徳島県西支部、大赦内の長大な廊下を市橋桐香は歩く。それは巫女としての務めをこなして帰路に着こうというというその途中であったのだが。
「・・・ん?」
歩みを進める数メートル先に、神樹の木をイメージした絵が描かれた仮面を被った人がいた。この大赦内で見ることは珍しくもない、大赦の職員たちだ。彼らは勇者たちをサポートする為に数々の手を尽くしている。
戦闘訓練の指南、勇者専用の寮の設置、医療施設、勇者システムの強化、御役目後の休暇手配などサービス精神旺盛のブラック企業よろしく、人類を守る一端を担っている。
そんな大赦職員たちを見て桐香が思うことは、とにかく不気味だという事だ。
「おはようございます」
「・・・おはようございます。市橋様」
仮面をつけた男性の声を発した職員は身を屈め、桐香の通り道を譲るかのように通路の端に掃ける。勇者でもない巫女ですらこの待遇。勇者だったらこの人たちは土下座でもするのだろうか、と思ってしまった桐香である。
・・・相変わらず、何考えてんだか分からない人達ね。
男性女性、年齢を問わず大赦に勤める職員たちは皆が白の装束に身を包み、白い仮面を被って仕事をしている。一般人から見てもその姿で往来を歩かれでもしたら速攻で逃げ出して100当番通報も止む無し慈悲はないという状況になるはずなのだが、この世界では大赦という名前は大きな力として様々な方面に働いている。例えば、政治方面などでは総理大臣よりも権力は上なのである。
四国を守るための結界を張っている神樹を祀り上げている大赦という存在は、勇者たちと神樹の力を繋げるたメカニックみたいなものであり、彼らが居なければ神樹という神がいてもバーテックスに人類は西暦の時代で既に滅ぼされていたに違いない。
「えーっと、この前に腰痛持ちの人に軟膏渡してくれた?」
「はい・・・市橋様のお気遣いにより、無事腰痛は解消されたのことです。 つきましては、そのことでその者から無礼でなければ謝礼をしたいとのこと」
「いや、そこまでしてもらわなくても・・・私はなんか結構年齢もかなり上のおじさんの感じがしたし、ずっと腰触ってたから気になっただけだからね」
桐香の一言に職員は一層頭を下げる。
「もったいなきお言葉・・・その者もさらに喜ばれることでしょう」
少しだけ職員の肩が震えていたのが見えた桐香だが仮面で表情が見えないから不気味さが一層増してこちらも少し引いてしまう。
「市橋様、今夜は我々は会議の為、大赦内を留守にされます。警備の者が数名いますので急な要件の時は彼らを通して連絡をしてください」
彼らはそう告げると、では、と頭を深々と下げてその場を後にする。二人を見送った後で桐香は腕を組みながら唸る。
「うーん会議ねぇ」
定例会議のようなものだろうか、と考えるが気になるのは内容だ。ここ最近、御役目が無いために戦闘データの解析に熱を持っているらしいが徹夜組みの職員が床下で雑魚寝をしていたのを桐香は覚えている。多分、そのことだろう。
「きっと静流だったら・・・」
変人ゲーマー剣士が見たら彼女は迷わず口にするだろう。
――――きっとあの仮面の下で、めちゃくちゃ私たちの事をエロい目で見てるに違いないわ!そう、エロ同人みたいに!
って、言うに違いないな、と思った桐香だった。
○
徳島県徳島市のどこかの駐車場に2~3台ほどの大型バスが停止する。黒塗りで、大赦のマークが掛かれたバスから降りてくるのは大赦の仮面と白い装束に身を包んだ者たちだ。
「お母さん、あれなに?」
「ワッザッ! 見ちゃいけませんわよアイエェェェ!!」
そう、その光景はやっぱり一般人にはヤベー奴らとしか思われていないらしく、見る人はその異様な光景に思わずその場を通ることを躊躇う程であった。
やがて、バスから全員が降りた訳だがその数はなんと100名。徳島県の大赦職員がほぼ集まったと言っていいだろう。その集団の中で特別長い時代劇の偉い人がかぶってそうな帽子をつけた職員が仮面の集団の前に立つ。
「えー、みなさん、近隣の方々の迷惑にならないように迅速かつ安全に移動してください。会議はこちらで行います」
男の諸連絡らしき言葉に一同は”オウッ”とまるで体育会系のような答え方をした後、ぞろぞろと一列に並んで歩いていく。
――――だが、彼らが向かうのは会議室ではなく・・・・。
「俺達が勇者の御役目初勝利を記念し、ここに祝勝会を開始するッ 全員ッ」
手に持ったグラスを掲げ、
――――――乾杯ッッッ!!
