逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

14 / 15
大変長らくお待たせいたしました。


束の間のブレイクタイム

 

 

 

前回までのあらすじ。

 

一つ、情報操作に感づいた剣 焜祷は真相を確かめるため炉火市へと飛んだ!

 

一つ、疑惑の人物、神崎玄徳と接触、決闘!弾幕ゲーめいた射撃に晒される!

 

一つ、そして愛剣もなんかバグる!その上世界規模の厄ネタに巻き込まれる!

 

 

 

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって木勢師匠の事務所。

 

 

 

 

電話口では納得出来なかった剣が、改めて師匠から現状の説明を受けている。

 

話が進むたび、剣の顔色が悪くなっていく。

緘口令を察してはいても、こうしてドゥームズデイ案件について実際に知らされると辛いものがあるのだろう。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

思考が追いつかない。まず、異世界人ってどういうことなんだ。」

 

「よいしょっと。

森の賢者改め、ロウと言います。仲良くして下さいね、剣さん。」

 

「!?」

 

 

一通りの説明が終わったタイミングで、ロウさんが仮面とヘルメットを外す。

どうやら植物で組み上げたフレームに、抜けた羽を固定したものだったようだ。

…極めてリアルであるため、ヘルメットがフクロウの首の剥製のように見える。

ちょっと怖い。

 

 

「ヘルメット…?

その体の羽や爪も、着ぐるみみたいなものなのか?」

 

「いえ、こちらは自前のものです。

触ってみます?」

 

 

ロウさんが握手するように、右翼を剣に向けて広げる。

剣は、しばらく質感や体温を確かめるようにその翼を触った。

おお…と感動の声が漏れている。

気持ちはよくわかる。ロウさんの羽はとても手触りが良いのだ。

 

 

「異世界人と、こうして話が出来るなんてね。

 ドゥームズデイについても、大体分かった。

 実験データは鳴坂室長から入手出来るだろう。

 だが、私にも管轄区域がある。急に炉火市に異動する訳には…。」

 

「その点は問題ない。上層部からの指令で、すぐに上長から辞令が降りるだろう。

 なんでも上層部が引っ越しまで手配しておくとのことだ。

 今日のホテルは既に用意されてるぞ。」

 

「んな…!

…分かり、ました。」

 

 

そのまま木勢師匠は、上層部から送られた書類群への署名を剣に求める。

機密保持のためとはいえ、上層部手が早いな…。

絶対に逃がさないという、鉄の意志を感じる。

でも勝手に引っ越しまでするとは、さては炉火市から出す気すらないな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずの情報共有ができたので、剣の署名を待つ間ちょっと休憩。

師匠が事情が分からないなりに魔剣ちゃんに気を使ってくれ、お茶を淹れてくれた。

 

デュエルで食いそびれた、剣が持ってきた羊羹を冷蔵庫から取り出す。

味は四種類。

小倉、黒砂糖、紅茶と抹茶。

ささっと切り分けて小皿に盛り、机に持っていく。

 

そこに師匠が淹れた緑茶と和菓子切を人数分運ぶ。

地味に和菓子切が人数分あるの、すごいな。

持って行って、はたと気づく。

魔剣ちゃんは物食べれるのか?

 

 

「私の知る事例では可能ですけれど…。

 当人の感覚的にはどうなんでしょう。」

 

「エーテルではなく、これをたべるの?」

 

 

はい、あーん。

魔剣ちゃんの口元に、切った羊羹を運ぶ。

ばぐ。もっしゃ。

危なく和菓子切ごと噛み切る勢いだった。

 

 

「あむ。あむあむあむ。

 不思議な気分。初めてなのに、これがあまいという感覚だとわかる。」

 

「興味深いですね。

 そうした感覚は何処から入手したものなのか…。」

 

「たぶん剣。

 剣とわたしの間には、エーテルを還元するための相互リンクがあった。

 そのリンクを介して、色々と情報を入手していた…のだと思う。

 この体のモデルも剣。」

 

 

ふむ?

