逆転世界で異能ヒーロー(♂)   作:wind

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更新遅れました。申し訳ねぇ!


木を隠すなら森の中、鳥を隠すなら鳥の中

 

 

 

 

 

 

 

前回の三つの出来事!

 

 

一つ、玄徳は人間性を捧げて、フクロウさんの犬になる誓約を結んだ!

 

二つ、世界文明崩壊シナリオの可能性が急浮上!なおこの世界にブーツを履き直す術はないぞ!

 

三つ、「信じて任された恩人の孫が、初対面の魔物のために人類を裏切って朝帰り!その上魔物の犬になったとか言い出すし、さらに愛の巣(物理)が見つかる!」そんな状況に陥った師匠の胃が死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

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「おはようございます。夜は良く眠れましたか?」

 

「ハイ。オカゲサマデ、アタタカカッタデス。」

 

 

 

起き抜けに美人さんの顔を見て超ビックリした。

瞬時に目が覚め、反射的に返答。というか顔が近い!

 

 

思い出せ。えっと。

ここは森、俺は玄徳、目の前の美人さんはロウさん。良し。

…同時に師匠を裏切ったことも思い出し、少しブルー。

 

 

 

 

 

 

「それは良かった。体調も大丈夫みたいですね。」

 

…言われてみれば、異能の過剰行使フィードバックダメージがほとんど消えている。

ロウさんの治療異能でも治りきらなかった気疲れのようなものが残っていたのだ。

 

「こんなに治療に時間がかかるなんて。

 もう二度と、あの技は使わないでください。」

 

「…もしや、一晩中治療を?」

 

「使わないでください。」

 

「あっはい。分かりました。」

 

 

どうやらあの羽毛布団には大きな意味があったようだ。ロウさんには心配をかけてしまった。

精気吸収のついでだったから気にしなくていい、なんて言ってくれてはいるが、俺には分かる。

精気≒エーテル、みたいなことをロウさんは師匠との問答の中で言っていたし、紅蓮弓直後に指(というか血だろう)を舐められたときも、瞬時にエーテルが抜き取られるような感覚があった。

そこから考えると、エーテル吸収自体はすぐ終わり、その後はずっと俺の治療をしていたのだろう。

 

 

「この精気?吸収が昨日仰っていた、食事の代わりなのですか?」

 

「はい。それに、どうもこの世界とは相性があまり良くないみたいです。

 できれば、これからも玄徳くんから時々吸わせてくれると嬉しいです。」

 

「もちろん大丈夫です。」

 

「ふふ。ありがとう!」

 

 

至近距離で笑顔を見ているためドキドキする。これが…恋…?

でも多分実際には本能的恐怖のドキドキ。

ロウさんの瞳は綺麗だけど何だか猛禽類らしい捕食者感があるのだ。怖い(小並感)。

 

とはいえ、そんな理由で恩人の頼みを拒否するほど恥知らずではない。

エーテルなら有り余ってるし。

 

 

ついでに、ロウさんから敬語を止めて欲しいとも頼まれた。

相手は異世界の名誉称号持ちVIPだし、それでなくとも恩人ではあったのだが、今の俺はロウさんの犬。

頼まれたら断れない。

まぁそもそも美人の頼みを断る選択肢はない。了承。

 

要求が叶ってロウさんは嬉しい、美人の笑顔が見れて俺も嬉しい、WinWinだ。

でも流石にそろそろ離れてくれて良いんですよ?

照れながら言うと、ロウさんはちょっと躊躇いつつ、俺を放してくれた。

まだ俺の体調を心配してくれているのだろう。この恩はいつか返さねば。

 

 

 

 

 

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さて、気を取り直して出頭準備である。

 

 

異能器――デコイユニットを取り出し、早速起動を……うん?

 

起動しない。

まいったな。バッテリー切れか?

