朝露乃之は勇者である   作:バロックス(駄犬

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 早い話がストックが出来たので早めに投稿させてもらった。そしてようやく乃木若葉の小説を上巻を読破しました。今よく見てみると細かい設定多いですねバーテックス。ゆゆゆとかわすゆとかの比較もしながら楽しんで読むことが出来ました。


第4話~巫女と勇者たち③~

 夕日がまだ沈まないくらい辺りの明るさが残る放課後。大赦の訓練場には二人の少女がぽつんと座り込んでいる。一人は朝露乃之と草薙命、いずれも二人は目の前で今まさに行われんとしている試合の見守り役だ。

 

「やれやれ・・・。戻ってきた一番に巫女のアナタから模擬戦の提案とは。どういうことか説明させてもらえるのかしら、市橋さん」

 

 体育服装に着替えた琴吹静流が正面に見据えるは市橋桐香の姿だった。得物である竹刀の張り具合を手で確認する仕草と同時に桐香は答える。

 

「簡単に言えば、テスト・・・みたいな感じだな。 静流」

 

「アレ? 今この人呼び捨てにした? 凄いナチュナルな感じで呼び捨てにしてたかしらこの人」

 

 別に年齢が1個上なんだからいいでしょ、と内心で呟いて桐香は続ける。

 

「三人の勇者としての資質を・・・この私が見極める為よ!」

 

 桐香は竹刀を振るう。

 

「本当にあなたたちが御役目を果たすに足る勇者なのかをねッ!」

 

 尋常ではない殺気が飛び、それは静流の背筋に凍る物を覚えさせるには十分なほどである。しかし、静流は怯まない。小さく息を吸い、言う。

 

「・・・・巫女であるアナタがそこまでする理由ってあるのかしら?」

 

「・・・・」

 

 静流の問いに、桐香は無言で、しかし竹刀を構えるという形で返答する。その形の意味をするところは――。

 

―――ワケあり巫女、という訳なのね。これはまた難易度ハードだわ。フフフ、聞きたければ・・・知りたければ剣戟の中で語りなさいって事ね。 要はアナタ不器用ね!? ザッツ・不器用ッ

 

 でも、と静流は続ける。

 

「私、そういうの嫌いじゃないわ・・・それに私さり気無くあなたから凄い評価下げられっぱなしで、ついでに馬鹿にされてそうだからその仕返しもさせてもらえるのはそれはそれでいいんだけども」

 

と、小さく笑みを浮かべて竹刀を構える。静流にとってシンプルな答えが一番しっくりと来るものらしい。

 

「お互い、ちゃんと防具つけなくていいの?」

 

 試合が始まる数秒という所、雰囲気で勝手に始まりそうなタイミングで朝露乃之は言うのだが、彼女たちは防具一式揃えず竹刀一本で試合をするらしい。

 

「そりゃあそうよ」

 

「防具が重くて負けました、なんて言い訳されちゃ困るから」

 

 その台詞を皮切りに、両者が踏み出す。道場内で、竹刀の乾いた音が響き渡り始めた。

 

 

 

「うおおおおお忙しい忙しい!!」

 

 一方、桐香たちが模擬戦を始めたということを聞いた大赦内では内部の神官たちが廊下と医務室を行ったり来たりと大騒ぎしている状態であった。

 

「おい! 医療班、湿布と包帯ちゃんと用意してんだろうな!」

 

「はい!しかし・・・訓練教官から連絡があってからこんなに忙しくなるなんて・・・」

 

 救急箱に包帯や湿布を詰めていく一人の神官が仮面の下で息を吐く。今の西支部の大赦が遭遇しているのはまるでかつてのバーテックス襲来のような慌ただしさである。

 

 ある者はタライに水と凍りを入れ、ある者は人を担ぐ担架を倉庫から人数分持ってきたり、終いには三人ぐらいの神官たちが座り込んで何やらブツブツと言っているが恐らくは祈っていると思われる。

 

「君、たしか去年から配属になった人だな? まぁ、普段はこんなに忙しくなんてないんだが・・・・あ、腕折れた時の為にギブス持ってて」

 

「ちょっと!右から左の薬品全部!あとバンテージ、と氷枕! 包帯は大目に持ってく!」

 

横から忙しく通り抜けていく女性神官も籠いっぱいにタオルを詰めていた。新人の神官は息を呑む。一体何が始まるのかと。

 

「巫女の市橋様のあだ名は聞いたことはあるだろう。『ゴリラ巫女』、『みかん抜刀際』、『愛媛の巫女でヤベー奴』と色々あるが」

 

