〖音楽を辞めた少年は、少女達と共に夢を視る〗   作:Y×2

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第十五話 〖これが、篠崎 朧。〗

 

 

 

 

 

 

 

 

 「期待…してるよ?」

 

 

 

 

 

 ……最低だ、俺は。最後の最後で、隠してた怒りの部分が出てしまった。

 カチンと来たのは正直な所あった。けれど、それは俺が来たせいであり、彼女らに罪はないと言うのに…。

 本当に最低な男だ……俺は。

 

 朧は只ならぬ罪悪感に支配されていた。

 単純にパスパレの音や個性、技術を見に来るつもりだったのに、彼女達に嫌な印象を与えてしまったに違いない。

 

 「…3週間後のライブ…か。」

 

 朧は迷っていた。確かに、そのライブに行けばナチュラルな彼女達を見ることが出来るかも知れない。

 それでも、バレてないとは言え気まずいのに変わりはない。

 

 「…先生、そんな顔してどうしたの。」

 

 ボイストレーニングを受けていた蘭が、いつもと様子が違う朧にそう尋ねる。

 

 「えっ?あぁ…いや、何でもねぇよ!」

 

 朧は慌てて両手と首を横に振る。

 

 「何でも無かったらそんなに挙動不審にならないでしょ…。何かあったんですか?」

 

 蘭は小さく溜息を吐き、近くの椅子に座る。

 

 「今日の練習、先生ずっと上の空でしたよ。感想も曖昧で、いいんじゃないかな?とか、いい音だ、とか…。いつももっと具体的な事を言うのに、今日は抽象的な事しか言ってくれない。正直練習にならないですよ。」

 

 うっ…と朧は顔を顰める。痛い所を突かれた…。

 

 「…何かあったんなら言ってください。私が力になれなくても、話ぐらいは聞けますから。」

 

 …何この子カッコいい…思わず惚れそうになるわ…。

 これじゃ男である俺が女々しく見えてしまう…。

 

 「…実は……。」

 

 朧は蘭に事情を事細かに話した。…個性が足りないと言うこと以外は。

 

 「…それって、同族嫌悪ってやつじゃないですか?」

 

 「同族…嫌悪?」

 

 「はい。これは私個人が思うことですけど、あの子は先生も知るとおり天才だと思います。けれど、先生はその更に上の天才だと思います。自分より上の天才に会ったことのないあの子にとって、先生が不気味に見えて、怖くなっちゃったんじゃないでしょうか。」

 

 …同族嫌悪…その選択肢は無かったな。

 けれど、よく考えて見れば分かるかも知れない。仮に自分より上の存在が出てきたとしたら……。

 

 …確かに不気味だ。それに、負けたくない気持ちってのが出てくるに違いない。

 だから氷川は俺を避けてたのか…。

 どこかで感じていたんだ。負けたくないというプライドを。

 

 「…ありがとう蘭。お陰で答えが出たよ。」

 

 朧はニッと微笑みを浮かべた後、心の中で決断を下す。

 3週間後のライブに行くこと。そして……。

 

 

 

 「…先生、悪い事考えてるでしょ。」

 

 じとり、と一部のマニアには受けそうな視線でこちらを見てくる蘭。

 …悪いな蘭、俺にそういう趣味は無くてな。

 

 「悪いことじゃあない。要するに、氷川に俺を認めさせればいいんだろ?」

 

 「それってどういう……。」

 

 「…ガールズバンドのライブに乱入する。」

 

 「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、3週間後。

 

 朧は今日パスパレが出演するというライブハウスへと来ていた。

 

 「ここか。仕事の都合で予定よりも遅くなったが、あと十分あるな。」

 

 朧は前に彩から渡されたチケットを握り、ライブハウスの受付を済ませ中に入ろうとした時……

 

 「先生、思い直して下さい!今なら間に合います…!」

 

 朧の背後には、蘭、及びAfterglowの面々が揃っていた。

 どうやらみんなで朧を止めるべく集まった様だが、結局止まることは無かったらしい。

 

 「そうですよ先生…!流石に乱入は不味いんじゃ…。」

 

 ひまりは心配そうな表情で朧の背に話しかける。

 

 「言葉で分からないのなら音楽で。俺は今までそうやって生きてきた。例えここで捕まる事になろうとも、俺は後悔したくないんでな。」

 

 心配するな、と言うように朧は微笑むとそのまま中へ入っていってしまった。

 

 「ど、どうしよう…!先生捕まっちゃったら…!」

 

