とにかく、原作キャラを使ってみたかった。後悔はないッ
~それいけ、くっころ若葉ちゃん①~
「う、うぅ・・・」
樹海の景色が広がるこの世界で疲弊しきった声が聞こえる。一人の少女のものだ。桔梗思わせる青の勇者装束を身にまとったその少女の名は、乃木若葉という。
彼女は旧世紀における勇者たちの最初の勇者。つまり、すべての勇者の歴史の原点にあたる人物。
「こ、ここは・・・私はいったい、何を・・・」
身を動かそうとした若葉は自分の体の違和感に気づく。両腕と両足は謎の触手によって絡めとられており、その力強さは若葉が解こうとしても、身をよじるだけで精いっぱいのものだった。
「・・・バーテックス、私を縛っているのだな」
触手の先を見れば大型のバーテックスがいる。だが、それは若葉たちが言う世界のバーテックスとはまた違うものだ。植物のような蔦や果物が生えたバーテックスはこの世界、神樹が作り出した仮想世界に現れる敵の”造反神”が作り出す疑似バーテックス。
「お目覚めかなー?初代勇者様」
間の抜けた、陽気な声が若葉の耳に届く。その声の発信先は頭上だった。若葉が視線を向けると一人の少女が飛び降りてきていた。
「・・・お前は! 赤嶺友奈ッ!」
赤の勇者装束に身を包み、右手には大きな手甲を携えた少女。赤嶺友奈、彼女は若葉の敵である。
若葉たちの神樹を裏切り、内部から神樹の力を分散させようと企む、造反神が呼び出した過去の勇者。
「こんなことをしてくるとは思わなかったぞ。友奈という名前を持つ者が・・・」
「あれー?意外だった? でも国土亜耶ちゃんの目の前に現れた時点でもうそういう覚悟もしてるもんだと思ったけど」
自身の仲間である巫女の名前を出し、不敵に笑う赤嶺友奈。 仲間の名を出されて、若葉は思い出した。自身がなぜこうなっているのかを。
・・・バーテックスの襲撃で皆と戦闘をしていたのは良かった。いつも通りに皆と連携して、油断なんてしなければこんなことには。
戦いは若葉たちに有利な戦況だった。旧世紀と神世紀、そして沖縄、北海道と様々な地方を守っていた勇者たちが集まったのが若葉たちの仲間だ。最初こそ、分かり合えないこともあったかもしれないが絆を育み、まとまりを見せてきたのだ。
だから、超大型バーテックスに打ち勝つことが出来たし、造反神によって支配されていた地域をも奪還することもできたのだ。
だが、その日の襲撃は違った。
・・・巨大なバーテックスによって勇者たちが分断され、爆発するバーテックスが私にめがけて飛んできたな。
近づいたり、衝撃を加えることで爆発するバーテックスが若葉に向かってきていた。遠距離の伊予島杏や土井球子らが必死に若葉を援護する。爆炎が舞い、視界が遮られたその瞬間だった。
・・・私は爆煙から現れる赤嶺友奈の不意打ちをもらい、気絶してしまった。そして、今この場所に囚われている、というわけか。
「状況を理解したみたいだね、この襲撃は初代勇者、乃木若葉を捕まえるための作戦だったんだよ」
うんうん、と赤嶺が頷く。顔や仕草が仲間の友奈たちとよく似てはいるがその笑みは酷く、悪意を持った何かだった。
「みんなは・・・どうしたんだ」
「大丈夫だよー、三好夏凛と乃木園子が引っ張って一度戦線を整えるために全員引いたよ。まぁでも、救援はしばらく期待できないだろうね」
無事、か。と若葉は安堵のため息をついた。
「私をどうするつもりだ・・・」
「うーん、どうしようかな」
「どういうことだ?」
赤嶺のその答えに若葉は疑問が残る。何かしら理由があって若葉を捕らえたはずなのだ。
「造反神サマ、こっち側の疑似バーテックスを大量生産したんだけど、私だけじゃ操り切れなくてね。ほら、勇者より数は多いけど、一気に指揮すると大変なの、分かるでしょ?」
若葉の周りをくるくると回るように赤嶺はいう。身動きが取れず背後を取られるというのは何とも言えない気分になる。
「だからぁ」
と、背後から若葉の耳元に囁く。
