朝露乃之は勇者である   作:バロックス(駄犬

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静流ちゃんがメイン?の会



第4話〜生きがい①〜

「フンフフーフ・・・」

 

 真っ暗な部屋の中でテレビに向かって鼻歌を口ずさむ一人の少女が居る。琴吹 静流は、深夜ゲームに熱中していた。

 

アクションゲームをしているからだろうか、コントローラーに配置されているボタンの動かし方が激しい。 時には長押し、時には連打、時にはコマンド入力と、それに合わせて画面の中のキャラクターはビームと衝撃はを放ち、敵を倒していく。

 

 だが、そのプレイングは他人からはお世辞にもあまり上手い、とは言えなかった。やりこんだ者ならこの程度の難易度でダメージを負ったりミスをしたりはしないだろうが、静流のプレイキャラはかなり被弾し、体力も真ん中くらいまで減っていた。

 

 

 体力減少により発動するスキルとかあまり考えていない、敵の集団に突っ込み、広範囲攻撃で真ん中からかき回す。初心者とかが思いつきそうな最初の戦術。

 

 

だが、静流にとってはそれだけで十分だった。

 

「・・・・やったわ」

 

 ようやく敵を倒し、ステージをクリアする。体力は赤ゲージでギリギリだったが、物語を進め、見る事ができるイベントに達成感を覚える。その単純なことで静流は満足していた。

 

 

・・・勇者になる前の実家での生活は息苦しいものばかりだったけど。

 

 家のしきたりはかなり厳しい物で、門限とかを中学生に求めてくる実家。マナーとか言葉づかいとすら徹底され、去年までは”ですわよ”とか”ごめんあそばせ”とか使っていた自分を殴りたい気分である。

 

 勉強とスポーツも両方出来るようになれと父に言われ、専属の家庭教師やコーチのもと特訓が施された。だが、どれをやっても長続きせず、今振るっている剣道すら自分でも楽しいとか、やる気があって振るっているものではない。

 

自分のやる事や成す事に意味を見出せない、なんて空虚で意味のない人生だろうかと静流は思った。

 

 だがある日のこと、外を遊んでいた静流は流れるままにゲームセンターに入り込む。彼女にとってお嬢さまの勉強をするべく俗世にあるものを斬り捨ててきたせいか、ゲームセンターの異質な光景は静流の冷めていた琴線を響かせる切っ掛けとなった。

 

 初めてやったゲームはシューティングゲーム。本物ではない銃のオモチャを画面に向けて画面内の敵を撃つ、シンプルな物。そこに、足元のペダルを踏んで画面の自分のキャラクターが壁や障害物に隠れるという回避要素を取り入れていたゲームだ。

 

最初は分からず1ステージくらいクリアするのに1000円以上使ってたし、キャラクターの動きに合わせて自分も身を筐体の陰に隠していた。今思えばただ恥ずかしい。

 

 だが、そのゲームをやっている時は本当に楽しかった。周りが厳しい口調で”やれ”とか、”まだできないのか”と急かす強制の元始めた習い事より、自分の意志で手に取ったそのゲームをやっている時は、時間や、嫌なことも全て忘れるほどにやりこんだ。

 

 それ以来、ゲームは彼女の人生にとっても大事な趣味となった。小遣いを溜めてはゲームセンターとかショップに向かいソフトを買い、携帯ゲーム機を買っては家の部屋の中で監視の目を盗んでゲームを起動させていた。

 

 その姿を見た父はかなり、というか、超がつくほど怒った。もう涙を流すくらい。だからそんな父と一緒に生活することはかなり息苦しいものだったし、静流としてもあの家にいる事はうんざりであった。

 

「この一人の寮生活は最高ねッ キャッホゥゥゥウッ!!」

 

 だから勇者としての選ばれ、実家から寮暮らしになると聞いた瞬間、静流は歓喜した。あの家にいるくらいなら外へ出て犬小屋で暮らすこともいとわない。

そして実際に寮生活は同じ勇者と巫女の四人での生活。それぞれ個別に部屋を渡され、ある程度の自由は保障されている。部屋には大型テレビ、パソコン、ゲームソフトが積まれていて、それを堪能するには最高の環境である―――

 

「五月蠅いわねッ 今何時だと思ってんのぉぉぉぉお!!」

 

――――――筈だった。

 

 

「アァァ・・・・・」

 

 机に顔を突っ伏したゾンビのような呻き声を上げる少女が居る。静流だ。

 

「えーっと、静流ちゃん・・・だい、じょうぶ?」

 

 乃之が心配そうに声を掛けている。三年生の彼女が二年の静流の教室に居るのは静流が呼び出したからだった。

 

「私の友が・・・奪われたのよ」

 

「あー」

 

 乃之はある程度察する。それも、昨日の夜の事だ。深夜に大声を出した静流の騒音は隣の部屋にいた桐香の部屋まで響いていたらしく、激怒した桐香が静流のゲーム類を殆ど没収してしまったのだ。桐香曰く、勇者としての御役目を果たす為に支障が出そうなものは撤去するとのことで、暫くは彼女が静流のゲームを預かるという。

