逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

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※更新遅れました。
 戦闘シーンは長くなるって話、都市伝説じゃなかったんですね。
 色々カットしてなお、分割を強いられました。割っても普段より長い。

※今更ですが、クロビネガとは魔物娘の設定がちょっと異なります。

※前回から突如としてデュエル要素が入ってきたのは、草加の口癖に「それはどうかな?」が含まれることを知ったためです。
カンコーン‼


飢える魔剣のオーバードース

 

 

 

 

 

前回の三つの出来事!

 

一つ、世界を救うために書類仕事を頑張った!

 

二つ、猫に遊ばれた!

 

三つ、剣さんのホドリゲス新陰流奥義が放たれた!

 

 

 

 

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剣さんの左手が鞘に触れ、スイッチが押される。

『ready』の電子音と共に、でかいベルトの左腰に固定されていた魔剣の鞘が独りでに動く。

地面と水平になり、さらに九十度捻るように回転。刃は横向きになる。

 

剣さんは重心を落とし、右手を前に。

 

鞘が変形。

そして、火薬の炸裂音。

 

瞬間的に加速された魔剣が撃ちだされるように抜刀される。

柄が吸い込まれるように右手に収まり、腕と手首の動きで勢いそのまま薙ぎの軌跡へと変化。

 

 

超高速の居合抜刀。

 

 

俺は、微動だにできず、その動きを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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飢える魔剣のオーバードース

 

 

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「…何故、避けなかった?」

 

 

 

 

剣さんが言う。

おかしな話だ。

 

 

「聞きたいのはこっちですよ。

 何故、当てなかったんです?

 当たらない攻撃を避ける必要はないでしょう。」

 

 

神速の居合。

恐らく、剣さんの必殺技。

絶好の間合いとタイミングで放たれた居合は、俺の目の前十数センチを通過していった。

 

 

「どうやら度胸はあるみたいだね。」

 

「そんなことを言うためだけに、必殺技を見せたんですか?」

 

 

恐るべき速度、恐るべき威力。

 

初見の技というのは、ただそれだけで対処がしづらい。師匠戦で散々味わった。

必殺技ならなおのことだろう。

だが、一度見れば対抗策だって思いつく。

何故わざわざ必殺技の空振りなんてしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にある魔剣を見る。

剣さん曰く、最新の魔剣。

 

刀身には、後から刻まれたと思われる「4th」の文字。

その字体には心当たりがある。

五十年以上前に第三次実験で打ち切られた、人工優良魔剣製造計画で使用されていた字体。

 

 

 

霊刀、神剣、魔剣に妖刀。

それらはすべて、性質により区分されただけの同質の武器だ。

 

構成素材は「エーテル過干渉媒体」。エーテルや魔物、異界に対し特殊な作用を及ぼす物質。

強い磁力に晒された鉄が磁力を帯びるように、大量のエーテルに継続的に晒された物質は、エーテルに対する特殊な干渉能力を持つことがある。

そうした物質を武器に加工し、魔物を構成するエーテルへの攻撃武器としたものが魔剣である。

その特殊干渉は様々で、製法も様々だ。

霊地とも呼ばれる高エーテル地帯産の霊刀、何らかの高エーテル存在との接触で生まれるとされる神剣、そして人を斬りつづけ、人中のエーテルを啜ってきた妖刀。そして製造される魔剣。

名称は製法と生じた特殊干渉の性質差異により後付けされたものに過ぎない。

 

かつて異能者たちのメインウェポンであった魔剣は、異能器の高性能化によって取って代わられた。

それは量産性の悪さと、互換性のなさによる必然でもある。

 

膨大な時間とエーテルによってのみ生まれるエーテル過干渉媒体の性質は、千差万別であった。

その中から少しでも戦闘に役立つ機能を選択され魔剣は製作されていたが、材料の差異により干渉性質や威力が同じものを作ることは出来なかった。

そしてそもそも魔剣のエーテル干渉は無差別なものであり、使用者に牙剥くような干渉性質も多かったという。

あまりにも作りづらく、そして使いづらい。

そして同じものがないということは、ノウハウや戦法の共有、連携構築の難しさを呼ぶ。

 

仕方なく使い続けられていた、強力な失敗作たち。

世間的な魔剣の評価はそんなところだ。

最早、過去の遺物として扱われ久しい。

 

 

 

