逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

7 / 15
おかげさまで、9/27日日間ランキング二位、日間加点式一位を獲得しました!
スゴイ!ウレシイ!

その効果で沢山の感想・評価をいただくこともできました。人気作家の気分です。
嬉しい。楽しい。感想はすべて返信しました。ご指摘ご苦言もありがたく受け取っています。
謝辞は伸びてきたので後書きに移籍です。



なお、予定していたシーンは全年齢版に差し替えられました。
当社比三倍近くまで文字数が増えたため泣く泣くカットです。
昨日更新できなかった理由でもあります。
本作はR-15だから仕方ないね。
Rー18見たい人はクロビネガ様に行こう!な!


どきどき二人森キャンプ

前回のあらすじ。

 

 

「(キーを回す音)」

 

 

「乗れるハズだ…。俺に!ライダーの資格があるなら!」5・8・8・9,Enter‼

 

 

『ERROR‼』ウワァアアアアアア――――‼

 

 

 

盗んだバイクで走りだせなかった!

 

二人のラブラブ不死人式空の旅。

 

 

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フクロウさんとの空の旅は、意外なほど快適なものだった。

風のない異界内だけでなく、現実に戻ってきてからも非常に安定している。

風もエーテルで防いでいるので、体が冷えることもない。

 

 

 

フクロウさんの協力の下、高所から矢を撃ち下ろし魔物を殲滅、さくっと異界を討伐した俺たちは、全力で逃走を開始した。

ビッグスクーターを奪えなかったため、師匠が即座に追撃にくる恐れがあったためである。

怪我はフクロウさんが治してしまったのだし。(そもそも怪我したのかは疑わしい。)

俺は俺で、縛鎖で縛ったまま放置とかできるはずもなかった。普通に魔物がいる異界内なのだ。

 

 

 

 

 

 

兎にも角にも、フクロウさんから話を聞く時間を稼ぐ必要がある。

さっきの問答で出てきた、衝撃の情報。

 

 

[フクロウさんは自力で異界間移動が出来ない]

 

 

嘘を言っている可能性は低い。

なぜなら、今行っている逃走の成功確率もまた極めて低いからだ。異界間移動ならば、その確率は大きく上がる。

流石に目の前でああまで戦ったら、フクロウさんも師匠のヤバさを理解してくれたことだろう。

わざわざ出来ることを出来ないと言う理由がない。

俺と師匠が戦っている間に逃げることも不可能ではなかっただろう。

俺なんていう荷物を抱えて飛ぶ必要もなかった。

 

自力で異界間移動が出来ないとなると、何故あの異界に移動できたのか。

フクロウさんは、「事故のようなもの」だと言っていた。

事故のようなもの。

曖昧な表現。いくらでも悪い予想が出来る。

 

 

 

異界渡りが何故異能者の最優先対応案件であるかと言えば、連続した異界の拡大を起こしうるからだ。

異界は拡大するとき、現実を浸食・参照し複雑化するとともに、人を巻き込む。

この前の小規模異界で例えてみよう。

あの異界は、オフィスビルのワンフロアを元に発生した。

あの異界が拡大する場合、そのワンフロアの上下の階や隣のビルの景色や物を参照し異界内にコピー、異界は大きく複雑になっていく。

その参照範囲に人や動物が居た場合、コピーされるのではなく、直接異界に引き込まれることがある。

エーテルを多量に含む存在を、内部へと引き込むのだ。

 

そして異界はこの世界と異世界たちの境目に生じたものだ。

異界があまりに大きくなったり、狭い範囲に集中して発生した場合、その境目が薄くなる。

そして、異界がより発生しやすくなる負のスパイラルに突入する。

 

 

異能者が異界渡りを恐れ、異界の拡大を警戒するのはそれが理由だ。

本来なら異界が拡大する前に潰したり、周囲から人を遠ざければいい。

また、魔物はエーテルを奪う精神ダメージ攻撃しか行わないため、救助が間に合うことが多い――これは異能者が魔物に負けた場合も同じだ。味方がフォローに入れば何とかなる。

 

だがそうしたセオリーは連続的かつ急激な異界の拡大では適応できない。

廃倉庫の異界は、元々の異界が引き延ばされた格好だったが、あの場合も先行して周囲の情報参照自体は行われている。あの後ゆっくりと参照した情報から異界は複雑化していくのだ。

