薄暗い森の中にある細道を一人で歩いている少女が居た。キャンプを一人でやるには小柄のリュック、紙袋一つだけとあまりにも軽装である。
草薙命は実家のある高知へと帰郷していた。巫女である桐香の神託により、しばらくのバーテックスによる襲撃はないと聞き、休暇を申請したのだ。案外すんなりと大赦側も容認し、学校からも特に言われることは無かったので命としては難しい手続きを踏まなくて良かったと安心した。
ただ一つ心残りなのは桐香だけにしか帰郷の話はしていなかった。
・・・相変わらず、人が通りたくはなさそうな道だ。
人が一人、通れるくらいの幅で所どころに砂利があって靴の裏にはその突起が当たって少しだけ痛かった。今は良い方だ。昔修行をしていた時は裸足でこの道を走り、血だらけになったのを思い出す。
命の実家は駅からバスを利用して2時間ほど、バス停を降りてからはひたすら徒歩だ。
徒歩の時間は約三時間だ。人が歩けない状態の悪い道をひたすら3時間歩くのだ。
常人や、運動部の人間ですら根を上げるであろう砂利道をなんの疲労感もなく歩くことが出来ているのは幼少のころからの激しい訓練により培われた体力のお蔭であろう。
ほどなくして、視界が開けるとそこには小さな村があった。あまり人気がなさそうな村ではあるが、これはこの村の住人が基本外を出歩かないだけである。ちゃんと村人はいるのだ。
「命ちゃん・・・帰ってたのかい?」
関所のような場所にいる見張り役の男が一人、命を見て駆け寄ってきた。それは命が良く知る人物、幼少の頃に自身を鍛えてくれた教官の一人だ。
「シゲさん・・・元気だった?」
「元気だよ・・・そうか、今日だったね命ちゃんの・・・」
小さく頷いて、命はその関所を抜けていく。村人が何人か命を出迎えをしてくれた。全員が優しく、声を掛けてくれた。
命の生まれた村はとても小さな村だ。外部との接触は極力避けられており、酷く閉鎖的である。コンビニとか、スーパーなどは命が生まれた時からこの村で暮らしている時に見たことは無い。
そんな人里から極力隔離されている命の里には秘密がある。それは先祖代々、過去のお話・・・それこそ命が生まれる前、神世紀、旧世紀と呼ばれるもっと前の戦国時代の頃からのお話だ。
名だたる戦国武将たちが活躍していた群雄割拠の戦国時代。その武将たちの華々しい活躍の裏にはある一族の功績があった。それは誰もが効いたことがあるであろう忍者・・・忍びの一族である。命の里は昔、忍者の里だったのだ。
忍者という単語ならば、伊賀や甲賀といった有名な出所を思い浮かべる訳だが、命の里はそのどちらにも与さない忍者だった。どこにも与さない故に金を積まれれば何でもやる。命の知る限りでは大阪夏の陣でも一族は活躍したそうである。
しかし、その忍の里は戦国時代が終わると同時に姿を消した。理由は当時の徳川の将軍が天下平定後に自身に従わない忍びの一族を滅ぼそうと兵を動かしたからである。
言い伝えによると、数百程度しかいなかった里の者たちが徳川の襲撃を受け、無残にも惨殺されていったという。しかし、中には生き残った者がおり、生き延びた者たちが誰にも目の届かない場所で集落を作り、徳川に追われていた他の忍びの者たちを呼び込んで少しずつだが人口を増やしていった。それが、今の命がいる村だという。
「・・・・」
命が村の奥へと歩いていくと一際大きな屋敷が目の中に入ってきた。その大きな屋敷へ入ると玄関を跨いですぐに大広間に繋がっていた。命は小さく、息を吐く。そして震えてた自分を落ち着かせようと大きく息を吸って、また吐いた。
恐る恐る大広間へと足を進めていくとまるで戦国時代の会議のように床に座布団一枚で老人や大人の男たちがそれぞれ向かい合うように座っていた。命はその視線に挟まれるように真ん中くらいまで移動して座布団も何もしかれていない床に正座する。
「・・・戻ったか、命よ」
白髪で手足の異様に長い老人が命の前に座っていた。位置的にも、トップのような男は命にそう言われ、命は深々とその頭を下げる。
「・・・ただいま戻りました。長老」
「・・・報告せよ、戦果を」
長老は白い歯をむき出しにし、命じた。戦果と言うのは自身が担っている御役目の事である。
「報告します――――」