もちろん、強力な魔剣は強い。異能器では未だ再現不能な強力な干渉性質をもったものもある。

だがそれは、膨大な数製造された魔剣の中で偶然生まれた奇跡の産物だ。

国外で現在使用されている魔剣も、そうした奇跡的に出来が良かった上澄たちだ。

干渉性質x干渉強度x干渉範囲etcetc…そうした項目の無限ともいえる組み合わせが偶然噛み合った物だけが、強力な魔剣になるのだ。

 

これまでいくつもの研究機関が、干渉性質の固定化や、強力な干渉性質の再現を試みたが、その全ては失敗した。

エーテルは世界の壁を乗り越えるエネルギーであるため、この世界だけでなく近い異世界からの干渉も受ける。そのため実験結果が一定にならないのだと言われているが、異世界の情報を知る術がないため実証はされていない。

 

そしてエーテル過干渉媒体だって無料じゃない。むしろ貴重品だ。何が出来るか分からない魔剣のために、そうホイホイ使えるものではない。

妖刀の製法再現も検討されたが、あまりにも成功確率が低く断念された。

故に、既に魔剣の新造なぞされていない筈なのだ。

それもつい最近ではなく、日本で言えば明治維新前後にはほぼ製造されていなかった。

ヨーロッパでは日本よりもさらに早く、製造が打ち切られていたと聞く。

 

 

 

 

一体どんな酔狂者が、わざわざ魔剣なんぞ新造したって言うんだ?

本当に実用に足る干渉性質を持っているのか?

 

改めて魔剣と、その鞘を見る。

鞘はベルトに接続され、ベルトはぴっちりとした上着とズボンに接続されている。

ところどころにコネクター。

例の炸薬加速の衝撃を、全身に分散させるための機構だろう。

魔剣を持ち運ぶ際の重量負荷を低減させるためでもあるかもしれない。

 

異界討伐は、個人の魔物探知能力で対策できるとはいえ、ダンジョン探索だ。

つまりは長距離を歩く羽目になる。

必要に応じて消すことも出来るエーテル形成の武器に比べ重いのも、魔剣が急速に廃れた理由だ。

重いということは振りが遅くなるということであり、どんな形でも当てればいい対異能者戦でもディスアドバンテージとなる。

恐らくはそれを補うための、炸薬加速居合抜刀。

正直、どう考えても炸薬機構が重いから本末転倒甚だしいのだが…。

しかしそれだけに意外であり、奇襲性は抜群だ。

初見では反応する暇なく斬り捨てられるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は私の強さを確かめる為に戦っている。正々堂々と戦いたいんだ。

 それに不意打ちで勝って、後から文句を言われても困るからね。」

 

 

あてこすりめいた物言い。

俺の不意打ちを根に持ってやがる。

 

 

謎の魔剣。

謎の装備。

奇妙な二つ名。(今更だが、「自称」魔剣使いって何なんだよ!)

 

だが少なくとも、剣さんの目的は分かってきた。

俺の実力調査だ。

さっきから挑発や疑うような目線があからさますぎる。

とりあえずこっちもトラッシュトークで応じて、挑発に乗ったフリをする。

 

 

恐らく緘口令に感づき、何かが炉火市に起こったことに気づいた剣さんは、大事件に初陣直後のぺーぺーである俺が関わっていることを不安に思ったのだろう。

異能者業界の緊急事態は、そのほぼ全てが世界の危機であり、一つのミスが大惨事に繋がる。

ルーキーの俺がそんな事態に関わっていると知れば、不安に思うのも無理はない。

 

剣さんは俺と同年代だが、既に二つ名を持つほどの実績を積んでいる。

本来異能者の実戦投入はもっと若い、早いタイミングなのだ。

俺が十五歳まで修業できたのは、じいちゃんの政治力に守られた結果である。

秘蔵っ子だなんだと噂は流れているらしいが、そんな得体の知れない男を信用しろというのも無茶な話だろう。

 

 

 

 

 

 

だが逆に言えば、俺はこの世界の誰よりも長く、強力な異能者にして異能研究者のじいちゃんの指導の下、様々なデータに自由にアクセスできる最良の環境で修業し続けたとも言えるのだ。

 

そして俺は転生者である。

 

 

 

普通の人間であれば、人格を形成する時間に修業できた。

普通の人間であれば、情緒を形成する時間に修業できた。

普通の人間ならば、時間をかけて勉強する必要のある学問を既に知っていた。

普通の人間ならば、学校に行っている時間を修業に当てることができた。

 

頭の柔らかい幼少期の時間は、大きな大きな意味を持つ。

その貴重な時間を、俺はほとんど無駄にせず異能の修行に当てられた。

俺は同年代どころか他の全ての異能者に対し、ありえない有利な位置から修行を始められたのだ。

とんでもないズルであり、絶対的な差だ。

自由に使えた時間の絶対量が違いすぎる。

 

そんな俺が普通の人間に負けられるか?