当然、参照時に人が居れば異界に巻き込まれる。

そして、膨らんだ異界は単純に広く、一般人が脱出することが難しい。捜索も難航するだろう。

 

だからこそ、異界渡りも異界の拡大も恐れられているのだ。

 

 

 

 

 

つまるところ、フクロウさんの言う「事故」は安全保障上最大のリスクである。

是が非でも、真相を究明しなければならない。

 

こうなると、異界間移動の被害者がフクロウさんであったことは、まったく別の意味を持つ。

何せ、聞いたら答えてくれるのだ。

鳴き声しか上げない他のクソ魔物とは雲泥の差がある。

 

 

捕まえてインタビュー(意味深)などとんでもない。

強化尋問では、嘘をいう確率が上がるとCIAも報告書で書いていた。

必要なのはVIP待遇である。

フクロウさんには機嫌よく情報を喋ってもらい、どうにか思い出してもらって、少しでも多くの情報を手に入れねばならない。

 

 

最悪の可能性もある。

異界渡り(真)が、フクロウさんを別の異界に弾き飛ばした可能性だ。

こうした事例は、極少数だが報告されている。

異界渡りの移動時や戦闘中、他の魔物が巻き込まれた事例だ。

巻き込まれた魔物分、移動先の異界がより拡張されたり、同時に複数の異界が拡大されたようだ。

その事例については、各国の異能者団体が様々な角度から、何十年も研究を行っている。

 

それは何故か。

 

それは、異界間移動は移動先の異界の膨張によってのみ、観測されるからである。

異界渡りが意図的に魔物を撃ちだし、異界を膨張させるようになったとき。

その位置を特定する方法は、理論上存在しない。

 

ドゥームズ・デイ。

異能者すべてが危惧する、姿の見えない魔物による世界滅亡シナリオである。

 

 

 

 

 

 

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俺はフクロウさんを、いくつもある炉火市の自然保護区の内一つに案内した。

そしてフクロウさんが飛びながら、体を休めるのに良い場所を見繕ってくれた。

…体の調子も、大分落ち着いた。問題なく着地。

 

 

 

「フクロウさ「まずは体を休めてください。あんな無茶したんですから。」」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 

 

素直に従う。

フクロウさんの機嫌を損ねてはならない。

 

俺の名誉も意思も、ことここに至っては捨てるべきものだ。

何よりも情報収集を重点。

 

人間性を捨てろ。

犬だ。

フクロウさんの犬になるのだ。

 

 

 

 

 

俺は木を背に、地面に座り込む。

改めて、右腕を見る。

弓掛の布部分は血で染まってる。金糸刺繍はほつれ見る影もない。

だが、怪我自体はすっかり治っている。指先も自由に動く。

 

うーん、不思議。

あの回復異能は何だったのか。

魔物の異能は、異能者とは術理が異なるのだろうか。あり得ない治療速度だった。

 

 

フクロウさんは今、俺を休ませるための場所を確保すると言い出し、飛び去って行った。

事情聴取がしたかったし、そうでなくても女の子働かせて自分は休んでるとか有り得ないので、遠慮し手伝いも申し出たのだが、断られてしまった。

実際森に慣れてる感じはあったし、一人の方が捗るのだろうが、俺の気持ちが収まらない。

だが今の俺は犬だ。大人しく待つべきだろう。

俺は犬…俺は犬…。

 

 

 

 

 

自己暗示をしていると、バッサバッサと羽ばたき音が聞こえる。

 

 

フクロウさんの飛行速度は速く、逃走時にはかなりの速度が出ていた。

普通の鳥に見えるように異能器――デコイユニットで偽装していたが、逆に不自然だったかも知れない。

めっちゃ速かった。

そしてその上、あまり羽音がしなかったのである。

恐るべきことだ。フクロウっぽいのは見た目だけではないようだった。

 

そのフクロウさんが羽音を立てている。

 

 

「フクロウさんっ!?」

 

「お待たせしました。」

 

 

ビックリ。

目を疑う。

 

フクロウさんは大量の細木と枝をかぎ爪で掴んで運んできていた。

それをそっと、俺の近くに置く。

えっ。

なんであんな掴み方で枝が零れないんだ?

