朝露乃之は勇者である   作:バロックス(駄犬

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みんなにとって「ぐんわか」なのか、「わかちか」なのか分からない...., 教えてくれ園子先生!さて、皆さんはどっち派?


〜千景と若葉〜

 四国、香川の空に剣戟の音が響いている。

 勇者服に身を包んだ少女たちが砂浜を駆け、跳び、同時に散っていく砂の勢いがその剣戟の激しさを物語っていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

 ぶつかる得物は刀と大鎌。 二つは大きく、金属音を鳴らし、だが鍔迫り合いに持ち込む事なく、交わされるのは一瞬の剣戟のみ。

 

相対しているのは二人の少女だった。 一人が桔梗の色合いを強く残した青の勇者服に身を包んだ少女、乃木若葉。 片方は彼岸花の色、赤の勇者服の少女、郡千景。

 

「手に汗握る戦いです! 頑張ってくださいね! 決闘若葉ちゃんです!」

 

「ぐんちゃーん! 怪我だけはダメだよー!」

 

「千景さん! ロックっす!」

 

 目を輝かせてシャッターを切る上里ひなた、千景の応援をする高嶋友奈、三ノ輪銀などの他の勇者達もこの戦いの様子をそれぞれが見物していた。 そもそも、なぜこうなったかと言えば、普段週末は個人訓練となるのだが、”どこかの脳筋勇者”が”模擬戦だ”と提案したからだった。

 

「うむ」

 

「何が、”うむ”なのかしら乃木さん」

 

「千景とこうして戦うことになるとは思わなかったからな」

 

「あらそう」

 

 笑みを作る千景だが、その下では凄まじい業を煮やしていたのだ。

 

・・・・・どうして週末土曜に、こんな模擬戦を提案してくれたのかしら・・・・・。 よりにもよって、高嶋さんをショッピングに誘おうとしていた土曜日にッ

 

 自身の武器である大鎌を握る手に力が入る。 この訓練を提案した脳筋勇者である若葉を睨み付けるが、当の本人は頭にクエスチョンマークを浮かべて、首を傾げる程度だ。

 

「先祖子孫揃って天然がッ」

 

「な、なぜ怒っているのだ? 私は何か怒らせるようなことをしたか?」

 

 この返しこそがもう天然の証拠だ。 と、額に青筋をうっすらと浮かべた千景である。 

 

 高嶋をショッピングに誘おうとしたのは先週だ。 予定を聞いては高嶋自身も”休もうかなー”と言っていたから実質この模擬戦が無ければ今頃千景は最高の休日を満喫しているだろう。  

予定がなかったのを確認した時点で誘わなかった事を千景は金曜日に後悔した。

 

 不思議なのはこの模擬戦を行うに当たって他の勇者達が意外なことに乗り気だったことだった。終いには、

 

「ふむふむ、最後に残ったこの二人が戦うワケね。 さぁ、どっちが勝つか、昼のかめやのうどんを賭けるわよ」

 

「いやー、流石にノギーっしょ。 一回戦ったことあるけど、小細工通じないトロールだわ」

 

 卑しい笑みを浮かべた犬吠埼風と秋原雪花がなにやら人の勝負で賭け事をしようとしている始末だ。 だがそんな状況に、

 

「二人とも、千景先輩と若葉先輩の真剣勝負をそんな賭け事に使っちゃいけません・・・めっ! ですよ!」

 

 防人組の巫女、国土亜耶が膨れ顔で二人を注意すると、バツが悪かった二人は亜耶の頭に手をやり、

 

「冗談よ冗談。 ね、雪花?」

 

「にゃあ」

 

 と諌めてしまっていた。 彼女は聖女か、何かか。

 

 

「いくわよッ」

 

 千景が大鎌を構えて、若葉へと駆けて繰り出したのは袈裟懸けの一撃だ。 ちなみに勇者の武器はそれぞれ模造で、尚且つ刃の部分には上から厚めの布を巻いている。

 

「ふんッ」

 

