バーテックス「ぼくらの出番マダ」
まだです。
自己紹介を終えた後、グランドまで移動した勇者達は巫女である桐香の前で早朝の訓練を行うことになる。ほのかに温かい4月の風を受けながら土のグランドを掛けていく3人の少女。先頭が草薙命、琴吹静流、朝露乃之の順である。
バーテックスと戦う勇者たちの訓練と言ってもその訓練方法はさまざまであり、基礎的な体力作りから精神集中の為の座禅や滝行、実際に対人格闘など大赦に勤める教官が作り出したメニューを早朝と放課後に分けて行われるのが日課となる。
「まずは基礎体力か・・・もう既に目に見える形で差が出来てしまってるけど・・・」
朝礼台の上で仮面をつけた大赦神官と体育服装に着替えた桐香が体力作りである5キロ走の様子を眺めていた。勇者となって身体能力が大きく向上するのは知って入る。人間でいう一歩の跳躍が勇者にとっては100メートル以上の大跳躍を行えるほどだ。
勇者として最低限は基礎体力を培っておかなければ、スタミナというのはいざという長期戦時には必要になるため訓練自体も疎かに出来ないのである。
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「あ~、しんどい・・・・」
場面は変わり実際にグランドを走っている長髪の少女、琴吹静流は淡々と走りながら深いため息をついていた。
「若干寝不足気味だわ・・・朝食も簡単すぎて10分で済ませろって・・・鬼だと思うのだけど旧世紀の軍隊か!って・・・」
「・・・・・」
独り言・・・ではなく、一応併走している命に喋っている筈なのだが案の定返事というのが彼女から返ってくるはずがなく。
「むぅ、いけないわ。 このままだと私のテンションが、この訓練をやりきる為の活力が・・・命さん!」
切れてしまう。そう考えた静流は併走する命の方を見て言う。
「勝負をしましょう」
「・・・・・?」
訳の分からないことを、と言った感じの表情の命に対して静流が笑みを浮かべて続ける。
「この5キロ走、どちらかが早く完走することができるのか・・・こう見えても私、陸上部・・・・つまり少しばかり走り込みに関しては自信があるの」
鼻を鳴らして言う静流ではあるがこれは彼女のゲーム形式で訓練を進めることにより自身の低くなりがちなテンションを引き上げる為だけの作戦であった。
「今2キロ手前・・・そうね、ちょうどあのスタートラインの白線から始める事にしましょう。自動的に、デッドオアアライブ!」
「・・・・」
テンション高めの静流に対して平然とした命はコクリと顔を最小限に動かして承諾の合図を送る。
「それじゃあ行きますわよ・・・・」
互いにピッタリと併走して、スタートの合図を出すタイミングを見計らう。次第に近くなってくるスタート白線を目視で捉えて静流は内心で準備を整える。
スタート直後、30メートルまでの間に先頭を取り、相手の出鼻を挫く。長距離走において相手よりも素早く位置を取るというのは非常に重要だ。習い事で陸上競技をやっていた静流は戦い方が分かっていた。
・・・コーナー終わりまで加速したらペースを維持、そして残り1.5キロになった時点でスパート!
完璧だ、と己のペース配分、試合展開の隙のなさに勝負をする前から勝ち誇った笑みを浮かべる静流。そして、ついにスタートの白線まで数メートルと迫った時。
「・・・・レディ」
呼吸を整え、身構える。目指すは予定通りの陣取りからの加速、予定通りの試合展開。二人の足が白線を跨ごうとする瞬間に静流が声を上げる。
「ゴォ――――って、え?」
まずは第1段階、加速からの位置取り、となる前に静流がそんな素っ頓狂な声を上げたのは先ほどまでピッタリと真横にいた命が1秒と満たない程に静流の前方へと駆け出しており、その背を捉えていたからだ。
まるで風が吹くように、しかもその出だしを相手に悟らせることなく命は先頭を取っていた。
「え、ええ? えええ!?」
驚くべきは命のその走り方だ。まるで100、200メートルを走る短距離選手の如く前傾姿勢でグイグイと加速をしては静流との距離を引き離していく。
「・・・・なんてこと!」
呆然とした静流はすぐに憤る。それは油断して前を行かれたことではなく、まったくもって別の事で
「私が遅い!? 私がスロウリィ!? 冗談じゃなぁぁぁぁい!!」
既に50メートルは引き離されている命に対して猛追。
「ゲーム形式で勝負を持ちかけておいて、私が負けるのは許されんのよぉぉぉぉぉ!!」
「ひ、ひぃっ・・・・む、むぅりぃ・・・は、早すぎ・・・みんな、まって・・・」
既に体力の限界を迎えていた朝露乃之は一人そのレースから取り残された。初めから頭数には入れられていなかったが。
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数十分後、体力錬成は無事終わりを告げる。グランドのゴール地点では大の字で転がった静流が大量の汗をその身から垂らしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・み、命さんは身体に何かエンジンでも積んでるのかしら・・・きっとニトロね!ニトロな女なのねッッ」