パクってきた他の異能器からエーテルバッテリー――これは文字通りエーテルを溜め込みやすい物質・概ね宝石や貴金属類で構成されたエネルギー源だ。充填は専用のエーテル注入器を介した方が確実だが、無くてもなんとかなる――を取り出し交換できないか試みる。

 

カタログで見たうろ覚え知識で、異能器――デコイユニットを弄繰り回す。確か裏蓋を外せばM2エーテルバッテリーがあるはず。

ない。

代わりにそこには見慣れぬバッテリーっぽい物体があった。

試作型につき充電はスクーターに接続して!鳴坂。という走り書き付き。

試作型かぁ…。

そっかぁ…。

カタログに載ってた新製品なのに、使い込んだ形跡があった理由が分かった。

試作型。高そう。

だ、大丈夫かな。あのビッグスクーター、蹴っちゃったんだけど…。

 

 

しかし異能器――デコイユニットが使えないとなると、非常に困る。

流石にロウさんが街中に出ればパニックは不可避だろう。見るからに魔物感あるし。

 

高高度を飛んで…いや、それで師匠の近くまで行くと迎撃される恐れがある。あれほどの異能者が自分の弱点を把握していないはずがない。奥の手の一つや二つや一ダースは持っているだろう。それが長射程攻撃である可能性は中々に高い。そもそも飛行すると遠くからも見える。ゆっくり歩いていくのが最良だ。

隠行…うーん。ロウさんを見る。

視線に気づき、朗らかな笑顔を返してくれる。可愛い。じゃなかった、デカい。かぎ爪分と羽の膨らみで、大分大きく見える。隠行では姿を隠せるものの、その分一般人を避けたルートを行く必要がある。相手は気づかないので、こちらから避ける必要があるのだ。このサイズ感だと大分ルートが限定されるな…。仮に異能器――デコイユニットが健在でも、擬態対象に工夫が必要となっただろう。

 

 

「むむ。私だって人間さんに変装することくらいできますよ。

 見てみます?」

 

「是非。」

 

 

ふよふよふよ、という形容しがたい音と共に、ロウさんの姿が変化する。

 

かぎ爪が変化し、前二本後ろ二本の爪がそれぞれ靴のように変化。身長が下がった。問題1クリア。

頭から生えていた、耳っぽい羽根が消え、頭は完全に人間と同じになった。問題2クリア。

翼の途中から人間の腕の二の腕から先が生えてきた。エーテル形成のマニュピレータって感じ。

なお翼そのものはそのまま。

ついでに全身の羽もそのまま。もこもこ。

 

うーん…クオリティ低いっすね…。

 

 

「体だって縮みますよ。ほっ!」

 

「おお!」

 

 

フクロウのシュッっと細くなるやつ!フクロウのシュッっと細くなるやつだ!

すーっと、ロウさんの体が細くなる。

羽が寝て、膨らみがなくなると大分ロウさんのサイズが小さくなる。

 

…でもなんかぷるぷるしてない?大丈夫なのかこれ。

 

 

「どうですか。見事なものでしょう。」

 

「はい、お見事です。」

 

「ふふ。そうでしょうそうでしょう。」

 

「そういえば、師匠の下まで徒歩で向かおうと思っているのですが、ロウさんは長距離歩行大丈夫ですか?」

 

「ええ。歩くのは得意です。」

 

 

サクサクサクとロウさんが歩く。

森の中でも抜群の安定感。

でも案の定、細くなってたサイズが歩く度に戻りつつある。

 

うーん…。不安しかない。困ったな。

 

 

「…何かお困りですか?」

 

「実は、昨日使った偽装装置が使えなくなってしまいまして。

 どうしたものかと…。」

 

「昨日のあの術式でしたら、私再現できますよ?」

 

 

マジっすか。

えっ、流石にジョークだよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、完璧に再現していた。

異世界の技術を一回見ただけで覚えるとは、ロウさんのInt値はどれだけ高いの…。怖…。

 

 

 

 

 

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ロウさん印の偽装術式を起動して、低空飛行で市街地に接近する。

増援の異能者が居る可能性もあるので全力で警戒しているが、今のところその反応はなし。

 

 

