誤字修正しました!
「こんにちは。私がシノンよ、よろしく」
「ドーモ、シノン=サン。凸侍です。とりあえずこのチャットグループに招待しておくわ」
両手を合わせ凸砂のエントリーを済ませてからコンソールを凸侍が弄るとシノンの視界に右下にチャットグループへの招待を表すアイコンが点灯した。
”全GGO凸スナの会”
名前を見て凄く入りたくないと思ったシノンであった。とりあえず招待を保留にして凸侍に向き直った。
二人がいるのはSBGグロッケン内に存在する試射場と呼ばれる空間で、マイルーム群のエレベーター脇のテレポーターから移動できる場所で、かなり広い屋内空間であるがどこにあるかは謎である。一片が2キロ近くある正方形の部屋で、テレポーター側の辺から射撃する台やら動く的やらがいっぱいある。
北側にはチュートリアル専用のエリアも存在し、試射場の管理人役もやってる色々なタイプのNPCに手取り足取りGGOの基本を教えてもらえる。そしてここ、なんといっても弾薬が減らなくなるのである。正確にはこのエリアからテレポーターで脱出すると使った分の弾薬が元に戻っているという仕様だ。これが特に、凸侍とこの水色髪の女性アバターシノンには嬉しい。
精密射撃用.50BMGは高いのである。
「さて、挨拶も終わったところで、シノンさんも狙撃銃を持ってるみたいだが、この凸侍をこんなところに呼びだして何用かな」
これが郊外への呼び出しだったらどう考えても再びの襲撃なのでいかなかったが、試射場で死んだとしても装備ドロップとかしないので特に警戒せずにやってきたのだ。
「狙撃銃で接近された時の対処法を教えてほしいの」
「つまり凸砂をしたいと」
「えっ」
違う、そうじゃない。そう言う前に凸侍がシノンの持つヘカートⅡと同系統のでかい銃を掲げて歓喜をあげた。
「遂に! 遂に! 全GGO凸スナの会に狙撃銃使ってる奴片っ端から誘って誰も凸砂に転向してくれずチャットグループもただの狙撃銃使いの情報交換の場と化して定期的に名前を変更されてもめげず直し続けたかいがあった!! 故に!!」
感動した表情のまま、凸砂がぐるんとシノンの方を見る。好きなことを全力で楽しんでそうないい笑顔だった。
「凸侍流テクニックを教えよう」
凸侍が立ったまま、銃、AW50を的に向けて構えている。彼我の距離は50m。アサルトライフルやサブマシンガンの主戦場であり狙撃銃が戦う位置ではない。銃もなんかアタッチメントが変えられてネットで見た画像とシルエットが別物になっている。グリップと一体化していたストックがM4系の物に変えられグリップが分離し、銃身の先端近くにレーザーサイトみたいな筒までついている。そうしてスコープは斜めに配置された冒涜的な狙撃銃だ。
AW50本来のストックは伏せ撃ちを補助する為の物だから凸侍には要らないとはいえあんまりにもあんまりな改造であった。
第二回GGOの時より悪化した改造の様はライデーンが見たら泡を吹いて強制ログアウトするレベルの狂乱をしていただろう。
「まず、狙撃銃で接近された時最大問題であるバレットラインをいかに誤魔化すか問題」
凸侍が引き金に手をかけると銃口部分からバレットラインが、すごいブレまくりながら、もうなんか的の縁どころかかなりの広範囲にまき散らされるようにグルんグルん動き回っている。最早ショットガンの射撃予測線の様だ
「バレットラインがすごいことになってるんだけれど」
「DEXが低いからな、まあ見てろって」
凸侍が引き金を引くと、なぜか的のど真ん中よりやや外れた位置に着弾した。
「何で!?」
シノンも思わず声をあげる。
「これが凸侍流、篠突く雨だ」
凸侍が斜めに構えていた銃を降ろしてドヤ顔でシノンの方を見た。
この試射場の管理NPCであるパツキンのド派手な恰好したお姉さまが厭味ったらしく拍手をしてくれている。このNPC、チュートリアルだとハートマン軍曹ばりにスパルタで怖い。
「まあ、シノンさんもすぐできるぞ。原理はすごく簡単だからな、とりあえず俺に、銃の改造依頼を出してくれ」
言われるままシノンが銃の改造依頼を出すと数分もせず、ヘカートⅡの左側にレールシステムごとアイアンサイトが取り付けられたヘカートⅡが返ってきた。
