毎度誤字報告を誠にありがとうございます。
『……これより作戦名、フォークボールを開始する。全員、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するように』
『おい誰だこの作戦名考えた奴』
『失敗する未来しか見えないんですけれど!?』
凸侍の提案が採用され、偵察に出た凸侍と女性分隊に労いの言葉をかけ、作戦が始動した。またの名をとりあえず一回死ぬまで暴れ強行偵察作戦である。
『じゃ、俺はこのまま北から襲撃を仕掛けるぜ』
『俺も行こう、獅子王と夏候惇、ペイルライダー、ダインを連れていくから待っていろ。この分隊をアルファとして無線を分けるぞ。全分隊、合図と同時に一斉突撃だ』
『デルタにしようぜ。デルタフォース』
『待ってました! プレジデントマン!』
『おい、無線で遊ぶな夏候惇に凸侍』
凸侍の方に闇風ズが合流した。武器種類だけ見ればアサルトライフル、ヘビーマシンガン、アンチマテリアルライフル、ショットガン、サブマシンガンでとてもバランスが良く見える。なおアンチマテリアルライフルが突進することは無視する。
このチームは獅子王とダインが足が遅い部分がネックなポイントだ。
『俺は東クレーター地帯から攻撃をしてみよう、シシガネ、ブルーノ、クリント、アルフォンで行く。俺たちはベータだ』
こちらはアサルトライフル、サブマシンガン、ハンドガン、ショットガン、マシンガンで、面子も一人がVIT偏重の耐久型なの以外はSTR-VIT型で一番挙動が人間に近い面子である。ブルーノ、クリント、アルフォンが何とも言えない生暖かい笑みを互いに向けあっていた。
足の速さはおおよそ揃っているため、分隊としては一番連携が取りやすチームであろう。
「じゃ、私たちはガンマね」
女性陣が無線の設定を弄る。全体にではなくガンマにだけ通話が飛ぶように変更したのだ。
航空機の残骸の遮蔽で待機していた女性チーム、アンチマテリアルライフル、スナイパーライフル、フォトンソード、サブマシンガンと一番編成がヘンテコではあるが、それを補って余りあるプレイヤースキルの持ち主たちだ。
「とりあえずキリトちゃんと私で安全確保しつつ、二人がついてくる感じで行きましょうか!」
クレハがキリトに庇護欲を爆発させている様だった。美人なアバターなのにおどおどしているのはクレハ的にポイントは高い。
「ええ、そうしましょう」
真実とはいかに残酷か、今から伝えるべきかとはシノンは思ったがこれは本人が言わないのが悪いので真実は言わないことにした。
「よ、よろしくおねがいしますぅ」
そうして高耐久のキリトとクレハによる飛行機の残骸群のカバーからカバーへの移動は問題なく進行し、塀まで三百メートルのところで残骸が全くない平地となったことで停止した。
後部の飛行機の翼の上に伏せて塀の上を警戒し、狙撃態勢を取ったシノンと、それより前でキリトの光剣で機体に穴をあけてもらいそこから侵入した旅客機の窓で、援護射撃の姿勢を取っている銃士Xと配置が完了した。
『……全分隊、突撃開始』
無線から全員に闇風の攻撃開始が下る。基本時間合わせが必要な訳ではないので、今から突撃して良いよと言う程度の簡単な合図である。
「ここから平地だ…ですわね。門の手前に有刺鉄線の柵があるけれど、フォトンソードなら切れる……わよ!」
『了解、ただキリトちゃん、ちょっと待ってね』
キリトとクレハが飛び出そうとするのを銃士Xが制止。
同時にXが発砲。有刺鉄線より少し手前に着弾した瞬間、カンッと甲高い金属音が鳴り筒のような物が跳ねあがった。それは瞬時に炸裂して金属弾をまき散らす。
キリトは唾を飲み込んだ。何も考えず突っ込んでいたらあっという間に死んでいただろう。
『トーチカ、屋上に変化なし』
『さっさと処理しちゃいましょうか』
規則正しいタイミングで発砲音が鳴るたびに、筒が跳ねあがって鉄球をまき散らす。それが三回続いてXから安全のお墨付きが出た。
「よし、今度こそ行くぞ……わよぉ!」
「ええ! 行きましょう!」
キリトとそれに追従するクレハを守るためXとシノンが塀上を警戒する。
「……!? 門が開いた!?」
