ポケットモンスターオンライン   作:EIMZ

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忠犬とイケメンをゲットだぜ

人間というのは、日常的なところで自分の癖というものが現れたりする。睡眠の際に仰向けになるか否かというようなものもあれば、お風呂に入った時に最初に洗う個所はどこかというようなどうでもいいようなところにでも何かしら意味のある行動が現れたりする。だからこそ、こういった些細な動きを見ていると相手の本質的なものが把握できたりするのだ。

 だからこそ、こうして目の前でおしとやかな雰囲気でココアの飲んでいるアバターの姿を見ていると、自分の推測が本当に正しいのかと不安になってくるのだ。

 

今目の前にいるとても女性らしいアバターをプレイしているのはネカマではないだろうかという自分の予想は簡単に音を立てて崩れ落ちようとしている。両手でカップを持ちながら小さな口でココアを飲む姿はまるで小動物の様だ。

 

こういった些細な場所でも中の人間がどのような人かという想像がつくのだが、これではまた仲がどのような人物かということがわからなくなった。直接化のぞに問うのが早いのだがそうもいかない。そもそもそういったことを聞く勇気もない。それに、だからと言って現実のことを聞くのはマナー違反だ。

 さらに言うなら中身がどうとかはさほど興味がわかない。

ただ一緒にプレイする、バトルの申請をされたら代わりにバトルしてもらう、面倒なものは押し付ける、それだけだ。ただの都合のいい変わり、身代わり人形だ。後は彼女の行動から自分が何をしようかというものを見つけれたらいいくらいで一緒にいるだけだ。

 

都合のいい同盟というのが簡単な繋がりだろう。代わりに彼女にも何かしらのメリットがあって僕を誘ったのだろうし、ただ一人でかわいそうで同情に憐れんで誘ったということはないと信じたい。

 

 今はそんな不思議な繋がりの二人は近くの草むらの前で休憩ということで彼女はココアを飲んでいた。町を出る際に販売店を見つけたもので値段はこの世界でのお金で大体100円近くだそうだ。

 

 この世界で飲み物を飲んでも、現実世界で飲んだわけではなく体に栄養があるわけでもないし空腹感が満たされることはない。ただ脳に直接、「ココアを飲んだ、おいしい」というような情報が送られて自分の感覚が勘違いを起こしているだけだ。そんな勘違いのためのこの世界でのお金を使うのはどうなのだろうかという審議が自分の脳内で起こっていた。結果は僕は買わなかったがルナは購入したという形になった。買わなかった理由は先ほどの内容と同じで、脳に与えられる情報のためだけにこの世界でのまだ少ないお金を払うのはいかがなものかということと、さらに言うなら僕はココアはそれほど好きではないから買わなかった。

 

 実際に隣でココアを飲んでいる姿を見ても、飲むという行為から脳に与えられる情報に間にはラグも内容で、さながら本当に飲み物を飲んでいるような姿だった。

 

 しかしわざわざ草むらの近くに来たのはただ草原を眺めながらココアを飲むためだけではない。

 

 簡単なことで、これは昔から流れはさほどわからっていない。旅に出るならば仲間を増やさなければならないということだ。そしてこのゲームでも仲間となるポケモンが現れるのは町から少し離れた草原や砂漠や雪山という元祖の方でのマップに登場するステージで仲間を増やすことができる。

 

 また出現するモンスターもプレイヤーが手持ちに指定しているモンスターの平均レベル前後で現れるという親切設定なのだ。ということでまだまだ新人の僕らの前に現れるのは序盤で登場するようなものが多いだろう。

 

 しかしいざ、いつものように草むらに入るというのは、このゲームの中では、少しばかり難しい。特に初めての時は、だ。ゲームであれば、第3人称視点からの光景で、自分のアバターが草むらを歩くのだが、このゲームの中では自分が歩いて、どこからともなく襲われるという形になっているはずだ。それだけ聞いたならばホラーゲームなのかとも思う。確かにゴーストは出るけども、

 

 目の前にある草むらは人間の手によって整備されている芝生よりも少しばかり長い草が生えているという生易しいものではなく、おおざっぱに伸びた草は自分の体の半分ほどまで伸びている。これほど長ければ小さなポケモンでも身を隠すことができるということだろう。逆に言えば、草むらから現れるのは、この草よりも小さなポケモンに限られるということになる。把握しているのだが、どうも最初の一歩というのは難しいものだ。毒タイプのポケモンにかまれたりしたらどうなってしまうのか、落とし穴に落ちるのではないか。

 

 

「どうしたものかな…………」

 

珍しく心配性でいたると、隣りに立っていたはずのルナの姿が消えてしまっていることに気が付いた。府と辺りを見渡すと、すでに彼女は草むらの中に飛び込んでおり、意気揚々とバトルを繰り広げていた。