命は頭を下げたまま、話す。自身が今どういう御役目をしているのかを。この一カ月と言う期間にどれほどの戦果を挙げたのか。全てだ。
「よろしい」
報告を終えた命がその一言を聞き、小さく安堵する。だが次の瞬間に命の頭部に違和感を感じる。冷たい、人ならざる者の違和感の正体は長老の異様に長い手が命の頭の上に乗せられていたのだ。
「・・・っ」
悪寒が走る。ストレートに今の感想を述べるならばその言葉がしっくりくる。少しだけ身を震わせたがあとは意識を強く持ち、すぐに冷静な状態へと自身を落ち着かせた。すると長老は深々と、ゆっくりと息を吐きながら口を開いた。
「命よ・・・よくやってるじゃあないかぁ・・・そのまま精進するがよい、じゃが―――」
不意に力を籠められた手の動きに反応できず、命の頭は床にダイレクトに叩きつけられた。
「忘れことなかれ・・・・お主が御役目にて戦果を上げられない、一族に利益を出せない場合、どうなるか・・・分かってるおるな?」
「・・・は、い」
とても90歳を越えた老人とは思えない力に勇者であり、忍びとして鍛錬を積んだ命ですら太刀打ちできない。長老がゆっくりと命の横側から顔を覗き込んできた。妖怪じみた大きく開かれた目玉が命を凝視する。
「もっとじゃ・・・もっと戦え・・・仲間の誰よりも、たとえ仲間を蹴落としてでも・・・お前にはやるべきことがある・・あの出来そこないの親の為にもじゃ」
床が軋む。あまりの力に命の額が床へとめり込んでいく。それほどまでに強烈であった。これまでの修業中はこんな事はしょっちゅうだったが、今回は桁が違う。年数を重ねるごとに力が上がっている気がする。衰えというものを感じさせない、まさしく妖怪。
「あぁ、命、命よ・・・げ、ぐへ、ぎひ、ぎひ、ぎぎぎ・・」
突如、タガの外れた下衆な笑みが涎とともに村長から発せられた。滴った涎が命の首筋に足らされる。これには命も反応を隠さずには居られなかった。そして同時に、首筋を這う感触がある。
「うぁおおあ、ああ、くび、くびぃ・・・」
長老の舌だった。
「・・・・・っ」
まるで蛇のように長い舌が命の首筋を這うように動く。耳元、うなじ、背中までにも這われるその得体の知れない感覚に命はついに震えを隠せなかった。粘着質な唾液が背中に広がっていく、同時に長老の舌が自身を犯していくような感覚。
命は涙目を浮かべるが、周りの大人たちに視線を送り、助けを求める事は決してなかった。それは周りの大人たちもこの妖怪じみた男には決して逆らえないからである。命はそのことを知っている、だから黙って耐える事しかできなかった。
やがて背中を這っていた舌が命の背中から引き抜かれると長老は卑しい笑みを浮かべて覚束無い足取りで広間の外へと歩いていく。男二人ほど側について介護するように支えながらその場所からは姿を消した。
「おわったな・・・」
「うむ・・・」
やがて長老が戻ってこないと思った周りの大人たちもその場を後にする。頭を床について小刻みに震えている命に目をくれる事もなく。
一人、また一人と大人たちが消えていき、やがて命だけがその場に残った。
「―――うっ」
喉奥からこみあげてくる吐き気に耐えきれず口を抑え込む。しかし、今日は何も胃袋にいれてはいない。こうなる事が、分かっていたから朝から食事は抜いていた。だから胃から出てくるものは何もない。
「うぅ・・・」
代わりに、命の瞳からは大粒の涙が零れていた。
「なんで、なんで・・・私、こんな・・」
数分間、自身の気持ちが落ち着くまで命はその場で泣き続けた。
○
泣き止んだ命はその村の外れにある自身の実家へと帰宅していた。帰宅した命が最初に行ったのは両親の顔を見るのではなく、シャワーだった。
両親も、目元を泣き腫らした命と”シャワーを浴びたい”という要求に察してくれたのか、何も言わずに風呂場へと案内してくれた。
「・・・・」
湯船までつかる必要は無かったのでシャワーを浴びる。頭上から注がれるお湯に身を打たせ、しばらくの間は黙って体全体にお湯をなじませるようにしていた。数分くらい経ってから頭や体を洗剤を使って洗い始める。特に背中は入念にだ。床に叩きつけられた額が洗剤に触れた瞬間、やけに沁みた。
草薙命の家庭事情は少し複雑だ。彼女の里が忍者の里という時点でかなり複雑な環境なのだが、命が今置かれている状況は正確に言えば奴隷のような立ち位置に近い。
