おかげ様で評価バーに色が付きました!スゴイ!
そしてそのおかげで、昨日21時からの日間オリジナルランキングで四位を獲得!
UA急増、感想増加、こ…これがランキングパワーか…!
皆さまの評価と感想、お気に入りのおかげです。ありがとうございます!
ヨ=グルトソース様、あいうえおか@様、拙低虫様、見習い様、パシフィック様、111様、評価ありがとうございます!
感想も全て返信します。一言でも苦言でも大歓迎ですよ!
前回のあらすじ。
「私は人を傷つけないよ!」
「ああ…最悪だ。
今日という日を、俺はきっと後悔する!
今助けるぞ!」
「…どうして、私を信じてくれたの?」
「君の瞳に、嘘はないと思ったからだ。」
「逃がすか!」
ビーザワンッ!ビーザワーン!!
大体ビルド一話だった。
なお追跡者はガーディアンではなく、エボルフェーズ1であるものとする。
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「…何のつもりだ?」
向かい合う師匠が問いかけてくる。
冷たい口調に反し、表情には戸惑いが濃く表れている。
無理もない。
師匠からすれば、あまりにも突然の裏切りだ。
俺は今、倒すべき魔物に背を向け、師匠の異能行使を妨害した。
そして、師匠に対し明らかな戦闘態勢をとっている。
俺だってやりたくてこんな事してるわけじゃないが、致し方あるまい。
「彼女を傷つけさせる訳にはいかない…‼」
どうにか声を絞り出して、師匠と向き合う。
師匠。木勢理亜。
二つ名は鬼人。蛇拳。その他、罵倒と揶揄が一通り。
幼い頃から戦い続けてきたベテラン異能者だ。
かつての師匠は自分の異能をコントロールしきれず、自分ごと敵を葬るような荒々しい戦法で戦っていたらしい。
じいちゃんの指導によりそれは改善されたが、その時期の不穏な二つ名が今でも現役なのだ。
あのじいちゃんが認めた、じいちゃんと同じバトルスタイル――拳闘士の異能者である。
エーテルによる肉体強化と体表硬化。異能者の基本中の基本を、誰よりも鍛えた者たちが拳闘士だ。
師匠は小洒落たナックルダスターを装着しているが、あれはあくまで補助異能器で武器ではない。
実際に敵を砕くのは、エーテルで硬化した肉体か、肉体を薄く覆う半形成されたエーテルだ。
本来異能者同士の格闘戦は、エーテル形成の武器によるフェンシングのような一撃で決まる戦いとなる。
武器にするため意識的に形成・凝縮されたエーテルは、人体で循環するエーテルの濃度を凌駕する。
結果、エーテル武器に攻撃された場合、高濃度の他人のエーテルが体内に流入、体内エーテル循環が乱れ、一時的に異能が使えなくなる。
その対抗策になりうるからこそ、体調不良時の異能行使なんて地味なものが奥義扱いされているのだ。
だが、拳闘士は例外だ。
拳闘士は、敵や敵の武器と接触した瞬間、その部分の体表にエーテルを集中、硬質化させることでこの原則を踏み越える。
瞬間的かつ連続的なエーテル集中。
マクロスを知っているなら、ピンポイントバリアを思い浮かべて欲しい。
超絶技巧というか、変態の所業だ。
エーテル形成の凝縮練度勝負、もしくは自身の凝縮したエーテルを、如何に相手がエーテルを凝縮していない部分に差し込むかという勝負になる異能者同士の戦いにおいて、無類の強さを持つ。
弱点は射程。
速度と硬度と濃度のために、拳闘士はエーテル形成を体表数ミリメートルに限定している。射程は通常の格闘技とほぼ同じだ。
故に最適解は遠距離から封殺し、敵のエーテルを削り殺すことなのだが…。
師匠との距離は畳一枚分。拳の間合い。
「縛鎖」のために距離を詰めていた師匠と異界渡りの間に割り込んだためだ。
近い。
さっき「縛鎖」の妨害が間に合ったのは奇跡に近い。
考えるより先に、体が勝手に動いた。
はは。
女の子を庇って、こんなことを思うとは、まるで主人公みたいだ。
念願叶ったシチュエーションなのに、どうしてか胃が痛い。
口の中が乾く。
冷や汗が噴き出る。
「え?今何が起こったんです?」
マジかよ。
背後の彼女は状況を把握できていないようだ。
後ろから撃たれない分まだマシかもしれないが、せめて逃げてくれないものか。
…いや、異界渡りが逃げるとか大惨事だ。
理想は、木勢師匠を可及的速やかにぶっ飛ばし、異界渡りの警戒を解き、交渉して情報収集、それを持って彼女の危険性の無さを確かめ、木勢師匠にもそれを認めてもらうことだ。
自分で言っといてなんだが、前提条件の難易度が高すぎる。
そもそも、格上の師匠を倒さねばならない。
口下手の身で、異界渡りに信用してもらわねばならない。
さらに情報収集で厄ネタが出てこないことを祈って。
それを裏切り&戦闘を行った後で、師匠に認めてもらう必要がある。
…無理では?
