〖音楽を辞めた少年は、少女達と共に夢を視る〗   作:Y×2

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もうすぐ6万UA…ビックリです。


『進み始めた時間。そして現在へと』

「…久し振り」

 

 俺は都築 詩船の言葉に勇気を貰い、自室の部屋の隅に埃を被った一つのギターへそう呟く。

 

 もう十年近く触れていない為、チューニングに手間取ったが何とか調整を終えると、椅子に腰掛けてギターを構える。

 

 俺だけが出来る音楽。俺しか弾けない音。もう父親なんて関係ない、俺が弾きたい様に弾けばいい。 

 

 そして、小さく弦を弾く。懐かしい感覚だが指は驚く程素直に動いた。朧は天才だが自分自身がそうだとは思っておらず、愚直に努力した経験値と才能が指を滑らかに運ぶ。

 

 …気持ちいい。音楽は自由だ。何にも囚われず、好きな事を好きなだけ出来るんだ、誰にも邪魔されずに。

 

 朧の音色は激しさを増し、それにつられて身体も揺れ始める。いつしか椅子から立ち上がり思いのまま身体を動かしながら弦を弾いていく。

 音色は母の耳まで届いており、それを聞きながら母は密かに涙を流した。

 

 凡そ十年振りに聞く音色は昔聞いた音色と何ら遜色無い。寧ろ昔よりも洗礼されていた。

 身体が大きくなり小さい頃に出来なかった事が今出来るようになっている。

 止めどなく流れる涙を拭いながら、母は一人静かにその音に身体を委ねるのであった。

 

 満足がいくまで弾き続けた後、朧は音の無くなった静かな部屋の余韻を感じながら目を開く。

 

 弾けたよ、詩船さん。俺は俺にしか出来ない音楽を極めるよ。それが、今まで無視し続けた音楽への償いだから。Future World fesに俺は出る。どんな形でもいい、俺の音楽を世界に響かせてやる。父親を超えてな。

 

 心の中でそう誓いを立て、次の日から再び幼少期の時の様に音楽と勉強の毎日へと移り代わっていった。

 

 

 

 18歳。もうすぐ高校を卒業する歳となった朧は進学先を考えていた。音楽の大学へ行くのも良かったが、授業料が馬鹿にならない。

 かと言って普通の大学ではつまらない。

 

 うんうんと唸っていると、母がそっと朧の隣に腰掛けて進路調査票を覗き込む。

 

「朧、何処に行きたいか決まっていないの?」

 

「うん…どこも学費が高くてさ」

 

 苦笑気味にそう伝えると、母は優しく微笑んだ。

 

「お母さんはね、朧が進学に困らない様にちゃんと貯金してあるの。だから、朧が行きたい大学に行きなさい」

 

 朧は驚いた表情を浮かべつつ首を横に振る。

 流石にそこまで甘えては母の負担になってしまうだろう。せめて学費の半分程度は自分で稼ぎ、家にもお金を入れようと思っていた。

 

「朧」

 

 母はかつて幼かった頃の様にそっと頭に手を添え髪の毛に沿って撫でる。

 

「これで最後でいいから、甘えてちょうだい? それとも、迷惑だったかしら?」

 

 …ずるいな、母さんは。そんなこと言われたら断れないの知ってる癖に。

 

 母の優しさに観念し、朧は一つの大学を指差した。そこは音楽にかなり強い短期大学であり、音楽を学ぶと同時に教員免許も取得出来ると言う大学。

 

 母は不思議そうに何故この大学にするのかと問い掛けてきた。

 

「俺はレベルの高い環境に身を置きたい。それに、人に教えるのは好きだからさ。昔母さんにギター教えた時、凄く楽しかった。だから……かな」

 

「朧……」

 

 母は感無量で朧を胸元に強く抱き締めた。流石にこの歳になると少し恥ずかしいが、大人しく抱き締められる。

 柔らかく力強い鼓動を耳に感じつつ心地良さそうに目を細めてそっと身を離す。

 

「母さん、俺ももう18歳なんだからそう言うのは控えてくれよ?」

 