命の父親はこの里の出身だ。この忍者の里で生まれ、育ち、この里から一歩も出ないという鉄の掟の元、彼は里の外からの侵入者を監視する見張り役の仕事をしていた。
木の上から村へと続く道を監視していると、一人の女性が歩いていたのを命の父親は見つける。恐らく迷い込んだのだろう。山登りが好きなもの好きか、どちらにせよここから先へと進ませるわけにはいかず、彼は山に籠る老人を装い、適当に女性を追い返そうとした。
だが、彼はそれが出来なかった。その女性を一目見ただけで心を奪われてしまったからである。それが今の命の母との出会いの始まり。
二人はふとしたきっかけで近づくことになり、それを機に会話をすることが多くなった。その女性は大赦という組織に属する小さな家柄の娘らしい。その二人がやがて恋仲になり、お互いの生活を考え始めた頃、彼は決心した。里を離れ、この女性と共に暮らしていこう、と。
里以外の者を連れ込んだのなら、間違いなく彼女は殺されるだろう。それが掟であった。そしてあの妖怪じみた長老が居る限り、理由を説明しても妥協してくれるとは限らない。
だから彼はひっそりと、親しい知人にだけは話をして里を抜けた。知人たちは応援してくれた。古いしきたりなんていつまでも気にしていてはいけない、これは自分の人生なのだと、この里も変わるべきだ、と。
二人は夫婦となった。式はお金が無かったので挙げず、とにかく生活基盤を作るべく、二人は働いた。彼はこれまでの閉鎖的な生活が長かった為に一般社会に馴染むまで苦労したが、妻と共に協力し合い、彼自身も持ち前の身体能力の高さを生かしてとび職の仕事に就く。苦しくもあったがなんとか問題なく生活できるようになったのだ。
月日が流れ、やがて二人の間には子供が生まれた。 草薙 命だ。ボロいアパートで三人が暮らすには少し狭かったが、命の父はお金を溜めて、自分の家を持ちたいと張り切っていた。母はそんな父を応援し、命もそれを待ち望んでいた。
だが、幸せな時間は長くは続かなかった。里から長老の追手が来たのである。命が小学校3年の頃だった。
父は戦ったが多勢に無勢、抵抗虚しく3人は里へと連れ戻されてしまう。村に戻って知った事だが、里を抜ける際に話をしていた友人は既に殺されていた。父も殺されることは覚悟したが、なんとか幼い命だけは逃して欲しいと、父は懇願した。母親も同じ願いだった。命は離れるのが嫌でひたすら泣いていた。
残忍で頭のネジが外れた長老から提案があった。草薙 命の勇者としての適性についてだ。長老も、大赦という組織がこの世界では大きな影響力をもつ組織だというのは知っていたのだ。
”一族千年の栄光を約束せんッ”
勇者として御役目を果たし、大赦内で草薙家の地位を確立させることで自身の里への利益を得ようとしていた。それが出来れば、家族全員を生かし、いずれ解放するというのが長老の提案だった。
父と母は長老に、里の為に利用される命を見たくはないと別の条件を提案しようとしたが聞かず、幼い命は涙ながらにその条件を呑んだ。自分が頑張らなければ、父と母に、とても良くない事が起きるのだと理解できていたからである。
それから命は修行の日々を送った。長老の監視の元、裸足で砂利道を走り、木に登り、戦う術を学ぶ。それは幼い命には過酷なものであり、失敗しようものなら、へこたれ様ものなら容赦なく鞭を打たれた。
その度に言われたのが、両親がどうなっても良いのか?という脅し文句。それを聞いては命は必死で修行に励むしかなかった。足裏と手の皮がどんなに破れても、何度鞭でぶたれようとも、命は負けなかった。いや、負けてはいけなかったのだ。
○
シャワーを終えて、バスタオルを手にとり鏡の前に立ち、自身の身体を見る。命の身体には幼い頃からの忍としての訓練で傷だらけだ。それは訓練によるものではなく、ほとんどが懲罰によるもの。特に悪いことをした訳ではなく、疲れて倒れたり、修行で失敗した時に鞭で叩かれたことによる傷だ。
傷が背中部分に集中しているが、おかげで今の勇者達には風呂場に一緒に行くという事がなく、殆ど誰も居なくなったのを見計らって深夜に入浴をしている。この傷を誰にも見せたくは無かった。多分、あの勇者と巫女に喋ってしまったらきっと自分は甘えてしまうだろう。