無事に、ビル街の合間の路地裏に着地。

ここは近くにホームセンターがあり、変装用具の調達が容易だ。

一応制服の上を脱いでロウさんに預け、少し待っていてもらう。

非常用のクレジットカードで髪染め用品と作業着、変装用具に水と食料を購入。すぐに路地裏に戻る。

 

ロウさん印の偽装術式は影響範囲に問題があり、飛行中はともかく徒歩移動時には俺自身への変装が必要となった。ロウさん曰く、世界間の空間組成差異により、大規模異能行使が難しくなっているのだとか。人間や植物には差異が少ないため、昨日のような異能行使も可能だったようだが、ロウさんはなんだか不満げだった。

森の賢者の自負だろうか。

俺としては、異能器の完全上位互換にならず一安心である。

あまりに異世界異能が強すぎると、ドゥームズデイ案件とは別個の厄ネタになりかねない。

 

 

 

ささっと菓子パンを胃に流し込み、髪染め用品を使う。脱色タイプではないが、元々が色素薄めの茶髪であるためそこそこ金髪っぽくなるだろう。

次いでズボンを作業着に履き替え、上着は腰に巻く。上半身は異能者向けのぴっちりとした戦闘用インナーを露出。これなら服で隠れていた筋肉が強調されて、印象が大きく変わるハズだ。即席の変装としては上出来だろう。

運動系バイト中のチャラい兄ちゃん風の変装だ。

趣味ではない服装だが、背に腹は代えられない。

 

路地裏から出ると俺に視線が集中する。

手に目立つ、色とりどりの大量の風船を持っているためだろう。訝しむような雰囲気。

だがロウさんの偽装形態を目にすれば、この視線も納得のものに変わるだろう。

ロウさんを見たちびっ子が叫ぶ。

 

 

「酔いどれオウムだー!」

 

「あっ本当だ。酔いどれオウムだー!」

 

 

酔いどれオウム。それはこの炉火市の非公認ゆるキャラである。ロウさんは今、自身を着ぐるみに偽装していた。

 

サイズ感、手触り、歩き方。偽装術式や隠行でごまかせない全ての違和感を解消する、俺渾身の思い付きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酔いどれオウム。

 

 

見た目は可愛らしいデフォルメされたオウムだが、常に赤ら顔で酒瓶を身に着けている。

公式設定曰く、かつては勤勉で優しいオウムだったが、ある日泥酔し夢現の中この世の真理を垣間見て、それ以後何かを諦めた表情で常に酒を飲んで暮らしている。

口癖は「心配することはない。例え何があっても、全ては悪い夢のようなものさ…。」収入源は泥酔後に目覚めた、超人的(鳥的)経済センスによるデイトレードだ。

 

師匠とのあいさつ回りの際、そんな解説と共にストラップを渡されたときは、発案者がハーブキメながら作ったんだろうなぁとしか思わなかったが、恐るべき人気だ。

信じられない。

さっきからちびっ子(ほぼ全て女性)が大量に集まり、俺から風船を貰っていく。

ロウさんがちびっ子に蹴られたりしないよう、エスコートしながら歩いている為でもあるが、中々先に進めない。

というか人気凄すぎない?さっきから写真撮られまくってるんだけど。

多めに用意した風船がなくなりつつある。

 

 

「きゃー!酔いどれオウムだー!」

 

「「「酔いどれオウムだー!」」」

 

「よい子の皆、ちょっと待っててね!風船を補充してくるよー!」

 

 

風船補充を口実に、俺を取り巻くちびっ子包囲網から抜け出し移動する。

ロウさんを触るよりマシだが、俺の筋肉にびったんびったんタッチするのもやめて欲しい。

筋肉フェチか。

筋肉フェチなのか。

まぁこの鍛え上げたパーフェクトボディの美しさに心惹かれるのは分らんでもない。

でもその年代からその性癖なのはどうなの?