確実にあとに出た二つの名は初めて聞いた気がするが。

 

「あの方は・・・市橋家は代々、そこまで大きな家柄ではないが巫女の家系でな」

 

「聞いております。他の巫女にはない能力が宿るという家系ですよね」

 

 新人の神官は聞いていた市橋家についての情報を話す。

 

 

 過去に巫女としてのお役目に就いていた市橋家の特殊な能力はこれまでの勇者たちの戦いをより良いものにするために大いに役に立っていた。だが、その希少な能力は代を重ねるほど顕現することが少なくなり、能力が使用できたとしても回数に限りがあるとか、それ以前にあまりにも弱い能力で使用が出来なくなるなど、次第に大赦内の立場も揺らいでいったとか。

 

「市橋桐香様は市橋家歴代で優れた巫女と言われ、その能力の開花はこれからのバーテックスの戦いに大きな進展を遂げる筈だった・・・だが」

 

 ここからは、上司だけでなく新人である神官も聞いていた話だ。

 

 

 

 

―――ある日、巫女である市橋桐香が、勇者候補生を全員病院送りにしたという、そんな話を。

 

 

 

 

「市橋様はとても巫女とは思えないほど、活発で、巫女としてではなく市橋様自身が勇者となり、バーテックスと戦うことを目指していた」

 

 生まれた頃、巫女としての家系とかそんな細かいことを知らない幼いころの桐香は、バーテックスと戦う勇者の話を聞かされる。それを聞いた市橋は思っただろう、自分も勇者になりたいと。

 

 だが、勇者というのは『なりたい』から『なれる』のではなく、この世界の恵みとなっている神樹様による選択により『ならされる』のである。

当然、桐香の勇者としての適性はゼロ。 揺るがない、動くこともない一つの数字。

 

 しかし桐香はポジティブだった。努力を成すことで、神樹様に『認めさせる』という考えに至り、巫女としてだけでなく勇者と同等の、もしくはそれ以上の濃い密度の鍛錬を己に課したのである。

 

 

 ここで話は戻る事になる。市橋桐香が勇者候補生を病院送りにしたという話だ。

 

 

 事件の始まりは桐香が愛媛で巫女としての修業をしている中、その地の勇者候補生との口論が原因だった。騒ぎを聞きつけた大赦の神官たちが目の当たりにしたのは木材や竹刀、木刀などが散乱した地面に14~15人ほど血まみれで倒れ伏した勇者候補生たちの現場に一人だけ竹刀一本を手に持った桐香の姿だったという。

 

「それ以来、市橋様は勇者を試すと言っては己の身一つで勇者候補生に啖呵を切っては力でねじ伏せ、病院送りにするという凶行に・・・」

 

 巫女にあるまじき、そして勇者以上のパワーで相手をねじ伏せていく、故に彼女には『愛媛のゴリラ巫女』というあだ名がついたのだった

 

 

「今回の神託による戦いは、この世代では市橋様しか優れた巫女がいなかった為だと香川の本部はそう言ってい入るが・・・実際は何も神託も無ければ巫女としての勤めすら行わせず、大赦内に勤めも果たせない市橋家の地位を一気に落とすつもりという噂だ」

 

「なんと・・・ひどい」

 

 巫女としては厄介者であるから、いらぬ荷物として隅に追いやるのだ。 本来の勤めである巫女としての力を発揮させられぬまま。

 

「たしかに市橋様は人を傷つける事をしましたが・・・あの子は泣いていました」

 

 二人の話を聞いていた一人の女性神官が入ってくる。 男性神官はもしや、と言葉を続けた。

 

「君は市橋様が愛媛に行っている間に付き人をしていた・・・」

 

 20代くらいの女性神官は小さく頷いて、語る。

 

「事件のほとぼりも冷めて、謹慎処分も終わった後で私が部屋へ伺った時なんですが・・・・市橋様はベッドに突っ伏したまま寝言で言ってたんです」

 

――――なんで、なんであんな奴らが勇者なんだ・・・・。

 

 

――――私だって好きで巫女なんかになった訳じゃないのに・・・。

 

「なんと言えばいいか分かりませんが、とにかくその当時の候補生達には途轍もなく『酷いこと』を言われたんだと思います」

 

 女性神官の話に、辺りがどよめく。その中には何人か憤りを覚えた神官もいたそうで。

 

「なんだ酷いことってッ!」

 

「俺達の桐香ちゃんが手を出すほどヤベー事言った勇者候補生が居るんだってさ!!」

 

「おい誰かその愛媛の勇者候補生連れてこいッ!!」

 