 対して若葉は刀を構え、千景の鎌の刃の腹を狙い、叩くことで軌道を逸らした。 鎌は砂の地面へと突き刺さり、完全に躱される。 上から振り下ろされる大鎌の一撃は受け止めることは得策ではないと若葉は判断した。 

 

即座に若葉がカウンターの要領で刀を千景の横腹を掻っ捌く勢いで一閃する。

 

「甘いわッ」

 

 千景が取った行動はバックステップだ。 地面に突き刺さっている鎌ごと引き抜き、後方へと跳躍する。 足場の悪い砂場であっても、勇者としての身体能力の前では、さして障害にはならない。 

 

もともと千景の初撃は当てる事を目的としていなかった。 だから若葉が避ける事も、反撃してくることも予見し、回避に徹することが出来たのだ。 いわば、様子見である。

 

「ここに来る前とでは、動きが見違えたな・・・・・千景」

 

 数十メートルほど距離を取って着地した千景に贈られたのは賞賛の言葉だった。

 

「あまり、嬉しくはないものよ・・・・・乃木さん」

 

「そうか? 振りの重さも、踏み込みのスピードも、咄嗟の対応力も・・・・・今までの千景と思えない」

 

 新手の煽りかしら、と、千景の表情が曇る。 だが若葉に悪気はなく、これは本心だ。 だから彼女を責めようとは思わない。 それでもその本心を快く思わないというのは、自分の器が知れるな、と千景は思う。

 

「それをなんと呼ぶか知ってるかしら、乃木さん・・・・・”油断”よ」

 

 模造の鎌を持ち、千景は再度若葉へと駆ける。 今度は千景が鎌を真横へと構えて繰り出してきた。 先ほどの若葉への意趣返しだ。

 

「いや、これは”油断”ではない」

 

 対して若葉が、冷静な表情で刀を翳す。

 

・・・・・受け止めるつもりッ?

 

 千景の鎌は特殊だ。 その大きさゆえに、先端の刃も重く、遠心力を得た鎌は刃としてだけでなく、鈍器としても利用できる。 細い刀で受け止めようものなら若葉ごと、もしくは武器を吹き飛ばす事など造作もない。

 

だが、次の瞬間に千景が感じたのは異様なほど軽い感触だった。

 

「これは”余裕”と、言うものだ」

 

 どこの秘剣使いだ、カグツチでもつかうのか、と内心でツッコんだ千景が自身の手に感じる軽い手ごたえの正体を見る。

 

「たしかに千景の鎌は、先端が重く、刃の部分をまともに受けようものなら、私の模造刀では防ぎきれないだろう・・・・だが」

 

 戦いに精通した若葉は知っている。 そもそも、もともと農具であった鎌という武器は闘いを想定して作られていないのだ。

 敵の兜の隙間に見える首や、盾の兵士の死角である真上を狙う為に用いられたのだが、千景のようなサイズの鎌では大振りで隙になるし、そもそも刃から手元にかけては完全に死角となる。

 

 

 そして鎌の重量が集中しているのは刃の部分だ。 だが、柄の部分はそれほど重くはない。威力もだ。 野球で言うバットと同じで、先端、真芯でとらえればボールは遠くへ飛ぶが、根本付近では内野すら越えられない。

 若葉が千景の鎌に対して行ったのは、柄の部分に刀を当てた。それだけだ。後は若葉の筋力だけでもなんとかなるのだ。 

 

「そんなッ」

 

 自身の攻撃がこうも簡単に無力化させれてしまう現実に、千景は焦る。 だが、これが武人・乃木若葉である。

 

「どうする?」

 

「え・・・・・」

 

「勝負は身体の一部に武器を当てる、か、相手に負けを認めさせるか、だ」

 

 ルールを再確認する若葉。 その意図は現状の圧倒的有利のためだ。 鎌の刃は完全に若葉の射程から外れてしまっている。 そして若葉の刃は千景の鎌の柄に鍔釣り合いしており、すぐにでも千景に刃が届く。

 

「そうね・・・・・」

 

