逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

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あとがきを書いた後、追加で21人の方から評価を頂きました。ありがとうございます!
これからも、私の作品に限らず色んな作品に是非評価を入れてみて下さい。作者は喜びます。


それでは19:13にお届け!第二章第一話「自称魔剣使い」! 今回は繋ぎの回って感じです。第二章では魔物娘化タグが仕事しますので、もうちょっとお待ちください。



自称:魔剣使い

 

 

 

 

 

前回の三つの出来事。

 

一つ、酔いどれオウムがすごく人気だった。

 

二つ、師匠が仏の心で許してくれた!

 

三つ、二号ライダー登場!

 

 

 

 

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「戦え…戦え…。」

 

 

 

 

 

 

 

目覚ましが鳴っている。

眠い。

だが、頑張って起きねば。

 

 

 

電気ポットのスイッチを入れる。

歯を磨き、髭をそり、服を着替える。

髪もばっちりセット。

お湯が沸いたのでインスタントコーヒーを淹れ、飲む。

眠気に耐えながらホールトマトを空け、水で薄めコンソメを追加してスープにしていく。

パンは昨日買っておいたバゲットを切ればいいだろう。

後はウィンナー、ポーチドエッグ、レタス…はないのでキャベツを刻んでおく。

サラダにも彩りが欲しいところだ。

今度ベーコンフレーバードビッツを買っておこう。

レストランとかでサラダの上に散らされている赤いアレのことだ。

 

そこまで作ったところで、窓がコツコツとノックされる。

横目でスープの状態をチェック。入れたじゃが芋がまだ煮えていない。

むむ、もう少し早起きすべきか…。

窓を開け、挨拶。

 

 

「おはようございます、ロウさん。」

 

「おはよう、玄徳くん。」

 

 

コーポ赤城のベランダには、偽装術式を展開したロウさんが居た。

初遭遇からちょうど一週間。

ロウさんはこうして俺と朝食を食べることが許される程度には、師匠の信頼を勝ち取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の報告とロウさんの証言、そして術式――つまりは異世界式異能の実演等による、ロウさんの知性と証言の正確性検証を経て、師匠と俺の危機感は共有された。

 

 

ロウさんをこちらに引き込んだ者の正体については、未だ判明していない。

だが師匠曰く、師匠が守護役として常駐する根拠となった、炉火市の異界発生件数の多さに関係している可能性があるらしい。

仮に人為的に異世界への干渉が行われていた場合、それが異界の拡大だけでなく発生の増加を呼び起こす可能性があるからだ。

まだ明確な相関が判明したわけではない。

しかし無視できるものでもない。

この件の黒幕が何年前から活動しているか、という非常に重要な情報につながるからだ。

ロウさんが居なければ、俺たちは黒幕の計画に気づくこともなかっただろう。

気付いた時にはドゥームズデイが来てた、なんて可能性もあった。

そしてドゥームズデイが明日来る、なんて可能性も普通に存在する。

 

そりゃ師匠もFXで全財産溶かした顔になろうってものだ。

 

 

 

そんな訳で、今は十年遡って異界の発生数やその分布偏差やなんかを調べている。

迂遠かつ時間のかかる手段だが、現状それしか手掛かりがない。

 

異能者業界上層部への報告を既に行ったにもかかわらず、この件に緘口令が敷かれているのもそれが理由だろう。

世界が明日滅ぶかもしれません!でも打つ手は特にないです!なんて発表すれば、暴動が起きかねない。

 

一応上層部のスタンスとしては、ロウさんが異世界から来たことは認めつつ、その要因は現在調査中だとしている。

根拠がロウさんの証言しかないため、黒幕が居ない可能性、異世界への事故的転移の可能性も捨ててはいないのだ。

だが、本来は異世界からのストレンジャーというだけで大事件だ。

それにも関わらず、ロウさんは上層部の歓待を受けることもなく、現状のまま炉火市に居ることとなった。

もうその事実だけで、今上層部がどれだけ焦っているのかが分かる。

 