それはじいちゃんの指導と神崎の名に泥を塗ることと同義ではないか?

 

俺の実力を疑うというなら、示さねばならない。

俺に挑むというなら、思い知らさねばならない。

俺はあり得ない前提と最良の環境により生まれた、対異界戦闘マシンなのだ。

慢心でもなんでもなく、俺が負けたらおかしい。

 

こと異能に関して、俺に負けは許されないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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音もなく、俺の両腕に霊力弓が形成される。

弓掛型異能器の補助はなくとも、これだけ時間があれば十分な弓が作れる。

 

 

俺と剣さんの間に緊張が走り、一瞬場が停滞。

 

 

風で木々が鳴るのに合わせ、二人同時に動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

剣さんの左足が大きく踏み込み、先ほどとは逆向き、右から左に横薙ぎが放たれる。

炸薬がなくとも十分な速度。

だが対応可能。

スピードが乗る前の魔剣に突っ込み、エーテル形成した障壁で軌道をそらす。

長剣はその質量により加速するのには時間がかかる。

トップスピードに乗る前に叩きつぶすのが定石だ。だが。

 

 

「ちぃっ!マジの魔剣か!」

 

「物分かりが悪いな…。

 さっきも言っただろう?」

 

 

魔剣と接触した途端、障壁が霧散するように消滅する。

尻もちを着くように体を沈ませ、咄嗟の回避。

間一髪、頭上を魔剣が通過していく。

 

 

エーテル干渉性質を判断するには、一度食らってみる他ない。

なので試してみたのだが、想像以上に厄介な魔剣だ。

恐らくエーテル干渉性質は、形成の破壊。

範囲は魔剣の表面8ミリ、実用上接触での起動。

だがこの性質ならば、範囲は狭い方が使いやすいだろう。

仮に広範囲だった場合、自分のエーテル形成すら妨害する欠陥品になる。

 

驚いたな。

本当に有用な魔剣だぞ。

現状では例え大金を積んだところで、エーテル過干渉媒体の大量取得など不可能だ。

産出地の多くが異能器メーカーによって独占的に管理されているためである。

大量に魔剣を製造することが出来ない以上、数を作って上澄みを使う既存の方法は採れない。

 

信じがたいことに、この魔剣の製造者は優れた魔剣を狙って作ることに成功したらしい。

なにより信じがたいのは、その製造者がその成功を世界に向けて発表していないことだ。

これまで世界中の異能者たちが千年単位で挑み続け、そして諦めた難題を解決したのだ。

それを秘匿するなどとても考えられない。

値段など付けようもないほどの、超技術。

ダース単位の勲章が贈られ、開発者は百年に一人の天才として褒め称えられるだろうに。

 

炉火市に来てから、驚くようなことばかりだ。

いくら何でもイベントが立て込み過ぎている。

驚くことが多すぎて嫌になってきた。

くそぅ。

 

 

 

 

 

 

回避のために態勢を崩し、死に体となった俺に剣さんの追撃が迫る。

 

剣を振り切った勢いを活かし、右足が踏み切られ、蹴りが放たれる。

膝にあるバトルスーツの切れ目、肌が露出している部分からエーテル刃が形成され、蹴りの射程が延長。

俺が態勢を立て直すよりも早く、そのまま勝負を決めようというのだろう。

だが流石に見くびり過ぎだ。

 

俺は地面につけている両手に長い杭状の霊矢を形成、弓で加速して地面に突き刺す。

反作用を受け、俺の体が蹴りの射程を逃れる。

 

 

剣さんも即座に対応。

俺の回避を見るや、蹴りの軌道を踏み込みに変え右足を着地、さらに左手に持つ魔剣を地面に突き立てる。

そのまま腰を捻り、回転。

左足で回し蹴り。

くるぶしの裏にある肌の露出からも、エーテル刃が形成される。

 