 千景自身も分かっている。 自分が圧倒的に不利だということも。 ギブアップするに値する状況だが、

 

「ぐんちゃん・・・・・」

 

 心配そうに見ている高嶋を見て、不利である状況で千景は顔を伏して、

 

・・・・・高嶋さんの前で、ねぇ。

 

 むりっしょ。 と、柄にもなく、そんな口調を心の中で呟いた。 言える訳がないのである。

 

「断固ッ 拒否ッ」

 

 力強く、真横で防がれている鎌を思いっきり、自身の方へと引っ張った。

 鎌を受け止めていた刀の腹の部分を柄が横滑りするように急速に若葉の背中に千景の鎌の刃が迫る。 この勝負は武器があたるか、負けを認めさせるか、だ。 だから武器の刃の部分が当たれば、それで千景の勝利である。 ここで千景は鎌の柄の長さという利点を生かした最後の攻撃へと出た。

 

 

「・・・・ッ」

 

 次に千景が見た光景は、空を舞う若葉の姿だった。 

 鎌の刃が当たるその瞬間、若葉はバク中し、空へ跳んでいた。急ごしらえの跳躍のため、千景の頭を越えたくらいの跳躍だが、千景も唖然とするが周りの勇者達も同じく唖然としている。

 

「ふんッ」

 

 若葉の背にある太陽と重なり、千景の視界が完全に奪われる。 思えば若葉はこれを見越して、最初から太陽を背に戦っていたのかもしれない。

 

・・・・ッッ、くやしいのに、な。

 

 千景は思う。 心の底から負けたくないと思った相手。 

自分の持てる技術と根気立ち向かった相手。 だが、若葉はそれすらも自身の技術で打ち返して見せた。 そして太陽の背に空を舞う彼女を見て思ったのだ。 

 

不覚にも”美しい”と。

 

 

「終わりだ・・・千景」

 

 

 スコンッ、という軽い音が香川の海空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとにもう、手加減ってものを知らないのかしら・・・・・」

 

「ちーちゃん、ご先祖様のバトル・・・・熱かったよ~。 なんかこう、凄いYu-joが生まれそうな感じで~」

 

 千景の部屋にて珍しくいる来客は乃木園子だ。 この乃木園子は中学生の方である。

 

「あれ人間じゃないわ・・・・・弱点とかあるの?」

 

「なんで私に聞くのかな~」

 

「そりゃあ、子孫だし・・・・・」

 

 えー、と言った表情の園子。

 

 あの後、千景と若葉の勝負が最後の組み合わせだったので模擬戦はその午前で終了。 一同はそれぞれ解散し、遊びに行く者、かめやに行く者とそれぞれ分かれ、千景もその集団に誘われたかけたがあの勝負の後で疲れたのか一人で知らぬ間に寮へと帰ったのである。

 

 なるべく高嶋に気づかれないように帰ったのだったが、部屋へ帰って数分後。 ドアを豪快に開けた園子が奇声を浴びて入ってきた時は驚いてコーラを落としてしまったくらいだ。

 

「いやー、なんかちーちゃんが傷心してるなーって」

 

 傷心、と聞いて千景は小さくため息をつく。 

 

「・・・・気にしてくれてるのね。 ありがとう」

 

 実際、園子の言う通りで実力以上の戦いをしたにも関わらず、若葉の圧倒的な技術には完敗だった。 年齢も一つ上なのは自分なのに、こうも違うものなのか。

 

「別に、心配することではないのよ・・・・・ただ、やっぱり悔しいし、ね」

 

 勝負の後、若葉を囲んで賞賛の嵐が吹き荒れた。 彼女のその強さと誠実さには誰もが目を見張るものがあるし、誰もが彼女のその姿を見ては羨望の眼差しで見つめる。

 

 

 正直、羨ましいと千景は思った。 それは自分には無いものだから。

 

 

「ふっふっふ・・・・・御先祖様の弱点が知りたいかい、ちーちゃん」

 

 妖しい笑みを浮かべている園子のワードに、千景が食いついた。

 