 つぐみは今にも泣きそうな顔で巴を見つめるが、巴もどうしたものかと眉間に皺を寄せていた。

 

 「…大丈夫。この日の為に5人分のライブチケットは取っておいたから。先生よりは後方になるけど、それでもいざという時止められる。」

 

 蘭は、鞄から5枚のチケットを取り出す。

 これは朧の話を聞いた後に、止めるための保険として取っておいたチケットであった。

 

 「蘭…お前天才か…!」

 

 「やりますなぁ〜蘭〜。」

 

 「べ、別にそういうのはいいから!さっさと入るよ!」

 

 蘭は頬を僅かに朱に染めつつ、それを隠そうとさっさと背中を向けて歩いて行ってしまった。

 

 4人はそれをニヤニヤしやながら見ていた事は、蘭は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…もうすぐですね、ライブ。」

 

 「そうね……。」

 

 控え室で待っているパスパレのイヴと千聖は、朧が来ることを知っている為いつもよりかなり緊張していた。

 

 それを知らない三人はいつも通り支度をしているが、二人の様子が変だと言うことは前々から分かっていた。

 理由を聞いても話してくれないまま、ライブを迎えてしまったことに、大和と彩は少々不安を抱いていた。

 

 日菜はいつもと変わらずマイペースに準備を進めていた。

 

 「結局、話してくれなかったね…。」

 

 「そうッスね〜…でも、だからといってしない訳にもいかないっスから……。」

 

 千聖もイヴも、三人には申し訳ないと思ってはいるのだが、あの一件があってでは、今日朧が見に来るなどと言えるはずもない。

 

 「Pastel❁Palettesのみなさーん。準備お願いしまーす!」

 

 スタッフがメンバーを呼びに来ると、五人は立ち上がり『宜しくお願いします!』と返事を返す。

 

 そして舞台袖に立つやいなや、とてつもない緊張感に襲われる。

 

 いつも緊張するのはそうだが、今回はまた違う緊張が二人を襲っていた。

 麻弥と彩も、不安を残したまま本番を迎えた事で別の緊張に襲われている。

 ただ、日菜だけは何か決意に満ちた目で今から演奏する舞台を一点に見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「蘭、見つけたか?」

 

 「いや、まだ…。先生身長大きいからすぐ見つかると思ったんだけど…。」

 

 「いやぁ、ともちんでも見つけられないならチビの私達じゃ無理ですな〜。」

 

 「そんな呑気なこと言ってられないよモカ!早く見つけないと先生が…!」

 

 「ひまりちゃん落ち着いて…!きっと見つかるから!」

 

 Afterglowの五人は相変わらず朧を探していたが、人混みもあり中々見つけられない状態であった。

 いよいよ気持ちが焦ってきた五人は、近くの人やスタッフに聞いてみるも、誰も朧らしき人物を見ていないと言うのだ。

 

 「…どこに行ったのよ…先生…!」

 

 

 

 

 

 蘭が小さくそう呟いた瞬間…────

 

 

 

 

 

 ワァッ!!と会場が歓声に包まれた。…始まってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みなさーん、こんにちは〜!!私達、Pastel❁Palettesです!今日は見に来てくれてありがとうございます!」

 

 再び歓声が上がると、おびただしい数のピンク色や青色などのペンライトの光がパスパレのメンバーを迎える。

 

 「今日も頑張って行きますので、大きな声で応援宜しくお願いしまーす!じゃあ、早速一曲目!パスパレボリューションず☆!」

 

 ドラムの麻弥がスティックを構える。

 そして、カッカッカとスティックを叩き合図を送ると、演奏が始まった。

 

 ……が…────

 

 

 

 

 

 

 音が一つ足りない。一人、音が聞こえない。何かが欠けている……何が………。

 

 

 

 『…ギターって、どうやって弾くんだっけ。』

 

 

 稀代の天才、氷川 日菜は……ここに来てスランプへと陥っていた。

 

 フレーズは頭にあるのに、身体が動かない。

 恐怖しているのだ。自分が奏でる音に自信を無くした故に。

 舞台袖で決意した、『絶対に失敗しない』というプレッシャーが裏目に出てしまったのだ。

 

 

 

 

 いつも感覚で弾いていたものが、感覚じゃ無くなった時、日菜はどこでどうギターを弾けばいいか分からなくなってしまったのだ。

 

 やばい……ヤバいヤバいヤバい…!!

