言い訳をするならキンハがやばいです。楽しすぎます
「それでカズは紗夜の面倒を見ると……いやなんでそうなった」
今日も今日で太陽は登り続け、日本人の頭のてっぺんにある頃。
いつもの様に中庭で昼食を済ませいた時、あの後起きたことを伸とぜっきーに話した。
「今説明した通り。それ以降のことは俺も」
両手を上げて、降参の意を示す。いやまじで知らんし。だってあの後、カズと紗夜は二人で話しながら歩いてたし、俺は俺でリサと話しながら帰ってたから。
「…カズが女子、それも年下の子と連絡先交換したのは驚いた」
「それな。てかどーせ海斗が巻き込んだことだろ」
「何故その結論に至る」
「いつものことじゃねーか。俺達がどれだけ巻き込まれてきたか分かるか?」
「マコトニスイマセン」
「こいつ、全然思ってねぇ…」
ぜっきーがなんか言ってるけど無視無視。まぁ5年もいて何も巻き込まれない方が逆にすげぇーけどな。かく言う俺も巻き込まれたことあるし伸に。
「それよりも──」
カズが話し出したタイミングで俺の携帯がピコンと鳴った。手に取って見てみればそこにはリサ♪と表示された画面が。
そう、あの後紗夜が交換したならとか言いながら俺とリサも連絡先を交換したのだ。恐らくこの連絡も昨日言っていたお願いの件だろう。
『海斗さんやっほー♪急で悪いんだけど昨日の件、早速お願い!!』
ほらね?まぁ可愛い子からのお願いだし、断る理由もないし。
「海、ニヤけてるけど何かあったの?」
「へ?」
すっとぼけた声が出る。俺、ニヤけてた?
「そりゃあ大層気持ち悪そうに」
「吐き気がする程に」
テメェら…!特別にお前らには激辛食わせて吐かせてやる。
──────────
ピロン。と携帯の通知音がなる。見てみればそこには『HRが長引いちゃった!今から行くね!』と簡単な文。
それに対して『急がなくていいよ』とだけ返しておく。
それこそ急いできて階段から転げ落ちました、なんてのは笑える話ではない。携帯から目を離して顔を上げれば、目の前にあるのは校舎。
今いるのはリサの通う、羽丘女子学園。
いると言えば違ってくるがまぁいいだろう。
まぁそれでも下校の時間であろう今校門前で男が一人待っていればかなり目立つだろう。
「(やっぱり目立つよな…リサ早く来ないかな)」
通る度に驚かれたり、ひそひそと小声で話しているのを見て溜息をつく。まだイヤホンを指しているから話は聞こえないが、それでも視線に敏感な彼は気付いてしまう。
ほんと気づかなければ楽なんだけど、と悪態をうちながら待ち続ける。
「ごめんねー!待ったでしょ?」
「いや、俺も今来たところ」
そんなカップル御用達のやり取りを交わす。リサも走ったのか息が少し上がっている。それを見て、そんな急ぐなって言ったのに、と軽く笑いを浮かべた。
しかしこの二人今ここが何処かを完璧に忘れている。
そんな会話をしていたら周囲はどう、捉えるのか。
そんなもの分かりきったこと。それは────
「「「リサに彼氏ーー!?」」」
甲高い声が周囲に響く。それに思わず、耳を塞ぐ二人だがそんな事よりもだ。今のだけでも分かるだろうが、リサは、いやRoseliaは高校内でもかなり知名度があるのだろう。だから、"Roseliaのベースである今井リサに彼氏が"なんて事になればそれは分かりきったこと。
「やっば!海斗さん逃げるよ!」
「え!いや、ちょ」
「いいから逃げる!説明は後!」
周囲が二人に殺到する前に離脱を決意したリサは海斗の手を取って走り出した。だが、今まであまりこの手の話が無かった海斗にとっては何が何だか分かっていない。この状況が不味いのは分かるがそれだけ。
別に急いで逃げる必要無いんじゃ、なんて甘い考えすらしている。甘い、甘いぞ。甘ちゃんだぜ〜。
「リサちー!!」
「ひ、日菜!?」
リサが逃げた先に待っていたのエメラルドグリーンの髪色をしたクラスメイト、氷川日菜その人である。通称天災ちゃん。(誤字にあらず)
「どういう事か詳しく教えてねリサちー」
これこそ前門の虎後門の狼である。前には天災が。後ろには野獣と化した女子たちが。
ニッコリと笑顔を浮かべているがその笑顔を見てリサは顔を引き攣らせる。リサと日菜は同じクラスである。ならばHRが長引いたとなれば終わる時間は同じ。更にリサは急いでここまで来た。なのになぜ?とそんな疑問しか浮かばない。
「ふっふーん!アタシは天才だからね!」
「いや自分で言うのかよ。…あ」
今まで黙っていた海斗が思い出したかのように声を上げる。そしてこの状況を打破出来る方法も浮かんだ。
「リサ、ここから逃げる策がある」
「…どんな?」