それにしちゃあちょっと違和感がある。

確かに魔剣ちゃんと剣は姉妹のように似ているが、同じではない。

参考にしたのが今の剣なら、それそのままの姿になりそうなものだが。

実際には十歳前後、剣よりも幼い年齢・身長である。

 

 

「この姿は部屋に飾ってあった写真を元に、剣が小さかったころをモデルにした。

 このくらいの大きさの体が、比較的に作りやすかった。」

 

「人間型に変化する前から、周囲の風景や情報を入手できたわけですか…。」

 

「変化前から意識はあったってことか…。次は抹茶味だよ。」

 

 

はい、あーん。

魔剣ちゃんの口元に抹茶味の羊羹を差し出す。

ばぐ。もっしゃ。

勢い良く食いつく。そして心なしか緩む表情。

 

 

「あむ。あまい。

 意識自体はあった。

 でも当時はエーテル不足により、はっきりとした意識ではなかった。

 今は遡って、記憶のように過去を想起できる。つくられたときから今まで、はっきりと。」

 

「なるほど、なるほど。もう少し詳しく聞かせてもらっても良いですか?」

 

「えっと…。つくられたときってのは、魔物化したときで良いのかな?」

 

 

ロウさんと俺で、魔剣ちゃんを挟むようにしつつ質問していく。

ロウさんは多分学術的興味。異世界じゃ学者さんだったとのことだし。

俺は純粋なる下心からだ。魔剣ちゃんを口説くきっかけづくりである。

 

黒砂糖味の羊羹の前にお茶もどうぞ、と魔剣ちゃんに薦めておく。

 

 

「さっきのは抹茶。これも、お茶なのか。

 …。

 こっちは苦いな。にがい…。」

 

 

そこにすかさず羊羹。

はい、あーん。

ばぐ。もっしゃもっしゃ。

 

 

「あむ。あまい。

 …これが、美味しいという感覚…?」

 

 

もしゃもしゃと食べる魔剣ちゃんがやたら可愛い。

雛鳥にエサを渡す親鳥の気分である。

このままウチの子に出来ないものか。

 

 

「むむ。むむむ…。」

 

 

ロウさんが俺と魔剣ちゃんの間で視線をさ迷わせる。

俺の下心を気取られたか。

ロウさんの口元にも羊羹を運んで誤魔化す。

はい、あーん。

 

 

「ロウさんも羊羹どうぞ。」

 

「あ、あーん…?」

 

 

もしゃもしゃもしゃ。

もっしゃもっしゃ。

二人の口元に羊羹を運び続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何やってるんだ、神崎玄徳?」

 

「剣。羊羹ごちそうさまです。」

 

「剣さん、羊羹頂いてます。」

 

「あむあむあむ。剣、話は終わったの?」

 

 

しばらくして、書類への署名と手続きを終えた剣が戻ってくる。

ついでに第四次実験の責任者にも電話して、情報開示の許可を取り付けてきていた。

有能。

 

 

「羊羹を食べながら、魔剣ちゃんに色々と話を聞いていたところだ。」

 

「色々と興味深い話を聞けました。」

 

「剣、羊羹は美味しいね。」

 

「いや、そういうことではなく…。

 まぁキミが楽しそうなら、それはそれで良いんだが。

 というか、物を食べることも出来るのか。」

 

「とりあえず、そこ座ってくれ。師匠がお茶淹れてくれたからよ。

 お前がくれたヤツだが、羊羹も切っておいた。」

 

「魔剣ちゃんについて、分かった情報を共有しておきましょう。剣さん。

 やはり私が知る事例と似ていました。」

 

 

師匠が二杯目の煎茶を淹れてくれたのでそれを運び、ロウさんの音頭で情報共有と真相究明が開始。

剣が知る第四次人工優良魔剣製造計画の詳細、そしてロウさんの異世界知識をすり合わせて、魔剣ちゃんに起こった現象を突き止めるのだ。

 

 

「私には、その子が元は魔剣だったと言われても信じられないくらいなんだがな…。」

 

「失礼な。わたしはどこからどうみても、立派な剣。」

 

 