 

 とてつもなく大きな焦燥感は、天才である日菜をどんどん凡人以下へと貶めてゆく。

 

 その時……────

 

 

 「おいギター!!何やってんだ!!!演奏は始まってんだぞ!!!」

 

 

 何処からか大声でそう聞こえた。

 はっと首を上げて声の元を探そうと辺りを見回す。

 

 声はどうやら舞台袖から聞こえていた様で、そこに立っていたのは……

 

 

 「それがお前の努力の結果だ…!!」

 

 

 朧であった。しかし、マスクに帽子、それに眼鏡を掛けている為パッと見誰だか分からなかった。

 

 このライブハウスに入った瞬間から変装していた為、Afterglowのメンバーも見つける事が出来なかったのだ。

 

 「…なんでここに居るの……。」

 

 最悪だ……こんな所見られたらまた馬鹿に………

 

 

 

 「馬鹿になんかしてねぇ!!!いい加減理解しろ……それは言い訳だってことに…!!!」

 

 「っ……!」

 

 

 舞台で起きている事を理解しているものなど殆ど居らず、いきなりの乱入者に、演奏も止まり観客も静まりかえっている。

 普通に見れば事故だ。警察沙汰になってもおかしくない。

 

 しかし、警察に連絡するものなど誰もいなかった。

 朧の余りの気迫に、ただただ立ち尽くすしかなかったのだ。

 

 

 朧はお構い無しに舞台に上がると、日菜の前に立つ。

 

 「お前は努力を怠った。その結果がこのザマだ。」

 

 「っ……私の何が分かるの!!アンタはパスパレでもないのに…!」

 

 「あぁ、分かんねぇよ。自分の才能に溺れて努力しない奴の気持ちなんざ、分かろうとも思わねぇよ。…なんで自分から才能を潰す。わざわざ凡人に成り下がる…!!天才が努力しないで、自分を天才と呼ぶんじゃねぇ!!」

 

 日菜はその言葉に言い返すことなど出来なかった。

 全て、的を得ているから。

 

 「…お前が俺を気に入らない理由ってのは分かってる。けどな、俺は別にお前が嫌いって訳じゃない。才能だけで演奏してんのが気に食わねぇんだよ…!!」

 

 朧はそう言うと、日菜の持っていたギターを奪い、そしてギターの弦に手を添える。

 

 「ちょっと…勝手に何する気なの…!」

 

 「…ここに居る全員聞け!!音楽ってのは好きな奴が好きな様にすりゃいい。けど、それは妥協していいって訳じゃねぇ。好きな力を努力に費やせた奴が、一番カッコいいんだよ。……よく聞け。俺が今まで一切妥協してこなかった音を。永遠に忘れさせない、努力の音をな。」

 

 

 

 

 そして、朧一人の演奏が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは圧巻であった。

 最早世界レベルといっていい程のギターの音が会場を包み、観客を一気に湧かせた。

 ギターだけでここまで観客を熱狂できるものなのかと、日菜を含めたパスパレのメンバーは驚きを隠しきれなかった。

 

 特に日菜は、自分が忘れかけていたるんっとした気持ちを、朧の音を聞いた瞬間に思い出した。

 

 …そうだ。自由でいいんだ。自由で楽しく演奏すればいいだけだったんだ…。

 私は…それをする為の努力を怠っていた……。

 

 …自分より技術がある先生を、いつの間にか言い訳の材料に使ってたんだ…。

 そう思うと、日菜はもう馬鹿らしくなった。

 グダグダ考えずに、今はギターを弾こう。パスパレのみんなと一緒に…!!

 努力なら、これから幾らでもする!!

 

 日菜はギターを朧から取り上げると、満面の笑みで朧にこう告げる。

 

 「…私負けないから!絶対に先生を超えるね…!!」

 

 「…やってみろ、天才少女。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、篠崎 朧。音一つで人を変えてしまう、努力の天才だ。




日に日に文が長くなって来てる…気にしない気にしない。

取り敢えず謝罪しなければならないのが、自分の知識不足により話に少し矛盾している所がありました。

イヴ、彩、千聖はPoppin'Partyと同じ学校に居るにも関わらず朧と初対面というところです。

ここは、完全に自分が原作を見ていなかったのが悪かったので謝罪致します。申し訳ございません。

話が一通り書き終われば、大幅に話を変更しつつ矛盾点を無くしたいと思っていますので、宜しくお願い致します。

新作のバンドリ小説を書くなら、どの様なものが良いですか?

  • シリアス系
  • ほのぼの日常系
  • 恋愛系( 全員√ を書きます )
  • ハーレム系
  • 努力&覚醒系

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