「コッチ側にもう一人、勇者を増やそうかなって」
「なにッ!?」
「初代勇者様とかがコッチに仲間になれば指揮関係で私も楽になるし、向こうの勇者たちにも結構ダメージだよね。信頼していたリーダーが敵になるって展開・・・アツいっしょ!」
フフ、と背後でおそらく笑みを浮かべているであろう赤嶺に若葉は声を上げる。何者にも屈さない、否定の声を。
「私が貴様らに組すると思うか?だとすれば、目論見はすでに外れているぞ赤嶺友奈」
初代勇者の中で一番責任感があるであろう若葉にはこれまでの苦難を乗り越えてきた経験がある。仲間との絆もある。それを裏切ることなど、否、裏切ろうとすることはあり得ないことなのだ。
「今のうちだぞ赤嶺友奈。私の仲間がいずれ戦線を立て直し、ここに必ず戻ってくる・・・」
「凄いねー、この状況で仲間の事を信頼してるんだ。来ないかもしれないのに?」
「いや、必ず来るさ。それに、たとえ来なかったとしても勇者である私がここでお前に屈し、負けることはあってはならない!さすればここで腹を切る所存だ!」
若葉は胸を張る。彼女が持つその覚悟はまさしく戦国時代の武士が持つ矜持そのものだった。
「へー、さすが初代勇者様・・・風雲児と呼ばれることだけはあるね」
次の瞬間、若葉の両手足を縛っている触手の拘束がさらにきつくなるのを感じた。
「くっ! くぅ・・・!!」
勇者としての力をその身に宿しているため、耐えられるが拘束が強まったために逃げることが更に困難となったのは確かだ。
「一つ仮説を立ててみたんだ」
「・・・!?」
赤嶺が若葉の前に立つ。痛みに苦しむ若葉を見ながら彼女は一言。
「タイムパラドックスって知ってるかな? 初代勇者様」
「・・・たいむ、何?」
「うーん、例えばなんだけど」
と、赤嶺は例を簡単に上げる。
「一人の少年が過去に行きました。過去に行くと、そこには自分が生まれる前、少年のお母さんになる前のお母さんがいます。その人を少年は突き飛ばして、その女性が死んでしまうと一体どうなるでしょうか」
「・・・その少年を生むはずの母親がいなくなる、か」
正解、と赤嶺は続けて言う。
「つまり、少年は生まれなかったことになる。さぁ、ここからです。ここで勇者乃木若葉が死んでしまった場合、後ろの方で待機している乃木園子はどうなるのか」
「あ・・・」
と、若葉の中で答えにたどり着いた。それはいとも簡単で、なおかつ実行されるなら途轍もなく恐ろしいことだ。
「旧世紀で乃木の名を持つのは、アナタだけ・・・ここでその血が途絶えるってことは、その子孫、乃木園子の存在が”なかったこと”になるんだよ」
つまり、と赤嶺は言い放つ。
「乃木若葉を捕らえた時点で、神世紀の乃木園子の命も私たちの掌の上ってことなんだよ!」
両手を広げて言い放つ赤嶺に若葉は呆然とする。
「乃木園子・・・あの子は直感的にこちらの作戦を読んでくる天才型の指揮官タイプ。 ああいうタイプの勇者はつぶした方が良いって、ね?」
「き、貴様ッ」
「一石二鳥・・・いや、これなら小学生と中学生の乃木園子を同時に始末できるから一石三鳥かな?」
「あ、あぁ・・・・」
乃木若葉は絶望する。自分が油断し、捕らえられたばっかりに無関係な子孫たちの命まで人質に取られてしまったのだ、とそしてそのことに、自分は何もできないという事も。
「仲間が戻ってくる・・・うん、その前に終わらせた方が良いよね。 それじゃあ初代勇者様、あの世でお元気で」
「・・・・ッッ」
拳が振り上げられる。赤嶺友奈は対人に特化した勇者。人を壊すことに関しては若葉たちも敵わない。その相手が、身動きもできない勇者の命を握りつぶすなど造作もない事なのだ。
・・・すまない、園子。不甲斐ないご先祖を許してくれ....っ
若葉は目を瞑る。脳裏には若葉の事を慕う子孫たちの姿が浮かんでいた。
――――わかちゃんわかちゃん、一緒に日向ぼっこしに行こうよ~
――――ご先祖様ご先祖様!ひなたさんとの濃密な夜の出来事をメモさせてください!