「何やってんだバカ弟子…!」
激おこ。
師匠は困惑から脱した。
もうちょっと、混乱していてくれないものか。切り替えが早すぎる。
まだ二本しか霊力弓の矢を形成出来ていない。
霊力弓の矢も弓と同様エーテル形成であり、気合と時間をかけた分だけ威力が上がる。
さらには貫通力を上げたりホーミングさせたり分裂させたりと、様々な性質を持たせることも可能だ。
そうした取りうる選択肢の多さも、俺の強さなのだが…。
当然、この間合いでは活かしづらい。
やべぇ。
勝てるビジョン、見えなくない…?
「縛鎖なんて要らないでしょう。彼女は理性的に会話してくれています。」
「…そうかもしれん。だが守護役の我々は、異界渡りの持つリスクを無視できない。
お前も分かっているはずだ。」
「それでも、俺は彼女を信じたい。
師匠だって、話していて彼女の気質は分かるでしょう?
俺は、彼女が傷つく姿を見たくないんですよ。」
交渉決裂。
臨戦態勢。
本能と理性が同時に、勝てない相手だ逃げろと叫ぶ。
怖い。
じいちゃんとのトラウマのフラッシュバック。
命乞いをしたくなる。
だが。
女の子が後ろにいるのに、そんな真似はできない。
「意地があるんだ、男の子には…!」
呟き、弓に矢を番える。
勝ち目があるとすれば、短期決戦しかない。
切り札を切った。
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強くあたって後は流れで
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端的に言って。
状況は玄徳が思うほど絶望的ではない。
鬼人キゼリア。
木勢はその二つ名ほど恐ろしい人間ではなく。
敵が傷つくのを心配する、優しい少年の訴えを無碍にするような冷血女でもなかった。
彼女の勝利条件は一つ。
異界渡りの逃走阻止。
交渉するにしろ抹殺するにしろ、これは前提条件である。
故に木勢の、玄徳との戦闘においての最良は、速やかに玄徳を倒した後異界渡りを捕縛することであり。
次善は、異界渡りを警戒しながら戦闘を引き延ばし、増援到着まで時間を稼ぐことだ。
最悪は、玄徳と異界渡りが協力して逃走を図ることである。
魔物の味方をした、というのはどうしようもなく醜聞だ。
傷つけたくはないが、玄徳自身のためにも出来れば増援到着前に決着をつけたい。
だが、異界渡りを逃がすわけにもいかない。
木勢は今、かなりギリギリのラインで手加減を模索していた。
彼女は神崎玄徳の戦力を高く評価し、警戒している。
初陣、そしてその後の異界討伐、そして今日の周辺異界の討伐速度。
そして、戦場の玄徳は常に俺Tueeムーブを目指しスタイリッシュに戦っている。
彼女はそれを、強者の余裕なのだと受け取っていた。
そして自身の一撃が玄徳の切り札「ハイパー霊矢(仮)Ver9.Ø」とぶつかり合ったとき、その評価はさらに上昇した。
木勢はその威力に合わせた手加減をした。
木勢はハイパー霊矢を凌ぎ、高速で踏み込む。
鉄拳が、霊力弓の下半分を一撃で叩き折った。
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右頬をぶん殴られる。
矢を放つ。
回し蹴りの気配。
障壁を左手に展開し、ガード。
しかし蹴りはわけわからん軌道を描き、障壁を包み込むしなやかなものに変化。
障壁越しに衝撃が貫通。
押し出された左手で胸を強打。息が止まる。
矢を放つ。
ぼっこぼこである。
弓の照準をつける暇がない。
今射っている矢は、弓によって加速されていないものだ。
エーテル形成して撃ちだすだけなので、体のどこからでも発射できる。その分威力はお察しだ。
だが至近距離なら牽制くらいにはなる。
師匠の動きが速すぎてめくら撃ちしか出来ていないが、弾幕を張ってどうにか対抗している。
何なんだこの強さ…。
[悲報] 師匠が強すぎる件 [知ってた]
というか切り札が一瞬で弾かれたんですが…。
ちょっと難易度おかしくない?
