逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

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大変お待たせいたしました。
今回はヤバかったです。危うく詰みかけました。

一人称作品で設定ガン積みすると、ネタバラシパートで苦労しますね。
ちょっとバウマフさん家とか見て勉強してきます。


他称:呪剣とその被害者

 

 

 

私――剣 焜祷(つるぎ こんとう)には、時折魔剣の声が聞こえていた。

 

「もっと。」

「もっとエーテルを。」

 

声はそれだけを訴えていた。

 

 

 

 

最初は怯えた。

そして周囲に知らせた。

だが、周囲の反応は冷ややかなものだった。

 

魔剣が喋るはずがない。

他にそんな報告はされていない。

魔物と意思疎通できるはずがない。

 

正論だった。

でも、私には確かに声が聞こえていたのだ。

 

 

 

 

 

唯一、計画の責任者である鳴坂室長だけが私の話を聞いてくれた。

 

 

「第四次実験では剣の魔物化のため複数の異界を使用されている。

 どうやら魔物化の際どの異世界から影響を受けるかにより、魔剣にも差異が生まれているようだ。

 その声が異世界からの影響に起因するものだとするなら、

 何処かに、剣が意思を持つ異世界があるのかもしれない。」

 

 

異世界。

異界の向こう側。

その剣は、未知のベールの向こう側を知るための鍵になるかも知れない――。

 

 

鳴坂さんは、本当に嬉しそうにそう言っていた。

 

 

それがきっかけだった。

私にとって、魔剣は怖いだけの存在では無くなっていった。

 

異世界。

未知の世界。

そこには、どんな景色があるのだろうか。

いつか、それを見てみたい。

この剣がその導きとなるなら、もう少し付き合ってみてもいいかと思ったのだ。

この呪われた魔剣と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数年。

私は魔剣と共に、二つ名で呼ばれるほどの実績を上げ、エーテルを集めてきた。

しかしどれだけ魔物を倒しても、魔剣のテストで異能者たちと戦っても、未だ魔剣の飢えは納まっていない。

 

 

「もっと。」

「もっとエーテルを。」

 

 

か細く、儚い、魔剣の訴え。

 

何時かは、魔剣の飢えが癒される日が来るのだろうか?

何時かは、飢え以外の声を聞くことが出来るだろうか?

 

 

何時かは、そんな日が来てほしい。

そのために、私は今日も戦っている。

 

 

そして、何時かそんな日が来たら。

この剣と、もっといろんな話ができたら良いなと。

そんな風に思っている。

 

 

 

 

 

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「神崎玄徳。私の魔剣に何をした?」

 

 

 

なんだか怒ってる声が聞こえる。

敵意に体が反応、反射的に反撃をすべく体を起こそうとして、胸に重みを感じ思いとどまる。

そうだ。

俺の上には今ちびっ子がいる。

 

…魔剣がちびっ子に変わったのだ!

 

 

 

 

「聞いているのか、神崎玄徳?」

 

 

剣は手頃な木の枝を杖代わりにしつつ、俺を見下ろすように立っていた。

立ってる剣、寝ている俺、この時点で勝敗は明らかだろう。

 

 

「…聞こえてますよ。しかし随分と卑怯な手を使う。

 ちびっ子を投げつけるなんて…!

 怪我でもしたらどうするんです!」

 

 

「ふざけるな。」

 

 

剣の怒気が強まる。

 

 

「ふざけるなよ神崎玄徳!

 その子は誰だ、私の魔剣をどうした!

 さっさと答えろ!」

 

 

おいおいおいおい。

こいつ、あんな絶妙なタイミングで変身させて俺にブチ当てておきながら、知らぬ存ぜぬで通す気か!?

ふざけるなはこっちの台詞だ!

 

だが今は俺の感情よりも、ちびっ子への心配が優先だ。

流石にぶん投げられたちびっ子を受け止める練習なぞしていない。

完全に衝撃を殺して受け止めたはずだが、確認する必要がある。

 

剣への返答なんざ優先順位は下の下だ!

まずはちびっ子!

 

 

「なぁ、ちびっ子。

 大丈夫だったか、怪我はないか?

 どこか痛いところは?」

 

 

「あし。」

 

 

地面に寝ている俺に抱き着くようにしていたちびっ子が、両腕をついて身を起こす。

 

 

「足?足が痛いのか?」

 

「いや、あしが…

 あしが、うまく作れないんだ…。」

 

「へ…?」

 

 

俺の上に座り込むような態勢になったちびっ子には、足が無かった。

 

腰から下が煙のように解けている。

 

というか、心なしか全体が半透明。

 

 

 

 

 

…オバケ!

 

 

 

 

 

「剣、つるぎーっ!

 どういうことなんだこれは!」

 

 

「私は知らん!

 キミの仕業なんじゃないのか!」

 

 

「俺だって知らんわ!」

 

 

「うるさい。」

 

 

 

体の上に乗るちびっ子を見る。

よく考えたら、密着してる状況なのに体温を感じない!