咄嗟に右手の霊力弓で受け止める。

ぎゃり、という削れるような音。受け流し損ね、衝撃が右手に伝わる。

それを隙と見て、剣さんがさらなる追撃を図る。

 

 

「手首の返しが甘いんだよ…!」

 

「舐めんな!」

 

 

剣さんは右足でジャンプし、完全に空中に体を浮かせる。

一連の回転動作の勢いを使って体を捻り、右手をしならせ、投擲。

手裏剣、もしくはチャクラム。

高速で投げ込まれる、高密度エーテル刃。

 

だが真正面からの射撃武器なぞ怖くもなんともない。

俺は左手から射った霊矢で迎撃。

すぐさま全弾撃墜。

そのまま連続射撃。

 

剣さんはバックステップ。

地面に突き刺した魔剣を回収し、矢を切り払った。

接触と同時に消滅する霊矢。

矢の衝撃すら受けた素振りはない。

厄介な…!

 

これではいたずらに霊矢を撃ち込んでも意味はないだろう。

若干の距離を保ち、剣さんと睨み合う。

 

 

 

 

 

 

「随分と面白い避け方だった。

 でも、もう一度通用するとは思わない方がいい。」

 

「面白いのはそっちの姿ですよ。

 電飾でも仕込んでるんですか?」

 

 

剣さんの痴女っぽさの源泉。

四肢にある、肌の露出部位。

膝。踝。肘。手首。その他数か所。

その全てからエーテル刃が形成されていく。

 

さながら全身ビームサーベル。

冗談みたいな恰好だが、形成したエーテル刃に当てないよう魔剣を構える姿には慣れが見える。

 

 

「…!」

 

 

無言で、剣さんが迫る。

 

 

 

 

 

 

 

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両手の霊力弓で弾幕を張る。

左の弓では連射性を重視。

右の弓では発射数を絞り、威力と弾速を上げる。

 

 

「効かないのは、見て分かると思うんだけどな…!」

 

「今は実験中なんですよ!

 貴方を倒すための!」

 

 

魔剣で切り払われた霊矢は消滅。

威力を強化したものも、消滅速度に差は見られない。

そして弾幕を張った矢は、全身のエーテル刃で切り払われる。

しかも迎撃動作は軽く体を捻って矢の軌道に刃を滑り込ませる程度のものであり、剣さんの前進速度には影響しない。

 

くそ、時間稼ぎにもならんか!

 

剣さんの剣術自体は、基本に忠実なオーソドックスなもの。

無駄がない分素早いが、剣筋は読みやすい。

だが魔剣の性質と手首のエーテル刃により、カウンターや剣のはたき落としは困難だ。

そして全身のエーテル刃により、普通の足さばきや腕の振りすら攻撃となる。

攻防一体。

見掛け倒しのこけおどしではないようだ。

 

迫る魔剣を慌てて躱す。障壁が使えない以上、受け流すことも受け止めることも出来ない。

ついでに弓との接触も避けねばならない。

本来なら、硬い構成の霊力弓は盾としても使える万能武器なのだが。

 

魔剣の次は、全身のエーテル刃が迫る。

こちらは障壁でガード可能。

むしろ手に纏わせた障壁で隙間をこじ開けるようにして、霊矢の近距離射撃を試みる。

 

しかし一瞬早く、剣さんは膝のエーテル刃を爆発させ、俺を吹き飛ばす。

ダメージはほぼ無し。

自身への自爆を嫌い、破壊力ではなく衝撃を重視して発動したのだろう。

 

 

またしても、若干の距離を空け、睨み合う。

先ほどから既に三回、同じような戦いが続いている。

剣さんはリスクを嫌い、少しでも危ないと判断すれば仕切り直す。

そのたびに再構築されるエーテル刃。

贅沢なエーテルの使い方だ。消耗は激しいはず。

ダメージは互いにないが、此方が有利。

 

 

 

 

 

剣さんはまた納刀をする素振りを見せる。

あの炸薬加速居合抜刀は厄介だ。出来れば納刀はさせたくない。

俺は十分に強化した矢と分裂する拡散霊矢を通常霊矢に織り交ぜて射る。

これまでの接触で判断した限り、この威力ならば剣さんのエーテル刃を撃ちぬけるはずだ。

 

ちっ。

案の定、剣さんは納刀を中止し、強化霊矢を選択的に魔剣で迎撃する。

気合入れて作った霊矢が、事も無げにかき消されるとむかつくぜ。

拡散霊矢に驚き、後退する剣さんに追撃。

 