「俺、実はここまで来るのにバイクできてるんだけど。少し戻ったとこに停まってるあれ。あそこまで行ければメットも二つあるから何とかなると思う」
「分かった…任せるよ」
リサからも了承を得た海斗は早速、行動に移した。
それは────
「んじゃちょいと失礼」
そんなことを言いながらも、リサの膝裏へと手を回し、抱き上げた
何と海斗はリサのことをお姫様抱っこしたのだ。これにはされた本人も周りも驚く他ない。
「な、な、な、な何してるの!?」
された本人は顔をリンゴを彷彿させるかのように真っ赤にして。
「しっかりと捕まっとけよ?走るから」
「え!?あーもう!!分かった!!」
観念したのかもうどうにでもなれと海斗の首にしっかりと手を回す。これで走られても変なことが無ければ落ちはしないだろう。
だが、みすみすと前門の虎は逃がしてはくれない。
「そうはさせないよ!!」
立ち塞がるのは天災ちゃん、氷川日菜。常人からすれば既に詰みだろう。彼女の姉である氷川紗夜なら話は別だが。だが、海斗は常人では無い。そう彼は────
「あばよとっつぁん!!」
何処かの怪盗を思わせるようなセリフをいいながら走った。
「え」
「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」
常軌を逸したバカなのだから。
──────────
「なんで急にあんなことするの!?ビックリしたじゃん!!」
あの場から異常な脱出をした二人。正確には異常なのは一人だけだが。
バイクを運転する海斗に後ろからリサが言う。それもそのはず、今はよくても明日学校で問いただされることは決まったも同じなのだから。
だが、海斗はそれを分かっていない。なぜなら、海斗にはこれまでに女性と付き合った経験がなく、この後に何が待ち受けているか分かっていないからである。
「いや確かに悪いと思うけどさ...あれ以外に逃げようなかったし…」
「だからって人が多いところでお、お、お姫様抱っこはダメ!」
「そんなもんかなぁ…?」
「そんなもんなの!…ていうか海斗さんって女性の扱い慣れてない?」
後ろからジト目で見るリサだが運転をしている海斗にそれを見ることはできないし、それを否めることもできない。
「まぁ妹がいたからなぁ…」
ボソッとつぶやいた言葉をリサは聞き逃さなかった。
「へぇーどんな妹?」
「どんなって…。俺と双子の妹でかなりやんちゃな子」
「海斗さん双子なんだ、それじゃ紗夜と同じじゃん。さっき居た日菜って子。あの子紗夜の双子の妹なんだ〜。全然似てないでしょ?」
「まぁ雰囲気とかも紗夜の方が落ち着いてるな。あれはもうあれだ。天災そのものだな、色んな意味で」
そんな事を言いながらとあるアパートにバイクを停め、降りる二人。ここは海斗が住んでいるアパート。リサには事前に家に戻ってベースを取りに行くと伝えてあった。なので驚いた表情一つせずに被っていたヘルメットを渡す。
「ふうぅ〜。ヘルメット被ったらと髪すごいことになっちゃった」
「クシでも持ってこようか?」
「ううん、自分で持ってるから大丈夫。それよりもベース、忘れてない?」
「…まっさか」
「今の間は何…絶対忘れてたでしょ」
「はははっ」
「笑って誤魔化さない」
そんなやり取りをして、海斗はベースを取りに行った。リサはそのうちに髪を整え、自前の小さめな鏡で確認していた。
「よしっこんなで良いかな〜」
「すまん待たせた」
「うん、じゃ行こっか!」
そうして二人は目的地へと歩き始めた。
──────────
「まーたズレたよ」
「…ねぇこれって家でもできない?」
今回のリサのお願いとはベースについて教えて欲しい、とかなりざっくりした内容だった。何でもRoseliaの中では自分が一番下手だからだとか。だから、わざわざCiRCLEで練習しているのだが。
…アホ抜かせ、俺の時と比べれば十分過ぎるくらいに上手いわ。
「リサは微妙に音程ミスるのとテンポがズレるからな。リズム隊であるベースにとってはかなり致命的だし。メトロノーム使ってテンポを完全に乱さないってのが目的。だから家でも練習する時はやるといいよ」
「うーん、まぁ大体分かったけど。海斗さんもこれやってるの?」
「…最近はサボり気味、です」
何かリサがジト目で見てくるが気にしない。おい!睨むな。そっち見れないでしょうが。
「そ、そろそろ音合わせるか?」
「分かりやすく話逸らしたね」
「もういいから。てかそのジト目やめろ、ただ可愛いだけだから」
「なっ!?か、可愛い…」
「眼福眼福」
ニタニタとリサを見てたら顔を真っ赤にしながらめちゃくちゃ怒られた。リサの本気の説教はもうコリゴリです。
そろそろシリアスぶっこむぞ(予定)