魔物さんの姿がイメージしづらい人は「オウルメイジ」で検索してクロビネガの素晴らしい絵を見ればいいと思う。(ダイマ)
防衛機構(特撮)。
機甲戦士(特撮)。
魔装少年(アニメ)。
以上がこの世界における、ニチアサのラインナップである。
ライダーはない。
絶望した。
入学式の日、初陣の後。
帰ってみれば通販から、念願のノートPCが届いていた。
そして早速グーグルでこの世界のニチアサを検索した結果、ライダーが存在しないことが判明してしまった。
ガッデム。
ガッデム…。
ちなみに戦隊ヒーローも存在せず、〇〇機構シリーズがそのポジションにある。戦闘チームだけでなく、司令官や技術者も含んだ組織で敵と戦うシリーズで、戦闘要員の多くは女性だ。
機甲〇〇シリーズは、ライダーというよりメタルヒーローじみた特撮であったが、コンビか2+2の四人組が多く、バディもの・コンビものの要素が多いらしい。機甲アーマーが格好いいこともあり、女性主人公でも比較的抵抗なく見れた。主人公が苦しんだり曇ったりするシーンがちょっとえっち。
…俺の心が汚れているだけかもしれない。
そして、魔装少年。
これは魔法少女の類似概念だ。
この世界では、男が戦いや武道を好むことが少ないらしく、バトルヒーローの魔装少年はエポックメイキングな作品だったようだ。
ニチアサの魔装少年は健全で、線の細い少年たちの戦いと友情が描かれている。面白い。
『LimiterCut!』
「…斬る!ヴァニティ・ザッパー!!」
『Fullcharge!』
「穿て!ヤツより早く!!」
今ちょうど、これまで冷笑系のキャラだった敵の鎧騎士が、プライドも技名もかなぐり捨てて主人公に挑むシーンを見ている。
去年やってたらしい魔装シリーズの名バトルシーンだ。
熱い必殺技の撃ち合い。
鎧騎士の執念は、声優の好演も相まってかなりの迫力だ。
だがカイトが持つ魔装「瑪瑙剣アルバレス」の出力の前に敗れ去る。
トレードマークの鎧を砕かれた騎士は、しかし笑っている。
彼の執念はカイトの魔装に、若干の損傷を与えていたのだ。
その結果に満足し、這々の体で撤退する騎士は、おかしなものを目にする。
倒れ伏す、宿敵の姿。
と、ここでタイトルコール。「瑪瑙魔装少年カイト」魔装、それは命蝕む魔剣!
そして次回予告…。
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裏切り
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面白かった。
世界は変わっても…こう…ニチアサは最高だな!
この「コーポ赤城」はネット回線備え付け物件だったので、最近は動画配信サービスでアニメや映画を見まくっている。
新しい作品が見れて実に新鮮な気分である。
映画は古典的名作からなにから別物なので戸惑うことも多いが、文学や絵画では前世で見たものもそれなりに存在するようだ。クラシック音楽なんかはほぼそのままだった。
この世界独特の傾向としては、男の股間を強調するカットが入ることだった。
映画だとこう、ちょいちょい際どいシーンがあってゲンナリする。
特撮でも、安定して筋肉モリモリマッチョマンの変態もとい悪の幹部がいて、もっこり股間を強調したデザインのアーマーをつけるのだ。
なんなんだろう、あれ。
女性向けのサービスシーン、なのだろうか。セクハラにしかならない気がする…。
あと個人的に嬉しかったのは、女性上位系のエ□ゲが多いことだった。
男性向けエ□ゲの市場そのものはちょっぴり小さくなってる印象だが、俺の性癖的には当たりが増えたくらいである。
じいちゃん家に居る間は、精力をエーテルに変換、性欲を消して活力に変えるとかいう中華仙人じみた生活を強いられたからな…。
修行の効率化に繋がるからとじいちゃんに頼んで教えてもらったのは俺なのだが。
まぁおかずとか手に入る状況じゃなかったし。
仕方ないね。
師匠の前で無様を見せるわけにもいかないので、変換技能はまだ現役である。
あんな綺麗な人の前で、不意に大きくでもして失望の目を向けられたら、性癖が歪むもとい嫌われてしまう。
だがいつまでも続けるわけにもいかないだろう。
…というか年単位で発射していないんだが、機能的に大丈夫だろうか。
ふ、不安になってきた。
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学校生活も今のところ順調である。
順調に寡黙ミステリアスキャラだ。
誤算だったのは、体育の授業に参加しない――流石に学園側が、全身凶器とも言える異能者と学生が一緒に運動することに難色を示した――ため、病弱キャラまでついてしまったことだ。
田舎に住んでたことも話していたため、病弱少年が療養を乗り越えてやってきた、みたいな扱いを受けている。それはむしろ妹の状況なのだが。
この体の口下手さと話すスピードの遅さ故に、誤解は未だ解けていない。
だが学園の上の方にも話が通っているので、卒業単位やら欠席数も問題ない。
逆にこのキャラ設定活かした方が異界討伐は捗るかもしれない。
捗るかもしれないが…俺は俺Tueeもバラ色学園生活も両立させたいのだ。
…!