こちらが押しているはず。

…だが、踊らされている感じは否めない。

剣さんが必殺技をひけらかしたのは、本人の言うフェアプレイ精神なんかじゃなくこの展開を狙ってのものだろう。

切り札をちらつかせることで、それを阻止するために相手にカードを切らせる。

事実俺から拡散霊矢というカードを引き出すことに成功した。

なんとも狡っ辛い手だ。

そして持久戦のための手でもある。

 

ううむ、気持ち悪い違和感。

あんな全身エーテル刃形態なんてものが、燃費が良いはずがない。

矢を迎撃しながら、ちょこちょこエーテル刃を形成し直しているし。

てっきり短期決戦のつもりで勝負を決めに来るかと思ったのだが…。

エーテル量で俺に勝てる異能者は少ない。

その意味では矢が当たろうが迎撃されようが、このまま遠距離から削り殺せるはずだ。

俺の霊力弓は、撃ちだす矢の形成時にプログラミングすることで威力や矢の性質を変更できる。

そして弓の方でも加速速度や弾道を調整できるので、二つ合わせて実に多彩な攻撃が可能だ。

拡散霊矢以外にもいくらでもカードはあるのだ。

 

 

 

しかし適度に別バージョンの霊矢を織り交ぜ、中距離にくぎ付けにしている剣さんの顔に焦りはない。

なんとも気がかりだ。

 

そもそもここは森であり、攻め手が圧倒的に有利だ。

後退する場合、でこぼこした地面を確認せずに後ろ歩きすることになるからである。

回避を強いる魔剣を持ちながら、剣さんが今受けに回っているのもおかしい。

多少強引にでも攻めた方が有利だろう。

抜刀のブラフなんざ使うまでもなく、追い回せばいい。

 

うーむ、うーむ。

考えが読めない。

だが、この状況が敵の掌の上というのはほぼ間違いない。

現状維持という選択肢はないだろう。

リスクを飲み込み、攻めるしかあるまい。

 

 

 

 

 

射撃を継続しながら、あえてこちらから距離を詰める。

剣さんは切り払いによる迎撃を続行。危なげなく迫る霊矢を防いでいく。

通常の霊矢ではエーテル刃を撃ちぬけないが、連射できない高威力の霊矢は魔剣で切り払われてしまう。

霊矢のチャージのために射撃を緩めれば、納刀され炸薬加速居合抜刀の脅威にさらされるだろう。

 

そもそも全身のエーテル刃が盾となり、剣さんへの命中を期待できる軌道は限られてくる。

こちらはそこを狙って射撃するしかないが、当然剣さんは自身の刃の長さや隙間を把握している。

瞬時にステップを踏んだり体を捻ることで隙間が変化し、矢は命中せず切り払われていく。

 

むう。

装備や外見は珍妙だが、戦法は堅実の一言。

この矢の迎撃方法にも慣れと経験が伺える。

確かな修練と練習に裏打ちされた、優等生タイプ。

 

こういう手合いを倒すには、相手の想定を超える必要がある。

 

 

 

 

 

左右の霊力弓をモード切替。

左はとにかく速射性を重視。めくら撃ちの弾幕を張る。

右はさきほど使った杭状霊矢を形成。それを周囲の木に撃ち込む。

 

左の制圧射撃を継続しつつ、走りながらジャンプ。

異能により身体能力を強化し、撃ち込んだ杭を足場に木を駆けのぼる。

右をもう一度モード変更。

エーテル燃費悪化を代償に、より速くより強い矢を放つ強化形態へ。

 

 

「…なにを!」

 

「直上からの射撃。これなら…!」

 

 

木の幹を蹴り、空中からの連続射撃。

剣さんは魔剣と両腕を掲げ迎撃を試みるが、正面からの射撃とは違い下肢のエーテル刃は迎撃に使用できない。

防御のため追加で障壁が形成されるが、急場で作った障壁なぞ強化霊矢で簡単に撃ちぬける。

 

舌打ちの音。

初めて、剣さんの表情が歪む。

上空の俺から逃げるため、転がるように移動していく。

何発か当てたが障壁越しであるため浅い。クリーンヒットとは言えないだろう。

 

だが問題ない。

弱点が分かった以上、そこを突き続けるだけだ。

 

ローリングして衝撃を分散しながら着地した俺は、両腕から空中へ向け射撃。

 