取りついてキリトが光剣ででこじ開けようと思った門が少し横にスライドしたのだ。中からひょっこり人が出てくるのを視認し、Xが狙撃を、クレハがキリトに当たらない様UZIのフルオートでの牽制を敢行する。
『ツッ、硬いわ! 一旦引いて!』
過たず頭部を直撃したはずの7.62ミリが弾き飛ばされる。当然クレハのUZIの9ミリパラベラム弾も弾き飛ばされ意味をなさない。シシガミと同等クラスのアーマーを着込んだNPCらしく、左手には盾まで持っており硬さは凄まじいだろう。
『私の位置からじゃ射線が通らない! 引いて立て直して!』
貫通を狙えるヘカートⅡのシノンも、塀の上とトーチカを警戒する位置に着いてしまっていたため射線が開かれた門に対して通っていない。
「いや、門が開いた今がチャンスだ! 押し通る! クレハ! 俺の後ろに!」
「えっはい!」
『キリト!!』
シノンの叫びに少し申し訳なさそうな顔をしつつも有刺鉄線を融解させ蹴り飛ばし、キリトが前進を続ける。
ピロン、と持っている端末から音がしたがそれどころではない。
構わず突っ込んでくるキリトにNPCは持っていた盾を地面に突き立てると、そこを銃架の代わりにして手に持っていた機関銃からバレットラインをまき散らしだした。知る人が見ればM60E4とわかるがキリトには分からない。
「ぐっ!!」
人を易々と殺傷する運動エネルギーの塊を光剣で斬り飛ばす。すると一瞬、NPCが射撃を停止させたが、すぐさま射撃を再開した。
『M60、装弾数は百発から二百発、無茶よ!』
「いや、いけそうだ!」
装弾数は二百発のベルト給弾式の為、弾切れを狙うのはかなりの無理がある。だがキリトも尋常じゃない動きで迫る命中弾を斬り前進していく。
「これじゃ私が邪魔! 後ろにこのまま下がるから!」
クレハが自分が邪魔になっていることを察して即座に後退を開始する。
自分と後方のクレハに命中弾が出ない様、自分に当たらない弾もある程度弾く必要があった。
ただタップ撃ちで三発から四発づつ発射される7.62ミリは狙いが良く、バレットラインはほぼキリトへの命中軌道を取っていた。
故にさすがのキリトでも前進速度が落ちた。銃士Xが片づけたとはいえまだ左右には多くの地雷が埋まっているであろうことから左右に逃げられないのだ。
『耐えて、もうすぐ射線が通る位置にッ!? くっ今頃トーチカに!!』
『シノン、こっちからだとトーチカに射線が通らない!』
全員の認識として、AIはあまり性能が良くない印象を持っていた。特に連携関連でだ。以前シノンとキリトがエクスキャリバーを手に入れる際に共闘した雷神トールも、共闘とは言うがその実こちらにフレンドリーファイアしないだけでスリュムを好き放題ぶん殴っていただけであった。
だが今回のNPCのAIは違う、しっかりと連携を取りキリトを孤立させることに成功していた。
『くっせめて少しでも隙をッ!』
抵抗の如くXが機関銃NPCに弾を撃ち込むが、意に介した様子は無い。だがクレハがかなり下がったことで、キリトの自由度が上がり前進速度は上昇していた。残り100を切った瞬間、突如NPCがタップをやめ全力で火を噴いた。
毎分550発のレートで発射される弾幕は大量のバレットラインを発生させるものの、ブレにより命中弾は減りキリトの切り払いもより楽になった。
「これならっ!」
『キリト!!』
さらに加速したキリトにクレハとXの叫びが入る。赤い多量のバレットライン、それに沿って高速で飛来する弾丸の中に一つだけ低速で、巨大な物体が紛れ込んでいた。
門の奥から発射されたことでXからは見えず、かなり後方に居たクレハがギリギリ視認し、とっさに叫んだのだ。
『アールピージー―――!!』
咄嗟にそれを切り裂いてしまったキリトに向け、炸裂した弾頭からモンロー・ノイマン効果で発生したメタルジェットがカゲミツG4に弾かれ飛び散り、爆発と四散する破片が切り払われ無事な腹部を除きキリトの上半身と下半身に真っ赤なダメージエフェクトを発生させた。
対戦車用兵器を高耐久とはいっても生身のキリトが受けて無事なはずがなく、体力を全損させポリゴンとなって霧散する。
霧散する前に黒い煙を吐きながらウッソでしょみたいな顔をしていたキリトは、このマップ全体においては三人目の犠牲者であった。
ブラッキーダウン! ブラッキーダウン!