総勢100名の仮面の者たちがグラスを片手に叫ぶ。その光景はまさに異様、異質、奇怪・・・と表現はさまざまあるが、要約するとヤバい。
「全員最初の一杯目は生だからな! それ終わってから好きなの飲んでくれよ!」
「うえーい!」
繰り広げられるのは宴会。そう、会議とはただの名目に過ぎない、彼らの目的は勇者たちの御役目勝利を祝う飲み会だったのだ。
「新人、お前もさっさと暑苦しい仮面と装束脱いだらどうだァ、この飲み屋の中でならそれも許されるぞ?」
「班長、自分は幹事という立場をわきまえてこのままでいようと思いますが」
「お、気構えがなってんねぇ。 気に入った、取り敢えず一杯な」
年長者らしい男からグラスを渡されてビールを注がれる。自分は幹事なのだから飲まない方針だったのだが上からの圧力というものがあり、仕方なく。
「グビッ・・・グビッ・・・キンキンに冷えてやがる・・・っっ!!」
熱気冷めないこの部屋の中で飲むビールの味に思わずそう叫んでしまった新人だった。
宴会と言うのは本当に良くわからないオーラというものがあり、普段バカやらなそうな奴がアルコールを飲むと何をしでかすか分からないというジンクスのもと、飲み会の方向性と言うのは次第にとんでもない方向へとシフトしていくことがある。
少人数による飲み会ならそういう事にはならないのだが、100人単位のアルコールの入った団体がいるのだから当然、その展開はある程度は予想できるものであり、当初の飲み会の方針とは大きくずれていくことになるわけで。
「お前らイチ押しの勇者は誰だァ!!」
唐突に始まるゲーム的なもの。これも大人数による飲み会の魔物である。
「僕はやっぱり朝露乃之ちゃん!」
「忍者スレイヤー命ちゃん!」
「乃之ちゃん!」
「乃之ちゃん!」
「乃之ちゃん!」
「桐香ちゃん!」
「桐香ちゃん!」
「きりちゃん!」
「オイコラ誰だァ! 巫女の名前入れた奴オラァ! あと、なんで静流ちゃんの名前はいってねぇんだよオラァ!!」
俺の押しだぞ!と一升瓶片手に男は叫ぶ。すると隣のテーブルから一人の男が立ちあがった。
「巫女服の桐香ちゃん可愛いだろうがオォン!? あの最初のツンツンから勇者たちに健気に尽くしている面倒見の良さと、デレ期の桐香ちゃん最高だろうがヨォォォォ!!!」
ザッケンナコラァ――――ッッ!!と、先ほどの男に呼応するかの如く、一人の男が静流押しの男の肩を組んで立ち上がった。
「静流ちゃんちょっと奇人で変態チックな感じ出してるけど実はめちゃくちゃ押しに弱いタイプなんだよコラァ!心は一番のガラスで悩みを持ってそうな感じのギャップ萌が堪んねェンだろうがァ!」
ザッケンナコラァ-----ッッ!!
「ギャップ萌なら桐香ちゃんだって負けてねぇんだゴラァ!乃之ちゃんに壁ドンとかされたら絶対に恥ずかしがって落ちるからなオラァ!早くその展開だせやオラァ!!」
ザッケンナコラァ―――――――ッッ!!
「テメェらの眼は節穴コラァ! 命ちゃん絶対闇抱えて生きてるキャラだろうがコラァ! 高知県の勇者は代々ヤベー奴がなってるだろうがコラァ!! でもそこに自分への価値とか見出す為に懸命に頑張る姿が最高だろうが! 俺も頑張るってなるんだろうが!」
まだそんな話すら出て来てねェだろうがコラァ!! というツッコミのもと、話題はいつの間にか自分の一押し勇者から最高のカップリングへ。
「だから乃之×桐香」
「いやお前違うって、桐香×乃之だから」
「異論は認める」
「乃之×命の私は異教徒ですか?」
「許す!」
「私は許された! イエス! ワザリングハイツ!!」
「桐香×勇者三人!!」
―――――お前天才かよ。
百合紳士たちの魂の叫びは留まる事を知らなかったが、それも60分くらい前の事である。自分たちの理想をひたすら語り合っていた猛者たちは酒に潰れ、座敷の倒れ伏していた。
○
「それで、聞いたか。 あの話」
「はい、勇者を援護する御霊石の開発が成功したと」
新人と班長が日本酒をお猪口に注いで飲んでいる最中に飛び出した言葉、御霊石。
「現在の勇者システムじゃ、御霊持ちの大型バーテックスには有効打を与えられない・・・・そのデータを香川の本部に送ったら実験中の御霊石の話がきやがった」
舌打ち交じりに言う班長に新人は察する。香川と徳島の大赦の人々は仲が悪いのだと。
「御霊石・・・徳島の地脈に宿る霊力を御霊石を介して神樹様への供物として奉納し、樹海化時には勇者たちにその力を与える石・・・そう聞いています」
「そう、過去の戦いにあった精霊を勇者の身体に宿すのは勇者本人に悪影響がある。だが、精霊も宿っていない霊石を介した力の供給なら問題ない、というのが香川大赦の見解だ」
それよりも、と班長はお猪口を置く。
「どうしても御霊石で解決できない場合の最終手段がある。 だが、これは問題アリアリだし、俺も実装させるつもりはサラサラない」
話には聞いていた、徳島の勇者に与えられる四国の技術が結集された切り札。それはかなりえぐい物らしい。新人は震えるが班長は安心しろと酒を差出し。
「俺達は彼女たちが苦しまないように、その切り札を使わせない為に出来るだけ、最大限のサポートしてやるんだ。 なんも力もない、大人がよ、自分よりも小さな女の子たちにだ」
んでつかぬ事を聞くんだけど、と男は続けて。
「新人君、キミは4人のなかで誰が一番かわいいとおもう?」
結局この飲み会は日を跨ぐまで続けられた。
作ったあとは大分カオスな出来だなと思ったりした。 やっぱワザリングハイツって名前を考えた人は天才だと思う。
徳島県の大赦の人達は勇者の子達大好きなヤベー大人たちの集まりです。ゆゆゆの大赦が大分腐ってた分、こっちの大赦の人は本当に勇者達を大事に思ってます。
話の最後に出た御霊石のイメージは魔界戦記ディスガイアで言うジオシンボルです。味方にバフ効果を与えますがデメリットとして、その土地の寿命を縮めます。