放たれた矢は()()()()()()()()()()()()()()()()()

降り注ぐ霊矢。

 

 

 

「なんだと!?」

 

「これで詰みです、剣さん!」

 

 

 

俺のエーテル感知能力ならば、極めて精密に彼我の距離を測ることができる。

そして距離さえ分かれば、その距離飛行した後曲がる矢を作るのはそう難しいことではない。

 

 

両腕の弓で弾幕を張る。

これまでと違い剣さんはそれを切り払いしきれず、全力で回避していく。

 

 

俺はさらに射撃を継続。

回避された矢が地面で爆発し、足場を悪くする。無論俺が混ぜた破裂霊矢によるものだ。

 

 

少しずつ、少しずつ剣さんの回避に余裕がなくなっていく。

織り交ぜられた拡散霊矢や高速度霊矢が剣さんの体を掠め始める。

 

 

 

 

勝ったな!(確信)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『dose break』

 

「Δウェポン…!」

 

「は…?」

 

 

 

炸薬加速居合抜刀と同じような電子音が鳴る。

剣さんが魔剣にあるトリガーを引く。

魔剣が高速振動し、不吉な音が響く。

 

それと同時に、剣さんに迫っていた()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

そして射出された霊矢が順次消滅。

いや、霊矢だけではない。

剣さんのエーテル刃もまた消滅している。

 

あの消え方は、魔剣に接触したときと同じものだ。

 

 

 

「魔剣の特殊干渉範囲が膨れ上がっただとぉ!?」

 

「チェックメイトだ。」

 

 

 

魔剣を納刀した剣さんが、こちらに突っ込んでくる。

迎撃に放った霊矢は、すべて消滅。

拡大は一時的なものらしく特殊干渉範囲はしぼんでいくが、ギリギリ剣さんの攻撃の方が早い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣さんの左手が鞘に触れ、スイッチが押される。

――――――マズイ。

 

 

『ready』の電子音と共に、でかいベルトの左腰に固定されていた魔剣の鞘が独りでに動く。

――――――剣さんが全速力で向かってくる。

 

 

地面と水平になり、さらに九十度捻るように回転。刃は横向きになる。

――――――迎撃の術はない。

 

 

剣さんは重心を落とし、右手を前に。

――――――後退も、間に合わない!

 

 

鞘が変形。

――――――!

 

 

そして、火薬の炸裂音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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剣さんは、魔剣を振り切った姿勢で止まっている。

 

 

俺はその前に立っている。

 

 

ぽたりぽたりと静かに、血が流れていく。

 

 

だが。

 

 

だが、それでも。

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちです、剣さん…!」

 

「ああ、そうだね。私の負けだ。」

 

 

 

 

勝ったのは、俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

まるで最初の焼き直し。

剣さんの魔剣は、俺の眼前十数センチを通過していった。

 

 

そして俺の左腕は、改良型紅蓮弓の反動で焼かれ。

俺と剣さんの間の地面はクレーターだらけになっている。

 

 

紅蓮弓により足場を崩すと同時に、爆圧で剣さんの踏み込みを押しとどめたのだ。

かなり際どいところだった。

 

 

「いやぁ、最後の判断は見事だったよ。

 左手ケガしてるけど、大丈夫かい?」

 

「ええ、見た目ほど深い傷じゃありません。

 …というか、魔剣が直撃するよりは数段マシですよ。」

 

 

剣さんが爽やかに笑いかけてくる。

…イイ性格してるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左手の状態を見る。

紅蓮弓の性質上、崩壊する矢での火傷や裂傷ダメージはどうしようもなかったが、内部的な異能行使負荷はかなり低減できた。

矢の構成が荒くても良いので、弓があれば即座に使える点が非常に便利である。

 

…ロウさんは「あの技は使わないでください」としか言ってなかったし。改良したから実質別の技だ。セーフ、セーフ。

ほぼ外傷だけだから、自宅にある簡易治療用異能器でも誤魔化せるだろ。

左腕程度の代償でデュエルに勝利できるなら安いものだ。

特に今回は、魔剣の直撃を避けるための緊急避難だった。

魔剣の多くは対魔物戦で意味がないため研がれておらず、切れ味を持たないが鉄の塊でぶん殴られれば異能者であっても骨ぐらい折る。

 

 

 

「ああ、その点は大丈夫。

 この魔剣はほぼエーテルにしか影響しない。

 命中しても大きなケガはしない筈さ。

 言ってなかったかな?」

 

「そうだったんですか。

 …んん?」

 

 

 

脳裏に閃き。

そんな現象に聞き覚えがある。

 

 

 

当たっても物理的影響は少ない。

エーテルだけに干渉。

そもそも、あるはずのない新造魔剣。

形成されたエーテルを分解する性質。

――――あれは本当に分解だったか?