「お帰り・・・」
着替えて居間へと入った命に母がそう言われ自分が如何に落ち着いていなかったか分かる。最初に実家に帰ってから”ただいま”という当たり前の言葉すら言えていなかったのだ。
「ただいま・・・」
ソファに座っている母の元へ駆け寄り、倒れ込むように抱き着いた。数か月ぶりに感じる母のぬくもりを全身で感じ取る。
「誕生日、おめでとう命」
「お母さん・・・うん」
晴れて13歳となった命。この誕生日の日、命はこの里に帰る事を許される。定時報告もかねていたが、彼女にとっての本命はこの誕生日の時だけ会うことが出来る家族との貴重な時間であった。
そこから、命の父も含めて誕生日会が開かれた。食事はさほど豪華というものではなかったが、食材のレベルが重要なのではない。ごく一般の家庭でありふれている一家団欒、それが出来ている事が命にとって大事なのだ。
命は両親にこの数カ月の事を楽しそうに話した。自分が今住んでいる場所、寮に住んでいるとか、同じ御役目についている仲間のこと。二人に会えなくて寂しいが、絶対に二人を助ける為にいっぱい活躍して見せると。
楽しく外での生活を語る命に比べ、両親は謝罪をしていた。命がこれまで自分たちの為に自由を奪われているということ、長老達に酷い目に遭っているというのに、ここで軟禁されている自分たちが何も出来ないでいるということ。
命は思う。そんな事はない、と。二人が居なければ自分はこんなにも頑張れていなかったし、今は信頼できる仲間たちと一緒にいるからそれまでみんなで頑張ろう、と。その言葉を聞いた両親は涙を流し、命もそれを見て、泣いた。
○
両親との面会の時間はこの誕生日が終わるまで、つまり、日を跨いだ時がリミットとなる。いつもなら24時を回ればお目付け役が現れて外へと連れて行かれるのだが、今回は里の者が便宜を図ってくれたのか翌日の朝までいる事が出来た。
徳島で買ってきていたお土産を両親に渡し、命は里を後にした。里を出ていく道中、見張り役の里の者があらゆる角度から殺気を込めた視線を感じた。だが、彼らもまた長老の圧力によってどちらかと言えば、この監視を”やらされている”者たちだ。中には頭の古い者も居てその一部の者は本気で命を監視し、妙な動きをしようものならその場で始末しようとする考えを持つ者もいる。
・・・分かってはいる。分かってはいるけれど。
バスに乗り込み、視線を感じられなくなったところで命は座席で膝を抱え込んだ。
――――怖い。
里の者たちの助けは期待できない。誰も助けてはくれない。もし御役目で活躍できなかった時、他の勇者達より劣っている事が長老に伝わってしまったら、両親の安全は保障できなくなる。
他の者に相談なんてしたら、きっとその者たちに迷惑が掛かる。だから命は黙っていた。出来るだけ口数を減らして、自分の事を悟らせないように努めたのだ。
だが、そんな負の感情を内側にため込んで処理するには、命の心はまだ幼い。口では強がっていたとしても、まだ13歳になったばかりだ。周りに助けが無い孤立した状態はただの恐怖でしかなかった。
心がすり潰されそうな圧迫感をぎゅっと押し殺して、バス、電車に揺られながら命は帰路に着く。徳島に変える頃には夕方になっていた。
○
命の足取りは重い。昨日から受けたストレスは両親の為と思えば我慢は出来た。だが、耐えれていただけであり体の中には疲労となって蓄積されている。それに帰りまでの時間はかなり長かったためだろうか、眠気も少しある。
・・・明日までの課題、少し残ってたんだっけ。それ終わらせてから寝よう、かな。
扉の前に立ち、ため息をつく。休暇だったといのに、肉体的にも精神的にも疲労していた。休めた事なんてなかった。そして普通に明日から訓練と学校だ。気が重くなる。
沈みきった気持ちのまま、命が自室のドアを開ける。そして次の瞬間。
先ほどまでの眠気が覚めるような甲高い破裂音が扉を開けた瞬間に鳴り響いた。思わず敵襲かと、身構えてしまった命であるがその視線の先。
「・・・え?」
乃之と桐香、静流がいる。その手にあったのはクラッカーだ。先ほどの破裂音は乃之達によるものである。
何がなんだか分からない命に桐香が小さくため息をついていた。
「はー、やっと帰って来たわね。遅いじゃない命」