「ふふっ、朧が何歳になっても私の息子よ? 嫌でも抱き締めるんだから」

 

 その返答にやれやれと少し呆れた笑みで頬を掻いた。やはり母には敵わない…。

 

 大学の偏差値には充分届いていた為、受験勉強をそれなりにしつつ音楽も抜かりなく勉強した。

 受験の日、俺よりも母さんの方がそわそわしていたけれど、心配ないと一言置いて家を出た。

 その日は雪が疎らに降っていた。吐いた息は白く空気に混じり、いつも歩いている道は今日違って見える。

 久々に緊張してるな、少しだけど。

 

 入学には筆記試験と実技試験、そして質疑応答と面接の4つがある。取り敢えずどれも大丈夫と踏んでいるが、緊張でド忘れしない様にと頭の中で予め用意した応答と面接で述べる為の文を復唱する。

 

 そうしている内にいつの間にか現地へと到着していた。

 写真で見るより大きな大学だ。門を潜る男女はきっと同じ受験者だろう。これから競い合わなければならない人もこの中には居る。

 

 しかし朧は誰一人として気に留めていない。ここで得たいものは教員免許だけ。

 勿論授業はちゃんと受けるが、家に帰ってからの練習が本番だ。

 

 朧は受験票を片手に門を潜り大学の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春。それは出会いと別れの季節。俺の場合は始まりと出会いの季節だ。

 

 朧は難なく大学に入学する事が出来た。筆記試験は一位、実技試験においてはその実力から特待生として迎え入れられ授業料の3分の1が免除された。願ってもない収穫だ。これで母の負担も減るだろう。

 

 合否結果は母と共に見に行ったが、自分の番号を見つけたとき朧は安堵し母はとてつもなく喜んでいた。

 人目をはばからず思いっきり抱き着いて来たので流石に剥がしたが、心の中では少し喜んでいる自分も居た。

 

 入学の挨拶を任せたいと学長に提案されたが拒否。余りに目立つのは好きではないからだ。

 と言っても試験も実技もトップクラスだった朧が目立たない訳もなく、入学してすぐに人集りが出来るほどの人気者になり、弦楽器に限らず管楽器や打楽器にも精通してる事もありご教授を願いたいと休み時間は列が出来るほど人が並んだ。

 そんな忙しい毎日を過ごしていく内に人への教え方を勝手に学び、教える事で復習にもなる為更に朧の音楽は鋭さとしなやかさを増していった。

 

 そしてあっという間に二年が過ぎ、20歳。成人した朧は大学のラストコンサートで伝説を残す。

 ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、コントラバス。その四つのソロパートを全て弾いたのだ。

 普通であれば有り得ない事だが、提案したのはクラス全員の意志であり満場一致の賛成だった。

 その異例の決定に教師陣もざわついたが、朧の実力ならばと許しを得る。

 

 コンサートは過去に見ないほど盛り上がり盛況だった。そこで朧を知った人間も多いが、この時朧は偽名を使う事の許可を経た。相変わらず目立つのは余り好ましくないからだ。

 

 音楽を聞いた人々の記憶に「山田 太郎」と刻まれ、そのコンサートは太郎伝説と名付けられた。

 

 そんな太郎伝説から2ヶ月。卒業の時期が近付くと母からこんな提案を受ける。

 

「朧、卒業したら教師になるんでしょう? 朧なら何でも教えられそうだけど、音楽だけなら非常勤講師として働ける場所をお母さん聞いたのよ。そこはね、花咲川女子学園って言うんだけど……」

 

「え、女子高? いきなりハードル高くない?」

 

「朧ならすぐモテモテになるわよ。大学じゃあんなに告白されたのに何で断ったの? ミスコン優勝者にも告白されたんでしょ?」

 

「何で知ってんだよ…。そうだけど、俺にはもう大切なものがあるんだ」

 

「それって…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして朧は花咲川女子学園、通称花女の音楽担当で非常勤講師となった。




見ていたきありがとうございました。
これで軽く過去編は終了です!

新作のバンドリ小説を書くなら、どの様なものが良いですか?

  • シリアス系
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  • 恋愛系( 全員√ を書きます )
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