分解なら、崩壊したエーテルが周囲にまき散らされるはず。

 

思い出せ。

あのΔウェポンとやら。

エーテルを吸収していなかったか―――――――――――?

 

 

 

 

 

「…まさか。」

 

「気づいたかな。」

 

「その魔剣、いや、その剣は…!」

 

「その通り、これは―――――魔物だよ。

 武器として扱えるよう制御された魔物。

 それが、第四次人工優良魔剣製造計画が生み出した成果だ。」

 

 

 

 

 

 

ふざけんな!

魔剣じゃねーじゃねぇか!

自称魔剣使いってそういう意味かよ!!

 

 

 

 

 

 

 

狙ったエーテル干渉性質も何も、あれは魔物に共通するエーテル吸収能力。

どうやって魔物を制御し、そして俺の攻撃から保護していたかは知らんが、それがこの剣のエーテル干渉性質のタネだった。

あのΔウェポンとやらも大層な名前に反し、魔物化した魔剣に攻撃させていただけなのだろう。

 

剣を異界に突っ込んで放置すれば、そこそこの確立で魔物化するのでエーテル過干渉媒体も必要ない。

 

ええ…。

何それ…。

これ作ったヤツは間違いなくバカだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ネタばらしも終わったところで第二戦と行こうか。」

 

「はい。

 次も、俺が勝ちますよ。」

 

「ははは、それはどうかな?」

 

 

剣さんが笑う。

 

 

「言い忘れていたんだけど、実はエーテル吸収能力についても強化されていてね。

 この剣で吸収したエーテルの大部分は、私に還元されるようになっているんだ。」

 

「…!」

 

 

あの贅沢なエーテルの使い方のカラクリ。

まて。

そうなるともしや、剣さんはさっきの一戦でエーテルを消耗していない――?

 

 

「そういえば、キミはさっきの一戦で随分景気よくエーテルを使っていたなぁ。

 勝ったは良いものの、左腕を失いエーテルを消費したキミ。

 今回は負けたけど、何も失わずエーテルも万全の私。

 さて、有利なのはどちらかな…?」

 

それでもキミは、自分が勝てると思っているのかい?――――そんな風に言って、剣さんは笑う。

 

爽やかさの欠片もない、邪悪な笑み。

 

 

 

 

 

…上等だ。

 

 

「剣さんって、意外とワンパターンなんですね。」

 

 

「…なんだと?」

 

 

「最初に必殺技見せびらかしたのと同じでしょう?

 自分の優位性を相手に知らせて、動揺を誘っている。

 でも本当に優位で、勝つ自信がある人はそんなことしませんよ。」

 

 

「生憎、私が優位なのはただの事実だと思うけど?」

 

 

「俺が剣さんに勝てると思う理由は、三つあります。

 

 

 一つ、例のΔウェポンは連射できないから。

 Δウェポンが発動されたとき、剣さんがトリガーを引くよりも早く電子音が鳴っていました。

 炸薬加速居合抜刀とは順番が逆で、印象に残ったんです。

 私が思うにあの電子音は、チャージ完了の音だったんじゃないんですか?

 自由に使えるならあそこまで追い込まれる前に使うでしょうし、少なくとも何らかの制約がある と判断しました。

 

 二つ、剣さんにも異能行使の消耗は存在するから。

 正直、剣の性質が形成の破壊ではなく、吸収だと聞けたのは朗報です。

 剣さんは霊矢を迎撃する最中にも、定期的にエーテル刃を形成し直していました。

 防御に隙ができるというのに、最後の追い込まれて必死に迎撃している最中にもです。

 単純な早めの修復のためだと言うなら、これはおかしい。

 あれは吸収したエーテルでパンクしないための措置ですね?