 

 

 

「ええーっと、これを持って行け、と?」

 

 手に握られている”かめや”の割引券を二人分もった千景がいるのは、若葉の部屋の前だ。

 

 

”ちーちゃんにはこれをご先祖様に渡しに行ってほしいのです。 拒否権はないのです~”

 

 と、半ば強制的に渡されて、今この状態だ。 突発的な行動が多いのは知っていたが、自分の予測を常にななめ上を行く、簡単に言えば読めない。それが乃木園子である。

 

 

”あと、御先祖様って、普段はあんなにかっこいいんだけど~、結構隙だらけな所が多いんだよ~”

 

「それは確か、上里さんも言ってはいたけど」

 

 深く考える事は止めて、用件を済ませる事にした。 若葉の部屋のドアをノックする。

 

「乃木さん・・・・・渡したいものがあるのだけれど」

 

 返事はない。 その後何回か繰り返してみたが、反応は無かった。

 

「いないのかしら?」

 

 ドアノブに手を掛けて、試しに回してみると鍵がかかっていなかった。 あまりにも不用心すぎではないか。

 誰も居ないのなら、戻ろうかと思った時だ。部屋の中から、小さく何かが聞こえた。

 

「あら・・・・」

 

 小さく、だが確かに聞こえたのは寝息だ。 中をゆっくりと開けてみれば、テーブルに顔を預けた若葉の姿があった。

 

 

・・・・・こんな所で寝ちゃって・・・・・。

 

「すー、すー」

 

 心地よさそうに寝ている辺り、疲れていたのか、うどんを食べすぎてから来る眠気に勝てなかったのか。

 ため息をついて、千景はゆっくりとドアを閉めてから若葉の側へと近づくと。

 

・・・・・風邪、ひくじゃない。

 

 近くに置いてあったタオルケットを若葉の背に掛けてあげた。

 

「ふむっ!?」

 

「ヒッ!?」

 

 直後、若葉が声を出して千景も思わず肩をビクつかせた。 若葉は口元を動かし、だが目は開かずに、

 

「そ、園子・・・・・いつから16等身でサッカーをやるように、なったんだ・・・・・・」

 

・・・・・とんでもない夢を見ているわね。

 

 恐らく若葉の世界では長身の園子がボールと友達になりながら、小学生の園子とスカイラブハリケーンを決めているに違いない。

 

「・・・・まぁ、確かに隙だらけ、か」

 

 緩みきった表情の若葉を見て千景は園子に言われた事を思い出す。 戦い以外の事になると、だいぶポンコツだったんじゃないか、と。 今更ながら千景は思った。

 眠っている若葉の隣まで来ると、そのまま千景も座り、テーブルに頬杖をついて少し下の角度から若葉の様子を窺った。

 

「すー、すー・・・・」

 

「どうして、アナタは・・・・・」

 

 心の中で千景は続ける。 ”そんなにも、凄いの”か。

 誰に命令された訳でもなく、自分の意志で動き、発した言葉に自信を持ち、結果を出す。 それを見て、周りの誰もから尊敬を集めている。

 

 比べて、自分はどうだ。

 

 幼いころから、疎まれ、蔑まれ、自分でも人生に無意味だと悟っている。郡千景の人生観とはそう言うものだった。 しかし、勇者に選ばれて、周りから祝福され、元の自分に戻りたくないと思って、必死にもがいている。 勇者なのに、なんと卑屈なものか。

 

 

 彼女が羨ましい。 皆の信頼を集め、先頭に立つ乃木若葉が。

 

 

「いまなら・・・」

 

 彼女は寝ていて、部屋には誰も居ない。 常に一緒にいるであろう上里ひなたも何故かここにはいない。 

 

 チャンスだ。

 

・・・・なんの?