 

上層部が追加人員や情報分析官などを手配してくれることにはなったが、人材不足の異能者業界で極秘裏に動かせる人数などたかが知れている。

間違いなく、自然にこの件に介入できる俺も師匠も調査に投入されるだろう。

 

世界を救うヒーローチーム。

今のところ、総勢は二名だ。

ははは、ははははは。

胃が痛いよう…。

 

 

 

 

 

 

 

ロウさんについても、要経過観察とか言ってる場合ではなくなった。

まず師匠が超忙しいし。

幸いにも、性格や個人的気質に関しての問題がないことは明らかだったこともあり、五日間師匠と一緒に寝泊まりした後、無事自由の身となった。

とはいえ、異世界人である。

五日間の寝泊まりも、実質上この世界で生きるためのチュートリアルだったそうだ。

忙しい師匠に代わり、俺が担当しようと提案したものの、流石に師匠に断られた。

調書などを取る必要もあったし、そもそも俺は一緒に逃げだした前科持ちだからである。

一応じいちゃんの修業で書類作成術なんかも習っていたのが、まぁそうなるよね…。

 

 

 

「玄徳くん、御馳走様でした。

 美味しいご飯、ありがとうございます。」

 

「いえいえ、むしろ簡単なものしか出せず申し訳ない。」

 

「私としては異世界食材が楽しみなので、こういうのも好きですよ?」

 

 

例の羽毛布団形態でころころと寝転がりつつ、会話。

師匠との寝泊まり中も、形成したエーテルの受け渡し等を行っていたいたのだが、なんだか満足していただけなかったようだった。

聞いてみたところ、やはりあの羽毛布団形態が一番良い、という回答。

時間そのものは短くても問題ないとのことだったので、こうして早朝に二人してころころ転がっている訳である。

 

…美人は三日で飽きると言うが、ありゃ嘘だな。

超ドキドキする。

 

 

 

現在ロウさんは、師匠の家の一室で寝泊まりしている。

VIP待遇の一環として予算も支給されたので、しっかりとした家やホテルへの居住も可能だったが、本人の希望によりそうなった。

流石にまだ電化製品や異世界式生活に不慣れな面もあったのだろう。

だが希望理由はそれだけでなく、師匠への心配もあるようだった。

 

師匠はこの一週間、死ぬほど忙しかった。

俺も飯炊きなどの雑務や報告書・口頭報告原稿の草案作成などを手伝ったものの、最終的な確認や承認、報告はすべて師匠がしなければならなかったためである。

デスマーチだった。

世界が滅ぶ前に、書類仕事に殺されかけていた。

ロウさんがどうにか俺たちを手伝おうと、例の治癒術式で支援してくれなければマジでぶっ倒れていたかもしれない。

当のロウさんは、本来ならこんなに効果のある術式じゃない、なんて首を傾げていたが、実に有難い支援だった。

そんな修羅場を三人で乗り越えたのも、五日間のスピード釈放の理由だろう。

 

なんだろうね。

上層部だって協力的なのに、なんでこんなことになっているんだろうね…。

 

 

 

 

 

「…ふぅ。玄徳くん、ありがとうございました。」

 

「いえいえ、お気になさらず。」

 

「今日はあの日の森の方に行ってみます。

 あんまり飛ばないでいると、体も鈍りますしね。」

 

「分かりました。行ってらっしゃい!」

 

「行ってきます~。」

 

 

 

心なしかツヤツヤしたロウさんが偽装術式を展開し、飛び去って行く。

他の異能者に飛行姿を見られると問題になりかねないが、ロウさんの逃走速度に勝てる異能者は稀だ。

それに何か問題があったとき用に音声起動スマホの使い方は最優先で教えたので、いざとなれば俺か師匠がマッハで駆け付けることになっている。

 

…まぁそのスマホが、GPSだけでなくあらゆる意味でロウさんを監視するデバイスになっていたりもするのだが。

それだって、俺以外からエーテルを奪っていないことが証明されれば解除されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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報告書地獄を乗り越え、上層部の情報分析官への伝達を終えた師匠と俺は、待機を指示された。

