774様(非ログインユーザーの方)も感想いただきまして、ありがとうございます。
書いた小説にリアクションがあると、嬉しいですね!
「異界は現実の風景を元にしているが、現実とは独立している。玄徳くんの言う通り異界を損傷させても現実に損傷は反映されない。」
「だが一部の異界以外では、この世界と同じ物理法則が適応される。今回は異界の消滅が間に合ったが、もし敵を撃ち漏らした場合、穴だらけになった天井が崩落してくるぞ。」
「…あまり褒められた戦法じゃないな。」
「反省します…。」
憧れのシチュエーションにテンションを上げていた俺は、木勢さんに怒られた。
まごうことなき正論である。
そもそもコレ、異界探索のチュートリアルみたいなものなのなので、一階から全部射抜くとか台無しもいいとこだ。
「だが…。」
?
「玄徳くんの探知と狙撃の正確さはよく分かった。」
「やるじゃないか。これから、頼りにさせてもらうよ。」
「初陣祝いだ、今日は奢ろう。着いてきなさい。」
そういって木勢さんは薄く笑い、帽子に手を置いて軽く直し、颯爽と歩いていく。
女性に言うのもなんだが、とてもハードボイルドな仕草だった。
格好いい…。
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逆転世界のハードボイルド
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木勢さんと二人、街を歩く。
異能者は数が少なく、本来市町村単位で常駐の守護役が置かれることは珍しい。
だがこの街――炉火市は行政により再開発が進められていることに加え、元々異界発生が多い地域であるため、木勢さんが六年前から守護役として異界を討伐している。
「こんにちは、木勢さん。いつもありがとうございます。」
「やぁ、工藤さん。ま、これが私の仕事だからな。社長にもまた近々挨拶に行く、そのときはよろしく。」
「はい!伝えておきます。」
女性が声を掛けてきた。
上等なスーツ。磨かれた革靴。ヒールではない。
一目見て分かる、高い服装。金持ち、あるいは金持ち相手の商人。
「木勢さん、いつもお勤めご苦労さまです!」
「おう、坂崎。お前んとこの親分さん、元気か?なんでも手術したって聞いたが。」
「相変わらず、お耳の早い…。経過も順調でして、来週末には退院できるみたいです。」
「ならそれまでに見舞いの品を送っとくよ。よろしく伝えといてくれ。」
こちらは…派手なネクタイ(こちらでは女性がネクタイを締めていることも多い。ついでにいうと、派手といっても木勢さんのスーツほどではない)、というか入れ墨が若干見えてる…。
どう見てもヤのつく自由業の方だ。
軍人や警官だけでなく、ヤクザ屋さんも女性がメインになっているらしい。
しかし…。木勢さんを見る。
「ん?何だ?」
「…お知り合いが多いんですね。」
金持ちにもヤクザにも、こうまでガッチリ挨拶されるこの人は何者なんだろうか。
ジョジョのキャラみたいなド派手スーツを着こなしている時点で只者ではないと思っていたが。
「ああ、あいつらはな、昔仕事で関わったことがあるのさ。」
「異界ってのは、マクロな偏り、例えばこの街に異界ができやすかったりすることはあるが、基本どこにでもできる。それが土地を扱う不動産業界の連中には悩みの種でね。よく頼られるんだ。」
「ある程度の規模か歴史がある不動産屋なら、異能者と仕事したことがあるヤツがいるものさ。そういうとこなら、異能者を無下にはしない。私たち異能者に多額の寄付をしてくれている。」
「ヤクザに関しても、ここのは地元の歴史ある組だし、そうでなくとも地上げや土地ころがしで関わることもある。奴らは自分に利益をもたらすヤツには甘いのさ。」
へー。
知られざる異能者業界の実像。
修行時代の訓練は異能技能訓練と今まで出現した魔物の情報収集、ついでにじいちゃんとの対人戦といった感じだったから、そういう業界事情みたいなものは何一つ知らないのだ。
ついでに彼女たちが挨拶してきた理由だけでなく、何故か俺をガン見してきた理由も聞きたかった。
さっきから女性に見つめられて心臓がドキドキするぜ。
…まぁヤクザ屋さんの眼光に射抜かれてるせいなのだが。
「木勢さん、お疲れ様です!」
「「「「お疲れ様です!」」」」
いかつい女性たちの挨拶が断続的に続き、聞くタイミングを逸してしまう。
ハードボイルドな木勢さんへの気後れやヤクザ屋さんへのびびりもあるが、そもそもこの体は口数が少なく、喋るのが苦手なのだ。
修行場には人も少なく、じいちゃんとは拳と拳で語り合う仲だったのだから無理からぬ話だ。そもそも会話経験が少ない。
でも寡黙な俺Tueeヒーローってのは悪くないぞ!と思っているので気にしてない。
その辺は俺Tueeのためのコラテラル・ダメージにすぎないのだ。
「さて、繁華街を通ってこうして駅まで来てみたわけだが…。いろいろ、工事中の建物が多かったろう?再開発で大型商業施設がいくつも建つんだ。そうすれば人の流れも、街の景色もまた変わる。この六年で、炉火市は様変わりしたし、これからも変わっていく。ここはそういう街なんだ。」
「できれば、玄徳くんもこの街を好きになってくれると、嬉しいよ。」
そういって、木勢さんは笑う。
ううむ。
こうして目の前で年下を優しく気遣おうとする不器用ハードボイルドムーブをされると、饒舌なヒーローってのも悪くないように思える。
というか木勢さんは何なの?
