「…何のつもりだ?」
向かい合う師匠が問いかけてくる。
冷たい口調に反し、表情には戸惑いが濃く表れている。
無理もない。
師匠からすれば、あまりにも突然の裏切りだ。
俺は今、倒すべき魔物に背を向け、師匠の異能行使を妨害した。
そして、師匠に対し明らかな戦闘態勢をとっている。
俺だってやりたくてこんな事してるわけじゃないが、致し方あるまい。
「彼女を傷つけさせる訳にはいかない…‼」
「え?今何が起こったんです?」
「何やってんだバカ弟子!」
かくして。
そもそも状況が分かってない彼女――魔物のため、困惑する師匠に挑むこととなった。
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逆転世界で異能ヒーロー
彼は如何にしてマッハで師匠を裏切ったか
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Vやねん‼異世界(仮)転生。
俺の15年の転生人生の感想だ。
実家が金持ちで、両親に愛され、親戚のおっちゃんにだって好かれて、才能に溢れてる。
まぁ代々の才能のおかげで一族に金があって、そこを期待されてるわけだからしがらみもないわけじゃないが…。
それにしたってイージーモードな人生だ。
死んだときにあったわけじゃあないが、神様が祝福を授けてくれたことは疑いようがない。
生まれた世界だって完璧だ。現代日本(多分)で、なおかつこの世界には異能がある。
異能。
この世界では異能と総称される超能力があるのだ!
人知れず魔物と戦う異能力者がいて、しかも我が一族が日本の異能力者筆頭だ。ただ恵まれているだけじゃなく、スリルとロマンを兼ね備えた設定。実に素晴らしい。
俺は神に感謝した。今も良く神棚を拝む。
異能の存在を知って、そしてそれが自分にも使えると知った俺は歓喜した。そして修行にのめりこんだ。
だって自由自在に魔法が使えるようになったんだ、喜ぶし試してみたくなるだろう?
まぁそんなノリで修業していたから、師匠になってくれたじいちゃんを心配させる羽目になってしまったが…。異能が強くなっていくのが楽しすぎて、義務教育すらろくに行かなかったのはやりすぎたかも知れない。この高スペックな肉体と才能のおかげでドンドンと異能が強くなるものだから熱中してしまったのだ。
じいちゃんや両親は俺が力を求めて暗黒面的なモノに堕ちたり情緒不安定になったりすることを心配していたが、そこは転生者の面目躍如、年相応よりちょっと成熟したくらいに偽装した決意表明と学力の証明、一族の使命に対する熱意を語って事なきを得た。
実際、異能の才能がある者は魔物に狙われやすいという(おなじみの)設定があり、自衛ができるようになるまで隔離された修業場に行く事例は多いらしい。特別力の強い俺はその分強い魔物を引き寄せてしまうため、長く修業する大義名分もあったのだ。
そんな訳で15年間、ほぼ外界と隔離された山里で修業の日々だった。
しかしその間の俺は終止笑顔とワクワクでいっぱいだった。それは俺の異能が成長をし続けたからであり、十五歳から(つまりは今年からだ)高校入学と共に、街を守護して魔物と戦う守護役任命が内定していたからだ。
そう、高校生で、異能戦士である。
そう、高校生で!街を守るヒーローなのだ!!