「まぁそんなこと言うもんじゃないわよゴリラ。お蔭で準備は十分にできた訳だし」
静流は済ました顔で座布団を敷く。テーブルを囲むように三人は座っており、敷かれた座布団に座るようにとぽんぽん、と手で叩いて命を誘導する。
「準備って・・・なん、の」
テーブルを見てみると、豪勢な料理とワンホールのケーキがあった。実家でもあまり食べたことが無い品物に命は目を丸くする。
「今日、命の誕生日でしょ? 仲間の誕生日、祝わなくてどうすんのよ」
「当日やろうかと思ったけど命ちゃん、休暇で帰っちゃったから・・・でも部屋に戻って来るならそこでみんなと誕生日会やりたくて」
静流と乃之は喋りながらも皿やスプーンを用意し、食事の準備を進めている。命も手伝おうとした桐香に止められた。
「主役は座ってなさい。 ちなみに今日のこの料理は私と乃之の手作りよ」
ローストビーフやちらし寿司、から揚げなどの定番料理を中学生が作るらしい。すると隣で静流が
「いい命、私に関してはちゃんとこの部屋のメイキングをしてやったわ! 部屋掃除とかッ 飾りつけとかッ お皿の準備とかッ」
「静流? なんで調理から外されたか教えてあげなくていいの? 貴方たしかケーキつくろうとして材料に片栗粉と銀杏を―――」
「静流ちゃん、ローストビーフとかお肉料理全般にオリーブオイル掛けようとしてて――――」
「ちょ、ちょっと!少しだけ料理の感性が違うだけでそんなに批判しなくてもいいじゃないッ! あれだってきっと美味しいわよッ 多分!」
きっと、とか多分、を使っている時点でその料理はたかが知れていることだろう、と桐香と乃之は思った。
「ともあれね、命。 誕生日、おめでとう」
笑顔でそう言う静流に、命は数秒ほど間が経った後で涙を流した。
「ちょ、なんで泣いてんのよ! おかしいでしょ!」
「ち、ちがう・・うれしく、て・・! ほんとに・・!」
視界が涙で滲んで良く見えない。昨日から一日色々とあった後にこの仲間たちからの優しさは、本当に命の心に沁みた。
「あーもう、馬鹿ね」
泣いている命を見ていられなかった静流が命の頭を引き寄せた。
「おー、よしよし。嬉しいのは分かったから、ちゃんと泣き止んでから食べなさい。作ってくれた人も、泣かれながら食べてもらうより、笑って楽しく食べてもらいたいものよ?」
頭を優しく撫でてくる静流に命は戸惑いながらも、その手の優しさに自身の母の面影を感じたのだ。服越しに感じた温もりもそっくりで、命もいつのまにか落ち着き、泣き止んでいた。
「なんというオカン力・・・」
「五月蠅いわねゴリラ。淑女の嗜みよ」
――――あぁ、この人たちは本当に、優しい。
その後は四人で誕生日会が行われた。ケーキをどのくらいの大きさで分けるのか、イチゴの取り合いで静流と桐香が喧嘩したりとか、プレゼント交換では忍者系漫画を段ボールに詰めて乃之が渡してきたりとか、マリオカートで静流を他の三人でボコボコにしたりとハチャメチャしていた。
しかし、命の抱いていた疲れ、不安、恐怖がその喧噪のとともにどこかへと消えていくのもまた事実。こんな人たちが仲間に居てくれて、自分は幸せだと。だからこそ、皆の事を信頼できるし、自分もその期待に応えたい、現状の辛さに負けてはいられないのだと、命は思ったのだ。
最初は暗かったけど最後に綺麗に?まとめたから善しッ 命ちゃんの元ネタ、というかイメージはバジリスク。長老が天膳みたいな。
ちなみに長老、頭がボケて来ていますけどマジで強いデス。のわゆの千景のようにがっつり暗い感じには出来なかった。でもどんなにシリアスにしてもうちの静流さんが居れば基本シリアルになるホント不思議。
ちなみに静流さん元からオカン力強いデス。なにこの風先輩2号。だが料理は出来ない。
短編ラスト、終わりました! 次回より、本篇作成になります。ほんわかした日常の後はハードな血みどろな展開、あ、いつもの勇者シリーズの奴だ。
一応次の章が『朝露乃之は勇者である』の区切りになります。終わりではないのですが、花結いの章もやりたいのでそのために。次回は巫女が危険な目にあったりと色々とぶっ飛んだお話になりそうで。
最近、ゆゆゆと別作品でコラボさせたいと思っている今日この頃。某格闘技漫画とコラボさせて面白おかしく出来ないかとプロット作成中。