叱ってからの包容力といい、格好いい仕草といい、余裕のある態度といい、こう不器用だからどうしていいか分からないけど優しくしたい、みたいなハードボイルドムーブといい、俺の心を掴んで離さないんだけど。
木勢さんを上司にしてくれたじいちゃんに、俺は深く感謝した。
俺は…ヒーロームーブの理想像を早くも見つけたのかもしれない。
目指せ、ハードボイルドだ。
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木勢さんにはラーメンを奢ってもらうことになった。
何が食べたいか聞かれ、木勢さんが普段行く店が良いと答えたからだった。
木勢さんはお祝いなんだからもっとちゃんとした店が良いとか、ちょっとこってりした店だからとか言っていたが、強引に押し通した。
じいちゃん家では、異能者は体が資本ということもあり美味い飯がたくさん食べれたが、老年のじいちゃんに配慮されさっぱりした料理が主だった。時折前世を思い出しては、こってりしたものを恋しく思っていた。
このチャンスを逃すわけにはいかない…!
そんな俺のラーメンへの情熱を感じ、木勢さんは折れてくれたのだ。
小汚い外見。
背脂の文字。
とんこつの看板。
想像以上に男らしい店構えだ。「らーめん豚」の暖簾。
心配する木勢さんをよそに、店へ入る
瞬間、突き刺さる視線。俺の外見はイケメンだがちびで、筋肉も外見上多くない。
店の常連(女性が多い)にしてみれば、店にそぐわぬ珍客に見えたことだろう。
「何にしやしょう。」
店主――店構えに反し、身綺麗な迫力ある女性が静かに聞いてくる。
常連たちのような隔意を感じぬ、あるいは感じさせぬプロの視線。
「玄徳くん、ここ普通盛りでも多いから小盛りの方が良いよ。」
遅れて入った木勢さんに、常連たちの視線がずれる。
そして、驚く気配。木勢さんもまたこの店の常連であり、常連同士顔見知りでもあったのだろう。
違う意味合いの視線が俺を射抜く。
まただ。
…ハードボイルドな木勢さんが、俺みたいな学生を連れ回しているのが意外なのだろうか?
まぁいい。
今大事なのはラーメンだ。
そして、木勢さんが俺をナメているということだ。
「とんこつラーメン普通盛りお願いします。」
「あいよ。」
「あっ…せめて、背脂は抜いてもらったら?」
「いいえ。背脂も含めて、ここのとんこつなんでしょう?それなら、入れてください。」
わざわざこってり系の店に来た以上、覚悟はある。
言い切って、席に着く。
常連たちからの視線が途切れるのを感じる。少しは認めてもらえただろうか。
こうして炉火市に来てから一番の長文を喋った俺は、木勢さんと二人、カウンターに座ってラーメンを待った。
ラーメンは最高にうまかった。
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だが十五年間さっぱり系で生きてきた体は背油を受け付けなかった!