というかペイロードおかしくない?

 

疑問に思っていると、フクロウさん翼を振るのに合わせ、細木が浮き上がる。

そして、ひとりでに巨大なキャンプファイヤーのように組みあがっていく。

そしてその間に枝が入っていく。

ツタの類がそれらを繋ぎ、固定。

 

超立派な人サイズの鳥の巣が完成した。

 

 

 

 

 

 

「すごい!」

 

「ふふ。まだ未完成ですので、もう少し待っててください。」

 

 

同時並行かつ超精密な異能行使だった。

俺ですら、やれと言われれば数時間必要だろう。

すげぇ!

超すげぇ!

 

 

飛び上がったフクロウさんは風を起こし、木々の葉っぱを落とす。

それを地面に落ちる前に回収。

さらに空中で葉っぱを風で揉み、おそらくは異能により加熱。

柔らかくして鳥の巣に入れた。

 

ビューティホー!

素晴らしい異能行使。

俺のテンションは上がりっぱなしだ。

 

フクロウさんは俺をひょいと持ち上げ、鳥の巣に乗せる。

俺は座敷犬のごとく大人しくして、抵抗しない。

柔らかい。

超快適。

キャンプどころか、一瞬で快適住空間が完成していた!

 

 

「フクロウさん!ありがとうございます!!」

 

「いえいえ。どういたしまして。

 もう、あんな無茶しちゃいけませんよ。」

 

 

はい。

超高位異能の連続使用という、最高に良いものを見て上がったテンションを強制的に落ち着かせる。

そして思い出す。

 

…そうだ!

事情聴取だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「私、異世界から来ました。

 仲良くしてくださいね。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

 

フクロウさんは別の異界からではなく、世界の壁の向こう側、別世界から来たらしい。

 

 

 

 

 

勘弁してくれ。

嘘だろ。

これ以上厄ネタを持ってくるのは止めてくれ。

 

 

荒れ狂う感情をすべて飲み込み、話を聞く。

感情を殺せ。顔に出すな。

フクロウさんの話に、バイアスをかけてしまうような振る舞いも出来ない。

ただ相槌を打つ。

フクロウさんの話をただ聞き、ただ頷く。

 

…夢ならそろそろ覚めてくれないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フクロウさんの話をまとめよう。

 

 

まず、何故フクロウさんがここが異世界だと分かったか。

 

それはフクロウさんも、こちらで言う異能者のように異世界を認識し研究していたからだ。

この世界と異なり、異界は発生していなかったようだが、また別の相互干渉はあった。

その研究や論文を、フクロウさんは見たことがあったようだ。

 

 

会話については、テレパシー的なものを使用していたらしい。

異世界人にも関わらず、会話が成立したのはそのためだ。

相手の思考も浅く読めるのだとか。

木勢師匠と俺の思考についても浅く読み、双方から殺気を感じなかったため、俺による師匠裏切り時にはちょっと混乱していたのだそうだ。

「今何が起こったんです?」の発言は、俺の突然の裏切りへの疑問だった訳である。

 

意外な経路からヤバイ情報。

もしかして:俺は勘違いで師匠を襲った説。

 

フクロウさんは、私が傷つかないよう気を使ってくれて嬉しかった、なんて言ってくれているので無駄な行動ではなかった。

なかったが、しかし。

…。

奪ってきた異能器を見る。

も、申し訳ない…。

 

 

 

 

フクロウさんが分かりやすく答えてくれるので、事情聴取がサクサク進む。

異世界事情もかみ砕いて教えてくれるので、今明かされた衝撃の真実に動揺する身でも良く理解できた。

高いインテリジェンスを感じる…。

 

 

「だいたい分かりました。ご協力感謝します。」

 

「玄徳くんが聞き上手なので、つい説明が長くなりました。

 質問も鋭い。優秀な生徒ですね。」

 

「ありがとうございます。フクロウさんはあちらではどのようなご職業だったのですか?」

 

「職業。ふむん、そうですね。近くの王国の方からは、森の賢者と呼ばれていましたね。」

 

 

それはフクロウの別名では?