 

「酷過ぎない・・・? プレイしていたゲームならまだわかるけど、押し入れにあるゲームとか携帯ゲーム機も没収なんて・・・私からゲーム取ったら何が残るのよ」

 

「うーん、なんだろう」

 

・・・いや、ちょっとはフォローしてよ。

 

 まるで自分に残る物があまりないような、という感じの乃之の反応に静流は肩を落とす。彼女は時々、ぐっさりと突き刺さる事を平然と言ってくるからビックリする。

 

「こうなったらやるしかないわね」

 

「なにして、るの?」

 

 乃之が見つめる視線の先、静流の両の手が動き始めた。何もない虚空を見つめ、静流の視線もその一点のみを見つめていた。

 

「分からないかしら、エアモンハンよ」

 

 乃之の口元が引きつっている。何故なら、静流の眼は物凄い程に曇っていた、というか淀んでいたのだから。

 

「見える、見えるわ・・・! 私の正面に突っ込んでくるバサルモスがッ」

 

 その後、あ、3乙したわ。という言葉に再び机に頭をどん、と突き刺す。そして再び顔を勢いよく起こす。

 

「やっぱり無理よ! 私にゲームのない生活なんて考えられないわッ ゲームイズライフ!こうなったら・・・・」

 

ゆらりと椅子から立ち上がる。その目は闘志に満ち溢れており、眼の中では炎が揺れていた。

 

「戦争をしましょう・・・」

 

奪われたものを取り返す聖戦。静流は決心したのだ。悪魔のゴリラ巫女に大切なゲームを持たせておくわけにはいかないと。

 

「相手が奪うなら私が奪い返すまでよ!」

 

「でも静流ちゃん、桐香ちゃんだって反省して少し我慢すれば許して返してくれるよ」

 

「命ッ カモンッ」

 

 乃之の言葉を無視するように静流が指をパチンと鳴らすとどこからともなく命が現れた。先ほどまでに気配すら感じなかったのに、瞬時に現れたかのような素早さに乃之は驚愕する。

 

「乃之さん、命・・・あなた達も協力してもらうわよ。 報酬はそうね、今度徳島ラーメン奢るわ」

 

「いや、奢るとかそういう問題じゃなくて」

 

「お願いよ、私達勇者は仲間・・・悲しんでいる後輩を見捨てちゃうんですか先輩ッ」

 

 涙目で迫る静流に乃之は思う。こんな時だけ先輩、後輩とか使ってくるのは中々タチが悪いのではないかと。

 

しかし、素直に先輩と言われることが少なからず良い気分になっている事を隠せない乃之は満更でもないと言った表情で協力することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

そして静流の計画は夜の7時ころに実行されることとなった。スマホの連絡機能で合図を出したところで部屋の中から静流と命、乃之の三人がゆっくりと周囲を警戒して出てくる。

 

「いい?あのゴリラ巫女は今お風呂に向かったわ。その隙に私のゲームを回収するの・・・部屋の中に入ったら即効よ即効・・・命、袋は持ってきた?」

 

「・・・」

 

コクン、と頷いた命の手には大きなごみ袋があった。乃之は不思議に思う。いったいどれくらいのゲームソフトを回収されてしまったのか。

 

「さぁ入るわよ。三人で潜入ミッションしたり秘法を盗む怪盗キャラが居たわね・・・いっそのこと、全員猫耳と黒タイツでそろえる?」

 

「それはやめよう」

 

乃之はきっぱりと否定した。

 

 

静流が扉の前に立ち、ゆっくりとその扉を開ける

 

「お邪魔するわよ」

 

「律儀に言うんだ」

 

乃之が一言呟くが静流は気にせず中に入る。部屋の中は灯りがついていなかった為、すぐ側に設置されていた壁際にある灯りのスイッチを点けた。

 

「あら、私の部屋よりなかなか綺麗にしてるじゃないというか質素ね! ザ・質素!」

 

 部屋の中をぐるりと見渡してみると、そこは必要最低限の物が揃えられているだけであり、自身のゲームに溢れている部屋と比べればあまり生活感に欠けていると思ったりもした部屋だった。

 

「お、これは?」

 

 床に敷かれているカーペットの上に置かれている段ボール箱を発見する。恐らく、静流の目当ての物だろう。しかし、彼女はその箱の上にマジックペンで書かれていた内容に驚愕した。

 

「・・・・”今月末に処分”、だと・・・? あんのミカン鬼ゴリラァ!暫くは返さないって言ってたくせにちゃっかり捨てる気でいたのねッ」

 

 あの巫女許すまじ慈悲はない、と怒りを露わにしているが内心ではゲームが捨てられる前に回収することが出来て良かったと胸を撫で下ろしていた静流だった。

 