異界討伐も通常業務と同じ程度のペースであり、師匠ではなく俺がこの一週間すべての戦闘を担当している。

これは急激に異界討伐ペースを上げると、黒幕に「お前の存在に気づいたぞ!」と宣言するに等しくなるからだ。

 

だが正直、修羅場を乗り越えた後の休息にも関わらず、嬉しくない。

いつ世界が滅ぶか分からないのに、休息しろと言われてもなぁ…。

戦士にとっては休息も仕事の内、なんて言うが休息がこんなにも難しい仕事だとは知らなかった。

 

はぁ。

とりあえず、ベーコンフレーバードビッツ買いに行こ…。

 

 

 

 

コーポ赤城は俺の通う「鴻上学園」からほど近い住宅街にある。

「鴻上学園」は再開発前から炉火市の目玉として存在していた、中高一貫の名門学校だ。隣接して大学や研究施設なども存在する。見事なゴシック建築の学術棟は、炉火市の名物にもなっている。

その学園の生徒や職員、関係者のための住宅街が古くから存在しているのだ。

だがその分、近年再開発された繁華街や大型商業施設なんかからは少し遠い。買い物をするのにはちょびっと不便。

だがローラーブレード型高速移動用異能器は使わない。

一週間前酷使した所為で、なんだか調子が悪いのだ。

 

しばらく歩くと、登校する小学生たちとすれ違う。

この辺りには小学校も多いのだ。

なんでも最初は鴻上学園を支援するために結成されたOB会が、後に財団となって炉火市全体の教育関係各所への支援や連携を図っているのだとか。

鴻上学園が設備の割に学費が安いのはそのためでもある。成績による段階的な学費免除制度なんかもあり、その効果もあって鴻上学園は超人気校となっている。

俺がここに入れたのも、その財団に異能者関係のコネクションが存在したためである。

 

行政は再開発に際し、この財団と連携して教育の街として炉火市を再構築していこうと計画している。

 

 

もし異界が大量発生すれば、若い学生たちが多く犠牲となるだろう。

それを許すわけにはいかない。

止めねばならない。

絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やだやだ、またシリアスになっちまった。

休憩のために外出して、シリアスになっていれば世話はない。

 

気分を変えるため、塀の上を歩いている猫をかまう。

買い物に行ったり、師匠の事務所に行くとき、よく見かけるヤツだ。

なんだかふてぶてしい茶トラ柄の三毛猫。

毛づやも良くて首輪もしているので誰かの飼い猫のはずなのだが、色んな名前で別々の人に呼ばれているところをよく見る。

謎の猫だ。

 

 

近づいても逃げないが、いつも触ろうとすると威嚇される。

ここのところ師匠の事務所に通うとき、毎度構っているのだが触らせてもらえない。

最初は引っかかれたので、慣れてきた方ではあるのだが…。

 

だが、今日の俺には秘策がある。

買い物用エコバックから、猫向けおさかなソーセージを取り出す。

 

無反応。

 

…。

包装を破って、目の前に差し出してみる。

顔がこちらに向く。だが食べない。

塀の上にソーセージ置いて、俺自身は下がってみる。

やっと食べた!

 

ちょっと感動して猫に近づいた俺は、手を引っ掛かれた。

身持ちが硬いなお前…。

でも去り際には尻尾を振って見送ってくれたので、もうちょっと通えばイケる気がする。

 

猫で遊んでるんだか猫に遊ばれてるんだか分からん気分転換をしていたところ、林檎スマホが鳴った。

師匠からの着信。

ふむ、来客とな?