というか、そろそろ名前を聞こう。

気が焦ってフクロウさん呼びでここまできてしまった。

 

 

「名前ですか?王国の方には勲章と一緒に名前も色々もらったんですけどね。

 聞く限り、こっちの言葉とは発音や発声法が違います。」

 

 

言えます?と前置きされつつ、教えてもらった名前は、舌噛みそうなものだった。そして長い。

というか、勲章と名誉称号って。

森の賢者(真)。

Vip待遇は間違ってなかった。

 

 

「やっぱり、言いづらそうですね。

 これまで通り、フクロウさんでいいですよ。

 初めて異世界の方にもらった名前です。大切にします。」

 

 

照れる。

とはいえ、フクロウそのままでも味気ない。

愛称として、ロウさんを提案。了承される。

 

 

「ロゥ。ロウ、ですかね。ふふ。名前、ありがとうございます。」

 

「喜んでいただけて私も嬉しいです。

 最後の質問なのですが、ロウさんがこの世界に来たのは、事故なのですよね?」

 

「あ、いえ。

 正確には、私が選ばれたのは事故と言いますか。こちらの世界の誰かに引き込まれました。

 術式構成的に、多分私の世界出身の誰かだと思います。」

 

 

 

ドゥームズデイ案件と他世界侵攻案件の複合。

やっぱり世界滅亡シナリオじゃないですかやだーッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

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もうやだ。

 

色々と分かったものの、知った情報が俺の手に負えるレベルではない。

もうこのまま師匠の下に自首しに行こう。

 

 

 

そう思い、ロウさんに提案してみるも、怪我してたんだから今日ぐらい休めと止められる。

むう。

確かにこの鳥の巣は屋外とは思えぬほど快適だが、この情報は一刻も早く伝えねばならない。

 

だが、今の俺はロウさんの犬なのだ。

というか、多分未来永劫犬だ。

握ってる情報が重すぎる。さらに異世界知識、異世界異能知識で倍率ドンだ。

明日の朝一での自首に同意してもらえたこともあり、今日はこのまま休むことにする。

 

 

 

ロウさんは俺の食事を調達しようとしてくれたが、流石に遠慮した。そもそも一食抜いた程度でどうこうなるやわな鍛え方はしていない。

鍛えてますから!の一言で納得してもらった。

ロウさんも、一日ぐらいなら食事以外で代用できるのだとか。

 

なんとも摩訶不思議。異世界味のある回答だ。霞でも食べるのか。

 

 

 

 

そんな訳で就寝である。

疲れたしやることもないので寝るのだ。

 

 

「おやすみなさい。」

 

「はい、おやすみなさい。

 一緒に寝ましょう。」

 

 

きゃあ、大胆。

 

ロウさんは、その両の翼で俺を抱きしめた。

正面から抱きしめられたので、かおがちょうちかい。

えっ。

なにこれ。なにこれ!?

 

中華仙術を習っていて良かった。

この間合いはマズイ。

ぎゅんぎゅんと性欲がエーテルに変換されていくのが分かる。

頑張れ!

耐えろ!

 

 

「何って、羽がないと寒くはありませんか?

 温めてあげます。」

 

 

言って、ロウさんは俺ごとコロンと寝転がる。

完全にそのまま寝る気だ。

 

俺を気遣ってくれるなんて、ロウさんは優しいなぁ。

異世界との文化の壁はかくも厚い。俺自身既に学校で実感したことだ。

…助けて。

 

 

 

 

なんか良いニオイがする。

温かい。

ロウさんの柔らかさを感じる。

ロウさんの羽に包まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは…………羽毛布団…………。

( ˘ω˘)スヤァ………。

 

 

 

 

 

 

 

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鳥の声で目覚めた。

がっつり寝坊した。

ロウさんはなんかツヤツヤしていた。




(全年齢版移植特有の不自然な空白)


次回、ちらっと登場!同年代系異能者ヒロイン「剣巫女」ちゃん!
「木を隠すなら森の中、鳥を隠すなら鳥の中」は明後日に延期です。台風怖いね。

謝辞は次話終わったときまとめてやります。
次話で第1章が終わるためです。
第2章も次の日にそのまま始まるので、よろしくお願いします。

区分としては、zk−クラス現実不全シナリオですが、分かりやすさ重視で世界崩壊シナリオと呼称します。

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