 

 自問自答して、彼女は自分でも吐き気を催す感情に襲われた。 彼女をあらゆる手を使って陥れる事だ。

 西暦のリーダーを、皆から羨望の眼差しを集める勇者・乃木若葉の評価を陥れろ。 その機会は今、目の前にあるのだ、と。

 

千景の内なる声がそう促す。

 

「・・・・」

 

 なんでもいい。 写真を撮ったりとか、落書きをしてやるとか、なんなら、傷一つ負わせたって構わない。

 千景の手が小さく震える。 その震えている手がゆっくりと若葉の白い肌へと伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

「できないわよ・・・・・」

 

 千景はハンカチを持って若葉の口元に付いていた涎を拭いていた。

 

「むにゃむにゃ・・・・」

 

 確かに、以前の世界にいた千景なら、そう言った行動をしていたかもしれない。 自分の評価が下がること、勇者として誰も見てくれなくなること、誰も必要としてくれなくなることが。 その経験があるからこそ、震え、そうなる事を恐れていた。

 

 だが、今の千景は違う。 この世界に来て、様々な勇者に会ってから千景は変わった。

 小学生組の勇者の中では一番前衛を務める三ノ輪銀。

 勇者部の出来る姉を持つその妹、犬吠埼樹。

 

 彼女たちはこの世界に来て間もない頃、自信が無かった千景を信じて、その元で何度も戦い、今でも付いてきてくれている。 それは以前の千景ならできなかっただろう。 

 自分を信じてくれている人の為に全力を尽くす。それが今の千景には出来る。 そしてそれは、若葉ほどではないにしろ、人望を集める事に繋がっているのだ。

 

 

”ぐんちゃんの手って、あったかいよね!”

 

 

 何より、ずっと側で見守って、助けてくれている高嶋を裏切る事だけはしたくない。 ましてや、自分がそんな事をして泣いている顔なんて、見たくない。

 

「それに、乃木さん・・・・・」

 

 その先の言葉を言うには、少しだけ気恥ずかしくある。 だから間を空けて、千景は一言。

 

「私は・・・・多分あなたに、憧れてる、のかしら」

 

 自信はない。 いつもの事だ。 だが、若葉がリーダーシップを発揮してる姿を見て、自分も張り切っているのは事実だ。 だから彼女が高嶋の件で千景とぶつかった時も、そんなリーダーらしくない姿をしている若葉を見たくは無かったのかもしれない。

 

 

「ふ、ふむむ・・・?」

 

 程なくして、若葉の重い瞼が開いて大きく欠伸をしながら顔を上げた。

 

「・・・・・なぜ千景が居るのだ」

 

「おはよう乃木さん。 いい夢は見れたかしら・・・・」

 

 質問の答えになってはいないが、くすくすと千景は笑う。

 若葉は背に掛かっていたタオルに気付いて、手に取ると千景を見て、

 

「千景が掛けてくれたのか? ありがとう・・・・・」

 

「別に・・・・アナタは私たちのリーダーでしょ。 それが風邪なんか引いてたら、締まらないじゃない・・・・・まったく」

 

 顔を背けたのは自身の顔が熱くなったのを感じたからだ。 面と向かってお礼を言われるのは、やはり恥ずかしいことだな、と千景は思う。

 

「そ、そういえば、園子さんからコレ・・・・」

 

 要件を思い出して、千景は”かめや”の割引券を取り出した。

 

「ああ、そう言えば期限が切れそうだけど自分じゃ行く暇がないから使ってくれと言っていたな」

 

 と、よくよく見るとその割引券の機嫌は明日だった。 ホントに急な案件だったんだ、と千景は苦笑い。

 若葉はそのチケットを受け取ると少し考えてから、

 

「どうだ。 私と千景でいかないか?」

 

 そう言った。

 

「え・・・?」

 

 思いもよらない一言に、眼を丸くする千景。 若葉は続ける。

 

「いつも世話になっている。 このお礼もしたいのだ」

 

「べ、別に・・・・いいけど」

 

 うむ、決まりだな、と言った所で。

 

「ところで千景・・・・私が寝ている間に何かしなかったか?」

 

「へ?」

 

 口元をその形にして、千景は首を傾げる。

 