 

 

 

 

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「おはようございます、師匠。」

 

「おはよう、玄徳。

 君に客が来てる。」

 

 

上層部からの追加人員かと思ったが、師匠の様子を見るにどうも違ったようだ。

ちなみに師匠の俺への呼び名は、「玄徳」に落ち着いた。

裏切り中はもうちょっと気安く「お前」とか「バカ弟子」とか呼んでいてくれていたのだが。

俺としては全体的にもうちょっとぞんざいに扱ってくれても構わないと思っている。年上に従うことに否やはないし。

 

それはともかく、客である。

チラリと横目で事務所のソファーに座った人物を見る。

黄色多めの謎の服装。

格好いいけどところどころに露出があり、ちょっと痴女っぽい。

そして何より目を引くのが、装飾過多の鞘入り西洋剣だ。

西洋の刀剣にはあまり詳しくないがなんだかゴテゴテしている。

 

うーむ、心当たりがない。誰?

 

 

「彼女は(つるぎ)さん。一週間前、救援要請に応えてくれた異能者の一人だ。

 あの戦いで玄徳が疲弊したと聞いて、見舞いの品を持ってきてくれた。」

 

「それはそれは…ありがとうございます。

 むしろこちらから挨拶に出向かねばならないところ、今日は見舞いの品まで頂きまして…。」

 

「お気になさらず。お体はもう大丈夫なんですか?」

 

「はい、おかげさまで。」

 

 

爽やかな笑み。

だが、なんだか探るような視線。値踏みされている気分。

ふむ。

 

だがロウさんのことがあったとはいえ、本来ならこちらからお礼に行くのが筋だった案件だ。

そもそも俺の着任挨拶回りも終わりきってない時期だったしな。

 

「なんだか、木勢さんはお疲れみたいですね。

 お邪魔でしたでしょうか。」

 

「異界渡りの後始末が色々とありましてね…。

 私ではお手伝いしきれない部分もあって、師匠はここのところ寝不足なのです。」

 

「そうでしたか…。

 つまらないものですが、こちらをどうぞ。羊羹です。」

 

「…!ありがとうございます。」

 

 

すごいものが来た。

虎のマークの高級羊羹である。しかも結構量が多い。

 

なんだよ剣さんって良い人じゃん!

師匠の好みを押さえてる辺りも高評価だ。

痴女っぽいとか思っててごめんね!

 

お茶を淹れに行った師匠と入れ替わりに、ソファーに座る。

若干剣さんからの視線が痛い。

いや俺も師匠に御茶汲みなんかさせたくないけど、師匠は和菓子に合わせるお茶にこだわりがあって、俺がやろうとすると怒るんすよ…。

 

 

「手、怪我してらっしゃいますね。

 どうぞ。私のウェットティッシュを使うといい。

 そのままにして置いたら、雑菌が入ることもありますからね。」

 

 

剣さんはそういって、アルコールティッシュを渡してくれる。

手についた猫のひっかき傷を、羊羹の受け渡しの際見たのだろう。

こんなん唾つけときゃ治るだろと放置していたが、一理ある。

有難く受け取る。

 

 

「猫の爪…ですか?

 飼ってらっしゃるんですか?」

 

「いえ、ここに通うときにいつも見かける猫がいまして。

 ここ最近構っていたら、やっとエサを食べてくれたんですが…

 触ろうとしたら引っ掛かれちゃいました。」

 

「へぇ…。」

 

 

今朝の感動を思い出し、ついつい長めに喋ってしまう。

剣さんの視線が、何故か強まる。

何故だろう。

例え犬派でも、猫の話は聞くのも嫌い、なんていう特殊戦メンタルじゃあるまいし。

 

 

「戦闘で疲弊して数日寝込んだ、と聞いていたのですが…。

 野良猫をかまう元気はあったんですね。」

 

 

あ。

いや待て。まだリカバリは可能だ。

 

 

「ええ。すっかり良くなりまして。

 数日会ってませんでしたが、猫も私の顔を覚えていてくれました。」

 

 

そもそも野良猫と毎日会っている方がおかしい。

言い逃れの余地はある。

…だが、猫に引っ掛かれたのは今日が初めてではない。

修羅場の最中も、現実逃避のために構って引っ掛かれた。

気付かれたか…?