「・・・・」
静流と命の勝負を開始してから5分ほどで命が先にゴールする。尋常じゃないスピードでゴールをしたにも関わらず呼吸一つ乱さず青い空を見つめていた。
「体力面は草薙さんがダントツか・・・琴吹が体力そこそこ、朝露さんがヤバい、わね」
ラストランナーとしてゴールした乃之はゴールと同時にぶっ倒れ、用意された水入りバケツに頭から突っ込んでいた。ちなみに消耗が激しかったためか今は近場の木陰に氷タオル巻いて寝かせている。
「市橋様、琴吹様だけ呼び捨てなのは・・・・」
「いやぁ、なんかあの人アホっぽいからいいかなぁって」
「今堂々と酷いこと言いましたね、この巫女さん」
バインダーに挟んだ勇者たちの記録票にさっきまで行っていた10キロ走のタイムを書き込む桐香に対して大赦の神官も思う。本当に神樹様に選ばれた巫女の一人なのか、と。
「それよりも神官さん、いま日差しもあるしだいぶ熱いんだと思うんだけどその服と仮面絶対外せない制約とかかかってるのかしら」
「何を言いますか市橋様、これは私達の普段着です」
アンタそれマジで言ってんの? という視線を送る桐香。大赦の人間たちは仮面を被っているせいかその本質、感情などが読み取れない良くわからない連中だと思っているわけで。
「取り敢えずしばらくは基礎体力作りでランニングはこなさせるとして、座学は・・・・こればかりは分析するには数日が掛かりそうね」
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―――それから数日が経つ。
訓練を終えたその後は大赦管理下に置かれた中学校へと移動し、一般のクラスに混じり普通に学生としての授業を受けるのが流れである。その中でも桐香は勇者たちの監視にあたっている。理由は桐香曰く、勇者としてお役目を果たすにあたり、国防における最低限の知識を有しているかを確認するためだ。
教師たちに大赦を通して特別な許可を貰った桐香は少ない日数ではあるが各学年の勇者達の座学を隠れて見ていた。その様子を数日間見ていた結果としてまとめると
「座学に関しては静流が一番っぽいわね。 乃之さんが中間で命さんが下っぽい・・・」
授業中に関して、教師からの問いに答えるように指名されると率先して手を上げて答えていたのは静流だった。逆に身体能力が以上に抜きでていた命は小テストの内容はかなり悪いようである。
「市橋様、お茶です」
「あ、どうも。 あ、あと大赦の中に腰の悪そうな人居たでしょ・・・これ、その人に効く軟膏見つけたから渡しておいて」
「恐縮でございます」
中学校のとある一室は桐香と大赦神官の待機室となっている。勇者たちの訓練や今後のスケジュールの確認も兼ねてのミーティングも行っている場所だ。ちなみにその場所は校内の面談室をまるまる貸し切った場所であり、設置されているホワイトボードには今日のスケジュールが簡単にだが書かれていた。
「ん? 放課後の訓練に”補備教育”って・・・」
「それはですね・・・」
ホワイトボードの下の行に書かれていたその単語をお茶を啜りながら気にした桐香に対して神官が答える。
「本当は勇者の戦闘における訓練を計画していたのですが・・・まぁ、ここ数日体力系多かったと言うこともあってそのまま訓練も終了させようかと思いましたが・・・・」
ふーん、と桐香がその一行を見て数秒ほど間を開けてから口を開く。
「えーと、じゃあ私と模擬戦で」
「ファッ!?」
慌てふためく神官に対して桐香が続ける。
「体力とか勉強とかある程度出来ても、やっぱ戦闘能力はないとねぇ」
桐香の表情は笑っている。それも戦うことを楽しみにしているようで。
「い、いけません市橋様! そのようなことをすればまた!」
「また・・・って?」
鋭く、そして冷たい視線が神官の動きと次の言葉を遮った。
「ここで私に負ける勇者なら所詮、私が今まで見てきた勇者達と一緒って事で」
じゃあね、と最後にそう言うと桐香は湯呑を置いて部屋を後にする。一人残された神官は身を震わせながらスマートフォンを起動させる。
「いかん! 始まるぞ・・・愛媛のゴリラ巫女の暴走が!!」
そしてグループ通話も可能なアプリを起動させて『大赦関連』というグループを開いてはメッセージを送信した後、室内から飛び出した。
―――『異常事態発生。愛媛巫女、暴走ス』
主人公は乃之ちゃんのはずなのにまったく喋っていない。喋っているのがアクティブゲーマー勇者と巫女と大赦の神官で・・・命ちゃんまったく喋れてねェじゃねぇか!と思った私。
ちなみに、勇者の中では命ちゃんが一番足が速いという設定です。身体能力は上だけど頭の中はポンコツだった。
なんか勇者より巫女がメインな状態になってきますがもう少ししたら全体的に話も進む予定です。質問と感想がありましたらいつでもお願いします。