幼くして天賦の才を与えられた朧。
純粋が故の犯した過ち。
これは、篠崎 朧の始まりの物語。
間章1 〖篠崎 朧〗
俺は、2歳の頃から楽器や音楽に触れていた。
親父が偶にコンサートなどに出ていたので、それを母さんと見に行った記憶がある。
それに影響されたという訳ではなく、物心つく前から既に何故か音楽が好きだった。
これは生まれつきとしか言いようがない。
3歳を迎えた年からは、楽器を弾き始めるようになった。
まず最初に弾いたのはギター。そして、その次にピアノに手を出した。
ピアノに関しては習いに行っていたが、ギターは独学で学んだ。
親父は医者の仕事が忙しいとか言って家に殆ど居なかったので、代わりに母さんがギターの本や動画を見せてくれていた。
二つ並行して学ぶ事は、全く苦では無かった。
むしろ心地良かった。
……俺は母さんが大好きだった。
親父が居ない中、銀行の仕事を休んでずっと俺の面倒を見ていてくれた。
親父が医者と言うだけあってお金にはあまり困らなかったので、仕事を長期に渡って休めたのは幸いだ。
親父との記憶なんて、偶にあるコンサートの控え室で少し話す程度のものしかない。
家に帰って来るのは年に数回。しかも、夜遅くに帰って来ては次の日の朝早くにはもう居なかったので、会話のしようが無かった。
正直言って、親父のことはあまり好きでは無かった。
と言うか、どこか苦手だった。何を考えているか分からなかったのだ。
控え室でにこやかに「頑張るよ、朧。」と声を掛けてくれた時、俺はどこか不気味さを感じた。
傍から見れば親子の他愛ない会話だ。けれど、俺にはそれが別の意味を孕んでいる様に感じて堪らなかった。
……そして、俺が4歳に迎えた年。
親父は俺と母さんを捨てた。
恨んだよ。憎かったよ。
離婚届だけ置いて何も言わずに出ていった事や、銀行から自分の金だけを持っていった事。
理由を挙げるならキリがない。
けど、一番の理由は……母さんは泣いていた。
いつも笑顔を絶やさなかった母さんが、俺が生まれて以来…1度も弱音を吐かなかった母さんが……顔を涙でぐしゃぐしゃにして、ずっと俺を抱き締めて謝っていた。
「…ごめんね朧……本当に……!!」
違う、違うよ母さん。
母さんは何も悪くないじゃないか。悪いのは……親父だ。
見返してやる。あのクソ野郎を…。
アンタが居なくても、俺は母さんと生きていける事を証明してやる。
……やるんだ、篠崎 朧。将来、母さんを楽をさせてやる為に…俺が今出来ることを全力で…!!!
そこから、怒涛の人生が始まった。
ギターとピアノ以外にも、ベース、ドラム、トランペット、オーボエ、フルート………とんでもない数の楽器に手を出した。
それはもう、一人でオーケストラを出来る程。
出来ない楽器は幾つもあった。けれど、絶対に諦める事は無かった。
自分が出来る一番最大のものが、音楽だったから。
仮に音楽が出来なくなった時を考えて、勉強する事も惜しまなかった。
小学校に入った頃には、既に中学校までの勉強を終えていたので退屈で仕方なかった。
家に帰れば楽器、勉強の日々。
それでも俺は充実していた。楽器をしている時の母は、いつも笑ってくれていたから。
もう泣いてる姿なんて見たくない……その一心で、我儘も言わずにひたすら勉強と音楽にのめり込んだ。
そして……俺の人生を大きく変えた、8歳。
学校から帰って、いつも通りのルーティーンで一日が終わる筈だった。
食器を片付ける母にただいまと述べ、自室へ向かおうとした時、母が俺を呼び止めた。
「ねぇ、朧。そんなに無理しなくていいんだよ…?」
俺にはよく分からなかった。
「俺は無理してないよ。」
「じゃあ、なんでそんなに音楽と勉強を頑張ってるの?」
俺は言葉に詰まった。
普通にアイツを見返す為だと言えばいいのに、母の泣き顔が妙に脳裏に浮かぶ。
「そ…それは、将来の為に…。」
凡そ8歳の口から出る言葉じゃない。まだ将来の事など考えるには早過ぎる。
だけど仕方が無かった。勝手に身体が動いていたんだから。
アイツを見返そうと思ったら、じっとしていられなかった。
「…お父さんの事、気にしてるんじゃないの?」
ビクッと身体が震える。図星だ。
「やっぱり……そうなのね。」
あぁ…母さん、やめてくれ……!!そんな暗い顔をしないで…もうそんな顔は見たく…っ!
徐ろに近付いてきた母さんは、力強く俺を抱きしめ……耳元でこう囁いた。
「……ごめんね朧…っ。まだこんなに幼いのに……私とお父さんのせいで……!!」
母さんは、また泣いた。
なんで?俺は母さんを泣かせない為に努力してきたのに、なんで泣いてるの?
6歳の時、コンクールで全国優勝したよ?
学校のテストで95点以下を取ったことないし、ずっと学年で一番賢かったんだよ…?
ずっと俺を抱き締める母さんの嗚咽を聞くしか出来なかった俺は、いつの間にか涙を流していた。
泣いた、生まれた瞬間以外泣いたこと無かったのに。
俺は悟った。結局、俺が努力しても泣いてしまうんだ……。ならもう、努力なんて……。
そして篠崎 朧は、8歳で音楽を辞めた。
どうも、Y×2です。
今回は朧の過去を書きましたが、次回も朧の過去について書こうと思っています!
次は友希那パパと朧の出会い、そしてCiRCLEのオーナーとの出会い等を書きたいと思っています。
では、また次でお会いしましょう。
新作のバンドリ小説を書くなら、どの様なものが良いですか?
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