俺たちも、剣から女の子に変わった瞬間を見ていなければ、師匠と同じ意見だったろう。

無機物が女の子になる事例など、聞いたこともない。

これは剣が知る限り、第四次実験でも同様だ。

だが剣には、以前から魔剣の声が聞こえていたのだという。

つまり、あの戦いというより実験時に何らかのきっかけがあったということだろうか。

 

 

「第四次実験では、魔物化させるために異界に古刀や名剣を置き、魔物化が確認された段階で回収する。」

 

「おそらくそのタイミングで、私の世界の法則に汚染されたのだと思います。

 先ほど玄徳くんから聞いた、エーテル過干渉媒体の製造法…。それと対応するポジションに、私の世界では人化現象がありました。長年エーテルに晒されたモノが意思を持ち、人の姿を得る。そんな現象です。」

 

「こっちでいう、付喪神みたいなものですかね。あれはフィクションですけれど。」

 

「だがその条件なら、魔物はエーテルと良く接触するわけだし、他にも事例がありそうなものだが…?」

 

「木勢さんの疑問ももっともです。

 ですが…これはあくまでまだ仮説なのであまり言いたくはないのですが、魔物化や異界と、この世界に滲んだ他世界の法則は相反するものなのではないでしょうか。

 相反するはずの魔物化が抑制されたからこそ、他世界の法則である人化現象が適応されたのではないかと。」

 

「?」

 

「すいません、魔剣ちゃんが理解できてないのでもう少し詳しくお願いします。」

 

 

ついでに言うと、俺も理解できていない。

 

 

「この世界の法則である魔物化により、他世界の法則の表出が妨害されているのではないかという仮説です。

 私の世界にはこちらで言う()()()()()()()()()()()()。異世界の法則が滲んだ空間が異界や魔物に変ずるというのは、この世界独自の法則です。」

 

「それは、本当なのか?そうだとすると、滲んだ異世界の法則は…。」

 

「そのまま周囲の地域に適応されます。」

 

「つまり、不意に物理法則やら何やらが改変されるってことですか…!」

 

「はい。異世界との干渉により、予兆なく異世界の現象や化学反応・物理事象が追加発生するようになるのです。

 元々は、人化現象も他世界の法則です。もうすっかり、私の世界全体で発生するようになってしまいましたが…。」

 

 

それは、異界に正しい対処が出来なかった場合と同じ結果だ。

異界や魔物は、この世界に滲んだ異世界のモノ・元素・そして概念や法則により生じ、拡大し、そして解消されなかった場合。

異界は破裂し、この世界全体に、滲んだ異世界の法則が混じることとなる。

 

 

「私は異世界からの干渉について研究し、その影響を最小化すべく活動していました。

 そしてこの世界との接続の予兆を感知し、阻害を試み、失敗。

 目の前に開いたワームホールに飲み込まれる形で、この世界へと現れたのです。」

 

「俺たち異能者の、同業者みたいなものだったんですね…。」

 

「ええ。こちらの異能者同様、向こうでも他世界からの干渉に対応するための研究はさかんでした。

 そうした研究の中では、他世界間での法則の相性、あるいは混交した際どちらが優先されるのかの分類もありました。

 その研究に沿って考えれば、他の世界の法則とこの世界が混交したとき、絶対的に優先されるのが異界化であると言えます。」

 

「顕性遺伝と潜性遺伝みたいなもの…ですかね?」

 

「てっきり世界間で干渉が起こった際の異界生成は普遍的な法則だと思っていたんだが…それが、この世界の独自の法則だった。」

 

「そして異世界からの干渉で常に異界が生じているということは、異界化が優先されやすい・顕性(ドミナント)の反応である…ってことか。」

 

「そして異界化と魔物化が同一系統の性質であるなら、普段は私の世界の法則より、魔物化が優先され人化現象は起こっていなかった…という仮説です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「現状では、わたしに起こったのはその人化現象という認識でいいのでは。

 わたしとしては、刃が無くなってしまったから取り戻す術を教えて欲しい。」

 

「魔剣ちゃんはなんというかブレないね…。」

 

「人化現象そのものは不可逆です。私の世界でも対処する術は発見されていません。

 ですが本来の機能は維持される事例が多いので、フォームチェンジして剣に戻れるはずです。」

 

「そうか。

 ………。どうやって?」

 

「…分からんな。」

 

「…昔の姿を思い起こす?」

 

「変身ポーズを取るとか?」

 

 

上から、木勢師匠、剣、俺の案だ。

剣は魔剣ちゃんの手を握り、言う。

 

 

「私たちはこの三年、一緒に戦ってきただろう?