怖い!

むしろヒンヤリする!

 

お、おおおおお落ち着け!

ちびっ子は魔剣が変身した存在だ。人外なのは分かってた。

ちょっと見た目がオバケっぽいだけ、怖くない…怖くない…。

 

…でも、あの魔剣は魔物化した剣なんだよな。

普通の魔物は喋らない!

ちびっ子は俺の発言に返事したよな!?

別の意味で怖い!

何者!?

 

 

内心ビビリ倒しながら、それを表情に出さないよう懸命に制御する。

 

 

「剣!なんか心当たりはないのか!

 剣を魔物化させる実験の成果なんだろ!?」

 

 

「分からない!

 魔物化は極めて早期の段階で抑制されている!

 その意味じゃ、自発的行動をしている時点でおかしい!

 少なくとも第四次人工優良魔剣製造計画ではこのような現象は確認されていない!」

 

 

 

 

 

異界が段階的に巨大化するように、魔物も段階的に強化されていく。

魔物化し、エーテル吸収能力を獲得し、移動能力を得、そして機械的な反応をするようになる。

おそらくこの第二段階で抑制措置が取られているのだろう。

 

ついでに喋って意思疎通ができる点については、魔物化でも説明できない。

同じ魔物同士ですら、相互に交流や何らかの意思疎通を取っている姿は確認されていない。

 

最初期の魔物は、ただひたすらエーテルを求めて進むだけだ。

次に、障害物を効率的に避け、より迅速にエーテル源へと進むようになる。

そして十分に育った魔物は、異能者をエーテル吸収のための障害として認識し攻撃するようにすらなる。

だが、その行動ロジックの単純さから魔物が意思を持つのかどうかは判然としない。

同時に異能者へ攻撃してくるのは、只単に目的地が同じだからに過ぎないと考えられている。

 

 

 

「整理しよう。

 こうしてちびっ子になる前、戦闘中既に自発的行動の兆候があったよな?」

 

 

「ああ。霊矢に吸い寄せられるような感覚があった。

 最後の投擲時にも不自然な加速があったように思える。」

 

 

「そうか…。」

 

 

あとは本人に聞いてみるか。

 

 

「なぁ、ちびっ子。

 自分の名前とか言えるか?自分自身についてどういう認識なんだ?」

 

 

「名前はまだない。

 そしてわたしは長剣だから、ちびっ子ではない。」

 

 

「…やはり、キミが私の魔剣なのか?」

 

 

「ああ。それ以外のなにに見えるんだ?」

 

 

「どうしてその状態になったか、心当たりはある?」

 

 

「たくさんのエーテルのおかげで、意識がはっきりした。」

 

 

自己認識は剣寄りなのか。

というか、人化への認識がいまいちなさそう。

会話できるのは良いが、情報源として期待できそうにない。

まぁ自分の意識がなぜ生まれどこから来たのかなんて、分からないのが普通か。

気付いたら自分がいる。

俺の転生もそんなんだったし。

 

 

 

 

「…そうか。

 キミが、私の魔剣なのか。」

 

 

「やっと、こうして話せるね。剣。」

 

 

「ああ。想像してたのとは少し違うが、やっとだ。

 改めて、剣 焜祷だ。よろしくな。」

 

 

「なんだか他人行儀。今までずっと一緒に戦ってきたのに。」

 

 

「そうだな。そうだったな。

 ずっと、キミの声を聴いていた。

 色々と、キミと話したいことがあるんだ…。」

 

 

 

 

 

ちびっ子と剣が熱い握手を交わす。

なんか良い話になってる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

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剣とちびっ子が話している間、暫し待つ。

流石にここは空気を読む場面だろう。

大人しく、ちびっ子の椅子として気配を殺しておく。

 

 

愛剣との会話っていう良いシーンなんだけど、ちびっ子は未だ俺の上に座ってるんだよな。

締まらない絵面はともかく、そもそもこれ可逆的な変化なのかな。剣に戻れるのか?

 

 

「無理だ。まったく方法がわからない。

 とはいえ、硬さが変わったわけでない。この状態でも鈍器としてあつかえるはずだ。」

 

 

「そういう訳にはいかないでしょうよ…。

 ちびっ子振り回して武器にするとか…。」

 

 

「やはり真相解明は必要か。

 くそっ!魔剣に一体何が起こったんだ!?」

 

 

「それは私が説明しましょう。」

 

 

「この声は…!」

 

 

「何者だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は通りすがりの森の賢者です。」

 

 

 

剣が振り向いた先。

 

そこには巨大なフクロウが居た。

 

というか、フクロウっぽい仮面とヘルメットをつけたロウさんが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森の賢者…?

 まぁいい、何が起こったか分かるなら教えてくれ!」

 

 

嘘だろ!?

あの雑な偽装スルーするの!?

確かにフクロウ仮面良くできてるけど、デカいじゃん!

体のサイズおかしいじゃん!

