位のコメントは最後に取っておくものなのでまずは三位のゼクシードからである。といってもこの三人の中で一番口が上手いのはゼクシードだ。闇風は寡黙で、凸侍は凸砂馬鹿である。
「まず、GGOの一部の廃人の方々に、ご愁傷様とだけ」
ひどく嫌らしい、嘲るような口ぶりと仕草でゼクシードは口を開いた。
「その心は?」
「情報に踊らされて8ヶ月の間AGIばかり上げていた方々への弔辞ですよ」
それに凸侍と闇風がピクリと眉を顰めた。二人ともAGIは上げているステ振りである。
「AGI万能論なんてありもしない幻想を追い求めて崖から転落した憐れな方々へのね」
「えっ万能では?」
「……いや万能だろ」
「ええい話の腰を折ろうとするなそこの二人! コホン、AGIは確かに重要なステータスです、速射と回避が突出していれば強者たりえた! しかしそれは過去の話です! これからの強い武器はどんどんと要求STRは上がっていくんですよ! AGI型はもはや強者たりえない!」
「……でもねえ、ゼクシードさん……三位じゃないですか」
演説に熱を出し始めたゼクシードに現実の秋風よりなお寒い闇風の一言が吹きすさんだ。南極に放り込まれたカップメンが如くゼクシードが固まった。そしてそれを中継でも、GGO内酒場でも見ていた全員が思った。おっそうだな、と。
「つまりAGI、STR偏重型の凸砂が最強と言うことだな!」
凸侍がドヤ顔をするが、それ以外の全員が末期患者に余命宣告する医者の如く力なく首を振った。
「……いや無い」
「君は黙っていてくれないかな」
凸侍が怒って立ち上がった。闇風もゼクシードも自前の戦闘服を着てきているのに凸侍だけなぜかショップで安く売っている重量ほぼゼロの皮のスーツだ。ただこれ、BoB本戦中の外見をちゃんと反映しているのである。
「ゼクシードお前第一回前に人のボルトアクションの銃をAGI型には当たらないクソ武器呼ばわりした恨み忘れてないからな青タコォ!」
「うるさい! だいたいなんだあの銃は!! あれはああ使う武器じゃないでしょうが! 凸侍さんこそ全国の銃マニアに謝った方がいいんじゃないですかねえ!! というか普段の防弾装備すら着れない重量的な惨事になってるのバランス考えなさいよって話ですよ!! このアホ侍がぁ!」
「オンオンオン!? そのアホに真っ二つにされた癖に何言ってるんですかねえ!!」
「……と、二位と三位が醜い争いをしているが、やはりプレイヤースキルだな。二度三度やって同じ結果になるとは限らない」
「いやぁ、AGI型の闇風さんが否定したくなるのはわかりますけどぉ現実として来てるんですよ! AGI万能論の終焉がね!!」
「でもお前三位じゃん」
ドヤ顔で凸侍が指を三本立てわざとらしく口からプフっと息を出した。小学生以下の煽りであるが、自分より順位が上の奴に言われてこれほど腹が立つ物もなかった。
「凸侍ッ―――!!」
「なんだこらやるのかゼクシードッ――!!」
「いやーいま最もハードなMMOだけあって、上位の方々もなかなかハードな方々ですね!」
席を立ちあがって殴り合いを始めたゼクシードと凸侍だが、外見だけでステータスは反映されてないので動きは鈍い。そんななか平気で座っている闇風は王者の風格と言った感じである。司会さんはフォローを入れつつも遠い目をしている。完全に放送事故だが視聴数は鰻登りなのでなんか注意しにくい。コメントも滝のごとく流れ続けていた。
「はっなっせ!! と、とにかくですね!! 次のBoBでは僕が優勝ですよ! なんたって僕の持論はまちがっがっ………がっ!!?」
「おっ、どうした?」
凸侍のデンプシーロールをガゼンパンチで弾き飛ばして追撃に蹴りを入れ、引き離して演説を再開しようとしたゼクシードが突如表情を歪めた。口が酸欠の鯉のようにパクパクと開き、両手が何かを求めるように胴に押し当て、倒れながら回線が切断される。
「あら、どうやら回線が切断されてしまったみたいですね、ちょっとハッスルしすぎちゃったんでしょうか?」
「トイレか?」
「凸侍さん番組中なのであまりそういう発言は」
「すいませんでした」
ケンカする相手が居なくなったのですごすごと席に戻って胡坐をかく凸侍であった。ゼクシードが消えたものの、その後凸侍のコメントと闇風のコメントを貰い、最後に記念撮影をして番組はお開きとなった。
しかしそれを最後にゼクシードは二度とGGOにログインしてくることはなかった。事の真相を凸侍と闇風が知るのは第三回BoBのあと、死銃事件が明るみになってからだった。
『信号機』『凸侍はAI社に謝るべき』『×AGI万能論○闇風最強伝説』『あたらなければどうということは無い!』『でもお前三位ジャン』『武士の一分ぶっこみ』『ゼクシード論に賛成』