投稿間隔がかなり空いてしまいすいません。
「どうですか? 治療には有効な手段だと思いますが」
「ああ、アリだとは思う。リアリティは十分、死ぬ瞬間って言うのをこれ以上ないくらい再現はしていた。ただ……」
「ええ、わかりますとも」
「NPCの設定をどうにかしてくれ、特にあの美少女剣士の場違い感が凄まじいぞ。というか弾丸に反応して全部弾くとか超高速で走り回る奴とか狙撃銃に銃剣くっつけて突撃してくる無茶なNPCはなんかもう世界観崩壊ってレベルじゃなかったぞ」
死んだ目で男は文句を言った。夢のような無茶な設定を予定しているのは知っているが、敵NPCの挙動まで非現実的で無茶な設定にしては駄目だろうと至極真っ当なことを思っていた。
「そこは夏までにはなんとかしてもらいます」
そのことに関しては重々承知しているのかその言葉には酷く重みが込められている。
「頼んだ」
縋るようにも信頼しているようにも聞こえる声で、一言を口にする。
二人の男はそれぞれ別の理由で目が死んでいるのであった。
「……なんだこの招待メール」
第三回BoBを終え、この間は第二回スクワッドジャムでレンが惜しくも二位に終わった残念でしたパーティー(硝煙の香り)を砂漠で開催したりした後。
大学が午後から授業の為、長期の課題をVR空間でやっていた所GGO運営から新着でメールがやってきた。
『日頃よりガンゲイルオンラインをプレイ頂き誠にありがとうございます。ザスカー日本支部運営事務局の薬師寺でございます。一部のプレイヤーの方に向けてメッセージを送信しております。今月4月26日に当社で開発された新型AIを搭載したNPCの戦闘能力を計測するテストプレイの参加者を募集しております。ご予定が合うようでしたら是非ご参加ください。資料は参加の場合のみ送付させていただきます』
といった内容である。
たしか今月の26は日曜日だったか、暇なことを脳内で適当に確認した凸侍はメッセージに了承を返した。するとすぐさま資料が送付されてきた。承認されると自動送付されるようになっていたのだろう。
凸侍、課題を放棄しテストプレイの資料を読み漁る。
「うーんと何々……ラッシュ系のゲームモードか。うん? 凶悪テロ組織に制圧された研究所に秘匿された地球破滅爆弾を奪取するねえ」
ラッシュは目標物を使ったFPSのゲームモードだ。攻撃側と防御側に分かれて目標物を破壊するなり防衛するなりで殺しあう。
散らばった課題資料を表示したウィンドウを避けるように地面に寝っころがりながらタップでメールを下にスライドさせていく。変な姿勢をしていても痺れないし疲れないのはVRの特権である。
「三回死んだらアウトなのか。まあサバイバル式だとテストプレイには不適格っぽいもんな」
一回死んだらアウトではテストとしては不十分なので納得がいくものだった。
「うお、景品豪華だな。参加だけで指定口径弾五十マガジンか」
この場合の凸侍がもらえるのは通常タイプのAW50の五発マガジンなので二百五十発である。かなり羽振りがいい。
さらにNPCに勝利すればアサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフル、拳銃、ショットガン、光学銃のカタログの中から一品をプレゼントと書いてあった。
さらに勝利後に特定の人物には追加で景品が出るらしい。恐らくMVPのことだろうと凸侍は納得しつつ、納得できない震えた声でつぶやいた。
「なぜ対物銃が無い?」
レア度が非常に高いからである。カタログにも最高レア度の銃はほぼ入っていない。対物ライフルは全部が全部最高レアであった。
少し落ち込みつつ参加者一覧をタッチすると別ウィンドウが立ち上がる。ユーザーインターフェースはGGOのものだった。
「ワーオ、一部の方って第三回BoB参加者に送ってるのか」
参加者一覧と出ているが、既に獅子王、闇風、銃士X、デヴィッド、ペイルライダー、ダイン、ブルーノ、夏侯惇の名前が表示されている。どれも第三回BoBに参加した敵達である。並びは単純に参加表明順か。
ショットガン使いのペイルライダーなんかは都市部での三次元戦闘でかなりの強敵だった。味方になれば接近戦ではかなりの戦力だろう。
銃士Xの中遠距離狙撃と隠密性の高さや獅子王の火力に闇風の機動性、意外とバランスがいいチームになるのではないだろうか。
「めっちゃ楽しそうだし憂いを無くすためにも課題は今日中に終わらせるんじゃあ‼︎」
とても楽しみになってきたので頰をVRの中でとはいえ叩くと気合を入れ直した。
メール画面を閉じて画面とキーボードを出し課題作業を再開する。資料なんかもスキャンしておいた奴や電子化された奴を好き放題に空間において置けるのでVRは本当に様々であった。
「やっ、やっと終わった」
課題を中断して大学へいき、出席点だけで単位取れる授業を座ったまま寝て過ごし、薙刀部に顔を出して汗を流す。という何時ものローテーションを終え、帰って課題を終わらせた時にはもう深夜になっていた。
「お、メールが新しくきてる」
参加者確定のお知らせというメールで内容もそのままテストプレイに参加するメンバーが決定したというだけの簡単な報告メールだ。
参加者一覧を開くと、十五人が参加表明をしたようだった。
当然であるが、死銃事件の首謀者のステルベン、本戦中に殺されてしまったギャレットは参加しているはずがない。ただ一番下、最後に参加を決定した人物の名を見て、凸侍は思わず目をこすった。
『kirito』
第三回BoBでシノンと百合の塔を建てつつ洞窟で芋してた芋剣である。芋ってるだけのザコと思いきや不意打ちの狙撃を光剣で斬りはらうヤベー奴であり、ほぼ目撃情報もない謎が謎を呼ぶ女性プレイヤーだ。
ちゃっかりその前にシノンがエントリーしているあたり恐らくシノンに説得されて参加することにしたのだろう。
「これは楽しくなりそうだな」
どう猛な笑みを浮かべたまま、凸侍はアミュスフィアを外して布団に入って寝るのだった。課題で疲れたのである。
オーディナルスケールとダダかぶりしてしまったので一応イフをつけてます。