「ひなたや園子だったら”シャッターチャンスだ!”と言って何枚も写真を撮っている所だ! もしかしたら千景・・・・その携帯を見せるんだ!」

 

「い、イヤよ!私が写真撮ったっていうの?・・・・というかなによこの展開ッ!?」

 

 ずい、と千景に詰め寄る若葉に身を捩って回避しようとするが残念なことに後ろにはベッドと壁際に囲まれていて逃げ場がない。

 

「撮っていなければ、見せれるはずだ!」

 

「プライバシーって知ってるかしら乃木さん!?」

 

 思わず立ち上がって逃げようとする。 しかし行く手を若葉に遮られ、携帯を持っている手を掴んだその瞬間。

 

「あ・・・・」

 

 千景のバランスが大きく崩れる。 若葉もだ。 二人は同じ方向に自由落下し、倒れる。

 不思議な事に痛みは無い。 それもその筈で、千景の真後ろには若葉のベッドがあったのだから。

 

 ただ、一つ言うとすれば。

 

「ちょっと・・・・・」

 

「なんだ・・・・・」

 

 若葉が千景の上に覆いかぶさっていた事だった。

 

「殺すわよ・・・・」

 

「凄い殺気だな・・・・・だが動けまい」

 

 千景の手首は若葉の両の手でしっかりと固定されている。 下半身も、上手いこと足をからませて千景が動けないようになっていた。

 

「む、千景・・・・良い匂いがするな」

 

「そりゃシャワーした後だし当然・・・ひゃっ!!」

 

 若葉の顔が吐息の届く距離まで近づく。 首元に顔を近づけると若葉の息が千景の首元に吹きかけられ、なんとも言えないもどかしさに千景の身体が小さく震える。

 

「うむ、やはりいい匂いだ。 何のシャンプーだ?」

 

「だ、だから・・・・んんっ・・顔が近いって! こんな所誰かに見られたら・・・・」

 

 

 

 その直後だ。

 

 

 

 

「若葉ちゃーん! お約束してた耳かきの時間ですよー!」

 

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは耳かきセットを抱えた上里ひなただった。 

 

「あ・・・・・」

 

 仰向けになっていた千景が扉前に立つひなたを捉える。 その時のひなたの瞳は、ハイライトが消えた漆黒そのものだった。

 

「・・・・・・」

 

 ひなたも耳かきセットをいつの間にか落下させていた。 彼女の視点からでは若葉が千景を押し倒し、首元に顔を寄せている姿がキスをしているように見えたのだろう。 

 

数秒後、ひなたが口を開いた。彼女は肩をわなわなと震わせて、

 

「ど、どろぼう! どろぼうわか、ば、ちゃん・・・・! うわきわか、ばちゃん、うわああああああ!!」

 

 目に涙を浮かべて、この世の終わりみたいな顔をして彼女は部屋から出ていった。 それと同時に、

 

「あれー、ヒナたんが泣きながら出ていったけど・・・・・こ、これはッ!!」

 

 乃木園子がその現場を見て、その瞳をシイタケに変形させて叫んだ。

 

「やったぜェ! フォオオオオオオオオオオ!!」

 

 口元から涎を出しながら、台風のような勢いで園子は飛び出していく。 噂が広まるのは時間の問題だろう。

 

「ちょっと! 誤解よ! 誤解なんだってばあああああああ!!」

 

弁明の余地すらなかった。 千景はこの日、初めて若葉に対して明確な殺意が湧いたという。

 

 なお、高嶋に納得してもらうのに三日くらいかかった。

 

 

 




友だちの"ゆゆゆ紳士"に「ぐんたか」書こうぜ、と言われる。
五穀化してでも俺は「ぐんわか」書くと反論。6000文字くらい書いたくらいになぜか最初の190文字くらいしか保存されておらず、自動保存もされていない事態に遭遇。書き直しを食らう。

これは天の神の呪いかなにかか。

???「せめせめ若葉ちゃんもいいですね・・・」(魔女化しながら

風先輩と雪花がゲスい感じになった。申し訳ない。
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