 そのときのことを思い描けば、行けるんじゃないか?」

 

「むん!」

 

 

ふよん、と音が鳴ったかと思うと剣の手に魔剣がある。

 

 

「戻れた。」

 

 

しかも喋る!

フォームチェンジってこんな感じなのか!

 

…でもなんか、元の魔剣と違う様な。

 

 

「「4th 」の刻印が消えている…?」

 

「あれは後から追加されたものだから。わたしがつくられたときにはついてなかった。」

 

「んん?もしかして、つくられたときから記憶があるって言っていたのは…。」

 

「鍛冶師によって作られたときまで、遡れる。」

 

 

つまり、まさかの数百歳。

ぶっちぎりの年上だった。

 

ふよん、と音を立て、人型に戻った魔剣さんが俺の隣に座る。

 

 

「これで問題は解決したね。

 もう少し羊羹が食べたい。いい?」

 

 

首を傾げ、俺の顔を見ながら魔剣さんが言う。

今すぐ追加持ってきますね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣との決闘から数日。

師匠とロウさんは上層部に呼び出され、異界討伐は「街に慣れるためにも私がやる」と剣にとられ。

上層部から待機命令が出されている俺は、やることもなく家で特撮を見ていた。

 

 

やることもないんだが、やっぱり落ち着かない。

 

世界の危機かも知れないってのに、何もできないのはもどかしいものだ。

世間は間近に迫ったゴールデンウイークに沸いているが、俺の心は盛り上がらない。

家では出来る修業も限られてしまう。本来なら走り込みと一緒に、人が踏み入らない森で異能の訓練もする予定だったのだが、黒幕の目がどこにあるか分からない現状では避けるべき選択肢だろう。

そんなわけで、家で筋トレや異能訓練をしつつ、特撮を見ているわけだ。

体内のエーテルに干渉すれば、体調を整えるのと同じ感覚で、狙った筋肉を動かし筋トレを行うこともできる。EMSベルトみたいなものだ。

異能の精密動作訓練にもなって一石二鳥。…ちょっと汗臭くなるのが玉に瑕だけども。

 

 

うーむ。

修業したい。

もしくは働きたい。

 

新しい修行法でも開発するかな…。でもなぁ。

じいちゃん家では暇さえあれば修業か異能知識収集をしていたので、独り暮らししてからはもう少し見分を広げろ、と修業のやりすぎを止められている。

その意向を無視するのもなぁ…。

一応、独り暮らししてからも、じいちゃんが規定した基礎トレーニングをこなしている。だがすぐ終わっちまうんだよなぁ…。

 

上裸で筋肉をピクピクさせつつ思い悩んでいると、チャイムがなる。

 

誰だろう。

ロウさんならベランダから入ってくるだろうし、師匠は上層部との折衝がまだ終わらないだろう。

剣はそもそも俺の家を知らない。ただのセールスなんかは、管理人さんが追い払ってくれるはずだ。

 

 

 

インターホンの画面には、一階エントランスに居る鴻上学園の生徒を映していた。

というかクラスメートの人である。

 

「はい、神崎玄徳です。」

 

「神崎くん?えっと、クラスメートの王生(いくるみ)桜雲です。今日は神崎くんが休んでた間のプリントを届けに来ました。」

 

 

学校。

…………。

 

完っ全に忘れてた。

 

ロウさんとの初遭遇の日に飛び出して、何の偽装工作もしてねぇや。

 

 

 




今回の設定語りパートは極めて微妙な出来ですが、許してほしい。
どうせ終盤で回収する伏線なので、今回は「ほーん」って気分で流しといてください。

次回はクラスメイトの王生ちゃんから見た玄徳&この世界の常識パート。
最近息してなかった逆転要素をここらで補充せねばなりません。

次回、「ありふれたガールミーツボーイ」は来週です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。