逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

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木勢理亜

上司兼師匠枠。
派手なスーツのクールビューティ。
ハードボイルド系ベテラン長身美女。
その胸は平坦であった。


神崎玄徳のやりたい俺Tueeシチュエーション第六位

木勢理亜(きぜ りあ)は、やたらと監視カメラが多いアパートの前でため息をついた。

 

 

今日、彼女は部下となる守護役見習いを迎えに来たのだが…そのアパート「コーポ赤城」は昭和的な名前に反し、最新設備を完備した中々の高級物件であるようだった。

インターホンを押し、部屋番号で呼び出す。503。最上階だ。

驚くべきことに、郵便受けを見る限り四階以下と比べ五階の部屋数は半分しかない。外観上差異はなかったから、その分部屋が大きくなっているのだろう。

 

 

(こりゃ、あの噂は本当かね…。)

木勢は部下となる少年――神崎家の秘蔵っ子について、いくつかの噂を聞いていた。

その一つに、神崎玄山老師が可愛がっていて、故に噂は流れど情報が出回らないようにしているのだ…などというものもあった。

老師の指導を受けたことのある木勢からすれば、あのおっかない老師が孫を可愛がる姿など想像も出来ないという他なく、ただの噂だと思っていた。

しかし、直接私なんかに頭を下げてまで孫の指導役になってほしいと頼み、独り暮らしのために高級物件を用意しているのを見ると、どうやら真実だったようだ。

 

 

(責任重大だな…。)

正直、胃が痛い。大恩ある玄山老師の頼みでなければ間違いなく断っていた。

そもそも根無し草の私が、名門中の名門である神崎家の人間に指導できることなどない。玄山老師の指導を受けたきっかけも、未熟故に自身の異能を持て余すなんて無様をしていたからだった。

 

 

老師曰く、そうした強大な異能の制御やバックファイアの対策に関しての指導を期待しているとのことだったが…同じく、箱入り息子ならぬ孫が都会や社会に出ても上手くやっていけるようフォローしてやってくれとも頼まれた。なんでも学校にすらろくに行かず、生まれてこの方修業三昧だったそうだ。修業場の外にもほとんど出歩かず、テレビだって老師と一緒に時代劇ばかり見ていて(孫と一緒にテレビを見る穏やかな老師など私には想像できない)電車に乗ったことすらない、などと言われたときは流石に冗談かと思った。

名門の子は苦労しているのだなと不憫に思って聞くと、修業三昧の日々は本人の希望だと言うのだからなお驚く。

特に守護役について聞いてからは遮二無二修業に励み、玄山老師が修業を止めるほどだったという。あの厳しい玄山老師がである。

戦力としても既に申し分ないレベルであり、実戦の経験さえ積めば一流を名乗れるほどだとか。孫であっても玄山老師が実力を見誤るとは思えない。本当に十五歳にして異能者として大成しつつあるのだろう。末恐ろしい話だ。

 

 

率直に言って、そんな熱意に燃える天才少年と相性がいいタイプではないのだが、受けた依頼は果たすのが信条だ。

ならぬことをなさねばならぬのが社会人。

気合を入れて、ドアをノックする。

 

 

 

 

出てきた天才少年は、中々の美少年だった。こんな子を独り暮らしさせるとなれば、老師が心配するのも分かるかもしれない。

 

 

「初めまして、俺は神崎玄徳。いつか、誰よりも強くなる男です。」

 

 

…中々、パンチのある第一声であった。

 

 

 

 

 

 

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逆転世界で異能ヒーロー  神崎玄徳のやりたい俺Tueeシチュエーション第六位

 

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魔物と異界。

それは有史以来様々な形で人類を脅かしてきた災害である。

 

 

異界とは異世界の影響に晒された空間であり、異界に汚染されたものが魔物となる。

なんでもこの世界は様々な異世界と薄皮一枚隔てて接続しており、時折異世界のモノ・元素・果ては物理法則が滲んでくる。そしてそれに汚染された空間が異界となり、この世界でも異世界でもない亜空間へと変貌するのだとか。