「でも静流ちゃん、桐香ちゃんは本当に捨てるつもりだったのかな?」

 

乃之が怪訝そうに聞いてきた。彼女としては桐香がそんな事をする人間だとは思わないのだろう。

 

「同じ三年生として肩を持つのは分かるわ乃之さん、でもデビルゴリラは訓練中私に恨みがあるかのようにメニューの回数を他の人より多くしてたり、模擬戦闘でも容赦なく鳩尾に突きをかましてきてくるグラップラーよ・・・まぁでも、私に特別当たる理由があるのはたしかね、気にしてないけど」

 

 静流は思う。訓練の模擬戦でかなり威勢よく噛みついてきたのは確か自分の方だった。静流は模擬戦で叩きのめされていたがそれで降参したわけでもなく、今訓練の中ではいつでも彼女に打ち勝つという事を目標に修練を重ねている。

 

 だが、そんな姿が桐香は気に食わないからだろうか。乃之や命と比べて当たり方が強かったり、体力訓練になると集中的にこちらをしごいてくる。

 

・・・なかなか、人間関係ってのは上手くは行かないのね

 

 

 ため息をつく。自分としても、初めての御役目の後はそれなりに仲間として皆まとまりが出来た筈だったと。だが、桐香の内心では自分や、勇者達を憎む心がまだ残っていたのだとしたら、これまでの事にも多少なりとも納得はいく訳で。

 

 

「まぁまず、中身をちゃんと確認しようよ」

 

「そうね、乃之さんの言うとおり・・・命、誰も来ないかちゃんと見てなさいよ・・・・って、命?」

 

 びりびりと、段ボールに張られていたガムテープを剥がしていた静流達であったが、その動作は止められることになる。静流の呼びかけに応じなかった命の方を見ると、

 

「なぁに人の部屋でコソコソとやってんの・・・・」

 

 不敵な笑みを浮かべた桐香がそこに立っていた。

 

 

 

 

「桐香ちゃん!? お風呂に行っていたんじゃ?」

 

「残念だったわね乃之、トリックよ・・・じゃなかった、普通にシャンプー忘れたから取りに戻って来たのよ」

 

 桐香の足元には縄で縛りあげられた命の姿があった。多分、接近を許してしまい、一気に桐香に拘束されたのだろう。

 

「なるほどね・・・静流、私が居ない間に取られたゲームの回収しようって魂胆ね・・・乃之達まで使って――――って、ちょっと!?」

 

 桐香が慌てている、その視線の先にあったのは静流が今開けようとガムテープを剥がされようとしていた段ボールだった。

 

「あ、アナタ! それ開けるんじゃないわよ!!」

 

「え? これ、私のソウル・・・ゲームが入ってるんじゃ?」

 

「ちがうわよ! それ私の! 開けたら許さないから!」

 

 血相を変えてそう訴える桐香に、静流はその様子から不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうしようかしら・・・」

 

「・・・・ッッッ」

 

「見なさい乃之ッ! この女の慌てよう! きっとスゲーヤバいのが入っているに違いないわ!」

 

高らかに言う静流に乃之が息を呑んだ。

 

「い、いったい何が入ってるのかな・・・」

 

ふふ、と静流はまた笑う。

 

「決まってるじゃあない! この女のパンツよ! 下着よ! ランジェリーよ! きっと種類も豊富でエッッッグイ奴とか入ってるに違いないわ! 紐パンとか!」

 

「んなわけあるかァ! さっさと・・・・」

 

顔を炎のように真っ赤にさせた桐香がどこからともなく取り出した木刀を構える。さすがに静流も常時持ち歩いているとかドン引きだったが、

 

「やば・・・ッ」

 

「返せ―――――」

 

 桐香がこちらに向けて竹刀を繰り出そうとした時である。桐香の動きが止まっていた。周りをよく見ると、桐香の机に置かれていた目覚まし時計の秒針もその時間で止まっていてそこから動こうとしない。

 

「ファッ!? 樹海化!? このタイミングでかっ!?」

 

 アラームが鳴る。御役目、バーテックスがこの徳島に攻め込んできたことを知らせるアラームが三人のスマホから鳴り響いた。

 

「うぅ・・・私この後樹海で桐香ちゃんと会いづらいよ・・・」

 

「そうね・・・ほんと、空気読めないバーテックスだわ」

 

 

 地鳴りが起き、窓の外を見ると橋の方角からこちらに向かって景色が変わっていくのが見える。神樹による世界の再構成、樹海化現象が始まっていたのだ。

 

 

「取り敢えず、敵は即効殲滅してゲームを取り戻す・・・以上ッ!」

 

「そろそろゲームから離れようよぅ・・・」

 

駆け出し勇者たち、二回目の御役目が始まる。

 

 

 




バーテックスはやはり空気を読めなかった。日常だから敵襲はないと思ったか? 残念だったなぁ!静流さんは結構いい所のお嬢様です。
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