常識の壁
SJ参加チーム
誤字報告ありがとうございます!
予定時刻に、GGOにログインしていれば自動的に転送されるとのことで、凸侍は酒場で茶をしばいていた。数日以上が過ぎ、課題を終わらせた故に何の憂いもなくプレイすることができるというものだった。
時間はもうすぐだというのに不思議と凸侍はまったりとしていた。
最強を決めるBoBの時ほどの闘志はなく、失敗すれば人が死ぬと知っていたSJの時ほどの緊張感はない。ただ、最強を競った敵たちと共闘できるワクワクが溢れて笑みが止まらない。側から見ると酒場でずっと一人ニヤニヤしている不審者だが、凸砂の変態で有名なので気にする奴はいない。
刻限が来て、転送が開始される。視界が白くなり気がつくと、廃墟の広場の前に立っていた。
「んーーー? 待機ルーム無しかい!」
「えっ待機無し!?」
「襲うなよー! 味方だ!」
ガヤガヤしつつ周囲で装着音が鳴りまくる。全員待機ルームがあると思っていたのか装備を全くしていなかったようであった。
凸侍もウィンドウを出してタッチすると装備されたいつもの防弾プレート付きの服にAW50を握りしめて周囲を見回す。
十五人全員がこの廃墟に転送されてきたようだ。
知り合い同士で固まったり一人で突っ立っていたりと好き放題している。凸侍はとりあえず闇風のところに行くことにした。
「よう闇風、一位なんだから音頭取れよ。っと皆の者、静まれぇ!静まれぇ!」
凸侍の奇声に全員の注目が集まる。シノンは頭痛そうな顔をしていた。
「このトサカヘアが目に入らぬか! 畏れ多くも先のBoB優勝者、水戸闇風公にあらせられるぞ‼︎」
「水戸はどこからきたんだどこから」
「おおー闇風!」
「なにやってんだ三位」
「オン⁉︎ 誰だ三位って言った奴は⁉︎ 素直に手を挙げたら一発だけで許してやる‼︎」
ギャーギャー言っている凸侍の金髪にチョップを入れると近場にあった瓦礫の上に闇風は立った。
BoB本戦参加者達どころか日本サーバーにおいて知らぬ人はいない知名度を誇る闇風が口を開くのを皆が待ち望んでいた。
凸侍がふざけたお陰で変な硬さも抜けておりほんの少しだけ闇風は感謝した。
「……今日、本戦を争った敵達と肩を並べて戦えること、嬉しく思う」
闇風のサングラス奥の鋭い眼光が全員を一瞥する。
「俺達は今、最強の連合チームだ。……勝つぞ‼︎」
長い言葉は要らない。これはゲームだ。ならば勝つのみである。
闇風がキャレコを掲げると、指笛を吹いたり拍手をしたり歓声をあげたりで若干お祭騒ぎである。さすが本戦参加者、こういうのは大好きなのだ。黄色い歓声を一生懸命上げる女性プレイヤーを冷めた目で見るシノンも楽しそうではあった。
「というわけで、まず作戦を決めよう、みんな、いい案はあるか?」
下に降りてきた闇風が問うと、数名が悩んだ顔をして唸いだす。どれも集団戦ができるタイプの人達である。この人外魔境における常識人枠とも呼ぶ。この面子で連携をと考えて胃が痛くなっているのである。
涼しい顔やいつも通りの顔をしている奴らはワンマンアーミー単独プレー上等の奴らである。リーダー役となった闇風もここに入るので手に終えない。
「ともかく、敵の構成を知るためにも偵察が必要だ。全員マップの確認もしておこう」
スェーデン軍の迷彩を着ているのに周りがド派手な格好のやつばかりで逆に目立っているデヴィッドが端末を取り出しながら意見を出す。スコードロンを運営しているだけあり連携を含めた立ち回りの経験は本戦出場者の中でも上位だろう。
各々がそれに従いマップを確認する。残念ながらサテライトスキャンは無いが、味方の位置はいつでも確認できる仕様だ。
「中央のこの建物が地球破壊爆弾が置いてある研究所だろう」
「デヴィ太くん地球破滅爆弾だぜ。俺としては北部の丘からの偵察がいいと思うんだが」
ダインがハットの端をクイっとやりながら提案をした。
中央に存在する研究所は上空からの映像を写しているマップからは五角形の塀に二重に囲まれているように見えた。
北部には丘、西から南にかけて飛行場の滑走路に管制塔、東はなにやら爆心地みたいな複数のクレーターが空いている。全員が今いるこのホームはクレーターよりさらに南東の廃墟群の中であった。
丘からの偵察は移動に廃墟群を遮蔽にできるため有効だろう。距離が結構離れていることを除けば。
「それにしよう、誰が行く?」
全員が互いを見渡す。この場合、要求されるのは敏捷性と咄嗟の攻撃力の高さと死んでも特に困らない奴である。
「凸侍、そのスコープ、倍率は?」
ダインが急にいい笑顔でそんなことを聞いてきた。
「なんだ急に。25倍だが?」