「とりあえず銃を斜めにしてアイアンサイトで狙いをつけてみな」
まず伏せようとして、伏せたら意味がないと気付き立ったまま銃を斜めに構える。
アイアンサイトとヘカートの大型マズルブレーキが干渉していて、アイアンサイトが役に立っていない。銃を傾けるという慣れないことをしているせいで構えが歪み、ブレのペナルティまで入りバレットサークルがシノンが普段見たことがないほど大きくなっている。
「その状態が最初のすごい勢いでブレまくるバレットラインの状態だ。バレットサークルがでかすぎてそれに連動するバレットラインもブレまくってるってことよ。で、そこからおおよそ照準の真ん中あたりを向けたまま即座にスコープを覗いて射撃してみな」
言われるまま銃を回してスコープに切り替えると、狙撃に使う高倍率スコープ故、視界全てが的であった。引き金を引くと見事的に命中する。
「そうそう、あとはそれをいかに早く切り替えられるかだなそれが凸侍流燕返しだ」
「さっきと名前変わってるんだけど」
「凸砂仲間が現れなくて誰にも教える機会なかったからテクニックの名前考えてなかったんだ銃をくいっと回すのが燕返しっぽくない?」
照準を切り替えるのはシステムアシストが存在しないので自力で行わなければいけないため、どうしても練習が必要だ。それをAGI型並みに走り回りながらやってるのはかなり無理があるのでは? とシノンは思ったが突っ込まないことにした。
「とりあえず、概要としては撃つまでバレットラインを荒ぶらせて予測線を予測不能にしつつ、アイアンサイトで大まかな照準を合わせてから、高倍率スコープで撃つっていうテクニックだ」
なるほど、頷き再び同じことを繰り返す。先ほどよりうまく切り替えができた。
「少し離れた所だと視界いっぱいに敵の体を入れるのは無理じゃない?」
「体のどこかに当たればインパクトダメージと欠損ダメージ不可避だから大丈夫」
「ちなみに、先日やられたけど初弾以外でバレットラインを出さない狙撃テクニックもあるらしい」
「どういうこと? 本当に初弾以外?」
意味が分からないと言わんばかりのシノンだが、凸侍は真面目な表情だ。
「いーや、当たらなかったとはいえあれは一発目じゃなかったし……どういう原理だったんだろうなぁ」
「というかなんでそんなのに」
「いや愛銃金積まれて売ってくれってしつこく言われたからリアルラックでゲットしてどうぞwwwwってとりあえず煽っといたら後日徒党組んで襲われた」
煽ったら襲われるのは当然では? とシノンは思ったが再び突っ込まないことにした。
「それでそのバレットライン無しの奴にボコボコにされて逃げ帰ったと」
「なんでだ返り討ちにしたわ出費がヤバかったけど」
そう言ってストレージから取り出したのは一発の弾丸だ。精密射撃用.50BMGである。しいて違いをあげるなら先端が緑と白に塗られている。
「これすごい弾頭なんだけど、これ、なんとお値段、普通の弾の500倍」
「た、高い」
ただでさえ高い高精度用.50BMGの500倍の値段と聞いてシノンの表情が引き攣った。
「それを4発も使った……とりあえず餞別にどうぞ」
「ヒエッ」
思わずシノンが両手で表彰状でも受け取る様に丁寧に受け取ってしまった。
「ほんとどうしようもないときに使うとたぶんどうにかなるレベルのヤベー弾だから……アバター可愛いし凸砂やってくれるとは思ってないけど凸砂の話を聞いてくれたサービスサービス」
本当は後でアイアンサイト外そうと思っていたシノンだったが、着けておくことにしたのだった。
余談であるが二人の銃、共に対物銃であるが特色が違う。AW50の方は弾の直進性の補正が高いのだが、ヘカートⅡはインパクトダメージの威力が高く設定されており実は凸砂に最適な狙撃銃(?)なのである。凸砂に最適というのは名誉ではなく不名誉なことではあるが。
テクニックを教わり試射場を後にしたシノンはとりあえずチャットグループに入ってみたが、意外にもチャットの様子は歓迎ムードで定期的にチャットルーム名が変わっては凸侍がそれを直すログが流れる以外ただのスナイパーの交流チャットグループで、変なのがいなくて安心するシノンであった。
~~とある時のシノン~~
シノン「500倍の値段って、納得だわ……」