 魔剣がただエーテル形成を破壊するだけでなく、吸収と剣さんの異能行使による排出を必要とす るなら、やりようはあります。

 

 そして三つ。

 そもそも、この程度の負傷や消耗が問題となるような軟な修業はしてないんです。

 

 

 いい加減、俺と俺のじいちゃんの指導を舐めるのは止めてもらう!」

 

 

 

 

 

腕に霊力弓を多重に形成する。

連弩のように片腕に三つずつ。

 

形成に時間がかかるため、必死に長台詞を喋って時間を稼いだ。

三つに弓が増えた分当然エーテル消費は上がるが、今はそれが欲しい。

 

要は、魔剣のエーテル吸収許容量・剣さんのエーテル排出量を上回るペースでエーテルを叩きつけてやれば良い。

 

 

俺のガス欠が早いか。

魔剣のパンクが早いか。

 

 

勝負だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢を射る。

射続ける。

 

両腕x三倍x一点集中の全力投射だ。

 

 

 

時々、カーブするように設定した矢で剣さんの周囲を射る。

剣さんを倒すためではなく、逃がさないようにするためだ。

最も、剣さんに逃げるような余裕はなさそうだが。

 

最初に霊矢をばらまいて魔剣でのガードを強いて、その後は魔剣目掛けてひたすら射まくっている。

吸収によりエーテル量が万全だというのは事実だったらしい。

さっきからひたすらエーテル刃を形成しては、爆破している。

溢れそうなエーテルを、無理やり消費している訳だ。

表情も苦しげ。

 

 

 

「こ…んな!力業…で!

 バカなんじゃないのか!キミは!」

 

「魔物を魔剣と言い張るバカには言われたくないね!」

 

「なんだと…!」

 

「なーにが自称魔剣使いだ。周囲から魔剣扱いされてないってだけだろうが!

 ばーか、ばーか!」

 

「こんな…バカに!

 負けて、たまるか!」

 

 

 

剣さんは刃状に形成する手間すら惜しみ、エーテルを噴き出すように排出していく。

全身から黄色いエーテルを放出する、見るからにオーバードライブって感じ。

魔剣も何だかヤバげな音を出し、光だしている。

 

俺のエーテルも恐ろしい速さで減っていく。

光が濁流のように俺の腕から撃ちだされていく。

じいちゃんとの修業でも、ここまで急激にエーテルを吐き出すことはなかった。

威力も弾速も度外視し、ただひたすら連射性を追求した矢を撃ち続ける。

 

俺たちのエーテル光で、薄暗いはずの森は真昼より明るい。

 

 

 

 

 

 

 

ははは。

はははは。

はーはっはっはっは!

 

楽しい!

ランナーズハイのごとく、疲労感とは裏腹に俺のテンションは急上昇。

目の前にむかつくヤツのしかめっ面があるのでなおのことだ。

 

このまま地獄の果てまで付き合ってもらうぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦虫を噛み潰したような顔で、ヤツが呻く。

 

 

「…やってられるか!」

 

「てっめぇ!」

 

 

野郎!

途中でデュエルを諦めやがった!

 

ヤツは転がるように避難しつつ、こちらに魔剣をぶん投げる。

魔剣は俺のエーテルを求めるように、自ずからスピードを上げる!

 

 

回避?

白刃取り?

 

否!

 

接続が断たれた今こそ、あの魔剣をぶっ壊すチャンス!

エーテルが欲しいってんなら食らわせてやるぜ!破裂するまでな!

 

 

 

 

矢を意に介さず迫る魔剣に、矢を射続ける。

 

もっとだ!

もっと速射性を上げろ!

 

矢を射る。

 

オラオラオラ!

折れろ折れろ折れろ!

 

矢を射る。

矢を射る。

矢を射る。

矢を射る。

矢を射る。

矢を射る。

 

 

 

 

 

 

そして、ポンという音をたてて。

 

 

 

 

 

 

魔剣が女の子に変わった。

 

 

 

 

 

 

!!?!?!?!?!?!?

 

 

 

咄嗟に女の子を受けとめた俺は、その勢いに負けぶっ倒れた。

女の子を庇うことを優先したため、頭を強打。ノックアウト。

 

…流石にこれは勝敗ノーカウントだよな?

 

 

 

 

 




 
という訳で、器物精霊系外面ロリッ子ヒロイン、魔剣さんのエントリーです。



クロビネガから設定が変更された理由は、私がこういうの好きだからです。
私は私自身の性癖を布教するためだけに、作品を連載している…!


次回、今度こそ「他称:呪剣とその被害者」は、多分明後日。
 

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