「偵察にはもってこいだな?」
「そうだな?」
ダインが闇風の肩を叩くと連動するように闇風が凸侍の肩をたたいた。
「……行って来い」
「まーじで? やったぁ一番槍だぁ」
「おい!? 話聞いてなかったのか偵察だって言っているだろ!?」
デヴィッドがキレた。
「それじゃ、あたし達は南の滑走路側を偵察しに行ってくるわよ」
シノンが肩にヘカートを担いだまま歩み出てきた。脇に例の美少女剣士キリトちゃんがおずおずと着いてきている。
「それなら私も行くわ」
「それだったら私も!」
銀髪の銃士Xと桃髪のクレハが名乗り出てきてデイヴィッドも頷く。
「女性同士なら気安い所もあるんだろう、ただ、四人とは言っても油断するなよ」
「ですってよ、キリトちゃん?」
「ハ、ハイ。気を付けさせてもらいますぅ」
美少女剣士が若干冷や汗を流していたがシノン以外に気付いたものはいなかった。だいたいの奴等はキリトちゃんって声低目なんだなぁと思ったのみだ。アレが銃撃を剣で弾くヤベー奴なのを忘れてしまいそうになる位である。
「えっ俺、一人?」
凸侍の速度について行けるのは闇風だが実質総大将な闇風が偵察に行ってはダメだろうという配慮である。凸侍への配慮は存在しない。
「三人とも?せーの」
シノンが銃士X、クレハ、キリトに耳打ちをしてから凸侍の前にやってくる。
「「「「凸砂のカッコイイ偵察がみてみたいな~」」」」
「うっしゃおら任せとけってんだガッテン承知のスケイ!!」
AGI型の速力を持って凸侍は廃墟の先へ消えていく。だれかのチョロイというつぶやきを残して。ちなみに女の子に応援してもらえたからではなく凸砂のかっこいい所が診たいと言われたから奮起しただけである。ダインが血涙を流しそうな勢いで悔しがった。
「というわけでやってきたぞ丘の上。距離はだいたい2000。思ったよりもペンタゴンの塀が高いなあれじゃ塀というか城壁だ。頂点の所にトーチカみたいなのが見える」
『間に遮蔽物は』
「破損した戦車がいっぱいあるな。遮蔽には使えると思うぞ。ただ……200を切ったあたりから撃ちおろされると遮蔽として使えなくなると思う」
丘の上へ研究所側から見えないように登って伏せるとまずはスコープも構えずに見た限りを伝える。無線は15人共用らしく緊急時は大混戦してしまうこと不可避なので緊急時は高度な連携を維持しつつ柔軟な対応をすることになっている。
「ちょいとスコープで覗いてみるぞ」
本来であれば双眼鏡とかを用意しておけばよかったのだが、してないのである。そんなもの見てる暇があったら突撃する男凸侍である。
「えーと、あそこのトーチカの切れ目はッッとおおっほう!!?」
スコープを構えた瞬間、発砲炎がトーチカの奥の薄暗い空間で輝き、とっさに身を転がすと数瞬前まで凸侍が居た場所が大きくえぐれる。
「撃たれた! いったん下がる。トーチカに敵一人! 威力から見てたぶん対物ライフル!」
立ち上がらずそのままバク天して丘の影に隠れある程度まで駆け下りた。対物銃だとある程度の地面では貫通してくる恐れがあるからだ。というか自分が壁抜きとかよくやっているのでそのあたりは本能である。
『南より、こっちは遮蔽に航空機の残骸が複数、接近中に狙撃を受けたわ。対物ではなさそう』
『大丈夫だったか?』
『ええ、女騎士様が全部弾いてくれたわよ』
一つ作戦を思いついた凸侍だ。正直偵察しているのが飽きただけだが、三ライフ制、つまり二回まで死ねるのならやる価値はあるだろうと思った。
「ひとつ、良い作戦を思いついたぞ」
『……なんだ?』
「とりあえず全員一回づつ死ぬつもりで突撃しない?」
『……それもそうか』
画面の向こうで小さく闇風がこういうのは性に合わないと呟いていたが、無線で拾われることは無かった。
『全員、まずは好きに暴れるぞ』
『フゥー!!』
『ヒャッハー!』
『突撃ダァ!』
『とりあえず、可能なら撃っちゃおうかしら』
連携もなにもない突撃作戦が敢行されることになった。
イカれた15人を紹介するぜ!
まずはBoBを二連覇! ランガンの鬼、闇風!
無音の狙撃手! 大胆ビキニだ、銃士X!
立てこもりマシンガンナー! 獅子王リッチー!
対物銃の使い方間違ってんだよ! 凸侍!
動く弾薬庫! アルフォン!
眼帯が活かすぜ! 夏候惇!
ピンクの回避盾! クレハ!
三次元機動の熟達者! ペイルライダー!
死を記憶せよ! デヴィッド!
難攻不落の鉄騎兵! シシガネ!
俺はヘタレじゃねえ! ダイン!
拳銃で本選まで来るヤベー奴、ブルーノ!
ショットガンは俺の魂! クリント!
謎の美少女剣士! キリト!
そして冥界の女神!! シノンだ――――ッ!!