 

 

「異界渡りを討伐して一週間も経っているのに、後始末が終わったのはついさっきみたいだ。

 それもおかしな話です。流石に長すぎる。

 さて、あの日本当はこの街で何があったのか…。」

 

「考えすぎですよ。

 異界渡りの発生過程やなんかについて、上層部の情報分析官に報告が必要になっただけです。」

 

「へぇ。上層部が。検証が必要だと、そう判断したんですね?」

 

 

…こいつ。

気取られた情報は、どれも薄い状況証拠でしかないにも関わらず嫌に断定的に話かけてくる。

事前に何か情報を掴んでやがったな。

 

 

「神崎玄徳さん。

 私は既に、貴方方の情報操作について知っています。

 良くないなぁ、こういうのは。」

 

 

声色がねちっこいものに変わる。

やはり、緘口令に感づいたのか。

 

 

思考が、戦闘モードに切り替わる。

俺たちに事実を明かす権限はない。

つまり、採れる手段は僅か二つだ。

騙眩かすか、黙らせるか。

だがこいつは確信を持って、俺に話しかけた。

よし。

 

斯くなる上は口封じしなきゃ(使命感)。

 

 

 

 

「身の潔白を主張するなら力で示しなさい。

 神崎玄徳、君にデュエルを申し込むッ!」

 

「受けて立つぜ!

 先攻は俺が貰う!」

 

 

 

 

叫ぶと同時に、俺は霊力弓を形成して不意打ちを敢行した。

 

 

 

 

 

 

 

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デュエル。

それは、主に西洋で用いられる異能者同士の戦闘訓練レギュレーションの一つだ。

 

実情としては異能者同士の序列において、戦闘力は重視されるファクターではない。

どちらかと言うと、流派の発展や新技術開発に尽力した者、或いは異界を討伐し続けて実績を積み続けた者の方が評価される。

だがそうは言っても戦闘職なので、戦って白黒はっきり付けたい時もある。

 

そんなときに行うのがデュエルだ。

相手に攻撃をクリーンヒットさせればワンラウンド終了、ツーラウンド先取式の三本勝負だ。

審判が止めるかどちらかがまいったと言うまで続ける、神崎流戦闘レギュレーション「立ち合い」より大分ぬるいが、現在の異界戦闘では負傷=即撤退が周知徹底されているので、此方の方が実情に即しているといえる。

 

 

「ふふん、このワンラウンドはくれてやる。

 ちょうどいいハンデだ。」

 

「…。」

 

 

冷めた視線。

せいぜい油断するがいい。

俺は吹き飛ばされた姿勢のまま、剣さんを睨みつける。

 

 

 

完全に不意打ちが決まったと思ったのだが、事務所と羊羹の危機を感じとった師匠が超高速で現れ、ぶん殴られた。

いやまぁ、事務所で霊力弓ぶっ放した俺が全面的に悪いんですけどね。

でもあんなこと言われたら、多少はテンパってしまうのも無理からぬ話でしょう?

まぁ実際には、剣さんがこっちを侮るような疑うような目付きをしてたから熱くなってしまったのだが。

 

心の中で言い訳を思い浮かべつつ、剣さんと二人、戦闘が出来そうな自然保護区へと向かう。

 

ぶん殴られたおかげで、頭も冷えた。

ついでに、状況を伝え上層部への指示を仰ぐよう師匠に伝言を頼むことも忘れない。

冷静に考えれば、鴨が葱を背負ってきた感じはある。

上層部はまず間違いなく、口止めではなく剣さんもこの件に巻き込む道を選ぶだろう。

お前も一緒に世界を救うんだよ!

逃がさんぞ!