転生前、夢想していたロマンがそこにはあった。
魔物も気兼ねなくぶっ飛ばせる自然発生的存在がほとんどらしく、カルマのバランスも良い。
完璧な状況だった。
しかも高校は地元で評判の優良校で、制服もデザイナーが作ったとかいう小洒落たもの。
素晴らしい。
街そのものも近年再開発されたとかで、自然と近未来感が合いまった良い景観だ。
この体は筋トレが早すぎてやや小さいものの、クール系イケメン細マッチョのパーフェクトボディ。
守護役の上司もじいちゃんお墨付きのエース級とくれば、もはや勝利は約束されたも同然だ。
闇を駆ける高校生異能者。しかも名門一家のサラブレッド。
頼れる上司とコンビで街を守る、普段はクールなナイスルッキングガイの高校生だ。
まさしく主人公な設定である。
輝かしい青春と俺Tueeeの日々が俺を待っている‼
この守護役内定を知って以来、被っていた猫もかなぐり捨てて、俺はさらに必死に修業を行った。脇目も振らず、修業し続けた。
すべて、すべては俺Tueeのために。
そして、俺は成し遂げた。
独り暮らしに反対するじいちゃんの修行を、ゲロ吐きながら気合で乗り越えたのだ。
じいちゃんは修業時以外にはむしろ過保護なくらいで、ろくすっぽ実戦経験が積めなかったけど「まぁ行けるやろ(慢心)俺、天才ですから!」なんて言っても許されるレベルで力を付けたのだ。
じいちゃんにも、同年代の「群青の美姫」だの「剣巫女」だのより強いとお墨付きをもらった。
こうして俺は胸を張って歩き出したのだ。
俺Tueeへの道を。
そして胸を躍らせて入学式の日を待ち、髪やらなんやらをバッチリキメて迎えたその日、新入生を見て、そしてその自己紹介を聞いて、大きな大きな違和感を覚えた。
そこで初めて気づいたのだ。
なんか前世と違うな、と。
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予想外だった。
想定外だった。
というか想像だにしなかった。
修業時代――つまりこれまでの人生ほぼすべては修業場と山とじいちゃん家の往復しかしていなかった。
だが着る服がユ〇クロやしまむ〇で、洗濯機がパナソニ〇クで、独り暮らしを機に渡されたスマホは林檎だったのだ(微妙に古い型だった)。
完全に前世と同じ世界だと疑いもしなかった。
しかし…しかし。明らかに前世とは男子と女子のノリが違う。
男子は、なよなよしているというか、女子力の高いことを言っている。やたらしとやかだ。
女子は、豪放磊落というか、サバサバして気風がいい。元気っ娘いい…じゃなかった、男っぽい。
ううむ…。
なんかクラスメートが想像と違うぞ。
まぁそもそも異能という大きな差がある世界だ、他にも色々差があってもおかしくはない。
じいちゃん曰く、強い異能者には女性が多いという。
その影響なのか、軍人やら警察など戦う系の職業は女性が主流だそうだ。
一緒に見ていた時代劇でも女性剣豪ものが多かった。
そんなわけで女性が勇ましいのは聞いていたが、男側もなんだか違うようだった。
意外と異世界間の文化の壁が厚い。
このままではクラスで浮いてしまうかもしれん。
うーむ…。
いきなりバラ色学園生活にもつまずいてしまったが、まぁいいだろ。
俺は楽観的に考えることにした。
自己紹介を簡潔なものに変更し、ミステリアスキャラで行くことした。
無口キャラでしばらくクラスを観察することにしたのだ。
そもそも、今世ではじいちゃん、両親、妹と親戚以外では十年近く前の小学校時代(それもすぐ辞めて修業に戻った)くらいしか人と話していないのだ。
そんな状況で自己紹介からクラスの人気ものを目指すのは土台無理がある。正しい自己認識も異能戦士には必要な技能なのだ。
部活だって、街の見回りがあるから参加は難しいだろう。
むしろちょっとくらい不良みたく思われたほうが動きやすいかもしれない。不良キャラが実は正義の味方だった、というのもギャップ狙いでいいのではないか?不良が猫助けるやつの究極系だ。よし。
寡黙なクラスメートが、実は町を守る戦士だった…!みたいな展開を目指す。
まぁこの世界でそういう展開が王道として成立しているかは分からないが。
もしこれも成立してないとなると、本当に困る。
俺は十五年の修業の日々の中、常に格好いい異能ヒーロームーブに思いを馳せ続けてきたのだ。
人知れず悪と戦う俺。
クラスメートを颯爽と助ける俺。
孤独に街を悪から守り、クールな笑みを浮かべる俺。
そんな妄想をいつか実現できると知ったからこそ、高校生になる前に俺tueeできるレベルになるため、ゲロ吐きながら修業したのだ。ロマンと妄想こそが俺の原点であり原動力だった。
しかしその前提は崩壊した。
こんなにも異世界人と俺で意識に差があるとは思わなかったよ…。
クラスメートの自己紹介を聞きながら、思う。
俺考案の「格好いいムーブ」は俺の知る常識とセオリーに則ったものだ。
この世界でも、そうしたセオリーが通じるかどうか確かめねばならない。
帰宅し、一度冷静に考える。異能ヒーローとしての初出勤まではまだ少し時間があった。
机にしまい込んだ俺考案「格好いいシチュエーション」ノートを取り出し、読む。
何が問題となるのかを確かめねばならない。
修正し、改善していかねばならない。
如何にして格好いいムーブを貫き、俺tueeをするか。
それこそが、俺の最大の目的なのだから。
早く魔物娘出したい。
魔物娘が出たらR18に行く。(断固たる意思)
主人公は異能者や戦士系の職業に女性が多いことは聞いていますが、「ラノベでよくあるやつだろ?知ってる知ってる。」くらいで流しています。
男女観念がまるっと逆転していることに気づいていません。
結果として、ナンパされたらホイホイついてく名門異能一家の箱入りサラブレッドとかいう危険物になりました。