負けイベントなの?
殴られながら現実逃避する。
弓を再形成する暇がない。
仕方ないので、残った上半分のエーテルを再構成、硬度を上げて近接武器に加工する。
パンチ。
キック。
二発でブチ折られた。
ゴリラかな?
ふぁっく。
女の子を庇っているのに、後ずさりなどできる訳もない。
さっきから同じ場所でぶん殴られ続けている。
距離さえ…距離さえあれば、拳闘士なんぞ!
負け惜しみを言おうとするも、顔をぶん殴られて中断させられる。
口内に血の味。舌を噛んだ。
変幻自在。
真正面からの奇襲。
どう攻めてくるのか分からない。
脚の軌道が読めない。
師匠の戦法は蛇拳と呼ばれる、特異なものだ。
血筋に因らず突然変異的に異能に目覚めた師匠の基本は、異能を前提とした神崎流ではなく、通常の拳法である。
中国拳法。
カポエラ。
ロシア空手。
それらを自身の異能で強引につなぎ合わせた異形の武術。
人呼んで邪道の拳。
そんな揶揄を実力でねじ伏せ、周囲に認めさせたからこその蛇拳であり鬼人だ。
じいちゃんとの稽古を思い出す。
じいちゃんは膨大な知識と経験、そして勘により敵の行動の前兆を察知し、最速の鉄拳でそれ潰すという後の先の究極系のような戦法を取っていた。
同じ拳闘士でもタイプが違う。
しかしなすすべがないという意味では大差ない。
さっきからわけわからん技が矢継ぎ早に飛んでくるのだ。
太極拳の技とか知らないよ!
ロシア空手なんか怖いよ!殺意に溢れてるよ!
1981年政府により習得禁止令が出され、KGBと警察特殊部隊員しか練習を許されなかったという伝説の拳法だ。
嘘みたいな話だが、現実の話である。
鉄のカーテンの内側で、特異な進化を遂げたのだ。
なんでそんな技知ってるの…。
勝つためにはどうにか隙を見つけて大技を叩きこむ他ない。
俺は人間ダビスタを百年単位で続けてきた神崎家の人間なのだ。エーテル量自体は師匠よりも多い。
その出力差ぐらいしか、勝ち目はないだろう。
まぁ隙とかないんですけどね。
ぶん殴られながらどうにか弾幕で時間稼ぎをしているが、技の継ぎ目が少ない上に、そもそもどんな技が出てくるか分からない。
目の前で万国マイナー拳法見本市が開かれている気分だ。
それでもどうにかなっているのは、じいちゃんにもわからん殺しでぼこぼこにされていたからである。アドリブ対応力を鍛える、あの地獄の特訓がなければ即死だった。
多芸な武芸者って、敵に回すとここまで厄介だったのか…。
師匠の体が沈み込む。
今度はどんなビックリドッキリ拳法が飛び出すのか。
死んだ目でそれを眺める。
…。
…。
…?
脳裏に閃き。
なんかこの技みたことあるぞ?
両手をつく。
重心を移動、片足を軸に。
師匠の綺麗な脚が加速する。
…あ!
これアレだ!
メイアルーアジコンパッソ!
メイアルーア・ジ・コンパッソだ!
