〖音楽を辞めた少年は、少女達と共に夢を視る〗   作:Y×2

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久々の更新です。お待たせしました。


第二十九話 『変わりたいから』

 ベースを教えてくれと頼んできた女の子の名前は今井リサと言った。その名前は一応パンフレットで見たことがありRoseliaのベースと言う事も知っていたが、唐突にそう頼み込まれた黒部は少し困惑して頭を掻いた。

 一先ず玄関で話すのも何だと二人を中へ入れソファーに座らせると、机に菓子とお茶を置いて対面に腰掛ける。

 

「えっと、今井リサ…だったよな。どうして突然?」

 

 そう問いかけられたリサは少し複雑そうな面持ちで俯きながら口を開く。

 

「前のバンド投票で最下位になったって事もあるんですけど、それよりも今のRoseliaが前に進む為にはキッカケが必要だと思ったからです」

 

 成程、納得の理由だ。だが疑問点はある。

 

「なんで君だけなんだ? 他の皆は?」

 

「実は……」

 

 リサは朧と友希那の間にある因縁を説明した。それを聞いた朧は、まさかそんな理由があったとは知らずに凄く驚いた表情を浮かべた。

 改めて、世界は狭いのだと実感する。

 

「……済まないな。あの頃は言葉に責任を持つ事を知らなくて 」

 

 だが、言った言葉に後悔はない。あの音色は本当に可哀想だと思ったのだ。楽しむ事を失い、ただ決められたフレーズ呑みを引き続ける虚しさ……自由を失った音楽は、籠に囚われた鳥と同じで空には羽ばたけず誰の目にも止まる事は無い。

 音楽とは、音を楽しむから音楽なのだ。楽しむ事が出来なくなれば、それは音楽では無い何かになってしまう。

 

「 私は勿論、他のメンバーもそんな事は知りませんでした。だから、友希那を除いて本当に指導を受けても良いのかって迷っていて。でも…でも私は変わりたい! もう隣に居るだけの幼馴染は嫌なんです。それなら、私だけでも何かしないとって!」

 

 …この子は本当に優しいな。見た目はギャルっぽくて真面目そうには見えないが、Roseliaの大黒柱なのは間違いなくこの子だろう。こんな熱意を見せられては、答えるべきは一つ。

 

「 分かった、君の覚悟は本物だ。俺で良ければベースを教えるよ 」

 

 その言葉を聞くと、リサは強ばっていた身体の力が抜けて安堵の笑みを零した。ここで断られたら、何が何でもお願いするつもりだったからだ。

 

「 今井 リサは長いから、これからリサと呼ばせて貰おうか。今日から早速レッスンに移るが、その前に。日菜、一時間程度時間をくれ。その時間でリサにベースの基礎を叩き込む 」

 

「 え〜! またいつものメニューなの〜? もう飽きちゃったよ……まぁでも、リサちーの為なら仕方ないか! 隣の部屋借りるね!」

 

 そう言うと、日菜は隣の部屋にある防音室へと入り練習を始めた。

 

「 さてと、リサ。君はベースだが、その役割を理解しているか? 」

 

「 えっと……低音域でギターとドラムなどの隙間を埋める役割だって聞いた事あります 」

 

「 うん、その認識で間違いは無い。だが他にも大切な役割は沢山ある。ベースって言うのは、リズムとメロディーを両方扱う事になるからベース……つまりバンドの土台と言うわけだ。そこが崩れれば全体が崩れてしまう。だが逆を言えば、土台さえキチンとしてれば演奏が乱れる事はそうそう無い。とても重要な立場だと言う事を認識するんだ 」

 

 この人の言葉一つ一つに重みがある。きっと本当に自分と向き合ってくれているのだと、リサは真剣に話を聞く。

 

「 他の楽器に比べれば単調な所が多いが、それ故の難しさもある。曲の進行、リズム、テンポ、ビート…考える事は山程ある。幸いRoseliaの演奏を聞きに行った事があるから、何が足りないかはある程度分かっている 」

 

 そして朧は、練習用のベース譜面を差し出す。いつもRoseliaでしている譜面よりかは簡単なものだろう。

 

「 分かりました…やってみます 」

 

 リサは緊張した面持ちで深呼吸をして、その譜面を弾き始めた。

 …悪くない。譜面に忠実で丁寧に弾いていて、リズムキープもある程度出来ている。

 

「 うん、いい感じだ。ただ足りないとすれば、グルーヴ感だな。譜面通りに弾いていても面白く無い。今度は抑揚を意識して弾いてみてくれ 」

 

「 は、はい! 」

 

 リサはもう一度ベースを弾き始める。だが…

 

「 ストップ。リサ、グルーヴって言うのは分かるか?」

 

「 言葉は知ってますけど、余りピンと来てないです… 」

 

 それもそうだ。グルーヴとは日常で聞くことはあるが、それが何かと掘り下げる人は少ない。今まではRoseliaの一員として感覚で弾いていたのだろう。だがいざ一人になれば、グルーヴの作り出し方が分からないと言った所だな。

 

「 グルーヴとは、簡単に言うと身体が喜ぶビートだ。結構あるだろ?音楽を聞いたりしてたら身体が動いてしまう事が 」

 

「 確かにありますね… 」

 

「 あれがグルーヴだ。今のリサは、音の大小のみでグルーヴを作り上げようとしている。それだけじゃなくて、ワザとリズムをずらしたり音を足したりして遊んでみるといい 」

 

 試しにやってみよう、と朧はベースを軽く弾く。

 

 リサはその技術に圧倒された。同じ譜面にも関わらず、全然違う曲を聞いている様だ。リズムがズレても違和感は無く、音符が無いところに音が足されてもそれは寧ろ無くてはならない物に聞こえてしまう。

 こんな人に教わっているのは、とても幸運な事なのだと改めて感じた。

 

「 ま、こんな感じだ。今のは分かりやすくグルーヴを付けてみたが、どうだった? 」

 

「 す、凄いです! なんて言うか、身体が勝手に… 」

 

「 それがグルーヴだからな。無意識に身体が動きたくなってしまう…本能に訴えかけるビートを学べば、自ずと曲にもうねりが出来て飽きなくなる 」

 

「 つまり、ビートから学べと言うことですか? 」

 

「 だな。まずは4ビート、8ビート、16ビートを基礎から丁寧にやろう。基礎がしっかり出来れば、アレンジを入れる余裕もより多くなるだろうし 」

 

「 はい、お願いします!」

 

 こうして一時間、みっちりと訓練を受けたリサのベースがRoseliaにどの様な影響を及ぼすのか。

 それは次の練習の日に分かる事となる。




読んで頂きありがとうございました!

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