キーン、キーンと、音がなる。
俺を戦いに呼ぶ音だ。
発信源は俺の林檎スマホ、そこに取り付けられた異能者向け雑貨、
機能は異能者にしか聞こえない音を出すこと。モスキート音みたいなものだ。
異界は突然発生する。故に装着していた異能器だが、まさか鳴るとは思わなかった。
師匠なら俺など居なくても、事態を収拾できるからである。
緊急事態かもしれない。
異能を発動。
意図的に体の機能を乱し、顔色を悪くする。
ラーメン屋のときの奥義の逆用である。
ちょっとやりすぎると意識を失うので、加減が大事だ。
「先生、すみません…。おなかいたいです。」
「お、おう。保健室行って来い。」
やや棒読みだったが、教室からの脱出を認めてもらえた。
ゆっくりと教室を出て、即座に異能を発動。
体調を整え、隠行を実行。
迅速に下駄箱まで走る。
「ふふ」
思わず、笑いが漏れる。
これだ。
これこそが、俺が思い描いていた高校生異能ヒーローの姿である。
だが、これは妄想ではない。現実だ。
つまりは師匠を待たせるわけにはいかない。緊急事態なのだ。
ポケットからスマホを取り出しメッセージを確認。
集合場所へと、全力で走った。
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集合場所には、カラフルなビックスクーターに乗った木勢師匠が居た。
服装はまた別の派手スーツ。
色調を揃えれば、そのまま機構シリーズに出演できそうだ。
「推定だが、異界渡りが現れた。」
師匠は言う。
表情は固い。
ド級の緊急事態だった。
異界渡りとは、異界から異界へと移動する能力を持った魔物のことである。
特異な、あるいは成長しきった魔物が、異界渡りになると言われている。
異界渡りそのものの戦闘能力も問題だが、こいつには厄介な習性がある。
移動先の異界を拡大させるのだ。
強大な魔物の存在によって、異界が内部から風船のように膨らまされるのだとか。
しかも異界渡りの移動先には物理的な距離の制約しかない。
つまり近場ならばどんなに小さな異界だろうが移動でき、その異界は膨らむ。そして、現実が浸食される。
異界渡りがその気になれば、二時間で街一つを異界に沈めることができると言われている。
そんな異界渡りによるものとみられる、異界の膨張が確認されたのだという。
やべぇ。
「ああ、やばい。だが、私たちはまだ間に合う。膨張が確認されたのは48分前だ。
大至急、当該の異界を周囲の異界から孤立させ、異界渡りを撃破する必要がある。
救援要請は送ったが、間に合わん。
私と、お前でやるんだ。」
「…はい!」
「よし。良い返事だ。
お前は西から、私は東から回りながら、周辺の異界を叩きつぶす。
異界渡りの逃げ場を先につぶす必要があるからな。
足はあるか?」
俺は足の異能器にかけていた隠行を解除する。
ローラースケートとキャタピラを悪魔合体させたような物体。
下駄箱に隠しておいた高速移動用異能器だ。
迅速に帰宅してアニメを見るために持ち込んでいたのが、意外な形で役に立った。
「あります!」
「よし、行け!