――――『『ビュオオオオオオオオオ!!!』』
乃木の血を引き、どこか暴走している彼女達。若葉の子孫たち。普段は何を考えているか分からないが戦いの時は皆の前に立ち、的確な指示を出しているその姿はとても頼りがいのあるもので、同じ乃木の名を持つ先祖の若葉としては誇らしく思え、愛しくも思えたのだ。
だが、自分を貫こうとしてくる拳が寸でのところで止められていた。何事かと若葉が目を見開くとため息をついた赤嶺がいる。
「うーん、やっぱダメかなー」
肩を回して、不調を表す赤嶺。
「やっぱり、仲間に引き込む方で話を進めるよ」
「だからそれは無駄だと言っている」
どういう風の吹き回しだ、と若葉は思う。今この時点で圧倒的有利なのは赤嶺友奈なのだ。自身と、その関連する乃木の血筋を葬る利点を使わない理由が若葉には分からない。
「タイムパラドックスって言っても確信はないしねー。それよりも乃木若葉が死んで他の勇者が逆上して攻め込んでくる・・・・それは避けたいかな」
「なら、どうするというんだ?命も取らない、私は取引にすら応じないつもりだ。 お前の計画は既に崩れていると言ってもいいだろう?」
周囲を見渡して、若葉は脱出の機会を窺う。決して諦めてはいけないと、必ず子孫たちがいる場所へ戻るのだと心に決めながら勝機を待つのだ。
「そうだねぇ・・・私、一応人を壊す感じのイメージあるけど、壊すってことは、直す事も出来るんだよね」
何が言いたいかと言うと、続ける
「作る、造る、創る、作り直す。つまり、壊して新しく作り直す。破壊と創造は表裏一体・・・うーん、ダメだなぁ上手く伝わらないから思いっきりシンプルに言うとね」
ニヤリ、と笑みを浮かべた赤嶺が若葉の顔へと肉薄する。彼女の香りが若葉の鼻先を刺激する。それは少しばかり甘さも持っていたのか、一瞬だけ若葉の視界が歪んだ。
「”調教”ってやつだよ」
「調、教・・・・・?」
「そう、勇者乃木若葉を私が調教して、造反神様に使える勇者に変えちゃおうって言うのが、私の作戦」
「ふっ、何を言い出すかと思えば・・・」
しめた、と若葉は思う。これはチャンスだ、と。向こうのやる事が分かればこちらとしては耐えようはいくらでもある。要はこちらが折れなければいい話なのだ。忍耐力には自信があるし、普通の死なない程度の責め苦ならば耐えられるはずだ、と。
向こうが心変わりをしない間、自分は仲間が戻ってくるまでの時間を稼ぎ、仲間と合流した際にこの状況を逆転するというシナリオが若葉の頭に浮かんだ。
・・・これくらい、なんてこと―――。
「なんてことない、そう思ってるのかな?」
若葉の心を見透かすように、赤嶺は微笑していた。まるでこちらの考えている事が分かるかのように。
「俄然、やる気が湧いたよ。これなら思いっきり、どーんってやっても大丈夫だよね?」
右手に嵌めていた手甲を外して、地面へと置く。普段戦闘していても見る事は無かった赤嶺友奈の右手が露わになった。若干の日焼けしたような小麦色の肌と自身が知る友奈たちのような細く、そして柔らかそうな手。
その手が、何をも破壊してきたとされる右手が若葉の頬に触れた時、若葉の身体が一瞬震えた。震えているのを面白がった赤嶺は数度若葉の頬を撫でるように触り、両手両足で身動きが出来ない若葉の顎を人差し指と親指で持ち上げると赤嶺の方へ少しばかり引き寄せた。朱色の瞳が妖しく若葉を捉える。それだけでも、若葉は気を持って行かれそうになる。
「覚悟してよね・・・メチャクチャにしてあげるからさ」
多分、ゴブリンスレイヤーだったら絶対若葉様フィーヒヒ!!ってなってた気がする。今回はありそうでなかった、若葉様と赤嶺さんの絡み。 方向がアッチ系ですが、はい、勘の良い人はオチを書くまでもなくわかりそうですが。
意外とこういう方向性のお話って作るの大変なんですね。色々とやってみて勉強になりました。一応次回で決着させる予定です。短編のネタなので『ゆゆゆい』本編には何も影響はありません。
取り敢えず、若葉様、赤嶺さんファンの皆さんごめんなさい。