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、上からの指示が来るまで時間稼ぎである。

 

とりあえず心理戦フェイズっぽく、会話で場を繋ぐ。

 

 

 

「あなたのことは存じてますよ、剣さん。」

 

「へぇ、そうなんだ。

 どんな噂を聞いていたのかな。」

 

「曰く、自称魔剣使い…。

 まったく、魔剣だなんておかしな話です。」

 

 

 

現代の日本で魔剣だの霊剣だの神刀だの名乗るやつに、碌なヤツはいない。

まず間違いなくニワカか法螺吹きだ。

歴史ある流派で、それらを用い戦う流派は一つ足りとも存在しない。

 

 

それには歴史的理由がある。

時は第二次世界大戦直後、GHQによる占領期。

 

GHQは占領政策の一環として、戦勝祈願などを行った神社に対し大規模な圧力をかけた。

この圧力は祝詞の内容変更や「勝守」という直接戦争には関係のないお守りの頒布中止にまで広がっていった。

そしてこの圧力は武力と関係するとされた霊剣や神刀にまで及び、その多くが接収された。

 

この圧力は異能者業界にも及んでおり、異能器が一般化する前に用いられていた霊剣の類がその対象となった。

それもあって当時のGHQからは、異能者業界そのものが大分睨まれていたそうだ。

 

しかし異能者は世界の守護者であり、戦中だろうが戦後だろうが必要な組織だ。どうにかしてGHQから国内での活動を認めてもらう必要がある。

そのために当時の異能者たちは一丸となって自発的な刀狩りを敢行、美術品として博物館に寄贈し、GHQからの圧力を躱した。

この自発的にGHQに従う姿勢と、仕事が増えることを嫌った連合国側異能者団体からの嘆願により、異能者業界は例外的に戦前からの体制を引き継いで今に至っている。

 

 

つまり歴史ある霊剣なんてものが出てきた場合、組織が一丸となって世界守護のために動いていたときに、それを裏切って財産を秘匿していた者がいることになる。

ぶっちゃけた話そういう者も剣もなくはないのだが、それらは秘伝化しているし、少なくとも自分から名乗ったりはしない。

 

 

 

 

 

 

そんな訳で彼女の二つ名「自称魔剣使い」は相当に奇異なものだ。

とはいえ、これは全て国内に限った話である。

西洋には普通に歴史ある魔剣使いもいる。

彼らも日本で仕事をする際は魔剣や霊剣ではなく、母国語の呼び名を使ったり気を使っているそうだが。

 

まー剣さんもわざわざ西洋式のデュエルを挑んでくるくらいだし、あの魔剣も西洋からの輸入品だったりするのだろう。

傍目からは分からないが、本人がハーフだったりするのかも知れない。

 

 

 

 

このお喋りは的外れな挑発を装った雑談であり、師匠が上層部と話を付けるまでの時間稼ぎだ。

只の雑談じゃ、即切り上げて襲い掛かってきそうだし。

頑張って口を回す。

師匠まだかな…。

 

 

 

「言いたいことは、それで全部かな。

 それじゃあ、早く始めようか。」

 

 

うん?

なんか怒ってない?

 

 

「今日も、この剣は血を求めててね…。

 鈍らかどうか、その身で確かめてみるといい。」

 

 

「…さっきのはあくまで日本国内の話です。

 その西洋剣を馬鹿にしたつもりはありません。」

 

 

「いいや、君の魔剣談義に怒っているわけじゃない。

 魔剣の前提に歴史が必要だと思っている、君の愚かさに呆れているんだ。

 これは、最新の魔剣だ!」

 

 

 

 

あの装飾過多な鞘飾りの一部がメカニカルに変形し、剣が撃ちだされるように加速。

黄色の軌跡を残す、高速の横薙ぎが放たれた。

 

 

 

 

 




私的には三人組だったアギト、むしろ主人公が後輩だった龍騎よりも、追加登場の二号ライダーとして印象深いのがカイザです。
なので二号ライダー枠は黄色くなりました。メカニカル!

第二話「他称:呪剣とその被害者」は明々後日です。

p.s.
ジオウ最新話、面白かったです。

「お前の妄執は、おれが断ち切ってやる!」

良いセリフでした。発言者を考えると感動的ですらあります。
ゲイツ君の決め台詞も良かった。あれで好感度爆上げさせてからの不穏な次回予告。
次話も楽しみですね。

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