 チコリータも必死になって彼女の指示に従い戦っている。相手がどのようなポケモンなのかはここからはよく見えなかったが、暫くすると彼女は手に持っていたモンスターボールを思いっきり投げた。

 そしてその投げた先に近寄りゲットを確信したのか、こちらに手を振ってきた。

 

 彼女でさえ大丈夫なのだからきっと大丈夫だろう。結果的に彼女を実験体にして先に安全を確認するということのなってしまった。

 しかし彼女は先に自分の仲間を増やした。僕よりも先に。

 

 負けてられないな。

 彼女への競争心にも似た感情が自分の中に生まれた。

 

 ワニノコが入っているモンスターボールを片手に草むらの中へと入っていった。

 

しばらく歩いていると、自分が見ている光景、つまりは自分のプレイ映像の右横に一つのアイコンが現れた。そのアイコンは黒色の角か耳の生えた顔のアイコンで、そのマークの上にはNEWという文字が表示されている。ふと、そのマークが現れた方を見ていると、ポケモンがこちらを向いて戦闘隊形に入っていた。そのポケモンは4つん倍になりながらウルルという警戒する声を喘げながら体を奮い立たせている。オレンジ色の体に白色がかった髪を携えたそいつは牙を向けてうなっている。

 ユウはひとまず、自分の図鑑を開きそのポケモンへと感知センサーを向けた。

 

『ガーディ こいぬポケモン 古来から人間とともに生活してきたポケモンで慣れれば人懐っこい』

 

 炎タイプか、水タイプしか持っていない今の自分にはちょうどいいかもいしれないな。

 

「いけ、ワニノコ!」

 

掛け声とともに投げられたボールから出現したワニノコは目の前にガーディを発見するなり、鋭い目つきで真っすぐに見つめる。

 お互いに戦闘準備が整ったという判断からか、ガーディは口から炎を吐き出した。しかしそれはまだ小さく当たればやけどするだろうが、まだ弱そうだ。技はひのこと言ったところだろう。

 ワニノコは自分の目の前に飛んできたひのこを自分の御自慢の尻尾で払いのけた。

しっぽにやけどの跡もなく、特にダメージもおっていない様だ。効果は今一つ、だったようだ。

 

「よし、ワニノコ、みずてっぽう!」

 

ユウは先のルナとの戦いの末に覚えた今現在唯一の水タイプ技を繰り出した。

 自分の繰り出した攻撃が全く効果がなかったということに加算して自分の苦手なタイプ技を初っ端から繰り出してきたということで動揺したのか、動きがワンテンポ遅れてしまいよけることができなかった。

 結果、効果は抜群ということで、ガーディはその場に前足をついて倒れこんでしまった。

 そのすきにユウは自分の持っていたボールを標的を定めて投げた。現実での体育でのハンドボールの結果は散々だったのだが、このゲーム内でのゲットする際の行動にはゲーム側が何かしら付与してくれているのだろう。でないと、あれだけ強く投げることなど不可能だ。

 運動音痴にしては真っすぐに投げられたボールは優しくガーディの頭にぶつかると赤い光がガーディを包み込みボールの中へと入っていった。

 そしてボールは数回左右に揺れて動く。何年もこのゲームをしてきたがこの瞬間はいつもなれない。

 

 4回くらいだろうか。左右に揺れたかと思うと、今度は全く動かなくなった。丸い球体の物体がこれほどまでに静止し、周囲からは音が聞こえてこなくなるほどまでに緊張する。

 

 そして最後に、静止していたボールはカチッという小さな音を立ててまた動かなくなった。しかし今度は先ほどまでの静止状態とは異なり、自分が画面の横には『おめでとう ガーディをゲットした』という通知と、『初ゲット』という称号を入手したという通知が表示されていた。

 以上のことから察するに、ガーディをゲットできたのだ。

 

 ワニノコを自分のボールに戻し、地面に落ちているボールを取るべく、ユウは先ほどまでバトルが繰り広げられていた戦場へと足を踏み入れる。ガーディが入っているボールを手に取ると、どうしても微笑みがこぼれてしまう。

 かつて何度もゲームをしてきたが、やはり一番最初にゲットした時の瞬間は何年たとうとも、何歳になろうとも嬉しいものだ。十数秒ほどの間、ガーディが入っているボールを見つめていた。

 

「ガーディ、ゲットだ」

 

 悠は小さく笑みをこぼしながらそう呟いた。本当なら「ゲットだぜ」と叫んでみたかったが、やってみたいという気持ちよりも恥辱の方が優ってしまい、結局呟くようにそういっただけだった。

 