 

 

 

 

 

「ええ。良いでしょう。

 でもその前に。

 足を作るときは一パーツずつ作るのではなく、まず全体の外形を作ってから内部を作りこんでいくと良いですよ。」

 

 

「そうなのか。ありがとう森の賢者。」

 

 

ロウさんも大概マイペースっすよね…。

そしてちびっ子、お前もなんか疑問に思わないのか…。

 

…もしかして俺がおかしいのか?

この世界の日本には巨大フクロウが生息している…?

 

 

「森の賢者、貴方はいったい…。

 そもそも、状況は把握しているのですか?」

 

 

「ええ、貴方方の戦いは途中から見ていました。

 あれだけ派手に戦っていれば、遠くからでも分かります。

 私は森の賢者ですから。」

 

 

俺の上で半透明の白い煙が渦を巻き、ちびっ子の腰から先に集まっていく。

ふよふよふよ、と音が鳴り、足が形成されていく。

おおざっぱであっても足があると、一気に幽霊感が薄まった。

 

 

「そうですか…。

 私の魔剣に、一体何が起こったんです?」

 

 

「まず確認なのですが、その魔剣は魔物なんですよね?

 つまり異世界から滲んだ概念や法則に晒されたことがある。

 間違いありませんか?」

 

 

「はい。特にこの魔剣は、その影響が濃い可能性もありますが…

 それが、何か関係を?」

 

 

 

お、ちびっ子。立つのか?

大丈夫?

もうちょっと重心は前だな。

…よし、良いぞ!

 

 

 

「ええ。剣が人格を持ち人型になる事例には心当たりがあるのです。

 私のせか…とある異世界の影響を強く受けたのだとしたら、この変化にも納得が出来ます。」

 

 

「他にも、こんな事例があったんですか!?」

 

 

「ええ。今証拠をお見せしましょう。」

 

 

ロウさんはおもむろに翼を広げ、そこに半透明の白い煙が渦を巻き、腕が形成される。

 

 

「私が、その証拠です。

 私も異世界の影響を受けて、人の腕を持つことができるようになったのです!」

 

 

「なんだって!」

 

 

「確かに今の形成方法は魔剣のものに似ている…!」

 

 

マジか!

ちょっと聞き捨てならない情報だぞそれは!

ちびっ子の歩行練習を切り上げて、剣に聞く。

 

 

「剣!第四次実験の責任者は誰だ!」

 

 

「急にどうした?

 休眠研究再検証室の鳴坂室長だが…。」

 

 

師匠に電話。

並行して確認。

 

 

()()()()、確認ですが、これは貴方の世界で見られた現象ですか?」

 

 

「…!はい。」

 

 

「何?神崎玄徳、森の賢者と知り合いだったのか?

 それに貴方の世界…?」

 

 

ロウさんと剣が訝し気な視線を向けてくる。

だが説明は後だ。

 

この件の黒幕はロウさんの世界とこの世界を繋げようとしている。

故に黒幕の計画の痕跡は、ロウさんの世界により生じた異界に残っている可能性が高い。

だがロウさんが現れた異界は俺が討伐してしまったため、どの異界がロウさんの世界との接触で生まれたものか判断するための参考データが存在していなかった。

 

しかし、魔剣のちびっ子化がロウさんの世界と同じ現象であるというなら。

それは剣の魔物化のために使用された異界が、ロウさんの世界との接触により生じた異界である可能性が非常に高いことを意味する。

そして魔物化実験なんて物騒なモノを行ったのなら、その実験は詳細かつ厳密な監視とデータ採りの中で行われたはずだ。

そこには恐らく、異界のデータも含まれるだろう。

 

そのデータと照らし合わせれば、通常の異界とロウさん世界との異界を区別し、黒幕の計画進捗を推定できる可能性がある。

意外なとこから黒幕への足掛かりが得られるかもしれない!

 

 

剣に、電話を投げ渡す。

 

 

「木勢師匠だ。とりあえず、例の情報操作の件については説明できるだろう。」

 

 

「いや、それより森の賢者について聞きたいことが…。」

 

 

「まぁまぁ、とりあえず電話に出てくれ。

 歓迎するよ、剣 焜祷。」

 

 

俺と一緒に、世界を救おうぜ?

 

 

 

 




 
タイトル回収できない不甲斐ない私を許してくれ…。

次回は明々後日です。



今回は魔剣さんの魔物娘化のからくり解説回の予定でした。
ですが真相にたどり着くための情報が、剣さん玄徳ロウさんに分散しているため情報のすり合わせが必要となります。

この三人会議パートが、本人的には重要じゃないと思ってる情報が真相究明のために必要だったりしてとても苦労しました。
この質問をするのはおかしくないか、その質問から引き出される情報Aに対する補足を玄徳がペラペラ喋るのは不自然じゃないか、そして情報AとA´の関連に剣さんは気づけるか…みたいな精査をして、思考実験染みたパートを九千字くらい書きました。
書きあがったの見たら、くそつまんなかったので全カットです。つらい。

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