「こっちの光点は……ええ、いいわ放っておきましょう」
洞窟内でサテライトスキャンの結果を見たシノンが遠い目をしながら呟いた。光点の数が足りないこと以上におびただしい死体の光点とその中心の都市部にいる光点2つ、闇風と凸侍の名前を見て放っておくのが懸命だと判断したのだ。
「この闇風と凸侍が死銃の可能性は?」
「ないわよ、あなたのいう死銃事件の時、この二人は同じ番組にゼクシードと一緒に出てたのよ」
あと凸侍なら拳銃じゃなくて狙撃銃でやるだろうなどと謎の信頼が沸いてきた。
「そういえば」
一発の弾丸をストレージから取り出す。先端が白と緑に塗られた.50BMG用の弾だ。
「どうしようもないとき使え、か今こそそれよね」
シノンはボルドを解放し、薬室にそのとっておきを装填する。
必ずあの死銃を撃つ。その決意に答えるようにヘカートが光を反射したようであった。
(見つけた!!)
キリトがシステム外スキルの第六感で死銃、ステルベンの狙撃を避け疾走を開始した瞬間、シノンのスコープが死銃の姿を捉えた。赤く光るフルフェイスマスクに死神のようなマント、自身の罪の象徴のようなその姿に動悸が、それの影響を受け弾着予測円が大きくなる。
それでも、キリトが信じてくれている。ならば答えなければトッププレイヤーシノンの名が廃る。
動悸が収まる。氷の如くしかし熱が体全体を支配し、シノンはヘカートⅡと一つになる。
急速に縮小し、点となった弾着予測円と共に引き金を引いたのは、死銃と同時であった。
弾同士が掠めるように交錯し、弾速が若干速い死銃の弾がヘカートのスコープを木っ端微塵にしシノンの耳を弾がわずかに切り裂く。
一瞬遅れてシノンの弾が死銃の銃、L115A3サイレントアサシンの機関部に滑り込むように入り込み―――
爆発を起こした。
大爆発を、起こした。
「はい?」
シノンがすっとんきょうな声を上げた。脳内で凸侍の声がつぎはぎで再生される。
『500倍の値段のヤベー弾』
あの時は500倍の値段の意味が分からなかった。なんでそんなに高いんだと思っていた。しかしその弾がもたらした結果を見て、呟かざるを得なかった。
「500倍の値段って、納得だわ……」
スコープを失ったシノンにも疾走を続けるキリトからも易々と認識できるほど爆発だ。
死銃が投げだされるように砂の上を転がり、獣のごとく立ち上がろうとし、転倒した。辺りにはサイレントアサシンであったものとその付属品が焼け焦げた破片として散らばり、ポリゴンに還元され消えていく。
その身を覆っていた光学迷彩は七割近くが焼け飛び、左手と右足に至っては欠損ペナルティが発生している。
たとえキリトに匹敵するプレイヤーであろうと、そんな状態でなにができるわけもなく光剣カゲミツの餌食となったのだった。
「これからどうする?」
「どうするって……嵐が来るわよ」
「ん? もう死銃は終わったはず……」
シノンの元にやってきたキリトの問いに、そう返しながらサテライトスキャン端末を取り出して見せる。
シノンとキリトを表す二つの点とおびただしい死体を示す点の間辺りに二つ、すごい勢いで移動している点があった。
「これから来るのは正真正銘のGGOのトッププレイヤー、せっかくだし試してみる?」
「いや、なるべく早くログアウトして現場に……」
「5分も掛からないと思うわよ」
シノンが遠い目をした瞬間、キリトの第六感が作動し咄嗟に光剣を払う。ヘカートⅡと同質の弾が二つに割れ砂丘を穿った。
向こうから闇風と凸侍がすごいスピードで走ってきた。おそらくバイクやロボット馬と同等以上の速度があるだろう。さすがAGI型である。
なんとこの二人、共闘してるわけではなく道中殺し合いしながら決着がつかずこっちまで来たのである。互いが早すぎて当たらないのである。
「おっすシノン凸砂してるか!? 洞窟の方で隠れ戦法は卑怯だから闇風釣りながらこっちまで来てやったぞ!!」
キリトを押しのけてシノンが前に出る。闇風の吐き出す短機関銃のバレットラインを躱しながら凸侍とシノンが同時に構える。凸侍はいつもの照準切り替えを、シノンはアイアンサイトでそのまま狙いをつけ、互いに即死した。シノンはDEXが高いので狙いが早いのである。
「えっえっ」
シノンと凸侍が消えたいま、残るはキリトと闇風である。
もはややけくそ気味であるが闇風に向けファイブセブンを撃っても掠めることさえできない。最初の攻撃を光剣で切り払ったもののそれを見た闇風のAGI特化によるごり押し全方位射撃の前にキリトも沈むこととなったのだった。
そうして第三回BoB優勝者は再び闇風が手にするのだった。
ヘカートⅡのダメージ補正と特殊弾の爆発が合わさり着弾近くの左手と爆発の突き抜けた近くの右脚が吹っ飛ぶ不幸。名前すら思い出せてもらえない模様。