そして亜空間――異界はほおっておくと肥大化し、現実を浸食する。

そうなる前に、異界に汚染された魔物と空間を破壊するのが、異能者の仕事だ。

 

魔物と異界は世界共通だが、それに対抗する術は世界中で色々と開発された。

今ではそれらは異能と総称される。

日本では我が神崎家の退魔術が主流だ。歴史も古いので、今は別流派でも源流を辿ると神崎に行き着く例も多いのだそうだ。

 

 

ザックリ言うと、異界がダンジョンで、魔物がモンスター(まんまだ)で、魔物を残らずぶっ飛ばせば異界は消える。

シンプルな話だ。

 

そして魔物の見た目は、大分コミカルだ。

異界内部のモノが汚染されて魔物となるため、大抵は日用品の付喪神的なビジュアルとなるのだ。

 

 

 

 

 

 

「霊力弓、行きます‼」

 

 

木勢さんに一応の警告をし、近づいてくるポリバケツに短い手足の生えた魔物に半透明の矢を放つ。

矢の直撃とともに手足が消え、バケツは動かなくなった。

 

俺と守護役上司の木勢さんは今、早速オフィスビルの一角に巣くった小規模異界に来ている。

初陣とあって緊張もしていた。

だが、俺tueeを目指す身として上司に無様を見せることなどできはしない。

そのために万全の準備していたのだが…正直、拍子抜けである。

 

木勢さんは初実戦でビビらず動けていることを褒めてくれているが、こんなん怖がれという方が無茶だ。

異界はわりと何でも浸食するので、海外では土葬墓地がゾンビものめいた状況になることもあると聞くが、ここはただのオフィスビルの小規模異界である。

 

余裕だ。

 

 

 

 

 

 

…俺の中で悪い虫が蠢きだす。

これは、「アレ」のチャンスではないか?

無自覚系俺tuee主人公がやる、アレの!

 

 

俺は魔物の気配を探る振りをしつつ、エーテルを練り上げ、霊力弓の準備を始める。

魔物はこの世界の存在から逸脱しつつあるため物理攻撃が効きづらく、薄皮越しでも世界間を行き来できるエネルギー「エーテル」を利用した攻撃が望ましい。

この「エーテル」は割と色んなものに含まれているが、神崎流では肉体と精神からエーテルを発し攻撃する。

平たく言えば魔力や気みたいなものだ。

 

探知のためにしては多いエーテル量に木勢さんが気づくが、もう遅い。

 

 

 

「行きます‼」

 

 

もう一度警告しつつ、俺はビル異界の上の階、そしてその上の階、上の上の上の階、上の上の上の上の階、上の上の上の上の上の階まで含めて、都合ビル五階分の魔物を、ビルの天井ごとまとめて打ち抜いた。

異界の損傷は現実に反映されないからこその荒業である。

 

重要なのは、必殺技っぽい叫びも構えもせず、なんてことないかのように連射することだ。

 

 

そして、魔物の全滅により消滅する異界の中、おもむろに木勢さんの方を向き、そして「アレ」をやる。

 

 

 

「木勢さん、異界討伐、終わりました。」

「……?俺、なんかやっちゃいました?」

 

 

 

そして渾身のキメ顔。

「神崎玄徳のやりたい俺Tueeシチュエーション」第六位が達成された瞬間だった。

 

 

 

 

 

もちろん、木勢さんには大分怒られた。

 

 




ドヤ顔。
これには木勢さんも呆れ顔だ。(世界◯見え風に)

元ネタも異質さの描写で、別に格好良さを重点したものではありません。玄徳の誤用ですね。

玄徳は前世でも15で死んで、転生でワンモア幼少期(対人経験少なめ)に突入したため、コイツの「格好いい」のセンスは概ね小学生です。



早く魔物娘出してぇな…俺もな…こんな前置きを長くする気はなかったんだ…。

前話投稿後、10分でお気に入り登録してくれた人がいて嬉しい。
期待を裏切らないよう頑張るよ。

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