 ユウがガーディゲットの余韻に浸っていると、サイドから何かが高速球で飛んできた。その衝撃を与えてきた物体は丁度ユウの頭部へと直撃した。固いその物体はただぶつけただけでも痛いのに、さらにそこに速度がかかり通常以上の激痛が頭に走る。

 

 これはあくまでもゲームの世界なので、現実世界で自分の体が何か高速の物体にぶつかったという訳ではなく、ただこのゲームの中で何かにぶつかったからゲーム機が自分の頭に「痛い」という情報を脳に送っているのだ。

 まだ美味しいとか苦いとかならわかるが、このような痛みも鮮明に真似なくてもいいのではないだろうか。

 

ユウはあまりに物痛さにその場に膝をついて倒れこんだ。さらに持っていたボールも痛さで耐えられず手放してしまい、落下の際にポケモンを出現させるボタンが間違って押されてしまったのか、中に入っていたガーディが外の世界に飛び出てきた。最初にゲットしたポケモンの最初の出現がこのような形だとはあまり嬉しくないな。

 

 外の世界に出て、自分の主人がその近くで頭を押さえて膝をついている姿を発見したガーディは大声で鳴き声を上げた。

 その声を聞きつけたのか、少し遠くにいたのであろうルナが駆け寄ってきた。

 

「何々、何があったの?」

 

今度は彼女の声を聴いたガーディは自分たちの場所を知らせるようにさらに大きく声を上げる。

 きっと自分の主人に誰か助けを呼ぼうとしているのだろう。その行動はポケモンの行動パターンに登録されている、応急処置用のプログラムなのか、それともただ単にガーディが忠犬なのか。どちらでもいいが、ガーディが主人を心配してくれているというのは嬉しい。こいつはいい子だ。忠犬ハチ公だ。

 

 ガーディの鳴き声を聞きつけたルナは自分の目先でパートナーであるユウが倒れているのを見つけると、心配そうに叫びながら駆け寄ってきた。

 

「ちょっと、大丈夫?!」

「う、うん。何かが頭にぶつかって…………」

「何かって何?」

 

そう聞き返してきたルナはユウの周囲に転がっているものを見ながら投げられて衝撃を与えられそうなものを探した。すると、ルナは自分から見て2メートルくらい先にモンスターボールが転がっているのを見つけた。

 

「もしかして、これじゃない?」

 

そういった彼女はボールを手に取って、ユウに見せた。

 

「確かに、これは投げるものだけど、人間に投げるものではないだろう」

 

ユウが怪しむように彼女が手に持っているボールを睨んでいると、横から草むらがガサガサと揺れる音が聞こえた。もしかしてこういう状況にまでもポケモンが現れるのだろうか。

 しかしその予想は外れ、そこに現れたのはトレーナーだった。しかもそのトレーナーの頭の上の方には『トモ』というアバターネームが表示されている。ということはNPCではなく誰かが捜査しているトレーナーということだろう。

 そのトレーナーはボサボサとした茶髪に灰色の瞳で顔の整った青年のような背丈のトレーナーがへらへらと気の抜けた笑いを浮かべながら頭を書いていた。

 

「すいませーん。珍しいポケモンが現れたと思ったんですけど、勘違いでした。お怪我はありませんかー?」

 

へらへらとした物言いには被害者としては、イラつきを覚える。

 

「怪我はないけど、痛みがありますね」

「あららー。すいませーん」

 

 嫌味を言ったつもりだったのだが相手にはそれほど伝わっていなかったのか、ただ再びわざとらしいほどに整った顔で笑みを浮かべるだけだった。

 

 トモという名前のプレイヤーは何かを思いついたのか、またわざとらしい動きでポンと自分の手を叩いた。

 

「そうだー。じゃあお詫びとしてお二人のプレイを手伝いますよ。僕こう見えても結構強いんですよ。バッチも3つ持ってるし。初心者のお二人の役に立てるかもしれないですよー」

 

 自分の見ている画面には『トモをパーティーに参加させますか?』という文章が現れた。

 目の前に立つイケメンなプレイヤーからのパーティーへの参加申し込みにルナは迷うことなくマルボタンを押す。彼女からは「仲間は多い方が楽しいよ」そう言いたげな目を向けられた。

 そしてトモはまたもまたも眩しいほどのイケメンスマイルを見せつける。

 

 学校でもこういう人物はよくいるが学校でもこういいタイプの人間は苦手だ。

 

だからこそ孤独に住み飼う自分の本能が言っている。こいつは自分とは違う人間だと。俗にいう陽キャというやつだと。住んでいる世界が異なると。

 

 しかしそのような感情も何のそのというように、トモはまたも微笑むだけだった。

 

 




 
 何世代か前のアニメに近いような感じを目指して書いていけたらな。

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