その名はポルトガル語で「コンパスの半月」を意味する。
両手を地につけ片足を軸にした、カポエラの連続蹴りだ。
俺は、それを受け止め、勢いにのって自分から吹っ飛んだ。
今まで動かなかった俺が離れることに、師匠が驚いているのが分かる。
俺は、念願の距離と師匠の隙を同時に手に入れた。
転生知識の勝利である。
思わずニヤリと口が半円を描く。
ウカツの代償を支払ってもらおう。
千載一遇のチャンス。ここで確実にブチのめす。
バチリと弓掛型異能器が異音を放つ。
異能行使補助の効果を持つ、金糸の刺繍が赤熱する。
俺はエーテル量にものを言わせ、無理くり高威力の矢を形成、強引に簡易形成の弓で連射する。
無理くり作った不安定な矢は、形成の瞬間から崩壊を始め、撃ちだす弓や俺の腕をも焼く。
だがその不安定さは防御のしづらさと同義であり、敵に着弾すると同時に破裂する。
矢を弾こうとした師匠が、爆圧で吹き飛ばされる。
矢を射続ける。
弓掛型異能器が赤熱し、その布が俺の血で染まる。
故に名付けて、
「紅蓮弓ッ!」
必殺技は、叫ぶものだ。
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[木勢理亜の記録]
神崎玄徳の実力は、私、木勢理亜の予想を大きく上回っていた。
初陣であるはずの小規模異界は、わずか30分で討伐された。
その上、彼はそのまま次の異界に向かうこともできるとすら言っていた。
あれほどの出力の異能を行使し、息すら上がっていない。
流石にその日は帰らせたが、二日後の出動の様子を見る限り、本当に余裕があるようだった。
二つ目以降の異界の討伐は、その長大な射程と感知範囲によりほとんど射的のような有様だった。
試しに連続での異界討伐を試みたが、彼は何の問題もなくそれをこなした。
困った。
本来であれば、小規模異界で異界探索に慣れ、中規模異界、大規模異界とランクアップしていくつもりであった。
しかし正直、小規模異界では只の作業にしかならないであろう。
彼がこの炉火市で活動を始めて十日。
既に小規模異界の討伐数は七を数えた。
P.S.
以上のように彼は戦力としては申し分ないが、懸念したようにいささか常識知らずの面が見られる。
初陣では、簡易な警告があったとはいえ天井ごと敵を射抜いて私を驚かせた。
そして「何かやっちゃいました?」だ。
イケメンとはいえドヤ顔は腹が立つのだと初めて知った。
だが、得意げな顔を見せる程度には年相応な部分があるのだと微笑ましくも思う。
とはいえあまり褒められた行いでもない――特に玄山老師から、力をひけらかすような真似をしたら窘めてくれと頼まれていた――ため、注意することにした。
したのだが…私は独身の女で、彼は年ごろの男子である。
老師の依頼で頭がいっぱいだったが、冷静に考えれば私に年ごろの男子の扱いなど分かるわけがないのだ。
セクハラになってもいけないし、そもそも初陣を終えたルーキーを叱りつけるような真似はしたくなかった。
そんな訳で上手いこと伝えられたる自信がなく、もので釣るような言い方になってしまった。
しかも、連れて行ったのはこてこての女っぽいラーメン屋である。
どう考えても、年ごろの男子向きの店ではない。実際体調を崩したようだった。
にもかかわらず、彼は私を嫌うどころか(私の勘違いでなければ)尊敬の目で見てくる。
なんでも老師が私のことを美化して伝えていたようで、大分慕ってくれているのだ。最近は師匠と呼んでくる。
そして、箱入りだったからかやたらと無防備だ。
戦闘中はともかく、道中やらアパートの玄関やらであまりにも振る舞いが心配になる。
あの日会った街の連中には「援助交際」だの「情夫を囲った」だの「光源氏」だの散々な言われようだった。
失礼な奴らである。白いカラスに噂の火消しを頼む羽目になった。
私は彼の祖父に見込まれ、信じられて孫息子を託されたのだ。そんな真似はしない。
…これからはし、師匠として、彼をしっかり導いていこうと思う。
…やっぱり師匠は気恥ずかしいな。
先生呼び辺りに変えてくれないだろうか。
……………………
………………
…………
……。
こんなに慮ってくれる師匠にしこたま矢を叩きこむ弟子がいるらしい。
「なんだって!それは本当かい!?」
玄徳も所詮は薄汚い転生者だから仕方ないね。
次回「無実ではないランナウェイ」は今晩投稿します。
書き溜めとかないですけど、今から書きます。
これが感想&評価の加速パワーだ!