と怒鳴りだす始末。女性神官は仮面の下で小さくため息をつきながら続ける。

 

「何か、良い方法はないのでしょうか。このままでは御役目に支障が・・・」

 

分かっている。と、男性の神官は粗方揃えた道具を持って立ち上がった。

 

「これは勇者と巫女が発端。ならば、そのわだかまりを解決するのもまた、勇者と巫女だ」

 

「つまり彼女達に丸投げですか」

 

違う!と男性神官は声高らかに言う。

 

「私たちは勇者と巫女が御役目を立派に果たせるように、無事に帰って来られるように見守るだけしかできない。大人だからって、なんでもかんでも子供のやる事に介入することが私たちのするべきことではないはずだ」

 

「そうだ」

 

男性神官の声に反応する声がある。先ほどから3人ほどでブツブツと呟いていた内の一人だ。声色からして40,50くらいだろうか。

 

「どんな時代、ワシらはいつだってあの子たちを頼ってしまう。この世界は御役目だの神託だの都合のいいことで自分の孫とか、娘くらいの女の子に命懸けの戦いをさせとる・・・本人達の意志なんンて関係ないんじゃ」

 

だから、と老人の神官は続ける。

 

「そんなかで、桐香ちゃんが自分の意志でやってることなんだ。 そこでワシら大人が無理やり押さえつけようとしても意味がねぇ。同じ年代の子の言葉しか、多分届かん」

 

 でも、どうしてもというのなら。それは、彼女たちが取り返しのつかない事をしてしまったときに正しい道へ戻してあげるということぐらいだろう、と老人は思う。

 

「だからワシらがここにいるのは、ただ勇者たちを祀り上げるだけじゃなくてよぉ、いつか大人として取る事になる責任の為にここにいるんじゃねぇかと、最近思ったんだが?」

 

 反論する者など誰も居なかった。 徳島県、大赦西支部の神官たちは誰よりも勇者と巫女の事を支援する存在となったのだ。

 

「なんか意外です。てっきり市橋様ってここでだと嫌われてるかと思いました」

 

 女性神官は口にした言葉は本当で、そういった噂が全体に広まっているという反面、この場所にいる神官たちの桐香に対する好感度はかなり上の方にあるようでその熱気は若干ファンクラブのようなものを感じられたからだ。

 

「そりゃあ悪い子じゃねぇと思うね。いつだって勉強熱心だし」

 

「勇者達のデータまとめて嘘偽りなくこっちに送ってくれてんだろ?そこまでしなくてもいいと思うけどな」

 

「トレーニングメニューとか献立の栄養バランスもちゃんとチェックして人手が足りなかったら配膳側の仕事も手伝ってくれるしよ」

 

「ワシなんてこの年だから気遣われて休憩所の椅子譲ってもらったもんね!!」

 

「初めてお会いした玄関先でのあの見下すかのような笑み!! あれに見つめられて目覚めない者など!!」

 

 それぞれ挙がっていく言葉に一部完全な変態がいた気もするが、それ以外は彼女に対してのひた向きさと優しさを正当に評価されたものだと、女性の神官は思う。実際、彼女も愛媛に向かう道中で巫女の手前で酷く緊張しっぱなしだったのだが桐香はそんな自分を気遣ってか一緒にカードゲームをしたのを思い出す。

 

 その時は巫女と神官の立場もあり、否定はしていたがそうしなきゃ一人で永遠とババ抜きをする痛い子を演じます。と遠まわしに脅されたのだった。巫女とかそういう以前に中学生の少女にそんな事をさせるわけにもいかず渋々その提案を呑んだのだが、ババ抜きをしていた時の彼女の笑顔はとても明るいものだった。あの事件から一年くらい、その笑顔を見る事が出来ていないが。

 

―――頼みます。勇者達・・・市橋様の笑顔を。

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・」

 

場面が戻り、訓練場となる。大の大人たちが謎の一致団結している一方で。

 

 

「・・・な-んだ、こんなものなのね、勇者って」

 

その訓練場では床に膝を着いている静流に対し、竹刀を突きつけている桐香の姿があった。

 

 

 

 




 どうも、バロックスです。普段は仕事終わりに白猫テニスとかゆゆゆいとか筋トレとか、空いた時間に執筆してます。なんかプライベートが出ましたが無視してもいいデス。

 桐香ちゃん無双出来るのは人間まで、ただ普通の人間じゃマジで対応できないくらい、強いデス。 簡単に言えば、巫女なのに戦闘スペックは煮干しとか若葉王子とかしずくさんと同等。

 書いてて思った、コレ巫女じゃなくね?ゴリラだよね。
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