 

内心を悟らせぬ笑顔で風船を配っていく俺の心には、炉火市のちびっ子への将来的な不安が渦巻いていた。

 

 

 

ちなみに、大人の女性も結構沢山来ていた。

彼女達は風船よりも俺やロウさんとの写真撮影を希望したため、より時間がかかった。

その合間に、師匠との挨拶回りで出会ったヤクザ屋さんが人(多分俺)を探している場面にも出くわした。

増援の異能者も見当たらないし、異能者ではない人員で俺を探しているということは、師匠に強硬手段を採る気がないことを示している。

師匠にロウさんを傷つける気なかった説がほぼ確実になってきた。

ごめんね師匠…。

ついでにこの人だかりを引き連れて事務所に行くことになったけど、それも許して欲しい。

振り切れないんだ…。

俺はちびっ子の夢を裏切れない…。

 

 

 

こうしてたっぷり一時間半かけて、師匠の事務所にたどり着いた。

ロウさんが着ぐるみ偽装を楽しんでいたのが、不幸中の幸いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「何やってるんだお前は…。」

 

「申し訳ないです…。」

 

 

 

師匠は普通に俺たちを受け入れてくれた。

ひたすら平謝り。

 

師匠はヤクザ屋さん経由で、変装して風船配ってる俺の写真すら入手していた。

呑気に俺とのツーショット写真を求めてきたので、完全に騙せていると思ったのに。見抜かれていた…!

変装についても、お説教を受ける。

こんこんと注意を受けるが、裏切りや紅蓮弓しこたま撃ち込んだことへの恨み節はない。

むしろ節々に俺への心配を感じる…。ありがたみ…。

 

ロウさんについては要経過観察としつつも、拘束しないでいてくれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが俺はドゥームズデイ案件について、師匠に説明しなければならない。

こんなに優しい人に、あんな厄ネタを報告するのは心苦しいが致し方ない。

致し方ないことなのだ…。

 

すまない、本当にすまない。

世界を守るためには時に非情な判断も必要になるのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ーーーー報告は、以上です。

私見ですが、世界文明崩壊シナリオに発展しうる問題だと判断しています。」

 

「そうか。そうだな。

ドゥームズデイ、か。まさかこの街でなぁ…。」

 

「えっと…大丈夫ですか?」

 

「ああ。大丈夫だ。ありがとう魔物さん…。」

 

 

師匠がFXで全財産溶かした顔になってる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はい、もしもし。

やはりそうですか。

いえ、追加調査は結構。」

 

「ここから先は、私自身の目で確かめてみます。」

 

 

神崎玄徳。

 

神崎家の秘蔵っ子。

神崎玄山の指導を15年受け続けたとされる、期待の新星。

 

これまで極端に情報の少なかった彼は、守護役に任命されて二週間で異界渡りを撃破するという、華々しいデビューを飾った。

鬼人キゼリアとの協働戦果とはいえ、その輝きが翳ることはない。

戦闘で疲弊し、数日表に出られなかったというくらいだから、只見ていた訳でもないのだろう。

期待の新星の期待以上の働きに、異能者界隈は盛り上がっている。

 

だが。

だが、あの日救援要請を受けた異能者の一人、剣巫女と呼ばれる彼女は、あの日の鬼人からの連絡に違和感を覚えていた。

探ってみれば、案の定情報操作の気配。

あの鬼人は、こういった小細工を好まない者だと聞いている。

ならば、候補はもう一人しか居ない。

神崎玄徳。

 

 

「いけないなぁ…。そういうズルは。」

 

 

化けの皮を剥がしてやる。彼女は決意し、炉火市へと向かった。

 

 

 

 

 

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露骨な二号ライダー登場フラグ!これにて、第1章終了です。

第2章第1話、「自称魔剣使い」は明々後日です。

明日は第1章終了の謝辞と設定集を投げます。

 

ジオウ前にこの話が投稿出来て良かった!セーフ!

ちなみにここは逆転世界なので、玄徳の薄着はバニーガールに匹敵する蛮行です。

そりゃ人も集まるし師匠もお説教します。

でも玄徳は「もっとクオリティ高い変装にしろってことだな!」と受け止めました。

ディスコミュニケーション!

 


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