「すんません、木勢さん…。」
「いいからいいから、そこの公園でちょっと休もう。」
気合でラーメンは完食したものの、なんか消化器系がヤバイ。
ぐるぐるとお腹がヤバイ音を鳴らす。
即座に異能を起動。
本来エーテルや異能を扱うのには高い集中状況が必要で、体調が悪いときには使用が難しい。
しかしじいちゃんと地獄の特訓を行った俺ならば、こうして起動した異能で体調を整えるという逆転的荒業も可能なのだ。
限りなく地味だが、神崎家のそこそこのレベルの奥義であり、俺の切り札の一つだった。
…こんな場面で木勢さんに知られたくはなかった…。
しかも木勢さんのリアクションも小さい。
普通に知ってるし、何なら自分もやれそうな態度だ。
悲しい…。
水でも買ってこよう、と木勢さんが自販機へと向かう。
いきなり上司にこんな迷惑かけて、申し訳ねぇ…。
一人凹んでいると、背面のベンチに誰かが座る気配。
「大丈夫ですかい、兄ちゃん?」
「ええ、ご心配どうも。なんかおまたせしちゃったみたいですね。」
背後で、ほんの少しの驚く気配。よく抑えられているが、精神のゆらぎをエーテル経由で感知できる俺には無駄なことだ。
「らーめん豚の十分前から尾行していらっしゃったの、あなたでしょう?」
「ええ。よくおわかりで。」
女狐め。何がよくおわかりだ。二十分前から既に尾行していただろうに。
こいつは段階的に隠行を解き、俺を試してきたのだ。
ナメやがって。
だが手の内を明かし切るのもうまくない。
まぁ最初の時点で気づいてたっぽい木勢さんが放置してたし、敵ではないんだろうが、警戒しといて損はない。
「いやはや、そのお年で見事なもんです。秘蔵っ子の名は伊達じゃありませんねぇ。
玄山様が目をかけてらっしゃるというのも納得です。」
ブラフ。いや…?ゆらぎが極端に少ない。そもそも嘘に罪悪感とか覚えないタイプと見た。エーテル感情探知も万能ではなく、こういう詐欺や話術の上手い手合には効かないようだ。
どっちにしろ、相手の情報を確定させてやるような話はしない。煙に巻く。
「師匠には、良くしてもらってます。」
「師匠…玄山様ですね。なんでもこの十五年修行三昧だっ「いえ。」――はい?」
「木勢師匠のことです。じいちゃんの指導を恩に思ってくださって、面倒をみてくださることとなりました。」
この言い方なら、木勢師匠が自発的にやったこととも取れる。じいちゃんは名家の隠居だけあって政治力もあり、俺を可愛がってくれていることが広まるのは面倒を呼ぶ。
ついでに言えば、こいつを驚かせたかった。
一瞬ゆれたエーテルを見る。目論見は成功だな。
ペットボトルが落ちる音。
木勢師匠が落としたのだ。話を聞いていたのだろう。
…想像以上に近い。
自販機前から木勢師匠のエーテルが消えたことには気づいていたが、この距離で俺の探知に引っかからない隠行とは。
むむむむむ。
じいちゃんのお墨付きは伊達ではないということか。
この実力とハードボイルドムーブの目標としての姿から、彼女を師匠と認めることに否やはない。
ぶっちゃけ言葉の綾だったが、師匠呼びに憧れもある。バカ弟子、とか言ってくれるとなお良し。
「師匠?わ、わたしがか?」
「木勢師匠。駄目ですか?」
「いや、駄目じゃあないが…。指導役ではあるし、間違ってもいないが…。」
駄目じゃない=良い。
よし、言質はとった。
「ふふふ、あては外れましたが、面白いものが見れました。木勢さんが狼狽える姿が見れるとは。」
「なんだ、見世物じゃないぞ、まったく。帰れ帰れ!」
「あら怖い。では、退散します。神崎玄徳さん、また会いましょう?」
ベンチ越しに、ひらりと名刺を渡される。
コミカルなカラスのイラスト。
情報屋、「白いカラス」の文字。
えらくシンプルな名刺だ。
慌てて振り向くも、情報屋は既に席を立ち、そして夕闇に消えた。
高位の
そもそも背格好や年齢すら偽装しているようだった。
まったく、みんな気軽に俺の感知を振り切ってくれる。
その去りゆく長髪の背を、いつか捕まえてやると決意した。
その後、夜も遅いからと木勢さんは家まで俺を送ってくれた。
道中師匠と呼ぶたび、なんだか気恥ずかしそうにしていて(年上に言うことじゃないが)可愛かった。
ギャップ萌えまで完備しているとは…。
ある日ハードボイルドな一匹狼のところに、恩人の孫娘が託される。
しかも彼女は超がつく箱入り娘で、とっても無防備に狼に懐くのである!
↑これをTSさせたものが今回のお話になります。
しかもTSさせるとおねショタ要素も入る!お得!
これは二人は幸せなキスをして終了するんだろうなぁ…。
p.s.
次回「裏切り」は明日か明後日に投稿。