異界の座標はスマホに送信済みだ。
こいつを使え!」
異能器を起動。
俺のエーテルをバカ食いしながら、ローラーが回る。
そして合わせて、渡された異能器――デコイユニットを起動する。
こいつは異能により物の外見認識をすり替えることができる装置だ。
めっちゃ高い。
しかもこれ、カタログで見た最新型だ。
…にしちゃあ使い込んだ形跡があるが…。
まぁ何にせよありがたい。
隠行では姿を隠してしまうため、一般人とぶつからないよう、屋根の上など変なルートを通らざるを得ないのだ。
一般人からはビックスクーターが白バイに見えるよう偽装し、師匠が走り去る。
俺も同じく白バイに偽装し、ローラーダッシュで道路を駆けた。
異界渡りの移動可能距離には大きく個体差があり、どこまで周りの異界をつぶせば良いのかは分からない。
増援を待たず、二人で攻める理由がそれだ。
だが、いきなり異界渡りの下に突っ込むわけにも行かない。
より近く・より大きな異界ほど、異界渡りは早く移動できるようであり、下手をすると戦闘中に逃げられるのだ。
近くの異界を討伐し、木勢さんと合流できたのは、異界の膨張確認から二時間後だった。
「ヤツは!?」
開口一番、異界渡りの所在を問う。
ヤツが移動しているとすると、このままいたちごっこをする羽目になる。
「移動していない。
五分休憩後、突入する。」
師匠の口数は少ない。
これが本気モードの師匠なのだろう。
凛々しい。
格好いい。
休憩と聞いたからか、どうでもいい考えが脳裏によぎる。
思考がそれていく。
突然の緊急事態は主人公ポイント高いけど、ほんとに心臓に悪いな…。とか。
師匠に挨拶していた女性たちの姿と、ラーメン豚の店主、クラスメートたちの顔が思い起こされる。
まだこの街に来て日は浅いが、命をかけるに値する街だと思う。とか。
そんなことを思った。
まったく、主人公も楽じゃないぜ。
…言ってみたかった台詞を言うベストタイミングだったが、まだこれを言う気にはなれなかった。
異界渡りをぶっ殺してから言おう。
そう思うと、やる気が湧いてきた。
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ぴったり五分後、水分補給を済ませた師匠が言う。
「乗れ。」
?
「俺たちはこれから異界に突っ込むのでは?」
異界の入り口はもう目の前だ。
倉庫街の中。
おそらくは廃倉庫。
まぁ現役であっても、後始末のため廃倉庫にされるのだが。
「ああ、そうだ。
しっかり掴まれ。
…このまま突っ込むぞ!」
「うそだろおい。」
思わず素が出る。
アクセル全開。
猛スピードで、ビックスクーターが異界に突っ込む。
おもわず、師匠の体にしがみつく。
柔らかかった。
だが堪能している暇はない。
衝撃。
「うわぁお…。」
「運転に集中する、ナビゲートしてくれ。」
無茶仰る。
まぁ俺なら可能なのだが。
探知の異能を起動、敵の位置を探る。
突っ込んだ先の異界は、廃倉庫を景観そのまま縮尺を変えるように引き延ばした、巨大な空間だった。
蟻になった気分だ。
巨大なカラーコーンの間を、ビックスクーターが走る。
急な異界膨張であるためか、魔物の密度も明らかに低い。
ルート次第では接敵せず、異界渡りの下まで行けそうだった。
「居るか?」
「異質なヤツが、います。」
「突っ込むぞ。」
ビックスクーターはスピードを上げ(今更だがスクーターの速度ではない)、廃倉庫を進む。
異界渡りの位置直前で、師匠はビックスクーターを止めた。
ナックルダスターを装着し、臨戦態勢。
俺も、霊力弓の準備をする。
霊力弓はその名の通り、霊力=エーテルで構成されている弓だ。
弦ではなく、エーテル形成の弓そのものがエーテルの加速器として機能し矢を撃ちだすため、片手で射撃できる。
事前に弓を入念に形成しておくことで、戦闘時には手早く形成したエーテル矢でも威力を出すことができるため、対応力と速射性に優れた武器だ。
右手の弓掛型異能器の補助を受け、そこから霊力の弓を形成しておく。
ついに、決戦が始ま「こんにちは。」る?
「どうも、こんにちは。…言葉、通じてますよね?」
こうして、予想外の形で、異界渡りとの接触が始まった。
思考が高速で回る。
接近に気づかなかった。
気づけなかった。
師匠すら。
ピンチ。先手をとられた。
敵はこちらに話かけてきたのだ。
敵。
魔物。
異界渡り。
…。
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
「君が…異界渡りか?」
!
流石師匠!こんなときでも冷静!
…いや待て。
異界渡りとか人間の用語を、推定魔物の相手が知るわけがない。
「あ、通じてましたか。良かった良かった。
改めましてこんにちは。」
「はい、こんにちは。」
目を見て話しかけられたため、反射的に返事。師匠は警戒を続行中。
「それで、異界渡り、ですか。
こっちでは私みたいなの、そう呼ぶんですか?」
改めて、異界渡りの姿を見る。
…でかい翼。
全身に羽。
足先はかぎづめ。
だが脚そのものの形状は人寄り。
身長は長身の師匠並み。
くちばしは無い。
というか、人の顔だ。美人。
頭から、髪だけでなく、一部羽も生えている。
………フクロウ版ハーピー?
「いや、我々も君のような魔物は初めて見る。」
「あら、そうなんですか。」
理性的な口調。
暴れる気配なし。
…魔物が、人型になる事例は存在する。
それらが喋ることもまた、ある。だがそれはあくまで鳴き声の代わりに声帯が震えているに過ぎない。
こんなしっかりとした会話をした魔物の事例は、存在しない。
仮にじいちゃんが把握していた場合、間違いなく俺に教え、対策を仕込んでいる。
そして日本異能者筆頭、神崎家の重鎮であるじいちゃんが把握していないということは、地球上で初めての事例であると考えてほぼ間違いない。
「君は、何者だ。」
「ふむん。哲学的な問いですね。」
会話は続く。
師匠は静かに、距離を詰める。
…警戒すべき点として、異界渡りの能力については既に確認した。
だがもう一つ、異界渡りには厄介な特性がある。
異界渡りが遠くの異界に行くための予備動作は、それぞれ固有のものなのだ。
今、異界渡りは師匠と会話している。
何か怪しい動きは見られない。
だが、今この瞬間にも移動のための準備が進んでいて。
その時間稼ぎのために話かけている可能性は否定できない。
だが彼女の瞳に、邪な光はなかった。
「できれば、君について2、3聞きたいことがあるのだが、答えてはくれないか?」
「私に答えられることでしたら、OKです。
でも、その前に、あなた方の名前を教えて下さらない?」
そもそも、知性の有無と人間への敵対性の有無に、相関関係は存在しない。
彼女の知性が本物だろうが、人類の敵である可能性もある。
だが彼女の声には、親愛が滲んでいる。
「これは失礼、私は木勢。彼は神崎という。
私の知る魔物は、人間からエーテルを奪うのだが、君もそうなのかね?」
「エーテルが精気のことを指してるなら、Yesよ。私も魔物だからね。
でももちろん、無理くりやって傷つけるようなことはしないよ。」
エーテルを奪われた人間は、衰弱する。
精神や気力へのダメージが生じるのだ。
異界に巻き込まれた人間は、あの付喪神めいた魔物に襲われ、消耗し、意識を失い、やがて衰弱死する。
魔物はエーテルを必要とし、エーテルを求めて活動する。
そして同じ魔物のエーテルではそれを賄うことができない。
故に、魔物は積極的に異界への侵入者を襲うのだ。
彼女の知性が真実のものだったとしても、エーテルを求める以上、人類の敵になりうる。
まして異界をここまで膨らませる異界渡りが必要とするエーテル量など、想像も出来ない。
逃がせば、犠牲者が出る。
だが、彼女は理性的に会話している。
「次に、なぜここに来たのかね?」
「事故…みたいなものなのかしら。
頑張って、これから帰り道をさがそうと思っているよ。」
師匠が異能を準備しているのが見える。
恐ろしいほど高位の隠行で、それを隠している。
異界渡りは気づいていない。
異能は第二階位、「縛鎖」。
ロープやワイヤーを操り、相手を縛る第一階位異能の「縛」と異なり、縛るロープ自体をエーテル形成するあの異能は、抜群の奇襲性を持つ攻性捕縛異能だ。
俺もじいちゃんによく使われた。
高速で飛来したロープが腕や体に張り付き、締まるロープで関節が極められる。
骨の一つや二つ、簡単に折れるだろう。
そもそも、師匠は異界渡りを殺すつもりでいる。確実に追撃するだろう。
異界渡りは気づいていない。
師匠が、また少し距離を詰める。
異界渡りは、気づいていない。
このままでは、彼女は、死ぬ。
「次に、」
師匠が問いかけ、いや、問いかける振りをして、「縛鎖」を起動する。
一瞬目が合ったときの、彼女の瞳を思い出す。
そこに、邪念はなかった。
親愛だけがあった。
そこに、守るべき人と同じものを見た。
俺は、それを、信じることにした。
かくして俺は、師匠を裏切ることにしたのである。
次回、「強く当たって後は流れで」 明日投稿。